2-75 予感
その後、シュンさんの剣オタ☆マシンガントークと、自分のシュンさんに対する普通の人と話すノリで、始めは戸惑っていた様子のティラ君でしたが、次第に落ち着きを取り戻してきた。
というか、シュンさんはホント幽霊らしからぬ明るい性格の幽霊なので、何で幽霊なんて生業をやってるか本当に謎ですね・・・?
本人も記憶喪失でその辺りは判然としませんが。
「記憶?ない?」
「そうなのよー。なんで幽霊やってるのか自分でもわからないのよ。笑っちゃうわよね~ウフフ。あ、そこの砥ぎ方少し角度が深すぎるわ。」
「わかった。ありがとう。これくらい?」
「そうそう、上手よ~。」
「ほめられた。」
なんだかんだ言って、仲良くやってる二人である。
いや。シュンさんのコミュ力が高いのかもしれない。
幽霊なのに、である。
自分はと言えば、そんな二人を置いて月が沈む前に狩りに行ってきました。
リスは肉を落とさないのでちょっと遠征して、森を出たところのピースム平原でフラフラしてた野良トンガルーを倒したらお肉が手に入ったので持ってきた。
リス肉はジビエ料理にはあるらしいけれど、リス肉ってあったとしてもどんな味ですかね・・・。うーん興味がある様な・・・勇気がいる様な。
怖いからあまり深く考えない様にしよう。
とりあえず、トンガル―肉をたき火でジュウジュウと鉄串で焼いてみる。
・・・・・塩買うの忘れてましたね?
「これ。次からは揉み込んで、焼くといい。」
ティラ君が突然、謎の葉っぱをくれる。ハーブとかそういったのですかね?
葉の裏側は白っぽい細長い葉っぱだ。
「ありがとうございます。」
「セージの一種。ソーセージと言う位だから、肉と相性がいい。」
なるほどね?
ソーセージってセージが入っていたんですか?
「へぇ。」
ファルディア面白いな、ファルディア。
いや、この場合リアルなのか?
そういえば、ティラ君は薬士に教えてもらってたんでしたっけ。そういった事は詳しいのでしょう。
「やってみます、ありがとうございます。」
面白そう。リアルでも、ばぁちゃんに言って育ててみようかな。
「スパイスは、乾燥させて使うけど。」
「生でもそれはそれで楽しそうですね。じゃあお礼に今焼いたばかりのこの肉あげます。」
「なんと。」
「味ついてないですけど。」
「なんと?」
「元々ティラ君にあげようと思って狩ってきたので。」
「!!!???」
なんか真っ赤になる黒小人。
普段は無表情なのに、いや、今も無表情ではあるけれど感情の起伏が激しいですよね?
面白いな、黒小人。
固まっている間に無理やり手に肉串を握らせ、頂いたセージを湖でじゃぶじゃぶ洗ってくる。
セージと肉を揉む?
なんかビニール袋とかないと難しい気がする。当然ファルディアにはそんなものはない。
と、いうわけで早速飯盒の出番。飯盒の中でジュウジュウとセージモドキとトンガルーの肉を焼く。
「あらーこの飯盒、いい仕事してるわ。」
シュンさんは相変わらず、物の方に興味がある模様。しげしげと飯盒の方を見ている。肉には興味を示さない。
しかし、飯盒の良しあしまでわかるんですか?
「肉!肉の味がする!濃厚!」
ティラ君が復活して何か叫んでる。濃厚なのか、トンガルー肉。
「このカーブが美しいと思わない?」
「分かりかねますが、そう認識しておきます。」
「この金属は何を使ってるのかしら。」
買った飯盒は円形じゃなく、ジェリービーンズ型だ。ファルディアでは腎臓型というのが普通らしい。確かこの形はたき火でもコメが炊きやすくなるんだったか?でも、ファルディアの主食は小麦とライ麦と雑穀だしな?
全く持って謎が深い。
案外、シュンさんの様な訳の分からない理由でカーブしているのかもしれない。
そうこうしている間に、肉が焼けたようなので飯盒の蓋を皿にして実食してみる。
・・・・うーん確かに、味は濃厚?
淡白な感じもするけれども、ちょっと癖がある。多分ほろ苦さとか香りの爽やかさはセージの仕事なのだろう。肉が食べやすくなっている気はする。なお、味は肉の味だけである。
いや、やや血の味もするか。
塩が欲しいね塩。確かに、これは肉の味だ。
そして油が足りなかったようで、少し飯盒の底が焦げ付いてしまった。次回は塩と油を買おうと脳内にメモする。
「野生の味がする・・・。」
不味くはないけれど、現代社会の恩恵って深かったんですね。という感想だ。
超訳をすると、焼き肉のタレは至高だった。
いや、醤油:みりん:酒=1:1:1でもいい。
いや、そこまで贅沢は言わない。醤油だけでもいい。
いや、岩塩でも・・・。
いや、ショウガ・・・ニンニク?
