第25話 勇者は鍛冶師のもとを訪れる
その後、俺達は通りから外れた道を進んでいく。
記憶が正しければ、知人の鍛冶師はこの先に暮らしているはずだった。
雑多な路地は、観光客はまず入って来ないようなエリアだ。
衛兵の気配もなく、許可証の提示を求められることもなかった。
それだけ奥まった場所なのだ。
よそ者が入り込むことを想定していない。
十五分ほど進んだところで俺は足を止めた。
そこには木造の古びた家屋があった。
隣接する箱型の建物は作業場と倉庫だろう。
途中、不安になる分岐が何度かあったが、俺の記憶は間違っていなかったようだ。
ここが知人の鍛冶師の住まいである。
リリーは辺りを見回しながら感想を述べる。
「小さなお店ですね。それに目立ちにくい立地です」
「商売繁盛を考えていないそうだからな。鍛冶に集中できる環境を求めた結果だろう」
優れた鍛冶師は、その技量だけで生計を立てられるという。
別に集客や宣伝を努力する必要がないのだ。
実力主義のネリアだと尚更だろう。
常連客も多いと聞いたことがあるので、無駄に贅沢な暮らしでもしない限り、金銭面で困ることはないのだと思う。
俺は扉を開けて建物内に踏み込んだ。
そこにはたくさんの棚が所狭しと置かれている。
見れば武器や防具が種類別に陳列されていた。
薄暗い室内には誰もいない。
おそらく奥の部屋にでもいるのだろう。
俺は少し声を張って呼びかける。
「すまない。武器の調整を頼みたいのだが」
「誰の紹介だ」
奥から現れたのは少し小柄な男だった。
浅黒い肌と逞しい筋肉の持ち主である。
体型や雰囲気からしてドワーフだろうか。
その男は頭にタオルを巻いて、薄汚れた作業着を纏っていた。
手には金槌を握っている。
間違いなく鍛冶師の風貌だ。
ただし、俺の記憶にはない人物だった。
知人の鍛冶師ではない。
一瞬、場所を間違えたのかと焦るも、すぐさま答えに辿り着く。
(あいつの父か)
目の前の男は、おそらく知人の父親だ。
何年か前に亡くなったと聞いていた。
詳しい時期や原因は知らないが、この段階ではまだ生きていたらしい。
観察と考察に思考を割いていると、ドワーフの男が苛立たしげに言葉を投げてくる。
「おい、聞いているのか。誰の紹介なんだ」
「いや、紹介ではない。腕の良い鍛冶師がいると噂を聞いて来た」
「ふん……」
男は目を細めて俺を注視する。
張り詰めた空気だ。
発言してはいけない流れだと察したので、俺は口を噤んで待つ。
それから一分ほどが経過した頃だろうか。
男は軽く息を吐くと、厳めしい表情のまま言う。
「何者だ。相当な手練だな」
「分かるのか」
「佇まいから伝わってくる。その若さで数え切れない死線を潜っているのだろう」
男は断定口調であった。
自らの観察眼を微塵も疑っていない様子だ。
そして、実際に的中させているのだから驚きだ。
今の俺は逆行によって若返っている。
しかしドワーフの男の視点では、かつての経験が垣間見えるのだろう。
真の職人の目は侮れない。




