第26話 勇者は武器強化を依頼する
男の観察力に感心していると、彼は俺達を手招きする。
「入れ。武器を鍛えたいのだろう。一見の客は断っているが特別だ」
「助かる」
かなり堅物そうに見えるが、とりあえず認めてもらえたらしい。
普通なら追い出されていそうな雰囲気だった。
おそらく、こちらの特殊な事情を察してくれたのだろう。
(少し予想外の展開だが、まあいいか)
本当は知人の鍛冶師に頼むつもりが、その父に依頼する流れとなってしまった。
ここで訂正するのも怪しいので、ひとまず話を進めていくしかない。
別に父親でもトゥワイスを鍛えてくれるならそれでいいのだ。
まずがそこが最優先だった。
ドワーフの男は俺達を別室の作業場に案内する。
散らかった机を片付けながら質問を投げてきた。
「得物は何を使っている。種類によっては時間がかかるぞ」
「こいつだ」
俺は二丁拳銃のトゥワイスを手渡す。
男は眉を寄せて真剣に観察する。
その迫力は、ゴブリンなら腰を抜かして逃げそうな勢いだ。
凝視されるトゥワイスは、口を動かして挨拶する。
「Hello」
「ふむ……生きた武器とは珍しい。武器自体も初めて見る」
「銃だ。鉛の粒を飛ばすことができる」
俺は片方のトゥワイスを返してもらうと、ポケットに入っていた硬貨を放り投げる。
そこに向けて発砲した。
弾丸のめり込んだ硬貨が床に落下する。
威力はかなり加減していた。
本気なら後ろの壁ごとぶち抜いていただろう。
俺はトゥワイスを再び男に渡す。
「こんな感じだ。魔力の弾も放てる」
「ほう」
男はますます難しい顔でトゥワイスを観察し始めた。
興味を示すのも当たり前だ。
本来、この世界には存在しないはずの武器である。
プロトタイプはいずれ知人が開発するが、現在のトゥワイスはその初期型から大幅に進化していた。
その性能は地球の銃火器と比べてもオーバーテクノロジー気味である。
正真正銘、この世界に一つしかない武器だった。
二丁拳銃を一つと呼んでいいのか分からないが、唯一無二には違いないだろう。
「改造できそうか」
「構造自体は単純だ。細かい仕組みはこれから調べるが、十分に可能だろう」
男は椅子に腰かけると、古びた眼鏡をつけた。
トゥワイスを弄りながら話を続ける。
「改造の希望を聞きたい。用途によって形が変わってくる。決めているか」
「まず第一に威力だ。できれば連射速度も上げたい」
火力が高ければ、強力な魔物を倒せる。
すなわち成長速度が飛躍的に高まる。
とは言え、連射速度も重要だ。
魔王はとにかく攻撃スピードが驚異的だった。
俺の双剣では捌けない密度である。
あの間合いと速度に対抗できる銃にしたい。
パワーのみに特化するのでは駄目だ。
ある程度の汎用性も持たせなくては。
「これだけ特殊な武器となると、改造費は高額になるがいいか」
「問題ない。もしも不足の材料があれば言ってくれ。すぐに調達してくる」
「分かった。見積もりを出すから少し待っていろ」
男はそれきり黙り込んでしまった。
邪魔になってはいけないので部屋の外へ出ようとしたところ、彼は俺に向かって告げる。
「凄まじい覚悟を感じる。こちらもそれに見合う仕事をさせてもらおう」
「ああ、頼りにしているよ」
俺は笑って応じると、リリーと共に作業場を出た。




