2-71 リメイク
新春大喧嘩大会開催中
「ほんと、何年たってもクソバカな女だな!」
「なによ!馬鹿って言った方が馬鹿なのよーー!バーカ!はーげ!」
「覚えてない癖に、よう言うわ!」
「好きで覚えてないわけじゃないから、仕方ないでしょう!」
「どうせ、うかうかと相手の誘いに乗ったとか、モドゥスに来るなって言われたのに、ついてったんだろうが!」
「覚えてない!って言ってるでしょ!・・・ありそうだけど。」
「ほらみたことか!」
「ずるいわよ!記憶喪失から言質を取ろうとするなんて!」
「50年間探させられた方の身にもなってみろ!クソ女!」
「それに関しては絶対に「探せ!」なんて言ってないって断言できるわよ!勝手に探したんでしょ!」
「知り合いがいなくなったら探すに決まってるだろうが!」
「だから頼んでないって言ってるじゃない!」
「ほんと、死んでからも可愛げのないバカ女だな!」
「馬鹿っていう方なのが馬鹿なのよ!バーカバーカバーカ!」
・・・・えー・・・。
えー・・・っと。
もう、どうしましょうか?帰っちゃう?
約束の日、鍛冶屋のお爺さんを湖に連れてきたところ、このような大惨事になっております。
何だろう、この低レベルな争いは・・・。
どうやら、二人は犬猿の仲だった模様?
売り言葉に買い言葉が続き、とても仲のいい御様子です。
とりあえず、モドゥスさんって誰ですかね?例の前の剣の持ち主さんの事でしょうか。
飛び火されても困るのでのんびり観戦していると、罵詈雑言が尽きたのか体力が先に尽きたのか、お爺さんの方が音をあげました。ちょっと具合が悪そう。もういいお年ですし、血圧上がりすぎてもいけないんですよね。それくらいになさった方がいいかと思いますが。
ちなみに、お爺さんはここに来るまで結構戦闘ができました。
多分自分より強いです。生産職なのに流石です・・・。
くそぅ・・・くそぅ・・・。
弱すぎて自分がしんどい。
「それくらいになさっては?」
クッと言葉に詰まるお爺さん・・・えっと名前何でしたっけ。オースィ師匠が何故か悔しそうである。
「ふふん。」
と、どや顔の幽霊さん。えっと何て名前でしたっけ・・・。シュンさん?
「結局のところ、二人はお知り合いで間違いなかったという事ですかね?」
「私が覚えてるわけないじゃない!」
と、どや顔する幽霊さん。
うん、聞いた自分がバカでした。
「残念ながら間違いないな。大変不本意だが、クレンセーテの鬼才と言われたシュン・ボーニーアだ。」
と、オースィ師匠。その不本意がどこにかかっているのか若干不穏ですが。
「えーそうなんだー!もしかして私ってすごいー?」
と幽霊さんことシュンさん。
「馬鹿さ加減も、天才的だな!」
「なによ!さっきから喧嘩ばっかり売って!」
そして始まる再度の喧嘩。
仲がいいなぁ・・・もう。
「・・・で、結局モドゥスをやったのは誰なんだ。」
しん、と空気が止まった感じがする。
オースィ師匠は、この50年それを追ってきたんでしたっけ?
シュンさんの事はどう思っているか知らないけれど、親友のモドゥスさんを殺めた許せないんでしょうか。っていうか、もし許せなかったら、どうするの?犯人見つけだして報復しちゃうの?
「・・・記憶喪失の私に聞くかしら?」
と、言いながらも、トントンとこめかみを叩いて首を傾げながら考えるシュンさん。
「自分の名前も実感がないのよね。私の名前は、シュン・ボーニーア?そう言われればそんな気もするけれども。・・・あの人の名前だってそう。モドゥスっていうのね?私が覚えてるのは、あの人が寄ってたかって卑怯な手段で私の目の前で殺されたって事だけよ。そして、あの人は贄にされたのね。きっと、もうダメなんだわ。」
「どういうことだ。」
と、困惑するお爺さん。
「この世界を恨んで死んだ者の末路。知らないの?」
「・・・裏返り。」
思い出すのは昨日の出来事だ。すべてを恨んだものの末路。
自分が先に口についてしまう。
「裏返り?」
一方お爺さんは不思議そうだ。お爺さんみたいな人でもご存じないのだろうか。
「あなた、知らないのね。アポリアは平和な国なのね・・・。」
「先日、アポリアで裏返った人が普通にいましたよ・・・。」
道端にごろっとね。この世を恨んで生きたまま裏返ったと思いますけどね。
「そうなの?・・・あいつらはね、多分『この世界を恨ませて彼を裏返したかった』のよ。セレネーツァ様の加護を持ち、名門出と言われた者が世界を壊すものに回る。なんて素敵な舞台装置なんでしょう、といったところかしら。私は要らないからそこに廃棄されたのね。彼と違って私は達観してるところがあるから。」
殺されそうになったらそうなったで残念だと思ってしまうだけだしねぇ。と、カラカラと笑っている。
実際シュンさんは、どんな酷い目にあったのだろうか。
・・・記憶がないのは、本当に幽霊だから?