味覚も現代文明の利器だったんだな。
「この鉄串もいいわ~。」
ひたすら道具を愛でまわすシュンさんも面白い。
一向に飽きる気配がない。そういう性質じゃないと幽霊などやっていられないのかもしれないのかな。シュンさんを見てると、幽霊がだんだん職業に見えてくる不思議。
「トモシリソウと薬草混ぜたらどうだろう?ぶっかけるならオオアザミ?」
ティラ君は暇に任せて採取した草で、ポーションの改良研究をしているみたいでブツブツ独り言を言ってる。
ゴリゴリと草をこね回してるが、自分から見たらその辺の雑草を潰しまわしてる怪しい人である。毒消しをいただいたことが無ければ、まずもって近寄らない絵面である。
ホント自由だね、君たち。
そして、自分は初めてのテント作りをちまちまと開始。
当然取り扱い説明書などないので、あーでもないこーでもないと組み立てる。
20分ほど組み立てている間に月が沈んでしまった。
何となく最近は月の運航を気にしすぎてか、はたまた魔力感知を取ったせいなのか、月が沈むと寂しい気持ちがしてしまう。PNT的にも物足りなさはあると思うんだけど、感情面まで引きずられるとは思ってもいなかった。
しかし、多少気分が寂しくても、ちゃんと組み立てればテントは出来上がる。
ぼわん、と最後の方は景気よく急にでかくなり、それにつられてティラ君とシュンさんが寄ってくる。
「思ったより立派。」
「今はこんなのがあるのねー。」
「自分が思ってたより大きめでしたね。」
一人用と聞いていたのですが・・・でも確かにファルディアは体がでかい方が多いので、ひとり用と言えば一人用なのでしょう。
「ここが今日から我が家か。」
「オイコラ。」
早速、乗っ取られかかる。
「素敵な我が家ね~。」
「えぇ・・・。」
シュンさんまでティラ君に乗ってくる。
本当にノリがいい幽霊である。
「大丈夫、3人いける。」
3人で寝る前提なのですか。
「そうよ、大丈夫よ!」
ていうかシュンさんも寝るんです?
えっ!?幽霊が寝る??幽霊って寝たっけ・・・?
まぁ深く考えたら頭がおかしくなりそうだから、その辺はどうでもいいか。
「まぁいっか?」
結局そういう事になりました。
左手に黒小人、右手に幽霊と同衾という初めてのキャンプ・・・?
ワクワクしますね?いや、本当にします?
ていうか自分男ですがいいのですか?って思ったんだけど、ティラ君もよく考えたら少年だし、シュンさんに至っては幽霊だ。何もどうしようもない。
そして、よく考えれば自分もファルディアでは性別不詳だった。
あれ?じゃあいいのか?
何も問題ありません????
・・・なんだコレ?
っていう状態で、初めてのキャンプは終わったのだった。
いや、そもそもキャンプに来たんでしたっけ?
ただ粘着な人たちから逃げてきて、野宿をしようと思ってたら、変な人たちに囲まれた愉快なキャンプ大会になりました???
いや、まぁ楽しいからいいんですけどね・・・。
ちなみに、シュンさんは隣でガッツリ寝ている。
おそらく5分も経たずに寝た。
自分はそれが気になって、逆に寝れなくなる。
ホント一体なんだコレ?
・・・いや、冷静に考えてここで、夕飯のログアウトをしないといけないんだった。
ティラ君も、よく見ると落ちているみたい・・・?とても気配が薄くなってるのはログアウトしているのではないか、と思う。
自分も混乱しつつも、ログアウトボタンを押す。
全員寝ちゃってもいいのかなぁ?
・・・まぁ今日くらいはいっか。
―――――――――――――――――――
ばぁちゃんと夕飯を食べてログインすると、そこは猫世界だった。
いや、何を言ってるか分からないけれども、自分も状況がよく分からない。
4時間くらいはログインしてないのでファルディアでは8時間以上は経っているはずである。が、まだ暗いので夜は明けていない。そろそろ夜明けが近づいているとは思うので数時間で明るくなるとは思うのだけれども。
そして、外のたき火は消えてしまったのか真っ暗であり、自分は夜目が利くから分かるが、猫がいっぱいいる。
ひーふーみー・・・7匹?
なんでやねん。
そして、先にログインしてきたのであろう。ティラ君が自分の体にせっせと猫を積んでいる。
なんでやねん。
まっとうに寝てるのはシュンさんだけだ。
いや、幽霊がまっとうに寝てるのは真っ当ではないのだろうか・・・?
「ネコジェ●ガ」
「ネコが可哀想だからやめなさい。」
「むしろ、よろこんでる?」
・・・。
そうなんですよね、全く嫌がってないんですよね。
ティラ君になされるがまま、自分にピッタリと密着して喜んでるみたい。
何で?
なんでこう、ここの猫たちって、自分が寝てるとたかってくるんですかね?
今の時期、日本ほど暑くないけれど、夏ですよ?
自分に密着してると猫としては暑苦しくないですか?
