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ふぁるでぃあにっき。  作者: コミヤマミサキ
8月 ~なつやすみ~
94/444

幕間 フィーデル

思い付きで差し込み


どちらかと言えば、1へのフラグ

「フフッ。楽しみだわ・・・。」


 夕焼けの帳に爽やかな風が流れ込む。


 昼過ぎに天候が悪くなったものの、こちらまで雨が降るようなことはなく、遠くで雷がしばらくゴロゴロと鳴っていて天候は回復した。


 どこかで雨がきっと降ったのだろう。

 夕方流れてきた風はいつもより冷たく、水気を帯び、そして清涼感がある。


 ラゴからの買い出しから戻ったところ、丁度セイスにメールが届いた。


 先日会った不思議なプレイヤー達。

 この辺りだけではなく、ファルディア全体でもきっと珍しい。


 何故か影族と大小人族の凸凹コンビだ。

 二人とも変にマイペースで独特の間合いがある。

 お互いがお互いズレてて珍妙だ。

 かと思えば、急に息が合ったりする。

 そして、主体性があり、依存心が少なく、悪い子達ではないのでセイスは気に入っていた。


 少なくとも影族の方の子は、勝てるか分からないのに自分を助けることに迷いがなかった。


 そういう人間はセイスは割と嫌いじゃない。


 自分は今、隠遁しているので、あまりフレンドを作らない予定だったのに。つい好奇心が先に立ってフレンド登録をねだってしまった。


 そうしたところ、予想外に早くあちらから攻略のお誘いを頂けるとは思ってもみなかった。

 いつか落ち着いたらこちらから何か誘おうとは思っていたのに、だ。

 いい方に予想外に転がったので気分がいい。



「ご機嫌だな。」

 セイスには聞きなれた声がかかる。

 というか、この秘密基地・ザ・作りかけを知っているのは、例の二人と自分の従弟しかいない。


拓海たくみ!」


 振り返れば、まだ見慣れないアバターの、だけど確かに覚えのある話し方の人族の男性が立っている。

 容姿は細身で身長185程度か。カラフルな色が選べるというのに、少しオリーブ色がかった栗毛に、茶色の瞳。あえて地味にしてある様な風貌のアバターだ。野暮ったいローブを羽織り、手には杖と思しき長物を手にしている。


「お前、ファルディアでその名前を呼ぶなって言ってるだろ。」

 すかさず男がセイスに文句を言う。


「ごめん。えーと何だっけ???」


「バーカ。何度言ったら覚えるんだ。『フィーデル』って言ってるだろ。いい加減覚えろ。」

 間髪をいれず、男が文句を言う。


「何でそんな覚えにくい名前なのよ!忘れるまではちゃんと覚えてるのよ!」


「お前は『seis()』だなんて、いくら何でも単純すぎやしないか?」


「いいじゃない!間違えなくて!」


「まぁ確かに。今まで使ってた六華ロカが使えないもんな。単純すぎてバレないかの方が心配だ。」


「もー!大体なんでアンタまで名前を変えたのよ?名前覚えづらいじゃない!いつもの『シアン』は何でやめたのよ。」


「よく一緒にプレイしているところを観られてるのに、俺がシアンだったらそっから身バレするとは思わないのか。」


 ウッと言葉に詰まるセイス。


「・・・悪かったわよ・・・。」

 そして存外素直に謝る。



「別に。うちに居ていいって言ったのは自分だし。郁子とプレイする方が気楽で楽しいし。」

 一方でフィーデルは飄々として、無関心そうなスタイルだ。

 だが、セイスはそれが彼なりの気遣いと知っている。

 気にするほどの事じゃないと、言ってくれているのだろう。

 そういう地味な優しさで気を使ってくれる従弟なのだ。

 学生の頃から、ほとんどずっと一緒にゲームをプレイしてきた20年越しの相棒だ。セイスが世界でおそらく一番信用できる相手。社会人になってからも一緒にゲームする仲間だ。


