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後編第二話 くたばれ!なろう小説!―――底辺ナローケーキ職人、盛大に逆ギレをぶちかます!―――2/2

 ●







 =====




 会場は地獄絵図の様相を呈していた。


 そこいら中で俺のケーキを食べた者たちが苦しみ悶えている。


 ゲロ吐くもの、血反吐を吐くもの、そして泡を吹く者。


 中には顔を紫色にして白目をむく者。


 中には目鼻口耳など全ての穴という穴から血を吹き出しながら笑っている者。




 「どうです頭取、俺のケーキ、気に入ってもらえましたか?」




 その地獄絵図の中、ステージの上の俺は目の前で倒れている特別審査員サマに問い掛ける。




 「毒か、貴様ケーキに毒を…!」




 =====




 俺とタカコさんのケーキ対決当日会場。


 俺の率直な感想としては、もっと観客が集まるかなと思っていたが、



 「それほど沢山集まると言う訳ではないんだね」


 肩透かしを食らったような気分だった。とはいえ俺にしてみると、いつもの数百倍の人たちに、少なくとも俺のケーキをひと口は食べてもらえるのだ。


 俺の心は熱く燃えていた。それにタカコさんは、そんな俺の気持ちを察してくれたのか、


 「評判を聞きつけて日を追うごとに興味を持ってくれる人が増えるものよ」


 と言ってくれた。


 「アカルー、応援しに来たよ、あんたひょっとして緊張してたりするー?」


 「アカル、頑張って勝てよ、と言いたいところだが、俺からすると正直お前の負けは目に見えている。


 だから思い切って負けて自分の気持ちに区切りをつけるんだ、そしてウケるナローケーキを作る切欠にするんだ、少なくともこの勝負を見に来ている人たちは、今後しばらくの間、お前の作品を気にしてくれるだろうから、って、おい!ひとの話はちゃんと聞け!」


 アンジェとサミーが舞台袖の俺を訪ねてくれた。


 タカコの店に簡易的に設営されたステージの上では今、タカコの店に出資をしている銀行の宣伝とその銀行が融資する、他のナローケーキの店の新製品の宣伝が行われていた。


 しかもなんとその銀行の頭取が自ら舞台の上でプレゼンをしている。なるほど先日の下っ端融資係と違い見事な話術だ。


 ナローケーキ愛好家とナローケーキ職人の明るい未来を語り終えたところで、そこそこの拍手とともにマイクは司会者に渡った。




いよいよ時間だ、やっとで開戦だ。








 ●







 銀行の頭取がステージ上の特別審査員席についた。


 司会者が改めて銀行とその銀行の頭取の紹介を始めると、観客席からブーイングの声が上がり多くの観客がそれを聞いて大笑いした。アンジェのブーイングだろこれ。


 間抜けな司会のせいで上々の出来のプレゼンが台無しにされたにもかかわらず頭取笑顔である。




 司会はケーキ対決のルールを説明する。


 いたってシンプルな今さら説明するまでもないような、そんな事を大げさな身振り手振りを交えてシャウトし始めた。




 要はタカコさんのケーキと俺のケーキを会場の全員で食べ比べて、美味しいと思う方に1票入れる、そして得票の多い方が勝ちである。


 ちなみに特別審査員である大銀行のお頭取サマは1人で100票入れることが出来るそうだ。




 タカコさんがステージに呼ばれる。


 割れんばかりの拍手で迎えられるタカコさんは笑顔でそれに応えている。凛としたとても爽やかな立ち姿だった、姿勢が良過ぎるのは緊張しているからかな。


 次に俺がステージに呼ばれる。


 パラパラとした拍手、そしてアンジェのからかいのブーイング、そしてそれに対してウケている人たちの笑い声が聞こえた。少し緊張がほぐれたよ、グッジョブ、アンジェ。


 俺とタカコさんは握手をした。タカコさんは自信に満ち溢れたいい表情していた。対して俺はどんな顔をしていたのだろう、おそらくひきつった笑いを顔に貼り付けていたに違いない。


