幕間 運営さんとクリスマス
ファルディアでもクリスマスイブの話なので、大分だいぶ先のお話。
そして下ネタが入ります。
「クリスマスだなぁ。」
運営用のファルディアに用意された部屋で、各スタッフ面々が最終調整にあたってる。
全員がこの場にいるわけではないが、時間がかかる作業などはファルディアでした方が時間が長く使用できる。よって、環境さえ整えてあげれば、こちらで仕事をするスタッフも多く、作業効率も上がったのでこちらに運営ブースを設置することも多い。
今回のファルディアでの運営設営場所は、アポリア王国の王城の右尖塔のある物置小屋の一室だ。
NPCにはただの倉庫と認識されていて誰も開ける者もなく、鍵もなくした設定になっている。ただ、運営がその中に空間を広げてそこにイベント対策本部を設置している。
だが、結局はただのプロデューサーの趣味である。
そして本日はクリスマスイブ。
ファルディアには各所で雪を降らせている。
クリスマス討滅戦というネタイベントは用意してあったが、チーフプロデューサーの「クリスマスは家族と過ごすもの!」という意向で、新年イベントは大々的に、クリスマスのイベントは控えめに!というのが今年のファルディアの方針だ。
だが、そのおかげでスタッフの誰も、いまだに家に帰れていない。
新年のイベントに向けた最終調整がまだ完全に終わっていないのだ。
現場ではリアルでも、作業しているこちら側でも、割と忙しい。
「みんな今日くらい休んで帰ればいいのに~。」
ところが当の責任者本人は呑気なもので、そんな事を言って笑っている。
本人は仕事をしているのかしていないのか、窓の外のファルディアの風景を見ている。
この窓も「外が見えたほうが気分がアガる!」という謎のプロデューサー意向により、無駄な技術力を駆使して、プロデューサー本人が開発室に無駄に窓を設置してしまった。特に利益はない無駄な労働である。
ただ、アポリア王国の雪に煙る街並みと、北側の森だけが綺麗に見える。
ちゃんと外からは見えないように偽装工作も完璧だ。そして・・・
「絶対コロスマン・・・。」
「うわぁああ・・・・、おれ間に合う気がしねぇ・・・・。」
「私の方は調整終わりましたよー。食いしん坊の力をなめないでほしいですね!」
「もうだめだー、実家にかえるぅうう・・・・。」
「せめて彼女の家に行け。」
「うわあぁああリア充しねぇええええええ・・・。」
スタッフの方は阿鼻叫喚である。
「そうだ、クリスマスソングをかければ皆の気分が上がるかも!」
「「「「「「やめてください。」」」」」
その場にいるスタッフ全員にツッコまれた。
「チーフプロデューサーとは何だったのか…」などとブツブツ言いながら、当の本人は気にした風もなく、窓の外の雪が降り積もるさまを見ている。
「クリスマスだなぁ・・・。」
「クリスマスイブだろ。」
軽口に参加せずに、黙々と隣で作業をしていた長身の男がツッコんでくる。
事実上のNo.2であり、運営で2番目に偉い男であるが、破天荒なチーフプロデューサーを堅実に支える女房役。スタッフからついたあだ名が『プロデューサーのオカン』である。
「いいんですぅ~。イベントはクリスマスっていうイベントなんですぅ~。すぐ揚げ足を取る男は嫌われるんですぅ~。」
ぷぅと頬を膨らませて軽口をたたく。
「気持ち悪い。」
それに対してバッサリ切られた。
あはははと笑いながら、彼は再びじっと窓の外を見る。
しばらく経つと、長身の男の方がプロデューサーに声をかける。
「・・・そんなに雪が好きなのか?」
「そういうわけじゃないけど。」
彼の眼下には銀世界が広がっている。
針葉樹林にしんしんと降り積もる雪。
雪はサラサラとした雪で、細やかに降っている。
ファルディアの外に出て、よく雪を注視してみれば気づくだろう。
今日の雪は、全て雪の結晶の形で発注をしておいた。
今日だけはこの雪でお願い!と無理難題を突きつけたので、技術部門が泣いたけれど間に合わせてくれた。
おかげで技術部門は六角形に当たるものを迅速に、かつ低コストでランダムで描画するシステムを開発してしまったらしい。無駄に凝っていて温度による雪の晶癖の違いまで織り込み済みで、ファルディアのどこにでも今後は雪の結晶を降らせることができるらしい。どこで役立つかはわからないけれども、今後も何かに役立ってくれたらとは思う。
彼は小さい頃、一度だけ新潟でその雪の実物を見た事があった。
学校の行事で行ったスキー教室だったけれど、降雪があまりない地域で育った彼には、ただ雪が降る事に感動した。だが、降ってきた雪が全て雪の結晶であることに気づいた時の感動といったら今でも忘れられない。
