2-79 野点
「初めはね、PKかと思ったの。」
クスクス笑いながら、そうセイさんが言う。
安全地帯に向かって歩きながら、のんびり世間話をしている。
段々と敵の気配が薄くなっているので、そんな事をしていても成り立つのである。
「だって、あなた影族でしょ?PK事件は有名だし、あまりに突然だったんだもの。死神かと思ったわ。」
「それはなんか・・・すみません?」
「ううん、こっちこそごめんなさいね。知らなかったとはいえ、変な誤解をしっちゃって。」
「いえ。自分でも同じ状況ならそう思うと思うので。」
「そう?ありがとう。」
相変わらずセイさんはにこやかに笑っていて、ご機嫌な人だ。
そして、話していて大人っぽくて感じがいい。
過度にこちらの事情に干渉してこず、話しやすい人だ。
社交的とも言える。
「それがね、突然「こんにちはー」から蜂を切り刻み始めるでしょ?ビックリしたのなんのって。あなた、速攻型ね。よく攻撃職に好まれるタイプだけれど、このゲームだと命中が足りなくなる子も多いのよ。よくスキル上げてあるわね。偉いわ。」
「基本ソロですから、命中がないと死活問題ですしね。」
「分かるわー。私もソロが多いもの。」
でも、精霊使いだからどうしてもINT振りで、AGIが足らなくって、先制を取られるとつらいわーと笑っている。
何でもあのスズメバチは地面に巣を作るタイプだそうで、木材を探していたら隠れていた蜂の巣に気づかなくて近寄りすぎてしまったんだそうだ。
何それ怖い・・・。自分も森歩きは気を付けよう。
そして、セイさんも戦闘スタイルはレティナさんみたいにやはり敵の先手をうって大半を削って敵がこちらに来るまでにもう一発入れて倒すみたいなパターンなんだろうな。同時に素早い魔物を沢山相手にするのは向いてないともいえる。
そういえば、忘れていたティラ君にはメールを先ほど送っておいた。
めっちゃ不機嫌な感じだったけど、放置してた自分が悪いから仕方ない。
「遭難者見つけたので~そっちに連れて行きますね。いや、自分が連れていかれているのかな?あ、自分達よりも前にあのワープを使ってらっしゃる方みたいですよ。」
と言ったら。
「Boo~。」
と返事がメールで返ってきた。
自分に文句を言っても現実は変わらないのにね?
そんなこんなで、戻ってきましたワープ地点。
そこを通り過ぎ、「こっちよ。」とセイさんが言うのでついていく。ワープした地点の泉よりも少し南の方向だ。
1分くらい歩くと開けた土地に出て、なぜか家の土台らしきものがある。
あと、家具とかも別の木陰にちょこちょこ置いてある。
家?
えっ?家?
「じゃじゃーん!どぉ?私の秘密基地:ザ・作りかけ!」
「・・・ハウジングです?」
「そんな大したものじゃないけどね?」
「実装されてたんですか!?」
「さぁ?されてるかされてないか分からないけれど、なんかここまでは作れちゃったのよね?法律的に調べてみても問題なさそうだったし・・・。」
「えぇ・・・。」
なんっつーかこう、とんでもない人だなぁ。
やることが大胆っていうか。
「で、良かったら今からお茶出すから座って、座って~。」
と、多分インベントリから出したのであろう。大きいイスとテーブルが突然目の前に出現していた。
あまりの事に呆然としながらも、おとなしく座らせていただく。
気配察知にティラ君の気配はまだないから遠くまでいったのかな?
しかし、ここは聖域じゃないのか?
プレイヤーが勝手に家を作っていいのか?
まだ家はできていないし大丈夫なのか?
猫たちに怒られないか?
などと疑問が湧いてくる。
自分も大分混乱していたのだろう。ふと良い香りに気づく。
「はい。古代族特製エルフティー。あ。自分の自信作ね。」
へっ!?