 というのもその時俺は、俺の心が、すべて目の前の彼女に、見透かされていると強く感じていたからだ。




 まず運ばれてきたのはタカコさんのケーキだ。


 会場のスクリーンに美しい二品盛りのプレートが写し出される。司会者に促されタカコさんがケーキの解説を始める。


 その説明の間に観客たちにケーキが配膳された。全員に行き渡ったところで一斉に食べ始めるのがルールだ。




 「本日ご用意したのは当店人気のケーキの最新作、悪役令嬢ケーキと異世界転生勇者ケーキの二品盛りです。」




 会場から大歓声が上がる。


 同時に会場のナローケーキファンたちが、よく知った類のケーキが出てきたことに安堵しているのが肌で感じ取れた。


 会場に詰めかけた観客全員にケーキが行き渡った。タカコさんは言霊全開の美声で火ぶたを切った。







 ●「ではどうぞ!お召し上がりください!」







 会場のあちらこちらで、いただきますの声に続き、タカコさんのケーキに対する称賛の声がまるで打上げ花火のように炸裂する。




 「この悪役令嬢ケーキすごい!」


 「最初に苦味やエグ味が来てそれが後から押し寄せる甘さを際立たせるの!」


 「わぁ、ウケける要素をこんなに贅沢に使っている!麗しの隣国の王子様、やんちゃ系の騎士団長家の三男、妖艶な魅力爆発の魔王様!」


 「どれもありきたりな材料なのにみんな丁寧に仕事がされているのね!この素材にこんな美味しさがあったなんて驚きだわ!」


 もふっ・・・

 「な、なにこの食感!とってもモフモフ、癒されるわぁ!なんだか作り手に親近感がわいてきたわ!」


 「化粧水、香水、整髪料、前世の知識で無双する展開最高!こんなふうに楽に金儲けしたいわね!」


 「冗長な展開と言う人もいるけれど、私は長く楽しめるの好きよ?暇つぶしにはもってこいだもの!」


 「ラストはスパイシーなざまあでハッピーエンドの王道展開かぁ、うん、やっぱりいいね!」


 「ハッピーエンドタグの効果も出てるのね?この安定感が心地良いんだぁ」




 「こっちの異世界転生勇者ケーキも凄いゾ!」


 「開幕チート!初っ端からガンガン攻めてくるな!」


 「早々に!俺なんかやっちゃいましたか?これを惜しげもなく贅沢に使ってくるんだ!気持ちイイィィ!」


 「このフルーツの砂糖漬けも凄い!種類が沢山、まるでハーレムだよ!どれもこれもガチ甘い!」


 「大ぶりのピーチ、未成熟なぶどう、よりどりみどり、どれも女性にはありえない味付けだけど、野郎にはたまらない仕事がされているでゴザル!」


 「ははっ!金に困らない展開最高!奴隷だとか貧民だとか助けて気分良し!上から目線ここに極まるナリ!」


 「冗長な展開と言う人もいるけれど、この売り方で良くね?誰だって長く稼ぎたいっしょ!」


 「ラストはラスボス倒してハッピーエンド!王道だけどいいね!あんまりその後の生活に触れていない後味あっさりもグー!」




 会場の人々は皆、タカコさんのナローケーキに舌鼓を打ち、そしてその甘さに脳みそを溶かした。


 さすがはナロー王国屈指のランカーだ、女心だけでなく男心、オタク心に子供心、すべて心得ている。


 ステージに改めて目を向けてみると、どうやら司会者もナローケーキを食べていたようだ。フラフラとした足取りとうつろな目つきでそれでいてハイテンションな声が響き渡る。大丈夫かこの司会者のおっさん。


 「皆さんどうでしたか!素晴らしい!素晴らしいナローケーキだったではありませんか!」


 「頭取、タカコ先生のナローケーキについて一言お願いします!」


 「うむ、もはや言うまでもないだろう、流石の一言だ、よくぞここまで技を磨いた、尊敬に値する」


 頭取閣下の偉そうなコメントが飛び出す。ナローケーキを作ったことなど無いのだろうに技を磨いたときましたか。


 ナローケーキに興奮している観衆は拍手でそのコメントを受け入れていた。




 俺はふと見えた気がした、ナローケーキ中毒患者たちが道化のような恰好の頭取が吹く笛に集団でふらふらとついていく光景が。




 そもそも基本的にナローケーキ中毒患者は睡眠不足に基づく懐疑的思考能力不足の者が多い。


 眠る直前までナローケーキを貪っていると、大概その睡眠後にみる夢は現実との比較をベースにした悪夢だ。その結果睡眠が浅く覚醒時の意識がはっきりせず思考能力が低下したままで日々の生活に入っている。


