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ふぁるでぃあにっき。  作者: コミヤマミサキ
8月 ~なつやすみ~
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2-88 自己満足

 さて、ああは言ったものの、どうなることやら。


 自分が蝙蝠の敵視を取りに行っている間に、ティラ君がその辺の壁に火玉をレティナさんに捨てさせて、あたりが完全な闇に戻った。それでも自分は闇視で十分見えるからありがたい。


 洞窟の中は入口はやや広いが十分なスペースがあるというわけではない。自分が長剣使いだったら詰んでたなというところ。それでもシュライブングの剣の長さでも怖くて、利き手の右を攻撃の主体に。左は受けるのだけに使い行動はセーブしている。

 こんな狭い所でマラソンもできないので、ほぼ自分一人受けだ。結果的にかなりの格上相手、レベル10は上だろうが、それを一人で回避し続けなければならない。もっと遅い生き物ならまだ時間をかければ何とかなりそうなのに、よりにもよって素早い生き物になる。第六感は薄くずっと警鐘を鳴らしっぱなし。敵の攻撃を受けても1発では死なないかもしれないが、2、3発で自分は死にそうな気はする。



 ヤバい。



 本当にヤバいのだけれども。


 ドキドキするんだけれども、それだけじゃなくて――――。



 わかる。

 わかってるって。


 自分が脳筋だって事くらい。




 この、初めて当たる格上相手にワクワクしてしまってるダメな自分がいる。


 難問のパズルにぶつかったような時の感じにも似ている。


 どうやって解けばいいのか。それとも今の自分には解けないパズルなのか?



 愉悦を抑え込もうと必死な所に来る、蝙蝠の自分に向けた大ぶりの攻撃。

 しかし、その軌道は乱れていて精彩に欠いている。

 ティラ君の羽根に対する攻撃が利いているのだろう。

 これは難なく避けられる。


 ティラ君はダメージよりもまず長期戦を予想して、敵の行動阻害に重きを置いている。

 流石ティラ君。

 ファルディアでは、空を飛ぶ魔物だとご丁寧にも羽根などにダメージを与えると行動が乱れたりする。ティラ君は、蝙蝠の弱点である羽根をテクニカルに、しかし敵視を取らない範囲でダメージを積み重ねてくれているのだろう。



 自分のスキルの同時発動スロットは3。

 緊急回避用に影移動1は開けておく。


 残りは2。

 後は影纏と影硬質化かな。

 ただ洞窟内だから光もないし、PNTを使いすぎると倒れるコースになってしまう。遣いどころが難しいからまだ入れない。


 使ってない時は調整用気配希釈や魔力感知を入れる。

 ただの蝙蝠って感じじゃなくて、何か魔物がこの洞窟で生き残る独特の技を持っていそうな感じがするんだよね。気配察知まで気を配る余裕はないので、そこはティラ君に任せよう。


 とりあえず、回避を1番に据えて地味に削っていくが、物凄くダメージの通りが悪い。

 それはそうだ。格上なんだから。そして大きな弱点もこの蝙蝠には存在しない。ここで集中力を切らしたら終わりなので、蝙蝠の動きに必死に食らいつく。

 文字さんが慎ましやかにピコーンピコーンと言ってる気がする。

 見る余裕がないけれど、ずっと回避してるから多分回避スキルが上がってる気がする。


 ファルディアのいい所は、レベルが上がる時ではなくスキルがその場で上がっていくので、戦闘中でも強くなれる。勝機が上がる――――。


 その時、途中で定期的に入れてた魔力感知に反応がある。

 何かを集中してる?


「次なんかきます!」


 何か来ることは分かっても、初見だし避けられる気もしないが。

 次の瞬間蝙蝠が空中の高い位置に舞い上がり


 ギャーー!


 と叫ぶと自分の体から何か持っていかれる。

 MPがわずかに減っている。見るとティラ君とレティナさんのMPも減ってるように見える。

 そして、息を吸ったような動作で貯めているモーションの蝙蝠。


 これは――――!


 ガキン!

