第12話 勇者は密偵と戦う
黒衣の女が短剣による刺突を狙う。
極端に低い姿勢から、抉るように突き上げてきた。
冷徹な動きは、殺傷に対する躊躇の無さを窺わせる。
(いい動きだ)
内心で感心しつつ、俺は拳銃で受け止めた。
互いの武器が衝突して火花が散る。
すぐさま拳銃から痛がるような声が発せられた。
「Ouch!」
刺突をなんとか打ち上げて凌いだ俺は、身体強化を使って蹴りを放つ。
察知した女は仰け反って躱した。
掠めた衣服が僅かに裂けるも、身体には当たっていない。
大した反応速度であった。
普通ならここで直撃して昏倒している。
「シィッ」
体勢を戻した女は、至近距離から短剣を振るってくる。
刃には冷気が纏わり付いていた。
(氷の魔術か)
俺は屈んで避けると、そこから二丁拳銃を連射する。
女は宙返りで回避しつつ、空中で短剣を投擲してきた。
咄嗟の動きとは思えない精密な狙いだった。
俺は地面を転がって避けるも、直後に舌打ちする。
短剣の刺さった箇所を中心に地面が凍結し、氷がこちらへ迫りつつあった。
表面が針のように尖りながら雪崩れ込んでくる。
(短剣を経由して魔術を使ったのか……!)
俺は凍結した地面を銃撃で破壊する。
その間に女は着地すると、木々を蹴りながら加速して横合いから接近してきた。
刹那、低空からの踵落としを打ち込んでくる。
短剣術の次は肉弾戦らしい。
「マジかよ」
俺は苦笑しながら拳銃でガードする。
軽やかな動きからは想像できないほどに重い一撃だった。
身体強化がなければ骨が折れている。
「Oh,no!」
拳銃の悲鳴を聞きつつ、俺は踵落としを脇へ受け流す。
そして、踏み込みから肘打ちを繰り出した。
女は飛び退こうとする。
しかし、それを予測していた俺は、身体強化でさらに間合いを詰めた。
「ぐっ……」
肘打ちは女の胸に炸裂した。
骨の軋む感触と共に彼女は吹き飛ぶ。
仰向きで地面を滑った彼女は、慌てて起き上がろうとする。
「そこまでだ」
瞬時に距離を詰めた俺は、彼女の顔に拳銃を突き付ける。
仮面の裏で、その双眸が驚愕に染まっていた。
隠し持っていたナイフが取り落される。
敗北を悟ったらしい。
「チェックメイト。俺の勝ちだ」
「Freeze,toots」
拳銃は上機嫌に言った。