ほんのつまらない感傷だけれども、その感動がほんの少しでも誰かに届けば――――。しかも、このクリスマスという特別な日に良き家族の思い出と共に誰かの心に残り、その人の人生がほんの少しでも良い方向に行けばいい、と彼は願っている。
そんな気持ちで、ずっとファルディアを作ってきた。
「そういえば。」
「なんだ。」
女房役の方は、彼の急な話題転換にも慣れたもので、適当に相槌をうってくる。
彼のこの独特な感性には戸惑ったり、怒り出したりする人もいるけれど、相方はいつもフラットで。
相方の側は何時だって居心地がよかった。
自分が女だったらプロポーズしてもいいなと思って、その発想に笑ってしまう。普通は相手が女だったら、って思うものだと思うのだけれども。この厳つい男が女だったらなんて全く考えられない。自分が女になったほうがマシだという下らない考えが浮かぶ。
少し笑ってしまうと相手に不審げに眉を上げられたので、慌てて続きを言う事にする。
「カヅキ君が小さい頃、珍しく実家に雪が沢山降ったことがあって。カヅキ君、ものすご~~~く喜んで、ゆきだるまを三つも作らされてさぁ。翌日腰を痛めた事があったなぁ。」
「いい歳なのに張り切り過ぎだろう。」
容赦なく切り込んでくる。
「でも楽しかったなぁ、雪だるま。」
「ああ。」
「本当にさ、楽しかったんだよー。」
窓の外には相変わらず、止むことなくしんしんと雪が降っている。
本当にあの頃は楽しかった。
思わず笑みがこぼれてしまう。
出来る事ならあの時間に戻りたいけれど、もう戻れない。
これまでやってきたことに後悔はないけれども、時々こんな風に思い返してしまう。
――――『もし、あの頃に戻れたら。』
もし、同じ時間に戻って同じ選択を迫られたとしても、きっと今と同じ道を辿るだろう。
後悔はしていないけれど、どうしようもなく懐かしくて愛おしいあの時間。
「カヅキ君には、悪い事をしたなぁ。」
未だにそれだけが、心残りなのだけれども。
いや、心残りなんて沢山あるし、後悔だって沢山あるけれど、いつだって一番気になるのは息子の事で―――――。
【チャHならぬ、ファルディアでVRHしてる、みなさぁああああああああああああん!!!!】
どっかのアホがアポリアの広場で大声で叫んでいるのが、町はずれに近い運営にまで聞こえてくる。
VRでも飲むと酔っぱらう設定になっているので、酔っぱらった挙句、誰かが凶行に及んだのだろう。
ちなみにファルディアでもR18以上で個人情報確認が認証取れれば、あれでナニはできなくはないが、セクハラ一発退場もありうるので大いなる危険が伴う行為である。ちなみに相手が未成年の場合はリアルで捕まる仕様になっている。
「今はVRHっていうのかー。」
「アウトだな。」
【クリスマスイブに、VRでしかHできない、みなさぁああ、アッ。】
唐突に慮外ものの叫びが途絶える。GM的にもR-15のゲームなのでアウトであるが、例えGMに呼ばれなかったとしても、ファルディアのNPC的にも夜中に大声で叫べば確実に捕まる。
「召喚された。」
「俺、通報したわ。」
「召喚されたな。」
「ようこそGM部屋へ。」
「ウケる。」
「気持ちは分かり・・・いや、やっぱわからねーな。」
「最速だな。」
「迷惑行為で警告かな。」
「ペナルティー1週間のログイン停止に、このカシ○ミニを賭ける。」
「ファルディアにカ〇オミニなんてあるかよ。」
「カシ〇ミニって何ですか?」
「マジか。」
「エロ〇カを知らないとか。」
「えっ!?そっち?」
「うちのスタッフは優秀だなぁ。」
あははははと責任者は呑気に笑ってる。
自分が・・・いや、もはや自分の手をほとんど離れて、自分達の手で作り上げたファルディアには多くの人間がプレイしている。
良い事も悪い事も、沢山経験して思い出に残してくれればいいけれども。
でも、まずはスタッフが家族を大切にすることが大事だ。
自分と同じ轍を踏ませてはいけない。
よし!、と彼は決意を新たにする。
「・・・おい、お前、今何を考えた。」
長年の経験から、責任者が良からぬ決意をしたことを女房役が敏感にかぎ取る。
「えー・・・。大した事ないよ~。・・・みんな~!今日はクリスマスだしもう帰ろっか?残業したって、できないものはできないよ。今日は休も?」
ヒィイイイイイ!と次々に悲鳴を上げるスタッフたち。
えーそこは普通喜ぶところじゃない?と小首を傾げる責任者。
「やめてください!主任のソレに何度酷い目にあった事か!」
