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ふぁるでぃあにっき。  作者: コミヤマミサキ
7月 ~ファルディアと日常~
71/444

2-69 幕間 採掘師ガンツ

ちょっと先の8月くらいのお話

 採掘師ガンツの朝は早い。


 リアルで社畜である彼は、毎朝6時起きである。

 19時には仕事を終え、自宅に帰ると20時を回っていることが多い。

 家族はおらず、気楽な独身貴族だ。

 比較的土日は休みの事が多く、いつもなら土日は惰眠をむさぼる。


 ただ、最近は土日でもリアルの朝は早い。

 最近の趣味である完全潜入型VRMMORPGをやる為だ。

 そして、VRMMORPGで彼の作ったキャラクターは髭族。所謂ドワーフと呼ばれるファンタジー定番の種族である。そして、数ある職業を差し置いて、彼が選んだ職業は「採掘師」である。なぜなら、小さい頃から恐竜の化石や地質学が好きだった彼は、ファルディアの中でなら好きに土が弄っていられて、かつ金もかからず楽しめると考えたからである。

 現実で鉱山などに足をのばしたことがあるが、現在の主流は機械掘り、そしてダイナマイトで爆砕するので地層を楽しむ余裕などない。彼の様な素人が入れる鉱山は、ツアーでお金を取り、鉱脈を掘らせるやらせみたいなものに近いか、一攫千金を狙いギラギラと大型重機で鉱脈を探しているようなところ。もしくは、血を血で洗う様な争いをして、傭兵を常に置いているような鉱山すらある。

 誰にも理解されないかもしれないが、彼は自分の手で土を掘り返し、ゆっくり過去に思いを馳せる事を楽しみとしていた。よって金儲けなど考えてはおらず、現実だとトラブルの方が面倒くさかった。日本では、安全な公園や山、採掘跡などはあらかた回っていたし、現実だと土を掘るには権利上の問題が出てきてやはり面倒臭い。ファルディアは彼にとって、気軽に土を掘り返せる新しいフィールドの追加なのである。



 そして、他人とはいささか変わった趣味を持つ彼であるが、本人にとってファルディアは比較的満足のいくものであった。

 まず、ゲームにしては作りこみが細かい。おそらく地質学の監修も置いているのだろう。まだ始めたばかりであるが、赤い土の所を重点的に掘り返すと鉄を含む成分の岩石を発掘することが出来た。赤い砂は酸化鉄を多く含んでいるのだろう。地層がむき出しの所は、ある地帯だけ化石も見受けられたりする。だが、ある時期を境に何の情報も読み取れない地層がずっと続いている。生物も地質の活動もない、無の地層だ。結果的に化石の発掘は少なくなってしまうけれども。というか、ファルディアでは化石の概念があまりない。きっとそれだけ取れないのだろう。

 そして、ファルディアの公転周期は700日ちょっとらしい。正確には把握していないが、リアルでの1日がファルディアでは2日近くになるのに、1年の周期がほぼ同じと聞いたからだ。まるで火星か何かのようだ、とガンツは思う。自転周期もほぼ近い。重力は地球に近いと思うのだが、現場の生物になっている為にいまいちわからない。体感はほぼ同じである。大気も地球に近いだろう。


 これは面白いと思う。ファルディアは地質だけでなく、生物も活動していなかった時期が太古の昔、しかもかなり長い期間存在している。本当に何もない。死の大地だったのだ。

 それが、急に生命溢れ、地質の活動が活発になってる。

 ファルディアに何があったのか。あのOPの様な現象が起き、星としての生命活動が刺激されたのか。それともここは球体の惑星ではないのか?

 ガンツは本人も気づいていないが、思ったよりもファルディアにハマっていた。何より彼にとって良かったのは、どこの土地の所有者が、権利者がなどと言ったことを現実の様にあまり気にしなくていい所である。

 ファルディアには人類未開の地が沢山あるのだ。ふらふらと散歩をし、気の赴くまま地層を見たりして過ごし、時に鶴嘴をふるう。テントで生活しても、野生生物に遭遇して死んでも、死に戻りしてまた復活が出来るそんな気楽な生活。他人とは趣が異なる楽しみ方ではあるが、今日もガンツは露天掘りにいそしむ。



 ここ最近のガンツの行動パターンは以下のとおりである。

 まずログインする。生産者やファルディアの動向などの情報を確認。冒険者ギルドで受けられる依頼なども確認。そして食糧と備品を担いで装備をチェックし気ままに近隣へと散策に向かう。

