第18話 勇者は騎士を打ち倒す
俺は地を這うような姿勢で駆ける。
立ち塞がる騎士達を視認し、それぞれの観察を瞬時に行った。
これによって彼らの次の動きを予測し、最適な立ち回りを想定する。
魔族との戦いで身に付いた戦闘術の一つだった。
(ここだ)
俺は右手のトゥワイスを発砲する。
弾丸は一人の騎士の剣を破壊した。
驚いているところに肘打ちを浴びせる。
騎士は大きく仰け反って倒れる。
「うおおおおおおっ」
別の騎士が、剣を横殴りに振るってくる。
明らかに俺を殺しかねない威力と軌道だが、必死すぎて頭が回っていないらしい。
捕縛という目的を忘れているようだ。
俺は剣先をトゥワイスの銃身で受け止めると、衝撃を脇へと逃がしながら受け流す。
ほとんど空振りに近い形となった騎士は前のめりとなった。
その顔面に蹴りを浴びせて昏倒させる。
今度は死角から剣が迫る。
俺は上体を捻って避けつつ、その延長の動きでグリップの殴打を食らわせた。
倒れる騎士を踏み越えてさらに前進していく。
撃ちながら殴り、或いは蹴り飛ばす。
躱した攻撃が別の騎士に命中させて、同士討ちを誘発させた。
それを目にした者達の攻撃は鈍る。
俺はその躊躇いを利用して追撃を叩き込む。
向こうの数は多いが、俺は歴戦の勇者だ。
多人数との戦闘は心得ている。
不利な状況で殺し合うことなど日常茶飯事であった。
だから、ここで不覚を取るほど間抜けではない。
「Out of ammo」
「分かった」
トゥワイスが弾切れを知らせてくれた。
残弾数には気を配っていたつもりが、俺のカウントと一発分のずれがあった。
目の前の戦いに集中して、どこかで数え間違えたらしい。
(良くないな)
銃で戦う以上、弾のカウントは重要だ。
自力でやれるようにしなければ。
掴みかかってきた騎士を蹴り剥がしつつ、俺は腰の布袋に右手のトゥワイスを突っ込んだ。
「yum yum yum……」
布袋の中でトゥワイスが口を動かしている。
騎士の攻撃を避けながら取り出すと、リロードが完了していた。
トゥワイスが予備の弾を食べて自力で装填したのだ。
この方法なら、二丁拳銃でも円滑にリロードできる。
事前に打ち合わせて考案した作戦だった。
俺は同じ要領で左手のトゥワイスにも弾を食わせつつ、残りの騎士を無力化していく。
そうして残されたのは、最初に問答した大柄な騎士のみとなった。
リリーも無事だ。
彼女の周りには気絶した騎士達が転がっている。
場合によっては加勢することも視野に入れていたが、その必要はなかった。
俺はトゥワイスを構えながら残る騎士と対峙する。
「お前で最後だな」
「おのれ……」
騎士は苛立った様子で唸る。
やがて覚悟を決めたのか、ゆっくりと大斧を掲げた。
魔力の循環する刃は、赤い炎のような光を帯びている。
俺はこの騎士を知っている。
ただ命令するだけの人間ではない。
その名はラグウェル。
魔刃使いとして知られる強者だった。




