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前編第二話 人は人の上に天をつくり、天の上に人をつくった

あらすじ:

大学生の小見川 耀(22歳 男)は、ある日、大学の創設者の幽霊に出会う


 ●







 人は人の上に天をつくり、天の上に人をつくった、ってやつだね。


 喰わなきゃ死んじゃう、排泄しなきゃ死んじゃう、そんな人なんて逆さにして振るっても尊い意味なんて出てきやしないのさ。




 ある日、大学で―――


 「あっ!お札の人だ!」


 「君は君の大学の創設者を…」


 「?」


 「えっ?ご存じない?」


 ―――創設者の幽霊に出くわした。







 穏やかな春の日差しが心地よくまぶしい、ここは三田された大学キャンパス、その中庭のベンチで俺はタバコを吸っていた。メンソールのね、オシャレでしょ?


 なぜか隣に座っているおっさんは幽霊のくせに煙を吹きかけると煙たそうに顔を歪めた。髪を伸ばすなとは言わんがせめて後ろでまとめんか、とかぶつくさ言ってる、うっせーよ。


 「しっかしさあ、またなんで彷徨ってんスか?」タバコスパー。


 「いや、ワシにも解らんよ」


 タバコを1本吸いおわるまで付き合おうと思っていたのでそろそろお別れの時間だ。俺はベンチから立ち上がり大きく伸びをしながら独り言のように空に向かって呟いた。


 「そっか、俺だけしか見えないんだ、けど残念だなぁ」


 そこで俺はおっさん幽霊を見下ろしながら告げる。


 「俺、幽霊さんとお友達になりたいと思わないんでね」バイバイ。


 吸いおわったタバコをおっさん幽霊に向かって指で弾くと、火のついたタバコはおっさん幽霊を通り抜けた。にもかかわらずおっさん幽霊はタバコが通過したあたりを大袈裟に手で払いながら声を荒らげた。


 「ちょっと待てコラ!ワシが誰だか…」


 「知ってる!お札の人!」


 おっさん幽霊は怒りのあまり、怒りに怒った挙句の笑顔のまま固まっていた。ウケるんですけど笑。


 「じゃあまた暇なときにでも相手してあげますよ」


 俺はそう言うと出たくもない授業のために講義室に向かった。後方でおっさん幽霊は何やらわけのわからない呪いの言葉をしばらく絶叫していた。




 「…」


 無言で歩く俺。


 「…」


 無言でついてくるおっさん幽霊。


 「ところで、どこまでついてくる気なんスか?」


 いい加減ウザクなってきた俺は精一杯嫌そうな顔をして、後についてくるおじゃまユーレイくんに振り返る。うん?お兄さん怒っちゃうよ?


 するとおっさん幽霊はなんだかバツの悪そうな挙動不審な態度だよ。


 「え?あぁ…あーっと、うん、あれ?」ゴホンゴホン。


 大体において俺の嫌な予感というのは的中する。


 「ちょ…まさか…」


 「君と離れられん!どうやら君にとり憑いたよーじゃな!」おっさん、頬を朱に染めて愛想笑い。「ハハハ、いやメンボクない!ハハハ」


 俺は頭を抱えてその場にしゃがみ込んで絶叫した。


 「冗談きついよこのおっさんわあああ!!!」


 と言うわけで俺はおっさん幽霊が成仏するための手伝いをすることになった。







 ●







 親に大学の近くにマンションを買ってもらい、そこで一人暮らしをしている俺は、大学付属の女子高校生を連れ込みまくりの喰いまくりだったわけだが、


 幽霊さんに見られながらファックするプレイはレベル高過ぎるのでしばらくお預けだクソ、腹が立つ、壁パン。


 「祓うぞてめえ!」


 「お祓いはお金がかかるぞ!」


 おっさん幽霊なぜかドヤ顔である。


 「うっせーな!で!どうすれば成仏してくれるのよ!」


 「うむ」キリッ。


 大袈裟にキリッとすんな、つうか昔の人ってこんなにいちいち暑苦しかったん?


