2-7 暴戻の王1
圧倒的王者。
まさしく、その威光が余すことなく伝わってくる。
肌が震える。
敬仰したくなる。
圧倒的ななにか。
【精神苦痛耐性が2レベルに上がりました。】
・・・これ苦痛の領域だったの!?威圧的な何かだったんだろうか。
「・・・・!・・・!・・・・・・・!!!」
またMJKBY氏が空気を読むことなく何か馬鹿野郎な発言をしてるのかな。
威勢がいいというか、バカというか。
まぁ両方か。
そんなMJKBY氏を完全に無視して、影の王様みたいなのは少し首を傾げながら独りごちる。
「俺様のひざ元で、生まれたばかりとはいえマジで殺しあうとはなぁ・・・?お前ら本能は何処に置き忘れてきたんだ、クソダボが。」
そして、圧倒的に口も悪かった。
ザワザワ・・・
ふと、影の王様っぽい人の後ろに何体もの影族がいたことに今更気づく。
どれも強者であるが、やはり影の王様ほどの存在感は感じさせない。
・・・・ザワ・・・・・ザワザワ・・・
ふと気づくと自分の背後にもいるのがわかる。気配だけが伝わってくる。
腕がないので両肩のあたりを抑えられる。
特に抵抗する意思はないので、大人しくしている。
こちらが抵抗を見せないと、特に強く抑えられたり倒されたりなどはされなかった。
でも、これって自分も咎められてるのかなぁ?
一方MJKBY氏。
「・・・・・・!!・・・・・!・・・・・・・・!!!・・・・!!!・・・!」
何かたぶん凄い喚いてる。
俺を大事にしろとか、助けろとか言ってそうな感じ。
NPCのくせに!とかも言ってそう。
ぶれない姿勢だなぁ。
MJKBY氏は後ろだから見えないが、ちょっと乱暴に扱われてる気配がする。
ガスッとかドサッとか痛そうな音が時折する。
その度に「・・・!」「・・・!!!」って怒鳴ってる気配を感じるが誰も気に留めていない様だ。
王様の視線がふとこちらに向く。
うん、まぁ真っ黒なんだけどね。
「こんなイカレタ野郎と殺り合おうとするなんざ、相手もどんな脳ミソぶっ飛んだ野郎かと思ってたが、意外と大人しいじゃねぇか。おい、連れてけ!」
自分をチラリと見てそう言うと、王様は溶けた。
いや、影移動でいなくなったのかな・・・?
よくわからないが、溶ける様にその場から消えてしまった。
もし影移動なら夢が広がるなぁ~、って呑気に現実逃避をしながら、後ろにいる影さんたちに押されるまま大人しくついていく。
なお、後ろのMJKBY氏は6人ほどの影族に担がれている様子だった。
簀巻きにされてピチピチしている様は、見ちゃいけない幼虫か何かの様だ。
気持ち悪い。
でも、移動が楽でイイデスネー。
――――――――――――――――――――――
体感で10分ほど歩くと、大きな扉の前にたどり着いた。
先行して10人ほどいた影族の方々が、何やら壁のあたりで操作をすると、10メートルはあろうかという巨大な鉄の門扉が徐々に奥側に開いてゆく。
その瞬間、扉の隙間から漏れ出して、こちらに押し寄せる明るい光。
いや、松明程度の明るさで本当はそんなに明るくないのだと思う。
だけど、意外なことに自分はこの明るさをとても欲しているのだと、今更ながら気づいた。
肌から染み入る明るさ。
知らぬ間に張り詰めていた気持ちがほっと緩むのがわかる。
『影族は光がないと生きられない』
これは正しくこういう事なのだろうと、再び本能として自覚される。
影族にとって、光というものは必要な栄養分なのだろう。何のひねりもなく、長時間光を浴びないと死ぬ存在なのだ。
そして、生まれたばかりの影族があの扉にたどり着く可能性を考える。
向こうからの迎えもあるだろうが、光がなくどれくらい耐えられるのかが分からない。生まれてすぐ死ぬと言われるだけのことがある種族である。きっと結構いい確率で死ぬだろう。本当に上級者向けだ。
「・・・・!!!!・・・・・・・!!!???・・・・・・!!!!!!」
後ろのMJKBY氏がじたばたと何やら暴れだした模様。
だが、影族さんたちの精鋭さん?たちは全く動じていない。