「一時の快楽に身を任せて破滅をする人を何度見た事か!」
「ある意味麻薬っていうか。」
「主任と違って僕らは普通の人間なんです!むーり無理無理。」
「そう言って毎回何とかなってるじゃない。」
いやぁああああああと悲鳴を上げるスタッフ。
「だーめー。家族がいる人は即ログアウト~。30分後にうちの部署、全部消灯しちゃうプログラム組んじゃったからね~。」
「「「「そんなアホな事に時間割いてないで、仕事しろぉおおおおおお!」」」」
「僕の分は終わっちゃったよ~?」
「これだから天才肌は!」「人でなし!」といった悲鳴と怒号が巻き起こりながら、次々と覚えてろよ!とログアウトしていく人々。
「あ、明日も電源つかないようにしておいたから、明後日から死ぬ気でよろしくって言っておいて☆彡」
まだログアウトしておらず、急いで保存をかけている残ったスタッフから「ヒィイイイイ!!!」という悲鳴が漏れた。
「管理システムに潜り込むとか!」
「これ管理会社にばれたら不味くね?」
「だがしかし、管理会社もうちの子会社なわけで。」
「あ、主任あっちにも携わってたかも!」
「やべぇ…確信犯だやべぇ…」
だがしかし、こうなっては彼はテコでも譲らないとみんな知っている。結果的に上司に向かって「覚えてろよ!」などと暴言を吐くだけ吐いてログアウトしていった。
20人はいたスタッフが部屋からいなくなると、さすがにシンとして静かである。
「いいのか?」
今更、女房役はそんな事を聞いてくる。
「いいんだよ。みんな半分僕の事気を使ってくれてるんでしょ?大きなものはとっくに終わってるし、残ってるのは調整だけ。クリスマスはやっぱり家族とかで過ごしてほしいし。」
それに・・・と彼が言葉を続ける。
「今年はお正月をあげられないかもしれないから、今のうちに・・・ねぇ?」
「悪魔だな。」
そうバッサリ切り捨てた女房役の様子に、思わず笑いが漏れてしまう。
彼にかかれば、なんでも大したことが無い様に斬られてしまう。
それがとても、心地よい。
どんなに自分が正しいと信じていても、それでも迷う時―――。
いつもこの男のシンプルさに救われてきた、そう思う。
「こればっかりは僕自身にもどうしようもないから、仕方ないよ。」
そう言って彼は、微笑を浮かべながら窓の外を見る。
外は何処までも白く白く、白銀の世界で――――その白さが雑念や迷いを消してくれる様で。
自分の中にも静謐な何かが降り積もっていくようで、心地よい。
「・・・じゃあ、そろそろ可愛い部下の為に、僕が代わりに一仕事しておきますかね~?」
「お前が作り上げたものは、バランスが宇宙的すぎて理解できない!ってこの前スタッフが泣いてたぞ。」
「そう言われてもねぇ?」
ちょっと贅沢じゃない~?って笑って作業に取り掛かる。
元々考えていたものもあるし、こっそり盗み見て事前に準備していたパーツもある。
スタッフの自主性を日頃は優先しているが、せっかく追い出したからには、好き勝手に改造してやろうと思っている。
いたずらを仕掛ける様なやり取り。
こういうやり取りも嫌いじゃない。
「新城は帰らないの?」
「ああ。」
と、渋くうなずく相方。
「上司の命令くらい聞こうよ~?」
「問題ない。既に有給を取得して、自宅からログインしてるからな。」
「うわー確信犯だ・・・。」
自分があらかじめスタッフを帰そうと計画していたことなど、相方にはお見通しというわけか。
まぁ、去年も一昨年も同じことをやってれば流石に分かるのだが。
「仕事は嫌でもあるし、・・・今年くらいはいいだろう。」
この男にも感傷というものでもあったのかと、酢を飲んだような顔になってしまう。
「まぁ君がそれでいいっていうなら、僕はいいんだけどね・・・。」
あれ?これは先にプロポーズしたほうがいい流れなのか?などと馬鹿な事を考えてしまう。
「それでいい。」
そう言って、彼の女房役は何事もなかったかのように仕事をつづける。
新城の仕事は主に渉外関係が多い。メディア向けの広告やらインタビュー、病院や飲食方面などの多岐にわたる。仕事は増やそうと思えば、いくらでも増やせてしまう。だが無理して今日あえて徹夜をしなければならない程この男が仕事を貯めているとも思えないわけで。
「そっか・・・。」
言葉にはお互いそれしか出てこなかった。
けれど、ただ二人で仕事をしたクリスマスイブは、華はないけれど何処までも居心地が良くて。
何となく忘れられないクリスマスになった。
漆〇教授でもいい
なお開発した描画システムは、映像投影技術系と医療系で採算が取れた模様。




