2-8 暴戻の王2
台風で皆様大変だったと思いますが、健やかであります様に。
大変、気まずい―――――――
影族の王が自分を心配して多分「何かをしてくれようとした」んだと思う。
少なくとも悪い感じはしなかった。
だけど、生理的につい弾いてしまった・・・のだと思う。
目上の人が自分に善意でやってくれた事を台無しにしたんだよね?
いやー気まずいどうしよ。下手したら自分も追放?
あれと同じ貉は嫌だし、影族の追放ってすごく罠がありそうな感じがして嫌だなぁ。
と、思ってたらしばし固まってた王が復活した。
「ぶわぁあああああはあああっはっはっはっはっは!!!」
そして、爆笑した。解せぬ。
「俺様の『繋がり』を弾きやがった!ぶはははははは!ホントこいつ何者なの?ねぇ本当に勇者?それとも’占いの’が言ってってた『クダン』?!?ギャハハハハハひーーーひーーーうけるぅう!!!」
涙を流して爆笑している。
困惑を隠せない自分に・・・あ、よかった周りの影族さんたちも困惑してる雰囲気を感じる。
笑いの沸点低すぎやしませんかね?勇者に交じって『クダン』って聞こえたけどクダンってなんだ。九段?
「ひー・・・ひーー・・・面白れぇ・・・何だこの生き物・・・・」
天井仰いで顔面押さえてまで笑いをこらえてくださってる様です・・・?
そんなに面白い事でした?
ガバッっと急に王が復活し、こちらを真剣な眼差しでこちらを見てくる。
「まず、理解しろ。影族は全て俺様と『繋がって』いる。」
・・・は?
「俺様がすべての影族を庇護していると言ってもいい。力がありながら、その性質故ファルディアの中て最も死にやすい種族がこの影族だ。だから、俺が庇護することにしたんだ。同族だったからな!」
・・・何を言ってるんだろうこの人は。その言い方はまるで、神様か何かの様で・・・
ちょっと待って。さっきこの人はなんて呼ばれてた?
――――『剽悍の民の王、影の神』
「理解したか?俺様は正しく影族の神なんだ。全ての影族と『繋がり』、簡単なことで死なない様に、万が一の時は『繋がり』から庇護の力を流す。言い換えれば影族全体の安全装置だ。」
「『繋がる』っていうところが理解できなければ、守護神でもいい。俺様は正しく”ソウイウモノ”なんだよ。庇護がない者は死んだらすぐ拡散する。それで消滅だ。稀に自我を残して戻ってくるものもいる。偶然や誰かの助けがなければ精々2回がいいところだ。それをいくら『生誕の間』にいたからって自我を持ったまま短時間で5回も庇護がなく成し遂げたお前は『異常』だし、異端すぎる。」
ぷ・・・プレイヤー全てできると思うのですが、いや、ログインした途端に5回も殺される奴もそういないから気づかれないだけなのかも・・・?自分のせいじゃないんだけどなぁ。
「通常影族は生まれたらここに連れてこられ、俺様が居た時に庇護の儀式をして『繋がり』を持つんだ。それが与えられなければ外に出ただけで光が無くて簡単に死んでしまうことがあるからな。庇護を与えても強すぎるダメージでは死ぬ時は死ぬが、それでも生まれてすぐに死ぬ影族はずいぶん減ったんだ。だけど、未だに全種族中一番数が少ない。だから、俺様との『繋がり』は通常必須。嫌がる奴がまずいねぇ。本能で守りの力だと理解するからな。お前はあのダボに壊され過ぎたから『繋がる』事にトラウマでもできたんだろう。拒絶しやがったが、そもそもいくら『繋がり』が弱い力と言っても、生まれてすぐのやつが自分の意思で拒否できるようなものでもねぇ。」
え~・・・
「拒絶できるのも異常なんだぞ?」
あー・・・。さっきさんざん混じりかけた時に精神汚染耐性を取得しちゃいましたからそこで抵抗で来てしまったんでしょうね。未だに戦闘経験0のスキル検証も0のど素人ですが。何故かスキル上げだけ諸般の事情により、はかどっております・・・?
