第20話 勇者は国王を糾弾する
俺は左右のトゥワイスをホルスターに戻す。
周囲の騎士は全滅していた。
意識がある者もいるが、起き上がれはしないだろう。
(こいつらは放っておくか)
別に回復してやる義理もない。
それより先にやることがあった。
俺は閑散とした大通りを進んでいった。
リリーが少し後ろを追従する。
「これからどうしますか? 国王に逆らった以上、別の国へ逃亡すべきだと思いますが……」
「いや、それも面倒だ。今後の計画を邪魔されたくない」
「ではどこへ?」
「王城だ。苦情を言おうじゃないか」
できれば距離を取っておきたかったが、ここまで露骨に妨害してくるとなれば無視できない。
よほど俺という勇者を配下に置きたいらしい。
ただし、それは王国の利益と優先した判断だ。
魔王討伐を最優先とする俺の方針と噛み合っていない。
ここで別の国へ移動したとしても、様々な手段で引き戻そうとしてくるはずだ。
だから今のうちに改めて忠告しようと思う。
騎士を使ってまで俺を呼び出そうとしたのだ。
こちらから向かったところで文句はあるまい。
そういうわけで俺達は城へと向かった。
街中の衛兵を避けながら最短距離で城内に侵入すると、騎士達を蹴散らしながら強行突破する。
ここにラグウェルほどの実力者はいない。
苦戦らしい苦戦もなく、俺は執政室に到着した。
魔力感知によると、ここに国王がいると判明したのだ。
俺は扉を蹴破り、国家の首脳陣を前に堂々と踏み込む。
「邪魔するぞ」
円卓を囲う国の上層部は驚いている。
まさか俺がこんな形で来訪するとは思っていなかったのだろう。
最奥に腰かける国王は、眉を寄せてこちらを一瞥した。
「勇者……何の用だ」
「もう忘れたのか? お前が呼び出したんだろうが」
俺は明確な苛立ちを覚える。
その無能な態度に我慢ならなかったのだ。
膨れ上がった殺意に近い感情を抑えて、円卓に飛び乗る。
そこから書類を蹴りながら進んで国王を見下ろす。
すると、近くに座っていたローブ姿の老人が、顔を真っ赤にして杖を掲げた。
「貴様ッ! 陛下に対して何たる態度を……!」
杖の先端から火球が射出された。
俺は右のトゥワイスを引き抜くと、火球を撃ち抜いて破壊する。
拡散した熱気が卓上の書類を吹き飛ばした。
「何っ!?」
「宰相ガディアス。お前の術は通用しない」
「So easy」
トゥワイスは舌を鳴らして挑発してみせる。
宰相は歯噛みして唸っているが、それ以上は何もしてこない。
俺は視線を国王に戻す。
「余計な干渉をしてくるな。魔王討伐の邪魔だ」
「なぜ国との連携を拒む。要求にはすべて応じるつもりだというのに」
「応じてないから抗議に来たんだよ」
俺は銃口を国王の額に突き付けた。
室内がどよめくも、構わず冷酷に言い放つ。
「再び妨害すれば殺す。俺は本気だ」
「勇者が悪逆に染まるのか」
「よくも非難できるな。国益ばかりを気にして、世界を救うつもりなんてない癖に。お前達がグズグズと半端なことをするから、俺が尻拭いをしているんだ。魔族の侵攻を受けて、辺境を切り捨てたことは忘れていないぞ」
俺は感情的になって糾弾する。
引き金にかかった指は、思わず力が入りそうになっていた。
対する国王は不審げな顔で困惑する。
「魔族の侵攻? 辺境を切り捨てる? 一体、何を言っているのだ」
「……チッ」
そこで俺は我に返る。
つい逆行前の出来事を引き合いに出してしまった。
目の前の国王にとっては未来の事象なのだ。
こいつを責めたところで意味なんてない。
冷静になった俺は踵を返すと、扉前に佇むリリーに声をかける。
「行くぞ。時間の無駄だ」
「はい」
最大限の忠告は済んだ。
これで従わないのなら、手荒な手段に打って出るしかない。
部屋を出ると、室内から宰相の訴えが聞こえてきた。
「陛下! あの勇者は国家を愚弄しております! ここで処罰しなければ――」
「Shut up」
トゥワイスが遮るように罵声を飛ばす。
宰相は目を血走らせて俺達を睨み付けていた。
「この、下郎がァッ!」
「俺に構うな。他の勇者の育成に専念しろ」
それだけ告げると、俺は執政室の扉を閉めた。