思い出したくない様な酷い事を沢山されたのではないか、と今になって思う。やっとそこまで思い至る。何たってシュンさんが殺されているのは間違いないわけだし。
自分はホント気が回らないなって思う。
「彼は残念だけれど、きっと、もう駄目ね。死んではいるだろうけど、死霊として世界を祟ったら最悪だわ。せめて何とか止めてあげたいんだけど・・・。」
私も死んでるから出来ることは少ないわね・・・。と、寂しそうにシュンさんが笑う。
「あいつが生きてる・・・?いや死んでるのか。あいつの死を利用している奴がいる。それで間違いがないか?」
「どうだろう?私が死んだ時はそうだったわね。運が良ければ彼はもう退治されている可能性はあるけれど、何分最近まで死んでたから分からないわね。」
それはそうなんだろうが、自分には気になる事もある。
「何でシュンさんは目覚めたんでしょう?50年経っている事が気づかないくらいには最近まで意識がなかったって事ですよね?それとも記憶喪失で飛んだだけです?」
「そうだ。俺も何度かここに足を運んでいるが、こいつを今まで見た事がないぞ。」
「シュライブングの剣のせいでしょうか?」
剣がここまで自分を運んでくれたわけだし、ゲーム的に言うとセレネーツァ様の行使した力と反応したとか・・・?
「それも・・・あるかもしれないわ。あと剣と月神様の加護が揃う事も珍しい。あの方はそんなにたくさん加護をくださる方じゃないのよ。一世代にひとりか、二人くらい・・・。都合よく剣の持ち主が加護を持ってる事が、歴史的に見ても数人程度でとても少ないの。」
なるほど。加護を持ってる人間が剣を持ってる事がより条件に見合っていたのか?なんでシュンさんがそれで活性化している?のかはよく分からないけれども。
そしてそれとは別に、幽霊さ・・・シュンさんが以前気になる事を言っていたよね。
「以前言ってた『時期がくる』ってどういうことです?」
「確かにそんな事を私が前に言ったわね。・・・そうね、自分でもよく分からないけれど、もしかしたら彼も活性化してるのかもしれない。・・・彼に会える時期なのかもしれないわね。ただ、あくまで『そんな気がする』っていう予感だから分からないのよ。」
そういうものなのか、と思う。幽霊になった事のない自分には分からないけれども。
「わからんが、分かった。」
と、お爺さん・・・オースィ師匠が言う。
「”裏返り”が何かは分からないが、月神の加護を持つものが恨んで死ぬ事で悪い事が起きるんだな?てことはアンデッドみたいになるって事だろう?アイツのそんな姿は見たくない。・・・ならばせめて親友として引導を渡してやるのが、俺の生きている上で最後の仕事か。」
オースィ師匠は何やら壮大な覚悟をきめられている模様。
「委細は違うけれど、概ねその認識でいいかもね。」
自分も裏返りはよく分からないですが、『この世が嫌になったから、えーいみんな死んじゃえ―』みたいな感じって言っても、きっと伝わらないでしょうしね・・・。
「と、なるとまずは情報収集か。」
「あなた、家族はいないの?素人が無理はしない方がいいわよ。邪神の眷属なんて、ある意味そこら中にいるんだからね。」
あなたまで家族を切り刻まれて裏返ったら目も当てられないわよ、とシュンさんが言う。
忠告してあげるなんて、やはり仲がいいんだなと思ったり。
「邪神の眷属!!?まさか!」
「さぁ?好き好んで世界壊しましょうなんて人たちが、他にいるか知らないからそう言っただけだけど。」
と、雑なシュンさん。
まぁ邪教団体に詳しいっていう一般人がいたら怖いですよね。
「・・・アルシオンも何やらそれっぽい人たちに最近攻撃を受けてますので、当事者かどうかはさて置き、向こうも活性化しているのかもしれませんね。」
と、一応自分も話題を提供しておく。まぁ本当に邪神の眷属さんかどうかは知らないですが、あの禍々しい魔法陣とかそれっぽいじゃないですか?あんなの使って意図的にアルシオンを攻撃するなんてまともな人じゃない気はしますけれども。・・・この世界に来てちょっとしか経ってないから、本当にそうかは自信はありませんが。
すなわち何か起こる前触れ?ゲーム的に言うとイベントの開始フラグが立ったというかなんというか。
しかし、これってメインイベントとかなんですかね?ファルディアにメインクエストがあるとか、そういった話は聞いたことないんですが。
「かなり、慎重に調査をするべきか。」
と、悔しそうなお爺さん。どうやら邪神の眷属さんたちはかなり危ない人たちの模様。
自称「邪神を崇めてます」って人達が、マトモなはずもないのだけれども。
「どうせ、素人が調べたって大して何も分かりはしないわよ。今までどうせ嗅ぎまわったんでしょ?彼らには気づかれているはずだし、無害と捨て置れたんだから、そのままがいいと思うわ。それより今、自分達にできる堅実な事からしておきましょうよ。」
と、まともな事を言うシュンさん。
「今できること?」
不信そうな声を出すオースィ師匠。
「そうよ、私たちは鍛冶師じゃない!シュライブングの剣直すわよ!」
生き生きとして語るシュンさん。良い事を言っている風ですが、私情が入ってませんか?