「お茶も作ったんです!?」
「そうよー。美味しいわよ!飲んでみて!」
有難く頂戴してみる。
紅茶とは違って、少し若々しい、青っぽい味がする。けれど不味いとかじゃなくて、とても美味しいと思う。青臭くなくて美味しい。
何を言っているか自分でも分からないが、他に語彙が見つからなかった。
自分はホント表現が貧弱だなぁ・・・。
「飲んだことない味だけど、なんか爽やかで美味しいです!」
と、無難にまとめて感想を言っておくと
「ホント!?嬉しい!ありがとう!お代わりあるからほしかったら言ってね!」
という返事が返ってきて、目の間にお茶菓子が出てきた。
至れり尽くせりで、ここがフィールドだと忘れそうになる。
「しかし、セイさんは支援魔法家じゃないんですか?生産がメインなんですか?」
お茶を生産したって言ってましたよね?よくDEXが足りますねー?みたいなー。
「そこなのよねぇ?」
セイさんが首を捻ってる。自分で出した茶菓子のマドレーヌの様な物をハムハム食べている。
「多分私の経験上、ファルディアの見えてるステータスではDEXが足りていないのよね。」
「ぇえ・・・?」
それ本人が言っちゃうの?どういうことなの?
「でもね、それを言い出すと、サク君も・・・あ、サク君でいいのかな?君もきっとDEX足りていないと思うの。でも敵に攻撃が当たるじゃない?私思うんだけどね、種族補正があると思うのよね・・・。」
「あ。サクでもサク君でもなんでもいいです。・・・隠しステータスの件は前々から言われてましたしね。」
「そうなのよ。私ね、精霊術士メインだけれど、生産はね、『木』が絡むとうまく行くの。」
「木?」
「そうよ。エルフの種族の力じゃないのかしら?料理とかも自然のものだとうまくできるし、生産は木材。農作物を育てるのも上手よ。彫金とかは全然だめね!好きだったんだけど!」
と、カラカラと笑っている。
「そうなのですか・・・。」
そういえば、自分にもPNTという特性がある事を考えると、エルフにそういった力があるのも不思議じゃない。というか、アルシオンの古代族さんたちは皆農家だったじゃないか。きっと血がそういう方の才能を持っているのだろう。
少し考えこんでると、
「たのもーーーーーー!」
と、聞きなれた声がする。
気配察知に引っかかっていたのに今まで気づかなかった。ティラ君である。
ティラ君も気配察知をたどってここに来たのだと思う。
だけど、あまりにも場違いな雰囲気にキョロキョロしている。
そりゃ、森の中に突然建設現場があったら困惑するよね・・・。
「あらー初めまして。・・・きゃぁ貴方、大小人?珍しい!可愛いわねー。どうぞいらっしゃい。歓迎するわ。私はプレイヤーのセイス。セイでいいわ。あなたは?」
そう言って、新たに椅子を一脚用意するセイさん。すでにお茶を淹れに向かっている。
「・・・私、ティラ。よろしく。」
とても小さい声で答える。
いつもの勢いはどこ行った?
そんなティラ君を見てフフフと笑っているセイさんは、優しくティラ君に席を勧め、お茶は飲める?とお茶と茶菓子を振舞っている。
どう見てもただの近所のお姉さんだ。
「ティラちゃんは、PKの子なの?」
にこやかに会話で斬り込んでいくセイさん。
しかしセイさんの優し気な雰囲気は全く変わらない。それが逆におっかねぇ。
「あ・・・ティラ暗殺者だった。悪い奴しか殺してない。でも、暗殺者も廃業したしもう殺しはしてない。」
「でも、ネームは要注意人物のままね?」
「ティラ街に入れない。」
と、しょんぼりとしてるティラ君。
「ああ、そういう事か。赤でない人はね、街できちんと講習を受けて注意うければその状態は解除されるわよ。」