 「日本の教育思想の改良とその実現、これをワシの大学で提示することである!」


 おっさんは腕を組み背中に日本国旗をはためかせながらのたまった。


 「多分これで成仏出来る!」


 俺は何言ってんだこのおっさんと思いながら、お祓いのためにお金貯めなきゃなぁとか考えていた。


 はっきりってめちゃくちゃ笑えない状況なんだけど、笑えなさ過ぎて笑えてきた。


 俺はタバコを消す、気持ちを切り替えることにした。


 「まぁあれだ、俺も退屈してたし、いっちょやっつけるか!」


 おっさんは半身になり、胸をそらし、左手の人差し指で失礼にも俺をビシーッと指差しながら、そうこなくっちゃ!と言っていた。


 「よし!早速明日から行動開始じゃ!」


 「おい!偉そうだぞイソーロー!」


 「う、うむ…」


 そんなわけで出会った初日の夜は更けていった。




 両手の届く範囲でベストを尽くすというのが俺のポリシーだ。したがっておっさん幽霊成仏大作戦の行動は生徒の意識改革から始めることにした。


 大学で顔が広がった俺は様々な人間の様々な思惑を上手く紡ぎ合わせこの運動を盛り上げていった。


 結局のところ学生と言うレジャー階級の人間たちは退屈で退屈でしょうがないのだ。刺激が欲しくて欲しくてしょうがないのだ。


 誰か笛を吹けばみんなが一斉にその笛の音色に誘われて行進を始める、運動は大きくなり、いつしか俺はこの騒ぎを楽しむようになっていた。


 もしくはその騒ぎの中心にいる自分自身に酔っていただけなのかもしれないけどね。


 まさにあっという間だったよ。演説する俺の前に5万人を超える聴衆が集まるまでになるのがさ。みんな熱狂的視線を俺に向けてんの。


 東京ドームを借り切ったんだけどさ。当日券にありつけなかった人たちの列は水道橋の駅まで伸びてたってさ。いやさすがに盛り過ぎでしょ。


 東京ドームのステージ前の席はカンパ10万円で購入出来る訳だけど、後で聞いた話だと転売価格は20万円超えたんだって、凄いね、俺。


 俺ってアジテーション演説の才能あったんだねー。まあ恐らくそこでふよふよ浮いてるおっさん幽霊の力もあるんだろうけどね。


 俺がコブシを突き上げると熱狂的聴衆もコブシを突き上げる、大歓声があがる。


 日本国旗を振るものもいれば、赤旗を振るものもいる、校章が描かれた旗を振るものもいれば、アイドルの名前が書かれた下品なピンクの旗を振るものもいた、と思ってよく見たらその名前は俺の名前だった。YAMETE!


 けど不思議と悪い気はしなかったんだな。人はだれでもこういった悪趣味な願望があるのかもしれないね。







 ●







 俺とおっさん幽霊の運動はそれはもう笑っちゃうぐらい大きくなった。


 俺がキャンパスを歩けばあちこちから声援が送られる、おっさん幽霊しかいなかった俺の後には、今や数十名の親衛隊が続いている、ちょっとした大名行列だね。


 「なあ」


 「なんだよおっさん」


 「なにやら、やけに留学生が目につくんじゃが」


 「大学もお金欲しいからね」


 「それにしても志那人や朝鮮人がやけに多くいるように見受けるんじゃけど」


 「連中はさ、今じゃ大事な金づるだから」


 留学生同士かたまって母国語で絶叫会話してる集団を横目で見ながら解説してあげる優しい俺。


 「けど奴らにしてみりゃさ、日本のお札になるほど偉い人であるあんたの大学を征服したって気持ちになってるんじゃないの?よくわからんけどさ」


 「ワシ、志那人や朝鮮人とは付き合うなって、ギャグ問のすゝめに書いておいたんじゃが」


 「おっさんはさ、老いては子に従え、とも書いてたよね、そういうことでしょ」


 「なんというかワシの大学の改革だけでなく、日本の改革が必要な気がしてきたんじゃが」


 「怖いこと言うなよおっさん、それまで成仏出来ないとか言ってくれるなよ?」


 「ハハハ笑」


 「笑じゃねーよ!」




 そして―――


 コンコン


 「入りたまえ」


 ―――俺は教授会に呼び出された。袋叩きにされるってわかってたけどね。逃げたって思われるのヤだからさ、教授どものツラ拝みに来てやったってワケ。


 俺は耳栓をしていたんだけどさ、おっさん幽霊は手のひらで両耳を塞いでいたよ。


 大学教授って不思議な生き物だ。大半が社会に出ることもなく大学と言う真空地帯で時間を過ごしたからなのかね。


 教養が高いと言われる教授さん方ではあったんだけど、俺に向けられる罵詈雑言は支離滅裂でまさにヒステリー女のそれだったよ。


 不思議な生き物観察は結構面白かった。


 壁に貼り付けられている校章を拝んでるヤツとか、


 おっさんのフィギアを握りしめて舞踏してるヤツとか、


 酷いヤツになるとおっさんのコスプレしてるヤツとか、まあなんというか地獄絵図だよ。人間残酷物語、みたいな?