 と音がして、暗闇に紫の光が飛び散る。

 蝙蝠の後頭部にティラ君のスタン弾が当たって、蝙蝠の何かの貯め技をキャンセルさせたんだろう。


「やっちゃった。」

「多分ナイス!」


 何が来るか分からないけれどね!同じレベル帯だったら食らっても死なないだろうけど、今のレベルだと壊滅する恐れがある。


 そして、低い位置に戻ってくる蝙蝠。


 こんな入り口にいる雑魚な筈なのに、まだ3分の1しか削れていない。


 再び同じ作業が始まるが、先ほどより楽に感じる。

 レティナさんも暗闇でも回復なら飛ばせる模様。1発食らっても間髪入れず回復が飛んでくるので精神的余裕が違う。


「3分の1・・・じゃ足りない。4分の1まで削ったら全火力叩き込む。」

 とティラ君。

 ティラ君だってアタッカーだから出そうと思えば火力が出せるのだ。今出すと辛うじて安定している戦線が崩れるから抑えているだけで。


「了解。」


 つまりそれに合わせて影纏を使って4分の1から短期決戦だ。

 そこまで、定型でもっていけるか、ここからが自分の腕の見せ所だろう。

 なるべく全て避けて、なるべく余力を残しつつ、なるべく早く削る。


 平地でも難しいところが、ここは洞窟でさらに足場が悪い。

 よりこちらに分が悪く感じるが、スキル軽業が自分を助けてくれている感じがする。


 足だけに気を取られず、全体的な重心がぶれない事を最優先に心がける。たとえ無理に回避できたとしても、次の攻撃を食らっては意味がない。

 すべては流れだ。勝利という定形までの大きな流れを反れてはいけない。


 だが、分かってはいても、全て完璧にこなすのは難しい。

 それでも、ティラ君の的確な援護狙撃で助けられ、レティナさんの回復魔法で持ち直す。


 MPを吸った後に大技が来そうだというのは分かっているので吸われた後に追撃をして単発影纏+影質量増加+影変化で強打を入れて強制的にキャンセルをさせたところで、HPが4分の1を切る。


「いく。」


 と、ティラ君が一言。


「『ラッキー』『貫き』『トリプルアタック』」


 ・・・おい!不穏な単語が並んだぞ!

 ていうか、なんでそんなバフ的な技?を沢山持ってるの!?


 しかもティラ君は強い(高い)矢を使ったんだろう。

 レベル差をものともせず、蝙蝠の腹に穴が開く。


 だが、わずかにHPが残っている。そしてフラフラと逃げ出す蝙蝠。

 HPが少なくなると逃げる敵か!


雷光レラン!」

 レティナさんの魔法が走る。これは初めて見る雷魔法!

 暗闇でレティナさんには敵が見えないはずなのに、綺麗に着弾しダメージは少ないものの蝙蝠の動きを止める。

 この魔法はスタン的な魔法か!

 さっきのティラ君のスタン弾を見ていて自分で考えたんだろう。


 敵と自分との距離が少し開いてしまったので影移動を使い―――――




 ・・・このまま距離をつめて影移動を使ったまま影変化と影纏って使える?




