2-77 分水嶺
フラグの乱立
ティラ君とわかれて、とりあえず辺りを探索する事になった。
ティラ君は東、自分は西である。
「これぞ今生の別れ・・・。」
と、ティラ君が謎の小芝居をうってきたが、全面的に無視をしておいた。
不吉過ぎる。
「まぁ何かあったら、すぐ呼ぶかもしれないですしね。」
ヤバいモンスターがいたとか、美味しいモンスターがいたとか、やばいPKがいたとか。
一人で倒せないものは負けたくないので、二人でフルボッコにするの、これ当たり前ですよね。今この場所で死に戻りしたら困りますし。
・・・・まぁ。自分の場合はそのままキャラロストするかもしれないので、そこからが問題なんですが。
もしくは、ヤバい建物があったとか、ヤバいダンジョンがあった場合とか・・・?
そんなものが出てきたらどうしようか!?
なんにしても楽しみだなぁ・・・と思ってたら、持病の目の疼きが発動!
突然だったので、思わず膝をついてしまうと、
ティラ君に「またグルグル!???」
と焦られました。
違います違います、持病の中二病です。申し訳ありません。・・・言わないけど。
「だ、大丈夫です。ちょっと反動が。」
「何の!?」
本当に何のだよ。
何言ってるんだよ自分。焦りすぎて、より病を罹患してて、自分で自分が心配になる。
「すぐに治まりますので・・・。問題ありません。」
「・・・!????ならいいけど?駄目なら休んで。」
「ありがとう。」
大変申し訳ないですが、これは多分不治の病デス・・・。グフッ。
まぁ目の疼きも1分ほどで立てる様になったので、問題ないアピールをして探索に向かいました。最近気づいたんですが、この目の疼き。第三者が居る時で、かつ安全な場所でしか起こらない様で。たまたまかもしれないけれど、戦闘可能エリアとかではまだ起こったことがない。それなので、やはりこの場所が安全だっていう感じがしますね。
そしていつも通り無表情のティラ君でしたが、わかれる際、ほんの少し瞳に心配の色をにじませていました。大変申し訳ないです・・・ええ、本当に。
アホな小人だけど、いい奴なんだよなぁ・・・。
森。
どこもかしこも、静謐な森だ。
多分、日本の森より静かなのではないだろうか。
この辺が聖域と言われても不思議じゃない。
それぐらい、静かで清らかな印象を受ける。
おそらくは、あの仮称龍穴がかかわっているのだとは思うのだが、この辺はそういう土地なのだろう。
この聖域みたいなここに一体何かあるのかは分からないが、今は地理を把握したいのだから、まずは聖域を抜けることを考えるべきか。ならば魔物を探すべきだろう。
こういう場合、方向感覚スキルが助かる。時間帯と、太陽の位置などを確認すると、東西南北の方向が割とはっきりわかる。リアルでも考えれば分かるのだけれども、考えなくても分かる。方位磁石が搭載されたような感覚だ。これ、レベルを上げればもっと便利になるんですかねぇ?
などと考えながら速足で歩く。影移動は使わない。
何か見落としがあると困るからだ。
魔力感知、気配察知、影踏はオンにしておく。
スキルは今の所同時使用は3つ迄だ。
戦闘中じゃなければ今の所3つで困らないけれど、戦闘中は3つだと困る。
というか、3つ以上使えたほうがアドバンテージが取れるというか、戦術が広がるというか。
でも、これの枠も増やすスキルがありそうだけれども。
ほら、魔法とかだと”並列思考”とかありそう。生産だと”器用”とかか?