 本日はアルシオン北西ペイラー岩砂漠 近く。その日は街道沿いの比較的安全地帯で休憩をしていた。このまま、エルフの街の方に向かうか、それとも岩山を探索するか。探索するためにレベルを上げるか。

 そんな事を考えながら、休憩と昼食を兼ねて火を起こし、お茶を飲んでいた。本日は晴天ではあるが多少雲が出ている。赤い岩砂漠にコントラストを落とし、単調になりがちな赤い大地でも目を楽しませてくれる。休憩している場所は少し高い所なので、遠くの森やアルシオンのあたりも見え、自然も満喫出来る。ガンツが最近好んで休憩を取る場所になりつつある。



 すると、いつの間にかいたのだろうか。

 近くに黒い人影があった。本当に”影”である。いつ見かけても見慣れないが影族である。本当に珍しい。影族は基本的に戦いの事にしか興味がないからだ。なぜ自分の側によってきたのかが全く分からなかった。よもやPKだろうか?影族の間で大きなPK事件があったのはファルディアにログインしている者なら大抵知っている。後に続け、という者が出ても不思議ではない。

 いささか緊張しながらガンツは、その人影に声をかける。


「何か用か?」


 すると、人影はハッとしたかの様にガンツを見る。まるでガンツが突然声をかけて驚いたかの様に見える。


「あ、すみません。思ったより景色が綺麗で見とれちゃって・・・。」


 こんな場所があったんですね、と照れ笑いをしたような雰囲気を出して人影が言う。


「こんにちは、自分はサクって言います。今レベル上げをしながら初めてここに来ました。赤茶けた大地ばかりでつまらないところだって思ってたんですが・・・。」


 と言って人影は、なだらかに続いていく大地と森と空のコントラストに再び目を向けた。


「気持ちは分からないでもない。」


 ガンツもここが気に入ってるから、何度も休憩地点に選んでいるのだ。サクという人影からは思ったより純朴な雰囲気が漂っている。何もないように見えるこの岩砂漠で火を起こしていたから、好奇心につられて見に来た、という感じだろう。ガンツの警戒心は当初より下方修正されていた。


「俺はガンツという。」

 そういえば、自分は名乗ってなかったと思い名乗る。サクと言った人影は再び少し驚いたようにガンツを見る。


「・・・ガンツさんはここで何をなさってるんですか?」


 そうサクが聞いてくる。レベル上げにしては少し重装備だからだろうか。違う雰囲気を感じ取ったんだろうか。確かにガンツはこの辺りではプレイヤーとしてもNPCとしても異端であるが。


「採掘。今は休憩中だ。」


「採掘!」


 何が面白いのか、嬉しそうにサクが言う。確かにマイナーではあるが、採掘をしているドワーフはたくさんいる。”そういうの”はみんな鉱山に行って、お目当ての鉱物を狙って掘っているが。



「採掘師の方を初めてみました!」

 確かにガンツもガンツ以外の採掘師を地上ではそんなに見ない。


「あいつらは鉱山の方に普通は行くからな。」


「ガンツさんは何でここに居るんですか?あ、ただの好奇心なので、勿論聞いちゃいけない事なら言わなくて結構ですが。」


 特に秘密としておくこともないが、少し困ってしまう。ガンツにとっても特に深い理由があるわけではないからだ。仕方ないのでそのまま言う。


「特に深い意味はないが、ただの趣味だ。あちこちふらふらして、その辺掘り返すのが好きなだけだ。」


 へーと感心したようにサクが見ている。この影族は思ったより感情が分かりやすい。見かけは完全にただの影なのに何を考えているか伝わりやすい。それともガンツが持っている鑑定スキルが何か作用をしているのだろうか?最もガンツがもってるのは鉱物鑑定レベル5であるが。まだ会ったばかりなので相手が優秀な詐欺師という可能性も捨てきれない。が、そんな詐欺師も大して儲かりもしないガンツの所に来る理由もないだろう。


「もし、ガンツさんがお嫌じゃなければなんですが、よければ採掘してるところを見学させていただけませんか?」


 何を思ったか、件の人物はそう言ってきた。


「は?」


 思わず素で声が出てしまうガンツであった。




 ―――――――――――――――


 特に断る理由もなかったので、「別に見ててもいいが、面白い事はなにもねぇぞ」と告げた。が、それでもいいから見たいとサクが言うので好きにさせることにした。雰囲気として年下と言った風情があるので、なんとなくガンツの中で後輩に仕事を見せて覚えさせる事を思い出させる。そして、そのうちサクという存在が気にならなくなった。いつもの通りやるだけである。