 思い出すのは、ファルディアの全てのはじめ。



 MJKBY氏が剣も何も装備なく、高速で自分を貫き、切り裂いていった原理。


 移動しながら高速で影で貫くってもしかして。


 もう、自分はあの当時の彼のレベルは越えた。

 彼は強かったけれど、今の自分はそれよりもっと強いはず。

 あれだけの速さでレベルを上げれば、ステータスだって今の自分の方が高いはずだ。


 考えてたら実行してしまっていた。

 影移動をメインに、そして蝙蝠の斜め上に移動してそのまま自分に影変化を使う。


 ぐにゃり、と歪む自分の体。

 痛くはないが、奇妙な感覚。


 そのまま自分の体が伸びて蝙蝠を貫いてHPを削り切った。



 手ごたえとしてはシュライブングの剣の方がずっとダメージが高いが、速度は圧倒的に影移動+影変化+影纏の方が上といったところか。


 消えていく蝙蝠を見たら、どっと疲れが出た。

 多分PNTも結構使っている。

 スキルをすべて解除すると、普通のいつもの体にあっという間に戻る。


「あー・・・。」


 体の形を変えたのがなんだか変な感覚だが、思わず座り込む。


「迷惑かけて、ごめんなさい・・・。」

「勝てば官軍。」

 レティナさんに慰めてるんだか何だか分からない言葉を口にするティラ君。


 何か怠いと思ってステータスを見ると、長時間連続戦闘でVITに軽く-3の補正がかかっていた。


 ドサっとそのまま、今度は地面に横になる。

 実は・・・・本当にギリギリだった。


 段々おかしくなって、変な笑いが出てくる。

 一度笑い出すと、アハハハハハ・・・と止まらなくなる。



「サクが壊れた。」

「だって・・・。もうVITにマイナス補正までついてて、プッ。ホントギリギリでしたよ!よく勝ったっていうか!ハハハ・・・」

 我慢しようと思えば思うほど、クククと笑いが漏れてしまう。


「さっさと逃げればよかったのに、意地張ってバカみたいですよね。タダの雑魚なのに。ティラ君だって高い弾使っちゃってたでしょ?アハハハ!」


 自分もバカだが、ティラ君もバカだ。

 レティナさんは不慣れだから仕方ないにしても、自分たちは分かってやってる分、性質が悪い。


「だが普通勝てないのに勝った。気分がいい。」


 本当にそうだ。ただの安っぽい自己満足。

 ・・・でも、こんな小さい事でも嬉しく、清々しい自分がいる。

 それが滑稽で、でも自分では気持ちよくて、そのアホさ加減がおかしくてたまらない。


「レティナもよく頑張った。」

「いえ、私のせいで・・・。」

「そこは、PTだからお互い様。次、気を付けて。」

「はい。」

「ナイススタンだった。で、あの魔法何?」

 早速食いつくティラ君。

 結末が分かってて、更に笑いが止まらない自分。


「あれは・・・ティラさんが雷に吹っ飛ばされた時に覚えました!」

「マ?」

「マジです・・・!」

「一番食らった本人が分かってないとか!!!wwww」

「理不尽!」

 どうしよう。笑いすぎて涙が出てきた。


「と、とりあえずこれ以上騒ぐと、また蝙蝠がくるかも!」


 ピタリと止まる自分とティラ君。




「・・・とりあえず、一旦出ましょうか。」


 二人とも勢いよく同意してくれた。





 ――――――――――――


 せーの!で黒い闇の中に飛び込むと、再びグルグルッとした後に、しばらくしてポンッという感じで岩肌の所に戻ってきた。今度は覚悟していたからか、意識が飛ぶようなことはなかった。そして、後ろを見るとやはり在り続ける黒い何か。とりあえず再入場は可能の様だ。



 すっかり雨は上がり、あたりは雨でびっしょびしょだが、それが少し傾いてきた日差しを美しくきらきらと反射させている。雲と青空と光のコントラストが美しい。


 気配や魔力の異変は今のところないな。

 リアルで21時15分程。ファルディア体感で30分近く蝙蝠と戦闘をしていたところか。


 遠くに強そうな魔物はいる。やはり、このあたりの魔物はツチノコよりも強そうだ。

 でも蝙蝠よりは弱そうだけれども。

 しかし、魔物達はここに近づいてくる様子がないので、ダンジョンの入り口は安置になってるかもしれない。

 確かに、ダンジョンに出入りして、いきなり死んだりするとまずいしねぇ。


「とりあえず休もう。」

 笑い疲れたっていうか、なんていうか。


「サク、テント。」

「へいへい。」

「テントなんて持ってるんですか?」


 ティラ君に言われるがままテントセットを出し、惰性でせっせと組み立てる。

 ティラ君は竈を作りはじめる。

 もはや、ティラ君はアルシオンに帰らないで、ここでお泊りするくらいの勢いなのか?

 まぁずっと街に入れなかったティラ君だからこういう生活は慣れてるのかもしれないけれども、ここは安全なんですかねぇ?

 比較的他の場所よりは安全そうだけれども。


「無理して帰って事故るよりマシ。」


 自分の気持ちを読んだのか、そう答えるティラ君。


「まぁそうですね。」

 自分もまだ休まないと戦闘できそうにないし、今からアルシオンに帰るとなるとかなり急いで進まないといけないですしね。


「えっと私はどうすれば!?」

 と、ついていけずにオロオロするレティナさん。


「その辺の草でもむしっといて。」

「草・・・?」

 それは食べれるものなの?ポーションの材料?