なんにしても取得可能リストに上げるためにスキルの同時使用をし続けるくらいしか思い浮かばない。なので、なるべくスキルは使う様にはしている。ステータスの伸びしろの件を考えると、その可能性が高いとおもうんだよね。
兎に角、スキルを使い続けて鍛えるのが早道の気がするけれども。
あれ?戦闘中と非戦闘スキルでまた伸ばし方も違うのかなぁ。うえぇえ・・・ありえそうな予感がする。
そんな事を悶々と考えながら歩いていたのがいけなかったんだろうか。
気配察知にも魔力感知にも第六感にも何も反応がなかった。
スキルに頼りすぎてはいけないという典型なのかもしれないが。
ふと、違和感を覚えて立ち止まる。
自分は、何に違和感を覚えたのかが分からない。
最近こんな事ばかりだ。
感覚の方が先に来てしまう。
リアルではそんな事はないのに、おかしなことだが。
再度スキルを確認しても、やはり異常が認められなかった。
でも、何かが違う。
空は大分白んできたが、まだ日は出ていない。
先ほどよりも静かに感じる森。
聖域・・・なのだろうか?
未だに魔物の気配は無く、とにかく何もないが・・・。
・・・いや、何もない事がおかしいのか?
魔物の気配も、魔力の気配も、人の気配も、何もここにはない―――???
―――いや、おかしいだろ。
聖域ですら、魔物の気配は多少感じていたし、魔力は普通に感じていた。
ここは、そう―――・・・先ほどまでの森に見えるのに先ほどの森じゃない?
そこまで考えて気づいた。
ティラ君と組んでいたPTが、いつの間にか解除されている。
―――PTが解除される条件は?
急いで思い出す。
相手がログアウトして長時間経過した時、自分や相手がPTを切った時、そして特殊イベントの時か、特殊エリアに突入した時?
「特殊エリア?」
そう、ここは特殊エリアなのではないか?
例えば、チュートリアルをするような、キャラメイクをするような、GM部屋の様な。
普通のフィールドと同じに見えても特殊な場所。通常とは隔離された特殊なエリアなら、その説明がつく。
いつの間に突入していたのかは知らないけれど――――。
「そうだね、ある意味特殊エリアだ。」
自分の独り言に答える者がいた。
さっきまでは確かに誰もいなかったはずなのに。
自分の目の前、15メートルほどの距離の所に、見ず知らずの50代程の男性が立っている。
顔は日本人顔の、人族だ。日本人だが彫りが深めのダンディーと言われそうな顔だちだ。そして、仕事が出来そうな神経質な、知的な色合いの瞳をしている。体形はやせ型であり、背も高い。トータルな印象では公務員の偉い人、といった感じである。
だがしかし、その辺のNPCが着ていそうな普通のファルディアの普段着を着ている。
そのせいだろうか、激しい違和感をこの男性に覚える。
いや、こんな所に居るだけで怪しさ大爆発のせいなのかもしれないけれども。
「どなたですか?」
そう、こいつは誰だ?
「私?私の事かい?私は誰でもないよ。」
話にならない事を、にこやかに語りだす。
ヤバい人ですかね・・・。
ちょっと逃げたいんですけど。
「逃げたいって顔をしてるね。フフッこんにちは。最初の影の人。私の自己紹介をしたいところだけれど、本当に私は”何”でもないから、紹介する名前がないんだ。ごめんね。」
「また”最初の影の人”ですか・・・。」
シオンさんといい、一体何なんでしょうね。自分は板でそこまで噂になっているのか。まぁ確かに今の所影族がいなくて、物珍しくはあるだろうけれども。
後なんだ?名前がないって。
「そうだね。あらゆる意味で君は最初の影であり、最初の一桁ナンバーズでもある。今はまだそこまで有名じゃないけれど、きっとこれから君の行動次第では有名人になるね。君には不本意であるかもしれないけれども。」
「ナンバーズ・・・?」
そんな呼ばれ方は初めてされたけど、なんだそれ。
自分のその疑問の声に、男性は何がおかしいのかさらにフフッと笑う。
何が彼をここまで機嫌よくさせているのか、皆目見当がつかないだけに不気味さがさらに増す。
この手合い、本当にただの基●外とかだったらば全てが男の脳内の妄想という事でいいのだけれども。そうじゃなかった時が一番まずいというか。訳の分からないことに巻き込まれまくりって事になるよね。そして、どう見てもこの男は理性的で計算高そうな顔をしており、こちらの挙動も細かく観察されている。残念ながら後者とみるべきだろう。
「ああ、そんなに警戒しなくてもいいよ。私はこう見えて、割と君に好感を抱いているんだ。天才と言われた量子物理学者の矢神芳雪氏の直系なだけあるね。ジャンルは違えども、君は確かに偉才だと私は思うよ。」
「・・・お前、誰だ。」
警戒値を最大に跳ね上げる。
だってこんな奴、自分は知らない。
リアルだってこんな奴は見た事がない。
雰囲気だって、こんな独特の奴がいたら、容姿が違っても自分にはすぐわかる。
絶対にこんな奴は身近にいた事はない。
それなのに、ここはリアルじゃないのに、どうしてリアルの情報を読み取った?