 いつも通り地形を鑑定で読んでいく。少ないインベントリの枠には重い荷物を入れているので移動はリアルより楽である。気持ちと目と鑑定結果の赴くままにフラフラと歩いていく。その後をちょこちょこと、キョロキョロ辺りを見回しながら人影が付いてくる。時折魔物が現れるがガンツが特に興味を示さないでいると、こちらに向かってきた魔物はサクが倒し始めた。ガンツはどちらかと言えば盾職寄りなのでモンスターを懐近くおびき寄せ、近接した時点で、強打で痺れさせて鶴嘴でとどめを刺す方式である。サクはどちらかと言えば攻撃職なのだろう。ガンツに気を使って先行して倒していってくれてるように感じる。まぁいいかと好きにさせることにする。ただ、戦闘の間は少し待つ様にした。サクはレベル上げで来たと言ってたし、こちらが手を出さなくてもいいだろう。


 そんな感じでしばらく歩いていると、森と岩砂漠の境界近く、当初から目を付けていた地面が一部隆起してる場所に出る。やはりここ最近一番気になる場所がここだった。この隆起の場所を境に森が途絶え岩砂漠になっている。・・・否、岩砂漠が断絶させられた可能性もある。地層を見るに、森の方は以前岩砂漠と同じ地層を持っている。時期としては炭素測定器があるわけではないのでよくわからないが、15cmは下である。火山活動などや洪水などが頻繁になければ300年は経ってそうだが・・・この世界には魔法というわけのわからないファクターも存在するので一概には言えない。ここできっと何かが起こったのだろう。そして、この場所が何かの境目。片や岩砂漠のままになり、片や森として急に繁栄しだした何か。褶曲(しゅうきょく)もないが・・・