こういうことを予想してたのだろう、簀巻き状態は必須だった模様。
あくまで後ろにいるので音だけの予想だけど。
急に元気になったところを見ると、やはり光不足で死ぬ手前だったのだろう。
後ろを気にせず歩けとばかりに軽く肩を押されるので大人しくついてゆく。
目が慣れるとやはり薄暗い、松明の明かりを頼りに、洞窟の様な所をグネグネと曲がりながらついてゆく。
唐突に、再び目の前に現れる重厚な鉄の扉。
―――ここに、さっきの人がいる。
何故だか分からないがそんな予感がした。
これも第六感の力だろうか。
影族の兵隊さんが壁にある何かを操作をすると、扉は再び奥へ奥へとゆっくり開いていく。
部屋の中は意外にも薄暗かった。
影族の方々に連れられて中に踏み入る。
完全な闇ではないが、青白い、人魂の様な薄暗い、だがしかし強い気配の松明の様な光が灯っている。
重厚な部屋の奥にはひときわ高い場所がある。
やはりここは王の間と言った風情である。
ふかふかのカーペットではないが、石のタイルの上に綿だろうか?何かの絨毯の様なものが敷いてある。その上に跪かされた。つい正座をしてしまったが、罪人座りだよねこれ・・・ハハッ。MJKBY氏はポイっと投げられたような状態で、横目で見ると、やはり陸に打ち上げられた魚と言った風情でピチピチ何か文句を垂れている。
一番奥の玉座の高みから、それを見下ろす、先ほどの王。
「剽悍の民の王、影の神ユイベルト様の御前である。」
自分の左肩を抑えていた人が、そう言う。
場を仕切ってるからには、この場で2番目に偉いのだろうか?
一斉に周りに居た影族の兵隊さん?達が王様に向かって首を垂れる。
・・・しかし、王のみならず、”神”とは大きく出たものである。
が、大人しく頭を垂れておく。腕がないのでうっかり前に倒れかねないところが難点だ。でも後ろの影族の人たちが軽く肩を抑えているし助けてくれるだろう。多分、きっと。なんとかぎりぎりのところまで垂れたが、特に礼儀作法とか知らないのだが、これで問題はないようだ。後ろの人たちにも何も言われなかった。元々一切喋らないけど。
魚は相も変わらずピチピチしている。
何人か兵隊さんが臨戦態勢の様な気がするんですが大丈夫ですかね?、この似非魚。
「お前たちは、俺様のひざ元で、まだ御前上がりする前でありながら殺し合った。これは相違ないな?」
徐に王がしゃべりだす。こういうのって普通配下の人が代わりに喋ったりしそうなんだが、ここは自由なんですかね?まぁ自由そうな方ですが。
「・・・!・・・・・・・!・・・・・・!!!!」
何かMJKBY氏が喚いている。
MJKBY氏の声が途切れたところを適当に狙って声をあげる。
こいつと同類視などまっぴら御免だ。
「恐れながら。」
「何だ?」
「その人には殺す気があった・・・というか既に自分は5回殺されましたが、自分は生まれてすぐ殺されたので生き残るのに必死だっただけです。反抗した結果、この人が死んでもまぁいいかなとは思いましたが、6回目にして自分の実力では一撃を加えるのが精いっぱいでした。死にかかってたのは勝手に倒れたので知りません。同じ奴に5回も殺されてたら相手の命を尊重してやろうという気持ちには誰だってならないのでは?」
「・・・お前、このおかしなのに5回も殺されたのか!ブハッ(笑)!!!そりゃ災難も災難!超災難だな!しかも俺様がいる日ときたか!ラッキーなのかアンラッキーなのかどっちかにしておけ。勇者かお前は。」
・・・褒めたんだか貶されたんだかよく訳のわからないことを言われた。この王様はいつもはいないのか?たまたまいる日だったから、助けてもらえたってそういう解釈でいいのだろうか?まぁ助けてもらう前にMJKBY氏自滅してくれたけど。
あと、何だ勇者って。
「・・・・!・・・・・・・・!・・・・・!!!!」
「うっせーダボが。弱い者虐めなんざクズのやる事だ。影族の端くれなら殺るなら、せめて強い者を狙え。胸糞悪い。」
確かに弱いですよ・・・ふーんだ。何たって生まれたて(通算6回目)ですからね!!!
