向いてません私には。
私はお姫様になれない。
性根が腐りきってやがるのだ。
どう頑張ったってなれっこない。
「レイ!!貴様また城を抜け出してからに!!」
―――といつも言っているのに、いつになったらこの頑固親父は理解してくれるのだろうか。
「抜け出してなんかしてないわよ。ちゃんとメイドたちに許可とったもの。ねぇメイド長?」
「いいえ。書置きだけ残して扉を蹴破る行為は『許可を取った外出』ではございません。」
そう答えるメイドの後ろで、執事たちがせっせと何かを運び出しているのが見えた。
無機質で真っ黒の、取っ手のついた分厚い板。
よく見れば、鋼鉄の扉のように見えなくもない。
「.....ねぇ」
「なんでございましょうか。」
「あれってまさか、私の部屋の?」
「Exactly.(その通りでございます。)」
「ふざけんじゃないわよ!! もうすでに窓に鉄格子はめられてんのよ!? その上で鉄の扉って何!? 牢屋!? 私の部屋は牢獄かしら!?」
「貴女の前科の賜物でございます。」
「にしても! 幾ら何でも酷すぎるわ!! こんなの異常よ!!」
「私も通常なら異常と思いますが、中で暮らす貴女が異常なので妥当な措置かと」
「今なんつったアンタぐえっ」
掴みかかろうと踏み込んだ瞬間、背後から首根っこを掴まれた。
「これ、そこまでだ」
威厳と威圧のこもった声と、それ以上の物理的な圧力に声が出なくなる。
言うまでもなく頑固な王様の仕業である。
「メイド長の言う通りだ。私とて好きでお前を閉じ込めようなどと思っているわけではない。だが閉じ込めざるを得んのだ」
「.......ッが.........!!」
気絶させようとしているらしく、死なない程度の絶妙な力加減で首を締め上げられる。
ゆっくり遠のく意識の中、失望した。
信じられない。
実の娘にこんなことをするのか、あなたは。
『しかしメイド長、些かレイを煽り過ぎではないか? こいつのじゃじゃ馬っぷりはお前もよく知っているだろうに。』
『申し訳ありません。』
『全く、本当誰に似たんだかな.....』
二人の会話が遠く聞こえる。
何を話しているのか分からなかったが―――そんなことはどうでもよかった。
覚悟が決まった。
今夜、決行しよう。
薄れいく意識の中、それだけを決心し、あとは睡魔に身をゆだねることにした。