 食べる必要の無いものを食べなくてはいけないものと思い込んでいる。思い込まされている。何でもそうだと思うが、楽しいと思うことによって発生するアドレナリンそしてエンドルフィンといった、こういった脳内麻薬は必ずしも日常生活の中の判断に良い影響与えている訳ではない。


 ティービィー王国やコンチパ王国はそれらの悪用を心得ている。最良のものの悪用が最悪の結果を生むことを承知の上でなお開き直って悪用を悪意をもって続けている。


 ティービィー王国の国民やコンチパ王国の国民がそうであるように、最近俺はナロー王国の国民もまた、彼らと同じような集中力や決断力が著しく低下した麻薬中毒患者になっているように思えてならないのだ。







 ●続いて俺のケーキが運ばれてきた。







 会場の観客全員に俺のケーキが行き渡る。会場にはあからさまな嘲笑と溜息が波紋のように広がる。


 タカコさんのナローケーキを食べるという目標を達成している者たちにとって、俺のナローケーキは余計な抱き合わせ商品でしかない。


 そんな評価は俺にしてみればどうでもいい、まずは食べてもらわなくてはいけないのだ。ひと口でいいから食べてもらえる状況にたどり着けなくては何も始まらないのだ。




 会場の観客たちはやれやれといった感じでほぼ一斉に俺のケーキを食べ始めた。


 誰もが皆、頭の上に?を浮かべながら食べ進めている。手探りで不可解な味の解釈を見つけようとしている。いいぞ。




 そして今!




 そのインパクトは突然に訪れる!俺の仕掛けた真実の波が嘘という砂で出来たお城をぺしゃんこにして飲み込む!




 誰かが大声で叫んだ!







 「みんな食べるのやめろ!これは毒だ!」







 その声をスタートガンにして会場はカオス。


 そう、これは予定調和の地獄絵図。


 そこいら中で俺のケーキを食べた者たちが苦しみ悶えている。


 ゲロを吐くもの、血反吐を吐くもの、そして泡を吹く者。


 中には顔を紫色にして白目をむく者。


 中には目鼻口耳など全ての穴という穴から血を吹き出しながら笑っている者。




 「どうです頭取、俺のケーキ、気に入ってもらえましたか?」




 その地獄絵図の中、ステージの上の俺は目の前で倒れている特別審査員サマに問い掛ける。




 「毒か、貴様ケーキに毒を…!」







 ●







 大半の観客は俺がケーキに仕込んだ毒に犯されて藻掻き苦しんでいるが、幾らかの例外がいたので観察させてもらった。


 まずステージ上のタカコさんである。


 タカコさんは特に狼狽することなく俺のケーキを食べ進め先ほど完食した。その上で何かぶつぶつとつぶやいている、スマホに感想のボイスメモを取っているようだった。


 よほどその作業に集中しているのか、無視を決め込んでいるの解らないが、その間、タカコさんは俺と目を合わそうとしなかった。




 会場を見ればアンジェが俺のケーキを食べながら何やら身悶えている。


 俺と目が合うと俺に向かってこう言い放った。


 「なんだか私の昔の黒歴史ノートを音読されてるみたいで、これはこれで私に大ダメージだよー!そういう意味では毒としての効果を発揮してるよー!シビれるー!」


 隣のサミーも俺に対して毒を吐きながら俺の毒ケーキを喰っている。ある意味器用なひとだよな。


 「アカル・・・こういう事はあまり褒められたものではないぞ?ただここではあえてアカルのことを擁護するとだな・・・オエッ、これはギリギリ毒と薬の境界にあるんじゃないかな、ってことだ。」


 「アカル、諄いようだが次にケーキを作る時は、タカコさんが作っているような、ここの会場にいる人たちの多くが喜ぶような、そんなケーキを、作るんだ、ぞェェェエロエロエロォォォ」


 そこまで言ったところでサミーは盛大に吐いて倒れた。毒アウト、毒イン、からの毒アウト。俺が仕込んだ毒の調合のどこかが、彼の心の暗部にハマったようだ。恋愛関係のとこかな?


 ぶっ倒れて痙攣しながらも彼はスマホを取り出し、うわごとのように俺のケーキの感想をボイスメモに記録していた。このあたりは見事なライター根性だと言えるのではないだろうか。




 後日サミーは俺の毒ケーキが内包する成分を解析して、成分言葉を読解し書き出し、彼のブログにアップロードし業界で波紋を呼んだ。


 以下は彼のブログから抜粋したポイントをリストしたものである。


 タイトル:毒入りナローケーキ事件の毒は本当に毒だったのか?


