第19話 勇者は守護騎士と対決する
(懐かしいな。まさかこのタイミングで出会うとは)
俺はかつての記憶を振り返る。
ラグウェルは王国の守護騎士だ。
騎士の中でも特に有名な男で、数々の武功が認められてその地位を得た。
普段は王都と隣接する領地に在籍している。
俺を連れ戻すため、国王が呼んだものと思われる。
ラグウェルは生真面目な性格だ。
国への忠誠心が高い。
加えて正義の心を持ち、民を守るためなら命を懸けられる。
何度か共闘したことがあるが、その精神力と実力は本物と言えよう。
無骨だが英雄として称えられる男である。
ただし、頭がどうしようもなく固い。
悪人ではないものの、融通の利かない頑固者だった。
脳筋と称してもいいだろう。
「勇者よ。貴様の横暴は看過できぬ。大人しく投降しろ」
ラグウェルは大斧で地面を突きながら言う。
この男は優れた身体強化の持ち主だ。
真正面から魔族を斬り倒す実力者である。
纏う雰囲気は、他の騎士とは別格だった。
「俺は魔王を討伐したいだけだ。なぜ邪魔をする?」
「貴様は陛下の意向に背いている。召喚されたばかりの異邦人に何ができるというのだ。余計な手間をかけさせるな」
ラグウェルは大斧を後ろにずらすと、腰を落として突進の姿勢に移る。
同時に身体強化を発動させた。
魔力の活性化に合わせて、只ならぬ覇気を全身に巡らせていく。
「――反逆の報いを受けろ」
言い終えた瞬間、ラグウェルの姿が霞んだ。
石畳を踏み割りながら疾走してくる。
短距離ながら凄まじい加速を以て俺に接近し、横薙ぎに大斧を振るってきた。
刃を包む赤い魔力が後部から噴出する。
斬撃にさらなる推進力を乗せて速度を上げて、破滅的なパワーを伴って俺に叩き込まれる。
(見事な一撃だ)
俺は守護騎士の力を心の内で称賛する。
そして、振り抜かれる大斧にエネルギー弾を連射した。
斬撃と銃撃の衝突。
弾は刃に弾かれてしまったが、大斧の軌道がほんの僅かに狙いがぶれた。
俺は潜り抜けるように回避すると、ラグウェルの懐に入る。
「魔刃斬りは強力だが、俺には通用しない」
「なぜそれを……ッ!?」
驚愕するラグウェルは大斧を振り戻そうとする。
しかし、それを待つほど俺は優しくない。
俺は後ろに向かってトゥワイスを発砲した。
銃撃の反動を推進力にして、ラグウェルの顎を強打する。
「ぐおっ」
ラグウェルが声を上げて後ずさる。
ただし、倒れはしない。
屈強な体躯と気合で耐え抜いてきた。
だから俺は、追撃の殴打を連続して浴びせていく。
発砲による加速を利用した攻撃だ。
不殺を意識しつつも、徹底的な連打を叩き込んでいった。
満身創痍となったラグウェルは、落としかけた大斧を握り直すと、強引に斬りかかってくる。
「貴様ァッ!」
俺はその胸に銃口を突き付ける。
トゥワイスは、微笑を湛えながら告げた。
「Hasta la vista,baby」
至近距離から放たれた散弾が、ラグウェルを吹き飛ばした。
仰向けに落下した彼は兜の隙間から血を流す。
何か唸っているが、起き上がってくることはない。
散弾を受けた鎧は大きく陥没して無数の穴が開いていた。
常人なら致命傷だが、ラグウェルの身体強化があれば死にはしない。
彼の並外れたタフネスはよく知っている。
回復魔術の一つでも受ければ、すぐにでも起き上がるだろう。
俺は戦闘の終了を確認すると、気になったことをトゥワイスに訊く。
「さっきのセリフ、英語じゃなくてスペイン語だよな?」
「Beats me」
とぼけるトゥワイスは、わざとらしく口笛を吹くのだった。