「それでどうするんだお前?」
「どうすると・・・申しますと?」
「言っただろ?全ての影族は俺と『繋がって』いる。別に『繋がり』は死へのストッパーってだけで高尚な何かじゃない。例えて言えば、水が足りなくなった農地に一時的に水を流し込むだけの通路ってだけの話だ。だが、逆に言うと『繋がっていない』影族は影族とはみなされない。あのダボみたいにな?」
それは等しく犯罪者ってことになるのでしょうかね・・・
「他の影族には犯罪者と思われるだろうな。場合によっては見つけ次第、即影族に命を狩られるし、生まれたてならともかくも、まず信用はされんだろうな。」
それは困ったなぁ。別に悪いこともしてないのに犯罪者になりたいわけじゃないんだけど・・・。
「どうするか?諦めてつながっておくか?繋がってない影族は同族ならすぐにわかるぞ?」
ニヤニヤとチュシャ猫を思わせる風情で王が聞いてくる。
王にとってはただの慈善事業だから、どっちでもいいのだろう。
でも、揶揄われているとは思うが、嫌な感じはあまりしない。
この人は等しく影族を慈しんでるのだろう。こんな俺様傍若無人に見えるのに、やっていることは無償労働なのだろうか。
この人と繋がることは、そこまで嫌ではないと思う・・・
けれど。
「つながりません。」
「ほぅ?」
面白そうに王が聞き返してくる。
「その心は?」
「そんな深い意味合いはないですが、繋がらなくて生きていたのが自分だけみたいなので。」
かつて聞いた、かつての言葉がよみがえってくる。
『—————カヅキ、世界は多様を好むんだよ。色んな人がいて色んなものがあるから世界は面白くなるんだ。自然はわざと多様になる様に同じ親からでも様々な子供を作り出す。それが俺たちの生きている『自然』なんだよ。』
それはひどく正しい言葉に聞こえた。大変不本意ではあるが。
色んなものがあるのが自然なら、『繋がらない自分』がいたっていいかなって。
「せっかくなので、繋がらないまま個性として頑張ってみようかと思いました。」
王は再び絶句した後、やはりまた爆笑した。
・・・そんなに面白いかな?
――――――――――――――
「あー笑ったわらった。あんまり笑かすなアホが。」
「別に笑ってくれなんて頼んだ覚えはないんですがね・・・。」
「後先考えないで生まれたばかりのヒヨコが粋がりやがって、アホか。お前、なんて名前だ。そんだけ逸脱してるんだ。名前くらいもうあるだろう?」
「Sakuと言います・・・いや申します?」
「サクねぇ・・・裂く?咲く?・・・ああ朔か。影の月。大幅に逸脱してる癖に正しく影人なんだなお前は。」
本名が一月でカヅキですからねぇ。月齢1の月は朔の月。明かりのない新月、影の月だ。
だからSakuというHNを愛用してたんだが、日本語分かるんですかね?、この王様。それとも中の人でもいるのだろうか。どちらにしてもこの世界でそういうことを聞くのは無粋だから聞かないが。
この世界の影族の名前事情も気になるところ。自分でつけるのだろうか。自然発生的に心の中に湧くのだろうか。
そんな事を考えてると、王様が何か放ってきた。
「これを持っていけ。」
慌ててキャッチ・・・しようとしたができなかった。
大事なもの、そう腕はまだない。
コロコロ・・・小さい何かが床を転がっていく。
この場にいる全員の視線が指輪に集まる。
王様を見るとプルプル震えている。
「ぶわはっはっはっはっ!!!お前そういえば!腕なかったな!なんで腕まで切り落とされてるんだよ!生まれたばっかりだろ!ギャハハハハハ!!」
爆笑してる王様に困惑していると、左肩を掴んでいた影族の人が転がった物を拾ってきてくれた。自分によく見える様に目の前に出してくれる。
・・・鈍色のこれは指輪?意匠には六芒星と円をモチーフにした紋章のような物が刻まれている。
「これは・・・?」
「わりーわりーワザとじゃないんだが、腕斬られてる何て忘れてたわ。許せ。・・・プッ」
相変わらず笑いの沸点が低い王様である。
悪い気はしないんだが、なんか恥ずかしい。
「ゴホン・・・それは、他民族でここに出入りを許されたものだけが身に着けられる、王に許された証の指輪だ。それを身に着けている者は、『繋がりがある』影族に襲われない。」
そんな便利なものがあったのか。
でも自分の返答次第では王様はきっとくれなかったのだろう。先ほどの答えは一応及第点ではあったのかな?お眼鏡にかなったというより、面白かったという意味合いの方が強い気がするが。
「・・・大変助かります。ありがとうございます。」
「ハッ!ヒヨコがいっちょ前に礼くらいは言えるのか。言っとくが根本的には解決してないぞ。『繋がりがない』っていう事は死にやすいし、死んだらそれっきりって事だからな。」
・・・・さっき生き返ったのは運がよかったからなのかなぁ。下手すればアバターロストするところでキャラ作り直しになるのかな。それはキツイし嫌だが、あれだけ王に啖呵をきったわけだし、出来るところまではやってみたい。リアルではできなかったとしても、ゲームで位は思うように生きてみなければ面白くないだろう。
「何処までやれるか分からないですが、頑張ってみます。・・・とりあえずなんですが、腕、どうやったら元に戻ります?」
分かりやすいように、抑えられていない左肩だけ上下に振ってみる。
王様のプルプルタイムが今再び幕を開ける・・・!
件の勇者。