 ―――それは食べた者の舌から甘味の感覚を奪う魔法であった

 ―――読者にとって都合の悪い現実の記述がそれにあたる

 ―――このケーキを食べた後しばらくは

 ―――それまで食べていたケーキが大変不味く感じることになるだろう


 判明した主な成分言葉:


 ・成功体験がないから安直な成功描写を受け入れる

 もしくは成功までの過程が省かれていても違和感を覚えない


 ・現実社会の学校時代にはチート集団仲間どころか友達がいなかったので、

 それを満たしたい願望があるが、

 集団行動や友達付き合いがどういうものか理解出来ないので、

 最初から都合のいい人形に囲まれる展開しか受け入れられない


 ・クラブ活動や学園祭等イベントの充実した学校生活を渇望する傾向があるが、

 それを如何にして勝ち取るかを知らないので、

 これもまた一方的に与えられたものでなくてはならない


 ・実際の恋愛経験が無いので出会いや付き合いの苦労を知らない

  恋愛経験不足に基づくファンタジー交際描写しか受け入れられない

 もしくは恋愛に関して痛い経験が多すぎて踏み込んだ描写に耐えられない


 ・ご都合主義でなく現実逃避主義

 暇つぶしをして何かをやった気になる

 何も成し得ていないのに既に何者かになったような錯覚を受け入れる


 ・やること全て成功する状況に対して違和感を覚えない

 仕事の経験が不必要な不快体験でしかない場合が多く、

 まともに働いた経験が乏しいので、仕事における責任の観念が曖昧


 ・リスクバランスが極端に低く、

 何かをすることに対してリスクが生じるという観念が欠如している


 ・総じて成長が無い、成長を促さない、それどころか、むしろ退化させる、

 これらの成分を必要以上に大量に摂取していることに対して懐疑の目を向けない


 ・何をしようが個人の自由だ!だから俺が逆ギレするのも俺の自由だ!

 だが今のお前は大量生産大量消費社会の奴隷だ!現実のお前は不自由してんだよ!

 その鎖を断ち切って己の自由の為に立ち上がれ!自らの行動が普遍的法則となるように行動せよ!




 そんな阿鼻叫喚の会場を見渡しながら、俺は一応の満足感を得ていた。


 いずれにしろ俺がケーキに仕込んだ毒は、効力がすぐ消える者ならば、ものの数時間で消えてしまうようなものだ。どれだけ持ったとしても俺の仕込んだ毒ごときでは、1日以上効力が続くとは思えない。


 この毒が効いている間は、どんな甘いナローケーキを食べても、全く甘さを感じないはずだ。


 俺は事後ではあるが一応会場でその説明をしたし、頭取も今しがたそんなことを叫んでいたし、会場の中のいくらかの観客が甘味を感じなくなったことに気づき、なんてことをしてくれたんだ!と発狂して絶叫して周知に協力してくれていた。


 もうこの会場に用は無い、立ち去ろうとした時、足元から声がした。銀行屋の糞頭取が震える指で俺を指差しながらこう呻いてくれた。







 「この・・・このケーキ、このケーキの名前はなんだ?」







 「このケーキの名前は

        『くたばれ!なろう小説!』

                   ですよ」ドヤァァァ!!!







 ●







 最後にごく簡単に、あのろくでもないケーキ対決ごっこから、3ヶ月経った今の状況を書き記しておく。




 サミーはカキン王国に引っ越した。


 カキン王国で、その実態と問題を、持前のライター根性で取材していると言う。


 カキン王国はカキンラーメンのメジャーリーグだ。


 麺とスープ、これはどこの店でもで無料で提供される。しかしコショウの一振りから追加料金が請求される仕組みだ。トッピングを追加料金で購入する訳だが、その購入金額は青天井だ。


 そしていつしかカキン王国の中でのみ存在している、独自の価値観が受け手の世界観にすり替わるのだ。より多くトッピングを盛った者が王国内でのハイステータスを得られると言う、馬鹿げている共通認識がまかり通っているのである。


 ここでもやはり大量生産大量消費教の暗躍があちらこちらで見られるそうだ。カキン王国にとって隣国であるコンチパ王国との戦争勝利の方が至上命題であり、王国内の大大教信者達が発生させている、システム不備に基づく事件の数々は放置されている、とのことだ。


