第15話 勇者は銃を名付る
俺達はひとまず街への帰路を辿る。
途中、黒衣の女ことリリーが拳銃を見て呟いた。
「それにしても、本当にすごいですね。喋る武器なんて初めて見ました」
「You are a lucky girl」
拳銃は得意げに反応する。
先ほどまで殺し合った相手だが、すっかり懐いているようだ。
ちなみに拳銃の名前が決まった。
こいつのことは、これからトゥワイスと呼ぶことにした。
英語で二倍という意味である。
なるべくシンプルにすべきだとリリーが言ったので、それに従った形だ。
安直だが二丁拳銃に相応しいだろう。
ちなみにトゥワイスの言葉はリリーに伝わっている。
彼女には片言で聞こえているらしい。
俺の場合、何らかのアニメや漫画のイメージが影響して英語になっているのだろう。
勇者はデフォルトで翻訳能力を持つが、そこに介入してしまっているのだと思う。
まあ、特に困らないので放っておくつもりだ。
何かのデバイスのように喋る二丁拳銃は面白かった。
「これからもよろしくな、トゥワイス」
「I'll do my best」
そんなこんなで街に到着した俺は、最初に借りた作業場へと再び向かう。
鍛冶屋の店主の了解を得て、机にトゥワイスと各種材料を並べた。
後ろから様子を見るリリーは不安そうに言う。
「もしかして、私との戦いで故障したのですか……?」
「違う。少し強化しようと思っただけだ」
答えながら俺は手を動かす。
今回の改造はものの数分で完了した。
まず銃身に沿うようにして、熊の魔物の骨を一周させた。
近接戦闘時、トゥワイスを防御に使うことがあるので、少しでも補強したかったのだ。
リリーとの戦闘で気付いたことである。
グリップの底にも同じ骨を使う。
こちらは殴打用だ。
かなり頑丈なので乱暴に扱っても折れないだろう。
素の状態で殴るより威力も上がるはずだ。
どちらも大雑把で不格好な改造だが、今はこれで構わない。
次に進化する際、トゥワイス本体と良い具合に統合されるからだ。
そもそも一度目の進化で予想以上にグレードアップしたので、性能面に不満が無かった。
手間が省けて良かったと思っている。
「問題なさそうか?」
「All green」
トゥワイスも大丈夫だと言っている。
銃本体の改造は、ひとまずこれだけでいいだろう。
他にもアイデアはあるが、部品が足りない上に進化したばかりだ。
無理をさせてはいけないし、後日に回そうと思う。
次に俺は、弾丸の改良を始めた。
現在の球体状の弾は、射撃精度がやや低い。
できれば現代と同じ形状にしたが、本格的な弾丸を作る設備はないので、せめてバリエーションを持たせてみようと思ったのだ。
発射可能かどうかは考慮しなくていい。
トゥワイスの口に装填できれば、無理やり飛ばしてくれる。
極端な話、弾丸でなくてもいいのだ。
そういう意味ではかなり楽な作業と言えよう。
色々と試行錯誤した末、俺は数種の弾の開発に成功した。
一つ目は散弾だ。
筒状に折り込んだ紙の薬莢に、すり潰した火薬草と大量の鉛の粒を入れてある。
本来ならショットガンに使われるタイプの弾で、一発当たりの威力や貫通力は低い。
しかし、弾が散らばるので命中率は高く、面の攻撃をしたい時に有効だった。
他にも魔石や火薬草で作った弾や、毒薬を塗り込んだ弾などを作った。
状況に応じて使い分けられるように区分けしてケースに詰めておく。
あとは戦闘で使ってみて微調整する形になるだろう。
策が増えるのは大歓迎であった。
(これだけあれば、十分にやっていけそうだ)
俺はトゥワイスを回転させながらホルスターに収める。
仲間も増えて武器も充実してきた。
まだ召喚されたばかりであるが、最低限の戦力は揃ったと言えよう。
魔王復活はまだ遠いものの、強くなっておくに越したことはない。
明日には鍛練を兼ねて別の地域へ出発してもいいだろう。