「ここを掘るんですか?」


 思索にふけっていると、サクに声をかけられた。思ってたより長い間考えこんでしまったらしい。


「・・・ああ。」


 ここを掘る。そう言われればここを掘るのかもしれない。掘ったところで何か見つかるような気もしないが、何が出てくるか多少の興味はある。化石層や岩床も少しはある。



 掘ってみたい。



 何故かそう思った。今までいろんなところを掘ってみたが、そこまで深く考えて掘ったことはなかった。

 鶴嘴を取り出す。大した装備があるわけでもないが、初心者向けの鶴橋だ。赤と白っぽい地層の縞々がほとんどであるがそこに鶴嘴を入れる。


 ———カツン。


 まだ、音としては甘い、少し軽めの音がする。


 ———カツン。


 少し、綺麗に入った音がする。


 ボロボロ。

 鶴橋を入れた場所が破砕される。

 赤さび色の石。少し条痕が入っている。

 世界中で最もありふれていると言われる鉱石だ。


「それなんですか?」

 じっと石を見ていると、サクが聞いてくる。


「赤鉄鉱だな。製鉄については門外漢だが、鉱山のよりはあまり質が良くないだろうな。」

 実際鑑定でも赤鉄鉱ランクDと出ている。

「綺麗な赤なのに、鉄なんですね。」

「血と一緒だ。赤く錆びる。」

「なるほど。」


 本当は黒や茶色、銀灰色などあるのだが話が分かりづらくなるので、そうまとめておく。


「だが・・・ベンガラという酸化鉄顔料もある。実際顔料として使えるのかもしれない。俺は詳しくないが。」


「・・・なるほど。」

 少し嬉しそうな声でサクが答える。

 調子に乗って普段言わないようなことまで言ってしまい、少し気恥しい。

 その気恥しさを振り払うかのように、一心に鶴嘴をふるう。

 サクは暫くじっと見ているようだったが、そのうちいなくなったように思う。

 きっと飽きたのだろうと思い、ガンツは気にせず鶴嘴を振るう。


 出てくるのは殆ど赤鉄鋼だ。後は鉛。稀に水晶。

 黒光りする鏡鉄鋼も出る。

 同じところを掘っているとしばらく何も出なくなるので(ゲームの仕様かもしれない)、場所を変えようとするとサクが戻ってきた。


「ガンツさん~、自分もレベル上げて採掘とってみましたー。鶴嘴は持ってきてないんですが、折れた剣でガンツさんの邪魔にならないところをつついてみてもいいですか~?」

 どうやら居なくなったのは採掘のためだったらしい。


「戦闘職だとあんまり良いものは期待できないぞ。」


 鉱山ならいざ知らず、こんな露天掘りだとプロでもそう当たりは期待できない。


「いいんです。ガンツさん見てたらやってみたくなって。」

 少し恥ずかしそうに笑ってる。


 ガンツは、腹の奥がモゾモゾする様な気持ちになる。変わってるとは言われなれているが、採掘に対して純粋に好意を感じることなど、リアルでもなかったからだ。

「・・・別に俺の土地じゃないし、許可はいらないが・・・。」

「鉱物鑑定取ってないですもん。自分ひとりだとこんなところ掘ってみようなんて思わないですよ。それにガンツさんが先にきたのだから意見を聴くのは当然です。」

 マナーですよマナー!と息まく姿が世間擦れしていなくてかわいらしい。


「じゃあその辺掘ってみたらどうだ?」

 次に自分が掘ろうと思っていた場所を譲る。

「ここですか?」

「そうだ、後これを使え。」

 そう言って、予備の鶴嘴を渡す。自分が一番初めにもらった本当に初期の初期装備だ。

「もう俺が使わない鶴嘴だ。本当にレベル1で使う鶴嘴だから最適だろう。剣だとおそらく何も出ない。せっかくの資源を壊すだけだ。やるからそれを使え。」


「そんな大事なものを・・・。」

「大事じゃないが、予備で何となく捨てなかっただけだ。壊すまでつかって捨てろ。」

「じゃあ自分は大事にしますね。有難うございます。」

 と軽口をたたくサク。短い付き合いではあるが、ガンツはこの人懐っこい、採掘に興味を示した後輩に好感をおぼえていた。

 ガンツは違う採掘ポイントを探しに行き、サクは言われた通りそこを掘り始めたらしい。何事もやってみなければ分からないというのがガンツの持論なので、特にアドバイスなどもせず、好きにさせている。

 自分もそこそこのポイントを見つけ、しばらく掘る事にいそしむ。出るものは大して変わらない。ほとんど赤鉄鋼である。だが、出なくても楽しいのが堀り師の性根だろうか。

 暫く無心に掘っていると突然のサクの叫びに意識が中断される。


「ガンツさんーーーー!なにこれーーーー!?」


 何か変わったものが出たらしい。

 とりあえず見にいくと、変わったものではないが、何とも言えないものがそこにはある。

 赤鉄鉱の母岩に小さめの水晶が内側を覆っている。おそらく赤鉄鉱の間に入り込んだ水晶の大き目の結晶群を砕いたのだろう。そしてその中には黒いつるつるとしたバラを思わせるの花びら。鏡鉄鉱の結晶である。


「これは…水晶と鏡鉄鉱だな。」


「売れます?」

 と、ワクワクとした風情のサク。


「資源としては大した価値がないな。」

 分かりやすくガクッと項垂れる。


 確かにファルディアでは使えるかが重要だ。加工ありきなのである。

 これがリアルなら標本として売れるかもしれないが・・・。

「そうだな、標本としての価値は多少あると思うが、ファルディアでは多分あまり売れないだろう。記念に取っておくのもありかもな。」


「標本ってあれですか?博物館にあるやつですか?」

「そうだ。鏡鉄鋼のバラ型の結晶が綺麗に入っている。量として加工するには大したことはないが、赤鉄鋼、水晶、鏡鉄鋼の入り方も綺麗だ。標本としての価値は多少あるだろう。」

「すごい!」とサクが言う。

 それでも好事家に数万円といったところだろうが。

「もしくは、ばらして水晶部分だけ、はした金でアクセサリー用に売るだけだな。」

「嫌です!せっかくの記念なのでとっておきます。」

 ああ~でも貴重なインベントリ枠が~!と騒いでいる様子が微笑ましい。


 ふと空を見上げると、藍色も大分深くなっていることに気づく。

 自分も大分熱中して掘っていたらしい。


「今日はもう終いだ。移動するぞ。」


 急いでキャンプの準備をしなければ、何も見えなくなってしまう。

 自分一人では死に戻りでもよいが、後輩をそんな目に合わすのも気が引ける。


「はい~!手伝います!」


 ―――――――


 街道より少し森に入った所、少し木々が開けた所に以前からビバークでよく使う場所があるので、そこを使う事にする。

 野宿泊とはいえ、水の場所も分かるし、軽い横穴を掘ってあるので少ない雨ならやり過ごすこともできる。水はけも悪くない。かまども以前使ったのがそのまま残っている。ファルディアの季節的にも夏なので、寒さに震えることもまだない。以前自分が使った後に何度か誰かが使ったことがあるようなので、猟師か商人の誰かがやはりビバークしていったのだろうと思う。