 サミーはいったいどんな記事を書くのだろうか、それにどんな毒を仕込むのだろうか、今からちょっと楽しみだ。




 アンジェはティービィー王国に引っ越した。


 この王国の歴史は比較的に古く、一時期から大量生産大量消費教を国教にしている。


 相変わらずの暇つぶし至上主義の彼女は原点に帰ったと言っていた。


 ティービィー王国はティービィー寿司のメジャーリーグだ。


 長椅子に座っているだけで、次から次へと回転寿司が、口の中に入っていくという、そういった仕組みになっている。


 基本的に全く追加料金が必要無いシステムだが、そこに落とし穴がある。長い間そのティービィー寿司の椅子に座っていると、結果的に買う必要のない物を次々と買ってしまうと言うカラクリがあるのだ。


 特に子供や老人といった弱者をターゲットにした、卑劣な押し売りがまかり通っているのが現状である。当然のことながら大量生産大量消費教の寿司が次々と運ばれてくる。


 人はいつしかこの宗教や、その思想や、あんな黒い思惑に洗脳される。




「なんかもー早くもイヤになってきちゃってさー」




 なんでも頼んでもいない、食べたくもない、唐辛子と化学調味料にまみれた白菜の漬け物が、異常なほど頻繁に流れてくるのがファックだからだそうだ。知らねーよ。


 洗脳の結果、その白菜の漬物を追加注文をする子供もいるという。


 洗脳の結果、その白菜の漬物の原産地に旅行する若者もいるという。


 洗脳の結果、その白菜の漬物の原産地に謝罪と賠償をするべきだと主張する老人もいるという。


 ティービィー王国は最早終わった王国である。


 にも関わらず、その断末魔はいまだに続いているというのがアンジェの見解だ。俺は個人的にはアンジェの次の身の振りが気になっている。


 余談だが、あのろくでもないケーキ対決をやって、俺のケーキを賞賛し、心から楽しんだと言ってくれたのは、アンジェリカただ1人だった。


 街でゴスロリ女を見かける度に、俺は彼女を思い出す。べっ、別に好きとかそんなんじゃないからな!




 タカコさんはあのケーキ対決があった翌日に姿を消した。


 しばらくは人気のランカーがエタったことに関して話題になったが、1ヵ月もすればもう人々の心の片隅から綺麗に忘れ去られた。


 先日そのタカコさんから手紙ケーキが届いた。


 彼女の発した言葉をケーキに変えて手紙として送っているところから、彼女はまだこのナロー王国のどこかにいると推測される。


 俺は相変わらずこのナロー王国でケーキを作っている。


 今の俺はタカコさんに言われたことを、サミーに言われたことを、そしてアンジェに言われたことを忠実に守り、多くの人が喜んでくれるような甘い甘いナローケーキを作っている。


 新作ケーキの発表もなるべく頻繁に行うようにした。


 だがやはり俺の中で曲げることが出来ない部分があり、水増ししたかのような冗長なテイストは避けずには、そしてひとつまみの毒を加えずにはいられなかった。


 閉店後。


 日中の喧騒が静けさの中に感じ取れる誰もいない店内で。


 俺は今夜も未練がましくタカコさんの手紙ケーキの残りを、チビリチビリと食べながらウイスキーを呷っていた。




 =====

 アカル君

 君の勝ちよ 

 客を煽ってコントロールする

 炎上まがいの手を使う

 理想に燃える純粋な少年を演じて狡猾に目的を達成する 

 事実、多くの人が今回の件を切っ掛けに君の作品に触れたはずよ?

 キミにやられちゃう自分の力不足を感じたので修行の旅に出ます

 エタることにします

 またどこかで会えたらいいね


 P.S.

 あんまりナロー王国の運営の方々を困らせたらダメよ?

 タカコ

 =====


 俺はひとまずの目的は達成した。


 にも関わらず俺の心は虚無感に支配されていた。


 そして俺はふといろいろなことが馬鹿らしく思えてきて、


 ナロー王国の運営の方々を困らせたらダメであるという究極の悟りをひらくに至ったのであります… キュピーン!←第三の眼がひらいた音


 「うわぁ!月の裏側から監視されてるぅぅぅ!」「あらら…(苦笑」







 くたばれ!なろう小説!―――底辺ナローケーキ職人、盛大に逆ギレをぶちかます!―――


 おしまいにゃん! プス!







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