「こっちのダボは見境なく今日生まれた途端に14人もの同族を手にかけている。そのうち5回はこいつだそうなので、カウントしてもしなくてもまぁいいが。最低9人だとしても既に追放案件を満たしてる。よって、『繋がる』事もなく、このダボは全ての影族から追放される。」
王の言葉をうけ、運んできた影族さんたちが再び疑似魚を持ち上げ、壁の横についていた・・・なんだろう?映画などでよく出てくる外国のアパートでごみを捨てる様なダクト?に投げ込まれた。ダボ(王命名)の叫び声が落下と共に遠ざかる。・・・生ごみ扱いだな。
「なんだ?不満か?」
そう、王が自分の方をみてニヤニヤ・・・物凄く面白がってそうな気配がするが、そう聞いてくる。
「いえ、意味合いがよくわからないので何とも言えませんが、一般的に9人殺害してただの追放処分は軽いかなぁと?また殺すかもしれませんよ。」
深い意味合いはあるのかもしれないが、単純に9人殺して国外退去処分としたらリアルでは軽すぎる。そして国外が迷惑だ。
「俺たち影族はノーキンが多い。」
この人!自分たちの事ノーキンって言った!
「お前みたいな理論的に喋る奴はなかなかいない。・・・珍しい生き物だな。やられ過ぎて変質したか?」
自分の問いかけには答えないでおいて、興味の赴くまま質問されてる。
「人を珍獣みたいに言うのはやめてください・・・。」
「珍獣も珍獣。大珍獣だ。まず、『繋がる』前に連続5回同じ自我を持ったまま蘇生するやつはまず聞かない。」
まぁ、プレイヤーですからねぇ。
この世界におけるプレイヤーの位置づけは「よその世界から流れ着いた同族」という扱いだそうだ。よく世界の神話などにある、遠いところから○○民族がやってきた ようなノリなのだという。ファルディアの場合、『霧の向こうからやってきた同族』になるのだという。
「加えてよく喋るし、理性的。俺たちはまず喋るやつは少ないし、喋っても喧嘩ばっかだからな。理論で喋れる奴など俺様以外にそうはいねぇ。」
どういう種族なの!?影族って!無口で喧嘩ばっかりって、どっかの戦闘民族なの!?
頭を抱えて・・・いや、手がないので抱えられないので気分だけで頭をかかえているところ、続けて王がのたまう。
「お前、殺され過ぎて壊れたのかもしれないな。ちょっと保護しておくか?」
スッっと空気が変わるのが分かる。
嫌な気はしないけれども、自分に何か忍び寄ってくる気配気配気配。
と、同時に先ほどのMJKBY氏と『混ざる』感覚が思い出され、一瞬で脳内が生理的な嫌悪感で埋め尽くされる。
「嫌だ!!!」
気付いたら叫んでいた。
―――――パリン
どこかで何かが壊れるような音がする。
部屋の空気が変わり、王に驚きの感情が浮かぶ。
「お前・・・まさか【精神汚染耐性が3レベルに上がりました。】俺の力を弾いた?」
・・・文字さんが!こんなところでも空気を読まないんですが、運営さん!!!!!
ここまで登場人物、全員真っ黒っていうこの (ザワ・・・ザワ・・
デバフ・・・弱体。パラメーターを引き下げる何某かの状態。●Qで言うとルカナンとか。