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籠を蹴破るお姫様  作者: ApSans
2/3

なりたかったんです、私は。

私は、お姫様になりたい。

綺麗なドレスを着て、お洒落な靴を履いて、美味しいご飯を食べて、みんなからちやほやされて、ふかふかのベッドで寝て.....


そんな生活に憧れていた。

けど、それは絶対に叶わないことだって、かなり早い段階で悟ってしまった。


私はお姫様になれない。


それでも、どうしても諦めきれなくて。

だから、いつも間近で「お姫様」を見ることができる、メイドなんて仕事を志願し続けているのだけれど。


「........はぁ」


新調したばかりの鋼鉄の扉、その傍らでため息をつく。

まさか渇望してやまない立ち位置を、自ら放り投げようとする人間がこの世にいるとは。

しかもそれが自国のプリンセスとは。


「なんだかなぁ.....」


初めて知った当時は、それはそれはもう、殺意に近い憎しみを抱いたものだ。

今はどうなのかと聞かれると―――答えられないのだが。


―――コンコン


「ん?」


ノックらしき音を聞き、耳を澄ます。

扉の向こう側で、お嬢様が叩いているらしかった。


「お嬢様?どうかなさいましたか?」


『その声...メイド長?』


「はい。」


『はぁー.....よかった確認して。ちょっと下がってなさい』


「.....あの、お嬢様? 何を―――」


言い切る前に、扉の向こう側からズダダダダと駆け寄ってくる足音が。

思わず飛び退き、転がりながら扉から離れる。

そして、


【【【ゴワッシャァン!!!!!】】】


轟音と共に、鋼鉄の扉が吹き飛んだ。


「ふぅー。意外とどうにかなるものね、こう頑丈でも。」


足元の鉄板をガンッと踏みつけるお嬢様。

馬車の突進にも裕に耐え得るという、厚さ20mmの鋼鉄の扉は、ど真ん中にパンプスの足跡をくっきりと残し、ひしゃげた無様な姿で廊下に伏している。

人外にも程があるだろこの姫君。


「で、どうするのアンタ? 私はこれから出かけるけど、捕まえる? 全力で抵抗するけど。」


「...いえ。命が幾つあっても足りないと思われますのでやめておきます。」


「そう? じゃあ私行くわね。しばらく城には戻らないと思うから。」


ひらひら手を振って去ろうとするお嬢様。

あまりに何気ない口調で告げられたので、聞き逃しかけた。


「お待ちください、今なんて?」


「だから、しばらく戻らないって。1年かそこら、下手したらもっとかかるかも。」


「はぁ!?」


思わず素で反応してしまった。

この人は何を言っているのか。


「旅の仲間はもう誘ってあるの。剣士に魔法使い、あと武闘家も。」


「魔王でも討伐しに行くおつもりですか。 この世界に魔王なんて居ませんが。」


「居るわよ。この国の玉座に座っているとびっきりの暴君が。」


「........今のは聞かなかったことにして差し上げます。今すぐお部屋にお戻りください。」


お嬢様と対峙しながら、周囲の様子を伺う。

誰も居ないようで安心した。


「戻るわけないでしょう。せっかく世界を見て回るチャンスなのに。」


「...世界旅行にでも行かれるのですか?」


「そうよ。こんな鳥籠みたいな人生ごめんだから。満足したら戻ってくるわ。」


「満足したらって...貴女が数日居なくなるだけでも、この国は大混乱に陥りますよ?」


「知らないわよそんなの。勝手に騒いでいればいいじゃない。私はどっかで生きているから心配しないで。」


勝手な物言いに、まるで通じない会話に、ふつふつと怒りがわいてくる。

なんでこの人は、こんなにわがままで、お気楽で、奔放で、自由で―――――


どこまでも羨ましい存在なのだろう。


「.....なんで泣いてんの?」

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