第27話 勇者は苦慮する
俺とリリーは街中を散策することにした。
見積もりが出るまで時間がある。
ただ待っているのも勿体ないので、この街の状況をもう少し調べようと思ったのだ。
「厳しそうですが良い人でしたね」
「そうだな。ああいう職人は信頼が置ける」
彼ならきっとトゥワイスを上手く強化してくれるだろう。
腕の良い鍛冶師は魔術知識も豊富だ。
特殊な武具を鍛えられるように研究しており、下手な魔術師よりも博識であった。
あのドワーフの男はその域に達している。
俺の要望通りのグレードアップを施してくれるはずだった。
それについては心配していない。
しかし、男に関して気になることがあった。
(なぜ数年後には死んでいる?)
あの男はまず間違いなく知人の父だ。
見たところ元気で、まだまだ長生きしそうな雰囲気であった。
病気や事故による突然の死はおかしなことではない。
しかし、なんとなく引っかかる。
杞憂で済めばいいものの、このまま何もしなければ、数年後には命を落としているのだ。
(まさか、街の領主が絡んでいるのではないか)
そう考えたのは直感だが、一応は根拠もある。
逆行前、領主は優秀な鍛冶師を専属化しようとしていたのだ。
ドワーフの男はかなりの腕利きである。
目を付けられても不思議ではない。
無関係ならそれで構わなかった。
とりあえず、領主を調査する価値はありそうだ。
(どうにか助けることはできないか)
俺は考えを巡らせる。
これは打算的な考えだ。
彼がトゥワイスを鍛えられる鍛冶師だから、なんとか生存する道を模索している。
だが、それは悪いことではない。
俺だって人間なのだ。
できることなら救いたいと考えるのは自然な感情だと思う。
(運命なら既に歪めている。今更、躊躇うこともない)
世界を逆行させて、やり直しているのだ。
双剣の勇者ではなく、双銃の勇者となった。
その時点で俺は歴史を改変している。
ここから追加で捻じ曲げたとしても、世界規模で見れば誤差の範囲だろう。
(魔王討伐だけがすべてではない)
少しでも良い結末を目指す。
たとえ手の届く範囲でも幸せな結末にしたい。
間違いなく俺のエゴだ。
しかし、それをやり遂げられる力と立場がある。
双剣の勇者として旅をしていた時、何度も挫折と犠牲を味わった。
同じ過ちは繰り返したくない。
ハッピーエンドのために動くのは悪いことではないだろう。
自分の中の考えがまとまろうとしていた時、前方から歩いてくる人が目に入る。
そのまますれ違おうとして、俺は足を止める。
作業着を着た長身の女だった。
ぼさぼさの金髪に煤で汚れた顔。
お世辞にも外見を気にしているとは思えないが、その姿に懐かしさを覚える。
その人物こそ、この世界で初めて銃を開発した知人の鍛冶師だった。