いや、まぁ有難くはあるんですが。
お爺さんも若干ジト目である。
「お前・・・ただ名剣をいじくりまわしたいだけじゃあるまいな・・・。」
「そ・・・そんなことある・・・いや、ないわよ!」
「アホか!!!」
「なによ!!!!あんな名刀、自由に弄りまわせる機会なんてそうないじゃない!」
カーン。
脳内に戦いのゴングの幻聴が聞こえた気がする。
そして、始まる再びの喧嘩。
オースィ師匠とシュンさんの怒声をBGMに、ちょっと軽く目まいがして意識を飛ばしてしまう。
とりあえず情報を整理をすると、シュライブングの剣は凄い剣で、直した方がいいって事。
あと、前の持ち主の方が捕らわれていて(?)裏返っている可能性があるという事。オースィ師匠が埋葬したって言ってるから、埋葬した後に掘り返されたのか、代わりに別の人の遺体を置いておいたのか。師匠は鍛冶師だけど、そこまでして偽装工作をすることに必然性も今の所感じないので、後で掘り返した方なのかなぁ?
・・・しかし、正直自分より強い方が裏返った者を倒せるかは全く分からない。だけど、これからレベルを上げていって強くなれば将来的に倒せるかもしれない。もし前の裏返った持ち主さんと戦闘になるのならば、イベント的に言うと剣強化イベントの最後の方にきっと来るんだろう。シュンさんのセリフから考えてもきっとそんな感じだよね。
となると、やはり何も考えずとりあえずは剣の強化を目指すべきかな。
もしかしたら、どこかにあるかもしれないイベントと何か連動してるのかもしれないけれど、効率的に考えてもゲーム的に考えてもきっとそれが正解ルートだと思われる。
もう一点、世界を廻ってクリートゥス家の縁者の方を探す事。これはきっと、自分自身の強化に当たるんだよね。まぁ今すぐ自分にできる事はそんなところかなぁ。
「とりあえず、何か集めたほうがいいアイテムとかありますか?」
二人の罵声の合間に、差し込んで聞いてみる。
これで怒鳴り合いが収まればいいんだけど。
思わず、顔を見合わせる二人。ホント仲がいいんだなぁ。
「・・・まず特別なアイテムがいるわ。月属性の力があるアイテムよ。この大陸だとなかなか手に入らないか、入っても物凄く高価なものばかり。」
と、シュンさんが言う。ここら辺は腐って・・・いや幽霊になっても昔取った杵柄という事か?
「それでもう一度打ち直してみてどの程度回復しているか見るべきね。本当ならば炉も道具も全てそれ用の物をそろえるべきだけど今の時代そんなものがあるとも思えない。あったとしても散逸してるか、誰かが秘匿しているか、目の玉が出る様な高額になるか・・・。どちらにせよ見つけるだけで人の寿命を終えそうね。」
序盤から難易度が高いですね。
「一つだけなら多分あるぞ。」
「えっ!?」
オースィ師匠が言う。
「というか、お前が俺に預けていった鍛冶道具一式がある。旅用で正式なものではないが、かなり貴重だと言ってたぞ。」
「ちょっと!!!そういう事は早く言いなさいよ!」
「50年も音沙汰がなかった奴がよう言うわ!!!!」
「まぁ、そこはご本人も亡くなっていたわけですし、穏便に・・・」
と、間に入るが、よく考えたら亡くなってるって穏便じゃないよな。
「とりあえず、気にかけておくので欲しいものを教えてください。」
と、再び喧嘩の合間に、割って入って伝える。
どうやらこの二人は似たもの同士で、知的好奇心や具体的な返答が必要な話題を差し込むと、二人そろってそちらに考えが回り喧嘩が止まるみたい?