 急いで薪を拾ってくるとサクに告げると、影族は夜目が効くので自分が代わりに行くというのでお願いした。なるべく乾いた物を持ってくるよう頼む。薪拾いも何が楽しいかガンツは分からないが、サクは楽しそうに探しに行った。サクにはきっと分かり辛いであろう、油分を多く含んでいる種類の木々を何本かガンツも探しておく。これがあると火がつきやすくなる。いささか煙の量は増えるのだが。

 以前、火床に使った石が変わらず穴の中に丁寧にしまってあったので、それを取り出す。しけった地面よりは火が付きやすい。かまどの中に平べったい石をひき、自分があらかじめ持っていた薪で火を起こす。同時に夕飯の準備だ。生活魔法で水だけは出す。生水に当たる事が怖いので少ない魔力でこれだけは必死に覚えた。おかげで野宿でも重宝している。そのうち風魔法、火魔法も覚えたら薪の効率がはかどるかもしれないと思う。飯はファルディアで米が見つからなかったので、(あわ)と麦を干し肉で炊いたものだ。凄く旨くもないが、やはり温かいものが欲しくなる。


 リアルで言う飯盒(はんごう)で飯を炊いている最中サクが戻ってくる。

 手に一杯の薪と、何故か毛皮と、葉っぱとベリー類を出してくる。

「マットがあったほうが良いかと思いまして~生肉は獲れませんでしたが、あエルフの人たちが食べてる草とか、ベリーがあったんでそれも持ってきました」

 という。

「有難いが、毛皮は処理していないとダニだらけで食われるぞ。」

 と言うと

「うぇえええええええええええええ!?」

 と叫んでいた。

 ファルディアはゲームなのでその辺どうなってるが知らないが。

 そういえば、皮だけでドロップするので、裏すきだけはいらないのかもしれないが・・・。

 あと、丁寧に処理してなめしておかないと腐るんじゃないかな、と思うがどうだろうか。

 まぁ、暗いし今からそのあたりを身をもって探求したいとも思わなかったので、毛皮マットについては丁重にお断りさせてもらう。


 髭族は頑強なので、地面に寝ても特に問題はない。


 戻ってきたサクと一緒に大して旨くもない麦粥を食べる。

 当初は貴重な食料をとサクが恐縮していたが、毛皮一枚と交換という事で相成った。毛皮の方が高価にも思えるが、授業料込みですと無理やり押し付けられた。

 影族は他の種族程飲食は必要としないらしい。うらやましいと言ったら「光に当たらないとすぐ死にます。」と言われた。影族は植物か何かなのだろうか。

 大して旨くもない麦粥を旨そうに食べるサクを見ていると、少し麦粥が美味しく感じられて不思議だ。

 一人で飯を食う事は気が楽であるが、誰かと飯を食うのも悪くないのかもしれない。そう思う。


 交代で見張りについて寝るかと言ったところ、「月光浴をしないと、多分死ぬのでガンツさん寝てください~」と言われた。髭族はゲームでも寝ないとデバブがつくのだが、影族に睡眠でデバブは今のところ付いたことがないとのこと。ある意味うらやましい。寝れないこともないが、寝るよりも月光を浴びないとヤバいという事らしいので、甘えて寝ることにする。「何かあったらすぐに起こせ。」と念押しをして、ガンツは地面にひっくり返る。


 パチパチとたき火がはじける音。


 さわさわと風が森を揺らす音。


 月光が降り注ぐ大地。


 それら自然の気配に混じって、遠くでサクが戦っているんだろうか?争う様な物音も聞こえるが、本人が大丈夫だと言ってたので信じることにする。



 いつもとは違う塩梅なのに、何故だか少し心地いい。




 ――――ああ、たまには誰かと過ごすのも悪くないものだな。


 そうガンツは思った。




 翌朝。

 まだ、空が白み切る前にガンツは目を覚ました。


 と、同時に遠くから聞こえてくるカツーンカツーンという鶴嘴の音。

 こんな時間から掘っているらしい。

 気を使ってか、なるべく小さい音にしようとしている様で、気の使い方が面白い。

 音は続かず、すぐ暫く聞こえなくなるので、あたりを見回り時折掘る、といった様子なのだろう。


 その様子を想像してしまうと、あの黒い人影がまるで小動物の様で笑ってしまう。

 ちょこちょことその辺りを落ち着きなく歩き回る小動物。

 