これが真冬とかならまだ分かるんですが。それとも、自分ではわからないけれど、大理石みたいな感じで、ひんやりとした体感なのだろうか・・・。
ひんやりクールマット影族。
どんな生き物だよ、自分。
今度はテントを買うときは「ネコよけを付けてください」とお願いするべきか。
そんな下らない事に懊悩していると、ピクピクッっと猫たちが同時に何かに反応して顔を上げる。
「ナーオ。」
ちょっとエキセントリックな配色の三毛猫が一声鳴くと、猫たちはゆっくりと移動を始める。
あれ?え?
自分の気配察知などには何も引っかからない。
思わずティラ君を見るが・・・
「わからない。」
との事。ティラ君の方が気配察知のレベルは高いはずなので、気配ではないのか。
それとも猫の気配察知の方が高いのか。
「でも・・・。」
でも?
「あっちに行くべき。てか、迅速にテントを片付けるべき。」
「は?」
何言い出しましたかね、この黒小人は。
「いいから早く。インベントリにそのまましまって。」
と、無理やりせかされる。
意味も分からないまま、おとなしく色々そのまましまい込み、インベントリの中がごちゃ混ぜ大混雑になるが・・・。
「早くはやく!」
と、ティラ君が急かしてどうしようもない。
猫の先に何かある様で、ティラ君は猫を見失わない様にしている。
「一体何が・・・。」
あるのでしょうか?ティラ君は何が分かってる?
第六感には何も引っかからないので、多分危険はないと思うのだけれども。
ちなみに、無理やりテントをしまい込んだところ、シュンさんはそのまま地面で寝てる羽目になったけれど、起きませんでした。後で謝っておこう。
「わからない。でも予感がする。」
「予感?」
「大・小人族の種族スキル【予感】。面白そうなもの、時期をかぎ取るスキル。普段は方向とかしかわからないけれど、・・・これはイベント?きっとこの先に凄い物が何かある。行くべき。」
なるほど。大・小人族の種族スキルってそんな仕様なものなのですか。
そこまで聞いちゃったら、
「すぐ行きましょうね。」
行きたくなっちゃいますよね。
なんてことを言ってくれるんでしょう、この黒小人は。行きましょうね、すぐ行きましょう。
俄然やる気になったので、お互い無言で猫たちの後についていく。
月も沈んだ夜中の森を、猫たちは迷わずに同じ方向に向かって歩く。方角は街とは別の方向、湖より少し離れた森の中だ。
風に吹かれた湖の音が、チャプチャプとわずかに聞こえる。
後は猫の足音。テシテシテシテシ。そんな感じに聞こえてくる。
この辺りも街から離れた森の中なのに、魔物の気配を全く感じられない。
魔物が出ない、”何か”がここにある?
そして、暫くそのまま森を進むと、何かが見えてくる。
大きいものじゃない。3メートルほどの岩・・・?
そして、水の匂いがする。
大岩がある所に、水が湧きだした、といった風情だ。
水たまりの様に、岩の横に水が多分湧いている。
近くで見ると、意外と底が深いが、大きさはそう広くはない。直径二メートルあるかどうか。
ただ、森の中なのに、河原でもないのに、何でそこに突然大岩があるのかが意味が分からない。
昔の人が、農業用水やら生活用水として崇めて作った祠が朽ちました・・・って言うとしっくりくる感じがする。
きっと大昔、誰かが苦労して岩を持ってきたのだろう。
水の周りは、苔むしていて、さらにヒンヤリとした空気を湛えている。
そこが目的地で合っていたのだろう。猫たちが岩の上やら、苔の上やら、水場を囲んで思い思いに座り込んでじっとしている。
「ニャー」
鳴いた猫を見ると、以前自分が見たピンクのハチワレ猫だった。
少しこちらを見て、視線を水場の方に戻す。
アポリアからここまできてたんですか?道理であの辺で普段見かけないはずですね。
「ここ。」
と、一言ティラ君。
ここが目的地、と言いたいのだろう。
これから何か起こるのか、それとも、”すでに何か起こってるのか”。全く判然としない。
が、こんな猫の集会みたいなものに参加したのは初めてである。
それだけで、ワクワクする。
だが、猫たちは過ごしているというより、”待っている”っていう印象を受ける。
ただ、水の方を注目していて・・・?
ん・・・?
始めに感じたのは違和感だった。
イメージは、・・・そう目まいだ。
いや、これは回転している?何が?どうして?全くもって、自分でも意味が分からない。
猫たちはまだ動かないが、髭がぴくぴくしている者もいる。
猫も何かを感じ取っているのだろう。
「・・・?」
猫や自分の様子が変わった事に気づいたティラ君がこちらに目線で問うてくる。
が、自分でもよく分からないことを聞かないでほしいと思う。
・・・いや、もしかして”魔力感知”か?これは。
ずっと切らないで入れっぱなしにしてある魔力感知が、魔力の動きを感知したのか。
と、すると”魔力が回転しだした状態”・・・?
えっ何それ?
えっ?
ソーセージの由来については説の一つで、確定ではないそうです。