なぜ自分ですら聞いたことないのに、アイツを量子物理学者って言った?
だってあいつは、電子工学が専門って聞いてて・・・
まさか、リアルの情報がどこかで漏れてーー・・・
「漏れてないよ。」
心も読むのか。―――いや・・・
「サク君、自分が影族だって忘れてるでしょ?ファルディアではバレる人には思考が読めるんだから、もう少し腹芸を学んだ方がいいよ。」
そう言って、ニヤニヤと笑ってくる。
名前も名乗ってないのに知っているのは異常じゃないのか?。いや、アクティスやシオンさんの件の事もあるし、板で名前くらいは出回ってるかもしれないが。
「こう見えてね、私は君の敵じゃないよ?」
多分これからもそうだと思うね、と軽く笑いながら両手を上げるジェスチャーをしてくる。
敵意はないと言いたいんだろうが。
「何でそんなに上機嫌なんですか?」
そう、さっきから気持ちが悪いのだ。
大の見知らずの大人が、物凄くうきうきしているところを見た事があるだろうか?
外国人ならともかく、日本人でそうは周りで見た事がない。
「君にそんな返しをされるとは思わなかったな!」
と、面白そうに笑う男性。
いや、だから気持ち悪いって・・・。
「そうなんだ。私は今、とても気分がいい!長年の夢がやっと叶いそうだからね!」
聞きたくないです、その夢とやら。
「夢は何か聞きたくないって顔をしているね。ああ、今のは思考を読んでないよ。フフッ・・・そうだね、君には一つプレゼントをあげようか。ああ、いらないっていうのは無しにしてね。さすがの私も傷つくよ。・・・プレゼントは君の今後において非常に重要な事になる。多分これからの人生が全て変わるんじゃないかな?ここが君の人生における一つの分水嶺になる。」
要らないって言っても喋り出すだろうけれど、リアルの情報を得ている相手なので出方を非常に気を遣う。それに人生が変わるほどって言う自信は何処から来るのか。その情報も気になる。
「大丈夫―――――今の所、本当に私は君の敵にも不利益にもならないよ。多分ね。そこまで警戒させてごめんね。気分が良すぎて浮かれていたんだ。そもそも人と話したのも久方ぶりだったしね。・・・私がプレゼントをあげると言ったけどね、私は存在しないものである以上、何もできない存在なんだ。そもそも、私を観測する君が異常なんだよ?私が出せるのは情報だけ。ファルディアでは無と同じ扱いだ。私は、名づけをされるまで、何者にもなれない。そういう存在だから、君に攻撃できない。それは誓って真実だ。今の私はタダの観測者だからね。」
「観測者。」
え?自分の称号のせいで変な物を見てしまったって事・・・?