「・・・はい!」

 一方レティナさんは嬉しそう。

 薬士とって、草鑑定とかとったんですかね?


 まぁいっか。本人が嬉しそうですし。


 段々組み立てるのに慣れてきて、15分後くらいに、ばぼぼ~んとテントが無事出来上がる。


「あーもうだめ。疲れた。ちょっと横にならせて。」

 ばぼんと出来たテントにバフッと横になる自分。


「サクが一番頑張った。仕方ない。」

「ありがと。」


 有難く遠慮なく寝っ転がる。

 自分はご飯は食べなくても生きていけるからねぇ。


 ああ、でもお茶は飲みたいなぁ。

 飲まなくても死にはしないが。


「この草食べられるんですよ~~!あ、これヨモギに似た奴です。粥に混ぜるといいですよ~!こっちが薬草です!」

「またいっぱい採ってきた。」


 ティラ君とレティナさんは草トークで楽しそうだ。


「そう言えば、レティナさんは何で最後雷当てられたんですか?」

 ふと思い出した疑問をテントの中から口にする。


「あーあれですか?その前にティラさんの軌道が強くて風の精霊が見えたので同じあたりに入れたんですよ!」


「ナイススタン。」

「あれ、スタンって言うんですね。いつも付くわけじゃないみたいでドキドキしました!」

「なら、多分スキルレベルや魔力に成功判定が左右される。」

「うわぁ。じゃあ、いっぱい雷魔法のレベル上げなきゃ。」

「ん。スタンは生命線の一つ。絶対上げて損はない。」

「ティラさんのおかげですね!」

「・・・・・。」

 雷が嫌いと思われる複雑そうなティラ君が面白い。


「そういえば、ティラ君のスキル?も凄かったですね。あんなバフの様なスキルまだ見た事ないですよ?」


「ん。遠隔物理職は近づかれるのが弱点。ソロだといかに初手で削るかが大事。しかもあのスキルはまだ1日に1回1弾しか乗らない。かなりコストが重い。でも、絶対必要と思った。」


 確かにね。

「私にもそういうスキルがあるでしょうか?」

 似たような遠隔魔法職のレティナさんが食いつく。

「ん?ありそうだけど。魔力を一時的に上げるスキルとかない?敵のMIDを一時的に剥がすスキルとか。」

「う~~~後でよくスキル欄読み込んでみます!」

「ん。そうするといい。今なくても後で出る可能性があるし、時々チェックしたほうがいいかも。」

「はい!」


「ソロで狩るなら、レティナさんは敵の攻撃を一回受け流すような魔法もあるといいですよね。」

と、ついでに言う自分。

「えっ!?」

「そしたら2発目が安心して撃てるじゃないですか。」

「そういう魔法もあるんですね。知らなかった!」

「いや、あるか知らないけれど、あると便利かなって。」

 別のゲームにはありましたけど、ファルディアにあるかは知らないですね・・・。

 でも、魔法スキルも下手したら極めると作れそうなのがファルディアのすごい所。


 何かそんな雑談をまったりしながら休んでたら、だんだん眠くなってくる。


 これはいけない。


 むくりと起き上がる。

 空は大分藍色になってきていて、星が見え始めている。


「もういいの?」

 むぐむぐと飯を食べ始めた二人の側に行って、自分の飯盒をくべてお湯を沸かし始める。


「いや、寝落ちしそうなんで目を覚まそうかと。」


「リアルでもいい時間。寝ればいいのに。」

「そうですよ、気にせず寝てください。」

「そうはいかないでしょう。アレをなんとかしないと。」


 と言ってダンジョンの闇を指さし、苦笑してしまう。

 自分で言っててすぐなんとかできる気はしないのですけどね。

 今後の方針を決めておかないとね。



『ラッキー』→1日1回次の攻撃のクリティカル率を大幅アップ

『貫き』→1日1回次の攻撃に限り相手の防御力を無視する。

『トリプルアタック』→1日1回 次の攻撃を分裂させ3回攻撃にする


ただし、現時点でラッキーと貫きがトリプルアタックに乗るのは初弾のみ。

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