第17話 勇者は抗戦する
「俺達は王都を発つ。そこをどいてくれ」
「駄目だ。貴様を連れて来るように命じられている。手荒な真似をさせるな」
中央の騎士は毅然と述べる。
意見を変える気は無さそうだった。
彼は俺の隣のリリーを睨むと、忌々しげに鼻を鳴らす。
「まさか密偵を懐柔するとはな。精神魔術か?」
「違う。彼女は自分の意志で選んだ」
「貴様らの関係など興味ない。こちらの命令に従えないのならば、力ずくで連行するまでだ」
騎士は戦気を滾らせながら言う。
端から話し合いなどするつもりなかったようだ。
この人数差で押し切ろうとしている。
俺は二丁拳銃を引き抜きながら言葉を返す。
「――やってみろ」
「Screw you」
トゥワイスも好戦的だ。
その直後、中央の騎士が大声で指示を飛ばした。
「勇者を捕縛しろォッ!」
彼の言葉に従って、他の騎士達が動き出す。
隊列を組みながら俺達に殺到してきた。
このまま袋叩きにして王城に連れ戻す気らしい。
「援護を頼む」
「分かりました」
リリーは冷静だった。
彼女は気配が研ぎ澄まされていく。
思考が戦闘用のそれへと切り替わったようだ。
彼女は優秀な密偵であり、暗殺者である。
何をすべきか理解したことで、迷いが消え去ったのだろう。
(負けていられないな)
俺は両手のトゥワイスを構える。
威力を落として四連射した。
銃撃は迫りつつあった騎士達の脚に被弾する。
鎧を貫通すると、そのさらに後ろの騎士にまで被害が及ばせた。
彼らは悲鳴を上げて転倒する。
(殺すつもりはない)
騎士達は命令されただけだ。
殺すくらいの気概だが、向こうも俺の捕縛が目的だった。
率先して命を奪うほどではない。
余力が無ければ、こんな甘いことも言っていられない。
しかし、戦力差を考えると不殺も難しくなかった。
(まあ、重傷くらいは覚悟してもらうがね)
先頭集団が転倒したことで、後続も動きを制限されていた。
残る騎士は左右から抜けるようにして接近してくる。
「右を任せる。俺は左だ」
「承知」
リリーは流れるように疾走する。
洗練された気配が薄くなり、騎士達の熱気に押されて消えた。
隠密技能で場に溶け込んだのだ。
その証拠に、騎士達の困惑する声が聞こえてくる。
彼らの察知能力では、リリーの姿を捉えることができないらしい。
「いくぞ、トゥワイス」
「gotcha!」
身体強化を使って加速し、彼らへと急接近する。
予想外の動きに驚く騎士に向かって、右手のトゥワイスを叩き込んだ。
「ぶげぇあっ」
勢いを乗せた打撃、騎士を吹き飛ばした。
それに巻き込まれて数人が尻餅をつく。
「こ、このっ!」
別の騎士が槍の刺突を繰り出したので、左手のトゥワイスで受け止める。
硬い衝突音。
銃身に巻き付けた骨が上手くガードになっていた。
むしろ槍の穂先が欠けている。
俺は蹴り上げで槍を破壊すると、その騎士の顎を銃身で殴って意識を刈った。
「な、なんだこの勇者は……」
「とんでもない強さじゃないか」
周囲の騎士は恐怖した様子でたじろぐ。
仲間の犠牲を見て躊躇しているようだった。
反応から察するに、召喚直後のことは知らされていないようだ。
「どうした? 遠慮なくかかってこいよ」
俺は二丁拳銃を回しながら不敵に笑う。
挑発を受けた騎士達は、猛然と突っ込んできた。