 採掘においては初心者なのでたどたどしい。

 その初々しさが逆に可愛らしかった。


 再び、消えてしまったたき火に火を入れる。今度は虫よけも兼ねて干してきた菊科の虫よけハーブも入れる。服などに臭いをしみこませておくと、虫がつきにくくなるので便利だ。

 煙を見たのだろう、サクが戻ってくる。


「ガンツさん~おはようございます!早いですね!!」

 徹夜をしただろうに、相変わらず元気そうである。

「ああ、おはよう。いいのは取れたか?」

「あれ?聞こえちゃいました?・・・獲物がいなかったら掘ってみたんですけど、なかなか上手くいかないです。やっぱり鉱物鑑定がないとだめなのかもしれませんね。」

「まぁ・・・金儲けをする気じゃなかったら、好きにすればいいんじゃないのか?」

 すると、何が嬉しかったのかわからないが、嬉しそうに、

「はい、好きにしてみます!」

 と、サクは答えた。


 ガンツの中で、何かが胸で動くのを感じる。

 この気持ちは何だろうか。

 だが、いやな気持ではない。どちらかといえば、清々しい気持ち。


「ああ・・・。」

 喋りなれていないガンツは、結局それだけの返事で終わってしまう。


「自分、もう少しでログアウトしなければならないので、アルシオンに帰ろうと思いますがガンツさんは、まだここに居るんですか?」

「ん・・・ああ。今日は昼まで掘って、ゆっくり下山の方向かな。」

 ドワーフの街に行くことも考えていたが、何となく今日はアルシオンに戻る事を想定してしまう。


「しばらくこの辺りでフィールドワークされています?」

「堀り、って事か。どうだかなぁ・・・俺は土日メインでログインしているが、その日の気の赴くままだな。」

 街でいい情報がつかめれば、そちらに行ってみたり、たまにはレベル上げをしたり、商隊に紛れ込んだりもする。

「主にいるのはアルシオンか、ラゴかスラハタンデン辺りによくいるが、まぁ移動も面倒だし暫くはアルシオンかもな。」

「自分は、今の所アルシオンがメインなんです。じゃあまた機会があったらお会いできるかもしれませんね。」

 と、嬉しそうに言う。

 こんなむさくるしい髭族のオジサンに会って何が楽しいのだろうか?見たところ、サクは採掘がすごく好き、という感じでもなさそうである。


「俺といたって面白くないだろうに。」

 つい、そう口に出てしまう。ガンツは自分の好きなようにやっているだけである。しかし、ガンツ自身は自分が興味のない事に延々と付き合わされるのは苦痛だし、実際それもあって独身貴族をやっている様なものなのだ。サクの行動原理が理解できなかった。


「えっと・・・。」

 ちょっと困った様子でサクが口ごもる。別に特に責め立てる気もないし、無理やり聞きたいと思ったわけでもないのだが、つい疑問が口をついてしまった事を少し申し訳ないと思う。答えなくていいと言おうと思った時、サクが口を開く。


「ちょっと、お恥ずかしい話なんですが、自分には他界してしまった祖父がいまして。その祖父の雰囲気がガンツさんみたいな感じで、職人!って感じでした。寡黙にコツコツと好きな事をやられている方を見ると、ついこちらまで楽しくなってしまうというか・・・その・・・。」

 別に同一視とかではないんですが、つい何をしているのか気になったり、参加したくなってしまうっていうかその・・・。と小声でツラツラと理由を恥ずかしそうに述べている。


 きっと、この人物は祖父母と共に育ってきたのだろう。そして、良い関係を築いてきたのだろう。生活の一部として染みついているので、ガンツみたいなタイプを見ると自動的に共感してしまうのだろう。そう判断する。


「・・・老けているとはよく言われるが、爺さんに間違えられたのは初めてだな。」

 そう軽口をたたくと、


「なっ!?ち、違います!雰囲気は似てますけど!老けてるとかでは!!!」

 などと本気にして焦りだすので、思わず吹き出してしまう。



 からかうなんて酷いです~!と言ってるサクを軽く笑いながらも、ファルディアで採掘の他にも新たな別の楽しみができるかもしれないな、とガンツはそう感じた。





近未来設定なので、もっと画期的な採掘方法とかもありうるかもしれません。


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