だんだん餅つきでもしてるような気持ちになってきましたね・・・。大事なのはタイミングとリズムです。
再び顔を見合わせ考えだす二人。
よく考えたら一人は記憶喪失なんだけど、わかるのかな。
「・・・俺はそんな月光属性に対して詳しくない。月関係の素材も聞いたことがない。わりぃな。」
「いえ、特殊な事例だと思うので当然の事かと思います。」
残念ではあるけれどね。
「私が本当は分かっているべきなのよね。見れば分かると思うのだけれども、具体的名前が出てこないのよね・・・。」
おっとここはノーヒントになるのか。
「ですが、先日言ってましたよね。なるべくシュライブングの剣を月光にあてる事、そして必要なものは専用の鉱石や炭、油、水 ?でしたっけ?とりあえずそこら辺を探せばいいですかね?」
月光属性が強い、月光によく当たるもの。そして、刀身自体も月光になるべくあてる事。これは暫く夜の狩りが続きそうだなぁ。昼夜逆転ファルディア生活になりそう。
「砥石もいるのではないか?」
と、オースィ師匠。砥石は考えに至らなかったな。確かに要りそう。
「水・・・は絶対いるわ。後、炭・・・もし再刃なら炭もいるわ。もしかしたら土も。・・・油?油はいるわ。砥石は・・・勿論あった方がいいわね。細かいのから荒いのまでよ。」
ぶつぶつと悩むシュンさん。
「炭は後回しで正攻法で砥いでみるか。水と油、砥石もできうる限り数種類ってところではないか?」
と、助け船を出すオースィ師匠。
「そうね・・・。やってみなければ分からないわね・・・。」
目を閉じじっと何かを感じいっているかの様なシュンさん。
暫く、そのままで考えて、ようやく口を開く。
「・・・多分完全にはそれだけじゃ戻らない・・・。月術士の協力が必要かもしれない。でも、まずは少しだけ剣を綺麗にしてあげたい。そこから見えてくるものもあるはず。まずは、水・油・石を探してほしいわ。正確な名前は分からなくて申し訳ないけれど、『月光属性の強い水・油・石』を見つけたら私に見せて頂戴。」
そう言って見開いて自分を見たシュンさんの目に、一切の迷いはなかった。
鬼才と言われたことだけあるか、それとも本人の覚悟がもとより違うのか。
それは、とても凪いで澄んだ目をしていた。
「たまわりました。」
自然とそう答えていた。元よりアイテムは集める気持ちではあったけれども、この感覚は多分畏敬の気持ちに近いのだと思う。シュンさんの覚悟分だけ、自分が自然と前に押された。そんな気持ち。
とはいうもののどうしたら月光属性が強いってわかるんだろう?
魔力感知を上げろって言ってたし、魔力感知のレベルを上げ続ければその辺わかるのかな?・・・分かりそうな気がする?
じゃあ魔力感知などのレベルを優先的に上げつつ月光属性の情報を集めながらってところでいいのかな。
そして別の大陸にありそうなんだよね。これは大変だなぁと思ったり。主に移動手段が。
とりあえず、月都クレンセーテがあった大陸にいってみたいよね。でも主に移動手段がねぇ。
「わしもその辺りは気にかけておこう。」
と、オースィ師匠も仰る。
「ありがとうございます。」
できるだけ安いとか、”採りに行け”系だと有難いです。貴族から金100枚で購入とか無理な話なので。
「そうと決まれば、辛気臭い話は終りね。」
両の手の平を合わせ、無邪気にシュンさんが微笑む。
「アポリア王国では、どんな炉を使っているの?研磨は?温度は?どこの鉄鉱石を使ってるの?あんな狭い土地ですもの、大型施設は使えないわ。どうやって火力を上げているのかしら?磨きは?水は?威力は?主にどんな獲物を作ってるの?刀身は反ってる?アポリアは直剣メインだったかしら?鋏はどうなの?家庭用とのすみ分けは?」
完全に趣味全開のマシンガントークが始まった。
「お ま え と い う 女はぁあああああ~~~50年前と同じこと言いやがって!!!」
そして、どうやらお爺さんの地雷も踏んだ模様。
「なによ!記憶喪失だから仕方ないじゃない!それでどうなのよ!」
「3日にわたって粘着されて説明してやっただろうが!思い出せ!そのアホになった頭からひねり出せ!」
「名前すら思い出さないのにできるわけないでしょ!」
カーン。
第4ラウンドのゴングが鳴り響く。
侃侃諤諤 。
本当に姉弟みたいで仲がいいんだな、と言ったら怒られるので何も言わないけれども。
早くも頭上に上がってきた三日月を見ながら”早く喧嘩終わらないかな~”と思いつつ、夜も更けていくのでした。
・・・暇なので罵声をBGMに、シュライブングの剣を月光に当てておきますかね。