黄色とか赤とか言っているけれど、セイさんは多分人物鑑定スキルを持っている人なんだろう。そのネームの色がPKだと変わると聞いたことはある。
「ホント!?」
食い気味のティラ君。
「ホントホント。ちょっと時間かかるかもしれないけどね。そういえば忘れてたけど、ここどこか知ってる?」
そういえばPKの板って閉鎖的だし、最近出てきた情報だからまだ知らなかったのね、と優し気にセイさんが言う。
自分も知らなかったな。
あの場合、ティラ君は捕まるのが正解だったのか。
「そういえば、忘れていました。ここはどこです?」
「ティラも結局町は見つけられなかった。湖はあったけど。」
フフフと笑うセイさん。
「北にラゴ、西にスラハタンデン、南の山向こうにアルシオンがある。丁度その真ん中あたりね。」
直線距離で一番近いのはアルシオンかしら。それでも丸3日くらいかかると思うけど。と、セイさんが言う。
「何にしろここは町も少なく人があまりいない土地ね。猫たちはね、お腹が減ったらアポリアに行って、後は気ままにここら辺でのんべんたらりと過ごしたりしてるのよ。この辺の方が精霊の気が強いからね。」
「精霊?」
猫と精霊とどういった関係があるのだろう。
「ああ、気づいていなかった?あの子たち殆ど精霊の類よ。」
「・・・知らなかった。」
「知らなかった。」
思わずティラ君とハモってしまう。
「これは、私が精霊が見えるせいかもしれないわね。あの子たちは精霊の一種。肉体があり、のんびり自然の中で暮らす種族よ。戦闘は好まず、隠れることが得意。気に入った人間にはこうして移動の恩恵を授けてくれることもある。よかったわね、あの子たち結構気難しいから気に入られるのも大変なのよ。何をしたの?」
「何って・・・?」
「何?」
首をかしげるティラ君。
「強いて言うなら・・・。」
「言うなら?」
セイさんが一緒になって小首を傾けて聞いてくる。ティラ君の真似でしょうか。
特に言うほどの事でもないんですがね・・・。
「アポリアのフィールドで日光浴して寝落したら、いつの間にか猫が沢山乗ってました?」
「それ、夜の湖でもそうなった。日光当たってなくても猫ジェンガになる。」
ティラ君につっこまれる。
そして、セイさんは再びぽかーんとして、ブハッと爆笑する。
「このゲームで!こんなやる事あって、みんなギラギラしているのに!フィールドで日光浴してたの!?・・・やだぁ!あはははははは。」
腹を抱えてヒーヒー言って笑ってる。
いや、自分もギラギラしている方では割とあると思うのですが、不測の事態っていいますかね・・・。
「仕方ない。舎弟は変。」
「誰が舎弟だ。」
「サク?」
返事の代わりの梅干しをティラ君にぐりぐりぐりっとお見舞いすると、「あぁあああああ」と変な声を出す黒小人。
それを見てまた爆笑するセイさんという構図。
暫く、そんな感じで和気あいあいと過ごし、気づけば2,3時間経っている。
うーんどうしようかなぁ。
「ここからアルシオンまで三日かぁ。」
「舎弟がアルシオン行くなら、ティラも行く。イエロー解除したいし。」
「一人友達を放置してるんですよね。いや、他にもいきますって言って行ってない所とかあるし、一度行かなきゃだなぁ。」
テルメさんに一回こいって言われて、まだ一回も行ってないのに完済しちゃったんですよね・・・。チュートリアルもしてないし、衛兵のラフィーさんにだって会いたいし突然飛ばされたからなぁ。
でも、アルシオンに向かうとあの岩砂漠を超える塩梅なのかな・・・。大丈夫かな?あの気が狂ったような鳥とか、さすがにもう居ないよねぇ?
「邪神の信者と思しき人たちがうろうろしてるから大丈夫かなぁ?って思うけど、まぁ何とかなりますかね?」
それを聞いてブハッと吹くセイさん。
ティラ君は呆れた顔をしている。ティラ君にされるとなんか腹立ちますね?