同じ名前の称号を持っている事も微妙なんだが、称号の話ではないだろう、な。
「今の僕に預言はできないけれど、ファルディアの預言と同じ扱いだと思ってくれていい。まぁ僕は知ってるから預言にはならないんだけれど、君にとっては同じ扱いだね。」
そこまで言うと男は、体の方向をかえ、今まで自分が背を向けていた方向。そちらをすっと指さす。
ただ方向を指し示しただけなのに、迷いなく、すらりと美しい綺麗な動作だ。そんな、場違いな感想を抱いてしまう。
「―――今、この方向の先に、君の新たな出会いがある。今この方向に行けば、確実に『彼女』に会うだろう。その出会いはきっと君の今後の人生を変える。これから、レールに敷かれた普通で平凡な、今まで通りの人生を歩みたければ、この先には行かない方がいい。逆に、刺激的な人生を歩みたいとなれば、こちらに行くべきだ。」
「『彼女』?」
ここまで思わせぶりな事を言って、人に会うというだけの預言なのか?
どんなとんでもない人物だというのだ、その『彼女』とやらは。
危険な人物なら全力で会いたくないんですが。
そんな自分の怪訝そうな雰囲気を感じ取ったのか、男はフッっと笑う。
「普通の女だと思っていい。まぁ腕はいいかな?彼女も君と同じ初期ナンバーズ。始まりのエルフ。お節介なのが玉に瑕だが、気は強いし、言う事は聞かないし、すぐ拗ねるし、トラブルは起こすし、動物はすぐ拾ってくるし、すっとこどっこいのあんぽんたんだな。」
突然の暴言に次ぐ暴言。
だが、男の言葉とは裏腹に、その目はとても愛おしい物を遠くに見ている様で―――――
おかしなことにその目を見て、少しだけ、この奇妙な男を少し信じてもいい。
そんな気がした。
「では、このままこの先に進みます。」
そう告げると、逆に男は驚いた様に自分を見る。
「どうして?確かにこちらはお勧めだけれども、自分で言ってなんだけど、今の僕かなり怪しいでしょ。自分が同じ立場なら絶対選ばないと思ったけどね。」
自分で怪しいと思ったのに言ったのか。
ていうか、素は『僕』なのか。
「・・・そういう意図があるかなとも思いましたが。」
あえて、嫌がる印象を与えて自分の思う方向に誘導しようとしてる、とかね。
「自分の人生を変えるとまで言われた、その”彼女”さんが、どれ程の変人か興味がわきました。」
自分の言葉に5秒ほど固まる男。
そして、爆笑する。
・・・何でこんな変な男にまで爆笑されてるんですかね、自分?
ヒーヒー言いながら、「いや~最高だよサク君~!」と涙を流しながら笑われる。
そして、笑い終わると急に真面目な雰囲気を出す。
「君に寿ぎを。この先は私が通ってきた道でもある。・・・サク君、突然だけど時間移動の条件ってわかる?」
「は?」
頭がおかしい人は、言い出すことが極まってますね・・・?
「物体は光速に近づくにつれ時間の進みが遅くなる。そして、光速に近づくにつれ質量が増加し、結局光速には届かない。」
何かそんな話を聞いたこともある様な気もしますが、所詮机上の空論ですよね?
時間の進みを遅くし、未来には行けるけれど、過去には行けないと聞いたこともある。
双子のパラドックスとか聞くけどそいう話でしょう?
なぜ突然その話になるんです?
「逆に言うと、質量があると時間を越えられないのさ。」
少なくとも、今の科学力ではね―――と、その言葉だけ残して、男は何事もなかったかのように掻き消える。
その消え方に覚える既視感。
そして、まるで初めから男など世界にいなかったかのように・・・いや、男だけではなく感じ取れなかった世界が全て感覚が戻っているような気配。
まるで神様の様な消え方をしたけど、あの男は真逆だ。
全くこの世界の気配を感じられない。
あれは邪神?
いや、邪神と言えばもっとよこしまな・・・?感じです?
もっとイメージ的にはアルシオンの山で見た暗黒魔法陣的な感じがするんですが・・・。
考えても分からないものはしょうがない。
今のは全てなかったことにして、男が現れなくても進んだであろう、道を進みだす。
この先に居る、『彼女』とやらが大変不穏なのですが・・・・楽しみの様な、逃げたいような?




