第14話 勇者は新たな仲間を得る
俺はさすがに困惑する。
突然の要求が、完全に予想外だったのだ。
「急にどうしたんだ」
「隷属の魔術を壊して、私を解放してくれました。その恩を返したいのです」
「気にするな。俺が勝手にやったことだ」
「絶対に迷惑はかけません。途中で見捨ててくださっても結構です。だから、お願いします……」
黒衣の女は深々と頭を下げる。
真剣な様子で、微塵も引き下がる気配がない。
俺は複雑な顔で悩む。
(参ったな。まさかこんな展開になるとは)
エゴで黒衣の女を解放した。
このままどこかへ去ってくれればいいと考えており、仲間にしてほしいと希望するとは思わなかった。
(しかし、単独行動にも限度があるのも事実だ)
俺は一人で魔王に対決を挑み、為す術もなく惨敗した。
だからソロでも対抗できるように二丁拳銃を選定し、かつてを超える力を求めて動いている。
ただ、仲間がいた方が、最終的な戦力は上だろう。
魔王に対する手札も増えるし、今後の生存率も飛躍的に高まる。
もし黒衣の女が味方になってくれるのなら、早い段階から魔族討伐に移れるはずだ。
(他の勇者と違って、世界への影響も少ない。既に強いから、育成の手間も省ける)
逆行前の出来事を振り返るも、黒衣の女とは出会った覚えがない。
つまり彼女は英雄として表舞台に出てこない存在なのだ。
たぶん水面下で暗躍していたのだと思われる。
(当時の情勢を考えると、魔族との戦いで死んだのではないか)
俺の行動によって、黒衣の女の未来が変わってしまう。
ただ、それについてはもう手遅れだ。
双剣の勇者にならなかった時点で、様々な影響が生じている。
今更、気にすることはあるまい。
「What will you do,master?」
「It's a chance」
左右の拳銃が好き勝手に発言する。
随分と楽しげだ。
俺達のやり取りを理解した上で、黒衣の女が仲間になることに肯定的らしい。
(……断る理由がないな)
罠の可能性だってある。
しかし、その真っ直ぐな姿勢が嘘ではないことを物語っていた。
万が一にも裏切られたら、自己責任で不利益を被るだけだ。
それくらいのリスクは背負って然るべきである。
考えのまとまった俺は黒衣の女に告げる。
「過酷な旅になるが、よろしく頼む」
「……はい! ありがとうございますっ!」
彼女は顔を輝かせて言う。
別に感謝されることではない。
それだけ嬉しいのだろう。
命がけの危険な旅なのに同行したがるとは、不思議な性格をしている。
そこで俺は当初の目的を思い出した。
「それで、さっそくだが相談がある」
「何でしょうか」
黒衣の女は張り切りながら構えてみせた。
俺は二丁拳銃を見せながら質問する。
「こいつの名前を決めたい。何か良い案はあるか?」