「何でサク君は急にそんな壮大な物とエンカウントしているの?私一度もそんな話聞いたことないわよ。どう考えても、もっと物語の後半に出てくるような要素じゃない?」
「だから言った。舎弟は変。いつもなんかこんな感じ。」
「何か独特なペースよね。」
それはあれですかね、ユニークスキル主人公属性が物凄く仕事してるってことですかね・・・。自分の希望じゃないので、もうしょうがないんじゃないですかね・・・。
「・・・そこは置いておき、中級ランク?階位2段階目 の130レベル位の鳥でしたっけ?そんなのに追い掛け回されまして、それがいた方を通りそうなんですよね。」
「え?追い掛け回されただけなの?そんなのエンカウントしたら普通死ぬでしょ?まず会わないけど。」
「なんか穴に落ちまして逃げ切りました?・・・。」
「サクは、凄く、すごく、地味に変。」
「どう考えたって、邪神の使徒や、階位2段階目の魔物なんて、私たちが中級冒険者になった後会うかどうかよねぇ?」
「兎君探してたら、何故かいまして。」
変な暗黒魔法陣とかとね。
「その兎君も変。可愛いけど。」
「兎君ってなぁに?」
「サクが放し飼いにしてる、丸い兎。」
「別に自分が飼っているわけでは・・・気づいたらなんか頭部にいるだけで。」
ブハッっと再び吹くセイさん。
「やめてよ。そろそろ私VITが上がっちゃうと思うの。」
腹筋が鍛えられるって言いたいんですね。分かります。
「まぁいいわ。私、これからラゴに行くから、今回はここでお別れね?私はここに居ることも多いから、また会えたらお話しましょ?貴方たち、これからアルシオンに行くんでしょ?リアルでのログイン時間を考えて進んでね。私はアルシオンにあまり行かないから定かじゃないけど、道程に安全地帯とか、あまりなかったと思うわ。」
「はい、わかりました。有難うございます。」
「こう言ってるけど、舎弟は最後はどんぶり勘定。」
「やめろ。心を読むな。」
毎回そうですよね。考えて分からない事は当たって砕けようと突っ込むタイプです。
主に面白そうな方面にですが。
「ああ、あと。」
セイさんがメニュー画面を操作するような動きをすると、自分にフレンドが飛んでくる。きっとティラ君にも飛んでいるだろう。
「よかったら、私とフレンド登録しましょう。お茶の購入ならぜひ私に言ってね?」
「商売!?」
ティラ君が慄いている。
「冗談よ~。まぁ、機会があったら遊びましょ?って事かな。サク君は近接だし、ティラちゃんは物理遠隔。私は遠隔魔法と支援魔法が使えるし、相性は悪くないと思うの。」
「自分とティラ君もいつも遊ぶわけじゃないですがね。」
「事実だけど何か酷い!?」
アハハハっとセイさんが笑う。
「私もね、実を言うと、あんまり誰かとベッタリで遊ぶとか、固定に入るとか好きじゃないの。サク君もティラちゃんも、ずっと側に誰かいないと寂しくて死んじゃう!ってタイプじゃないみたいだから、遊ぶノリが合うかなと思って?だから、今度お試しで遊ぼう?」
ふふふっと笑っている。
無理強いせず、逃げ道もちゃんと用意してくれて、こちらも尊重する姿勢を見せてくれる。
社交的な人だなぁ。
「もちろんです。よろしくお願いします。」
「ティラも、セイと遊んでみたい。あと、情報ありがとう。」
ペコリ、とセイさんにお礼をするティラ君。
結局アルシオンまでの道のりは三日もあるし、どこまで行けるか分からないけれど進んでみることにした。
リアルの時間帯だと0時で落ちると言ったら、ティラ君もそれくらいが丁度いいという事でそこまで進むことになる。
二人でセイさんにお別れを言い、街の方角に歩き出す。
明日も暇だし、敵の魔物のレベルもちょっと高いのでティラ君と時間を合わせてログインする事にした。上手くいけば、明日中にアルシオンにたどり着くかも?
それにしても、だ。
「意外と普通のお姉さんでしたね?」
「何?セイのこと?」
「そうですよ。」
「外面は普通だけど、廃人。」
「ああ、そうですよね。」
物凄くゲームを周知してそう。内田とは違うベクトルで廃人か、もしくは元廃人みたいな匂いがする。社交性の高さから、社会人の人だろうなとは思うけれど。
「でも、外面も、もしかしたら変なんじゃないかって、初めは思ったんですよね。」
「は?」
ティラ君にはアイツと出会った事は言ってないし、当分言うつもりもないけれど。
”自分の人生が変わる”なんて言われる人だから、どんな人かと思ったんですけどねえ。
「精々、ゲーム好きの社交的なお姉ちゃん?」
「まぁ、ティラもそう思うけど。」
「普通ですよねぇ。」
「ゲーム好きのお姉ちゃんは普通なのか、ティラ分からない。」
「もっと、変態なのかなって思ってたんですよ。」
「言ってやろ。」
「言わなくていいですよ。そうじゃなくて、出会いが変だったので。」
どう見ても、割と良識がある『普通のプレイヤー』で、また会ったら遊んでみたいくらいの感じのいい人・・・くらいなんですけどねぇ?
「魔物に襲われてるの助けたんでしょ?」
「そうなんですけどね。」
「?????」
「まぁ自分にもよく分からないけど、分かったら言います。」
「そうして。」
分からない事は変に結論付ける事もなくそのまま置いておくに限る、を今回も実行する事にする。
―――だけれども。
彼女との出会いは、確かにファルディアでの今後の遊び方も、リアルですらも変えることになる。