 聞くに耐えない罵詈雑言を長いこと浴びせられたんだけどさ、まあ解釈した上で要約すると以下の通りになるのかな。


 曰く、先生の名前を勝手に使うな。


 曰く、先生の名前を使っていいのは俺たちだけだ。


 曰く、おいしい金儲けの邪魔をするな。


 曰く、お前が寄付金の廃止など言える立場にあるのか。


 ん?あれ?


 ああ、そうだそうだった、忘れてたよ。


 「小見川あ!お前だって親の寄付金のおかげで入学出来たんだろうがあ!」「そうだ!そうだ!」


 ヤバ。俺はちょっとヤバイなと思い始めて、久々に動揺した。


 おっさんも俺の様子に気づいたみたいでさ、やっぱマズイって思ったらしくて行動にでたんだ。


 「ちょっとだけ、ちょっとだけ身体を貸してくれんか?」


 「ちょ、ちょっとだけだぜ?」


 するとおっさんは俺と重なって、幽霊は若き肉体に憑依した。


 「何が…先生、じゃ…」


 あ、おっさんマジギレだ。







 ●「この顔オオオオオオ!!!!!!忘れたかアアアアアア!!!!!!」







 俺は鏡に映った俺の顔を見て心の中で吹き出したよ、俺の顔がおっさんの顔になってんの、笑うだろ。


 俺のヘアスタイルはいわゆるロン毛だよ、おっさん顔のロン毛シブカジとかリアルパブリックエネミー過ぎるだろ。


 しかも何故か手にはどこから取り出したのか嫌波文庫版のギャグ問のすゝめをまるで印籠のみたいに握っててさ、かざしてんの、控えおろうみたいな感じで。


 俺的にはここ、大爆笑ポイントなんだけどさ、教授会の連中は一斉にギエエエエエエ!!!!!!とかヒャアアアアアア!!!!!!とか叫び声をあげて、続けて一斉にジャンピング土下座よ。


 土下座する哀れな教授どもに対して俺に乗り移ったおっさん幽霊ドヤ顔ですよ。どうだ!と言わんばかりにね、テメエの書いた本かかげてさ。笑うわ。


 俺はまぁこれでケリがついたかなと思ったね、安堵して胸を撫で下ろしてたよ。


 その後もまぁいろいろあってね、ホントにいろいろあって、ななんとなんと俺は新しい学長に就任することになった。信じられる?バカだろこいつら。


 俺は思ったよ、もしその先生とやらが犬に乗り移ったら犬の学長が誕生するんかい、ってね。




 そして結局―――


 「この権力使ってしばらく遊ばせてもらうわー」


 ―――毎度お馴染みの結論に行き着いた


 その時のおっさん幽霊の顔は1万円札の肖像画のさ、目の部分を山折りにするやつあるじゃん?あれの上から見たときの困り顔にそっくりだったよ。


 「ワシ、もしかして彷徨いっぱなし?」おっさん幽霊涙目。


 脅しのつもりで言ってるのか知らないけどさ、それもまぁいいかなって思っている俺がいたりする。


 このおっさんがなぜ俺を選んだのか知らないけどさ、このおっさん幽霊を利用しない手は無いでしょ、つまり毎度お馴染みの結論ですよ。


 けどね、大人の世界は自己責任さ、これも結局はあんたの責任、そうだろ?老いては子に従えってねハート。




 学長室でいたすファックってのもなかなかオツなもんですな。


 大学の附属校に入学したい、女子小学生、女子中学生、女子高校生、その母親、ファックし放題ですよ、ディスイズOJYUKEN!もちろん大学の女子生徒乱れ喰いは言うまでもないよね。


 「なあにい!?卒業生がマスコミとグルんで俺を攻撃する、だあ?」


 最近はこの手のタレコミ電話ばっかだよ、そろそろ撤収の頃合かな?


 「心配すんなよ!こっちにゃー強ーい味方が!いるじゃねーか!なぁ!?」


 俺はその強い味方に視線を移す、おっさん幽霊は学長室のすみっこでハイライト消えた眼をして体育座りしてた。


 「あはははははは!あはははははは!」


 俺は笑った。俺は大いに笑った。これが笑わずにいられるかっての。


 学長の椅子に全裸で座る俺の目の前。学長の机の上にうず高く積み上げられた寄付金の山。そのまわりに横たわる数十体の全裸の女体。笑うしかないでしょ。


 俺の笑い声に呼応するかのように、その何万枚と言う一万円札のおっさんの肖像画のすべてが、今! 一斉に血の涙を流し始めたよ!って怖えーな、オイ!







 はー、まあなんというか、めでたし、めでたし!でいいのかな?みんなの大好きなチート展開って結局はこういうことでしょ?








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