「ただ名前は駄目だ。覚えろ。」

 ざっくりと要求は突きつけられる。


「わかりました。オボエマス。」

 当分は違和感が大騒ぎだろうが、諦める。

 自分が悪いのだから、頭を切り替えるしかない。



「・・・それで?何でそんな上機嫌なんだ?」

 と、フィーデルに話を戻される。


「えっと・・・ああ。フレンドからメールがきててね。」


「お前に・・・フレンド?」

 困惑した様に首をかしげるフィーデル。

「失礼な。私にフレンドのひとりやふたり、いーまーすぅ~。」


「いや、まぁ六華ロカの頃は考えられない位やたらめったらフレンドはいたが・・・お前隠遁してるって言ってるのに、どこでまた拾ってきたんだ?」


「何処の犬猫よ!ちがくて、この前そこの猫ワープ使って現れた子がいたのよ。その子たちからの攻略のお誘い~ウフフフ。」


「うわっ気持ち悪っ!」


「失礼ね!」


「・・・大丈夫なのか?そいつら信用できるのか?」


「信用ね、信用。まず猫に好かれている時点で第一関門は突破してるわね。」

 まるで母の様に心配してくる不器用な男に、思わずセイスはクスッと笑みが漏れてしまう。


「まぁ確かに。」

 俺は猫の事は知らんが、そんな事を言っていたな、とフィーデルに納得される。

 普通の妖精は横暴なものや邪悪なものは好まない。猫妖精は特に静寂や不干渉を好むので仲良くなり辛い・・・というセイス情報だけはフィーデルの頭には入っている。


「うっかり私が敵にからまれてる所で、私よりレベルが低いのに当たり前の様に助けてくれようとしたの。まぁ力を合わせてなんとかなったけど・・・。」


 ――――ゴツン。


 フィーデルの拳骨がセイスの頭に落ちる。


「いたっ!」


「お前!あれだけ気を付けろっていっただろ!!!」


「気を付けてたのよ!地面に蜂がいるなんて思わないじゃない!」


「お前なぁ!!!」


「はい!ごめんなさい!」


 いい加減にしろよ・・・・とフィーデルにため息をつかれて、セイスはバツの悪そうな顔になる。


「ホント気を付けていたのよ。でも、何もしないわけにはいかないじゃない?これからもきっとこういう事があるもの。気をつけるけど、頑張るわ。」


「お前、言ってる事が滅茶苦茶だぞ・・・。」


「分かってる。でも、たく・・・フィーデルも私が抱えてる問題を知ってるでしょ?」


「・・・。」


「フィーデルが私を心配してくれるのはすごくうれしい。私がもしフィーデルの立場だったら、きっと私も同じように言うと思う。でも、きっと私このまま閉じこもってたらダメになる。」

 二人の間に、ただ風が通り過ぎていく。


「・・・。」


「今の私がファルディアで死んだら、もしかしたらリアルでも死ぬかもしれない。でも、きっと安全そうな所に引きこもっていても精神が死ぬのよ。だから、私は全力で抗いたい。何でこうなったのか知りたいし、元に戻れるなら戻りたいわ。だから、今はファルディアで強くなって、この世界を探るしかないと思うの。」


「・・・俺が情報を調べるって言っただろ。」


「それはありがたいの。でも、フィーデルの立場で得られる情報にも限りがあるし、ただ待ってるだけなんて私の性に合わないよ。」


 真っすぐにフィーデルの目を見つめるセイス。

 しばらくして、ふいっと目を逸らしたのはフィーデルの方だった。


「・・・俺の胃に穴が開いて、先に死にそうだ。」



 ブハッっと吹き出すセイス。


「それは確かに私が悪いわね・・・。だからね、一緒に行こう!」


「は?」


「洞窟攻略のお誘い!あと1枠空いてないかって聞いたらいいよーって返事くれたの。バランスが悪くても良ければお越しくださいだって!行くでしょ?」


「お前、勝手に攻略決めてくれるな・・・。」


「いいじゃない!拓海だって本当はファルディアを楽しみたいでしょ!」


「フィーデル。だいたいなぁ・・・。」


「どうせレベル上げしないと心配だし、せっかくなら楽しみたいじゃない。私もフィーデルとゲームをしたい!」


「遊びじゃないんだぞ・・・。」


「楽しまないとやってらんないわよ、こんなアホみたいな事。」

「まぁ確かに。」


 セイスも人目を避け、こんな場所に住み着き、大分ストレスが溜まっているのだろう。

 長年使ってきた六華ロカという名前だとリアルの知り合いも多いため、ファルディアで使うわけにはいかなくなった。新たな名前でようやく見つかったフレンド。セイスが浮かれるのも無理はないかもしれない、とフィーデルは思う。

 セイスはこう見えても他人に対する面倒見がよく、会社でもプロジェクトのリーダーを何件か勤め上げた実績もある。人を見る目があるのだ。隠れて居なければいけない現状で、セイスが友達になるほど問題がない人物であるならば、付き合ってやる方が今後にも良いだろう。

 そう、フィーデルは心の中で算段する。


「わかった、時間は何時だ。」

「ホント?さっすが~♪火曜日の夜だよ!メンテの前日!向こうで薬とごはん用意してくれるって!」

 火曜なら、残業の予定も急ぎの仕事もなかったはずだ。ついでに上司が出張なのでおそらく差し込みで急に仕事をいれられる可能性も低い。

「至れり尽くせりだな。分かった開けておく。」


 楽しみだね~♪と浮かれてご機嫌でお茶を淹れだすセイスを見て、フィーデルはそっと目元を緩める。


 なんだかんだ言って、フィーデルはこの従姉妹に毎回振り回されて、今回もあり得ない様な目に合っているけれど、・・・割とこの生活が楽しい。




 調子に乗るから絶対本人には言わないけれど。


seis=6

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