2-66 裏返り
とりあえず、南門まで兎君を探しに行ったが見つからなかった。
門番の方に兎君を見なかった聞いても見ていないとの事。何があったのかを聞かれたので、「兎を撫でたがる厳ついおじさんに迫られて、怖くて逃げたのではないかと思います。」と言ったら、あーって顔をされた。
何かあったら教えてくれる、との事なのでありがとうございますとお礼を言って戻る事にする。
・・・今日はどうしようかな。兎君の事だから心配はしていないんだけれども。
どうしようか考えながら、とりあえず宿がある北側の方に足を向けながら、のんびり歩きだす。
それより自分の身を心配したほうがいいのかも?
何で襲撃されたのだろう?
まぁ理由は色々考えられるよね。兎君とか、影族だから気に入らないとか、魔法陣見つけたから報復とか・・・それはこっちだとあんまりないかな?時期が早すぎる気もする。ワープでもない限りは・・・いやぁ?やっぱあるのかなぁ、ワープ。
ログイン時間、残り3時間ほど。外に狩りに出てもいいのだけれども。
でもお金払ってまで戻ってくるほどでもない。
せっかく宿屋を長くとったわけだし、今日は宿屋で出来ることをしようか。
兎君も帰ってくるかもしれないしね。
本の続きを読んだり、ステータスを確認したりとか。
月もないし、PNTも多少減ってるだろうし、あまり無理したくないよね。
そういえば、アポリア王国の街中でのスキルの利用は原則禁止されている。
抜刀だってホントは駄目だ。
スキルの使用が許されているのは感知系だ。
魔法感知とか、鑑定とか、気配察知とか。
鑑定も、人物鑑定はマナー違反になるらしい。
・・・自分も鑑定されているのかな?きっとされているだろう。
後は緊急時。
先ほどみたいに襲撃された時などの応戦には、咎めだてをされない。
ただ、実証が難しいのが難点だ。先ほどは大勢の目撃者がいたからお咎めはなかったけれども。
・・・あれ?
まさかのまさかで、自分を助けてくれようとした、とかそういう事はないですよね?
だからって、あんな危なそうな魔法投げる事もないですしね?
若干一名、へんてこな友人の顔を思い出してしまった。
いや、いくら遠隔攻撃だからって、魔法だから違うよね・・・ハハッ。
気付かなかったことにする。この思想は危険だ。
・・・。
物思いにふけって、ただ街中を歩く。
先ほどより人の流れは減っている。
世界は殆ど濃紺色で、オレンジの魔法明かりが街中に灯り始めている。
魔力感知を得てから初めてまじまじと街中をみるけれど、色々なものが違って見える。
具体的にどうともいえないけれど、魔力を感知しているとは別に、視覚的にも影響を受けてる。
これは闇視との影響だろうか?
他の人の所感を聞いてみないと分からない。
魔力灯を使っているところが、松明よりも明るく見える。
かといって光量が強いというわけでもない。
なんか、キラキラ・・・・?感じる・・・?
自分の語彙の芸術的センスのなさに、うんざりする。
よく目を凝らせば、石やレンガの淵なども淡く光っている様にも見える。
でも、そのレンガの隙間などから生えている雑草などの方がみずみずしく見える。
やはり、これが魔力?
【魔力感知が2レベルに上がりました。】
おおお・・・。
やはり魔力感知の影響なのか。
でも、感知としては殆ど感じ取れていないところも『視覚』だと見えている気がするんだよね。
たとえば、さっき見た雑草。この光が魔力だというのだとしても、魔力の気配としてはほぼ感じられない。でも視覚では違いが分かるんだよね?
何でだろう?
普通逆ではないでしょうか?目に見えないところも気配が感じられる!とか漫画でよくあるよねぇ・・・?まぁ複雑な事はよく分からないので、色々魔力感知で見ていくとレベルが上がるみたいだし、面白いからいいかと思う事にする。
そして、思い出すのはアルシオンでの広場のモニュメントだ。
月の光を集めてキラキラと銀色に光るモニュメント。
あれ、魔力だったんじゃないかなぁ。
魔力感知を使いながら一度見てみたい所。
きっと凄くきれいだろうなぁ。
そして、暫く街をゆっくり歩きながら観察してて気づく。
基本は魔力はキラキラしているみたいだが、たまに黒ずんでる?そういった魔力がある。陰属性とかそういうことなのかなぁ?と思って見ていたんだけれども、影属性?っぽいのと、そうじゃないのがある。
例えば、あそこの冒険者さんだと、軽装備で見た目はシーフ職の様に見える。身のこなしが軽やかで気配が薄い。そういうジャンルの方が持ってる魔力、これは影属性の気がする。散々アルシオンで感じた、馴染みのある気配がする。
だけど、あちらの通路でぐでんぐでんに酔っぱらっている人。一般の人に見えるのだけれど、彼の輪郭がよく分からない。全体的に滲んでいる?気がする。そして黒っぽい魔力だ。
あれは一体何なのだろう?
歩く普通の人を見る。
色々な属性?なのだろう。赤かったり、黄色かったり、緑だったりするが、大きいにしろ小さいにしろキラキラ、生き生きと不規則に明滅して力強く光る。たまに色が変わったりする。感情の変化かな?
無機物や草花は淡く優しく、ゆっくり呼吸をしているかの様に光っている。
街灯は均一な感じ。もしかしたら高速で点滅しているのかもしれない。何となくそんな気もする。電灯の交流のイメージなのだけれども。
でも、あの酔っ払いは?
さっきからあまり動かないけれども、多少は動いているから死んではいないと思う。ほぼ泥酔だけれども。
何が自分はそんなに気になる?
気配察知でも人間だし、魔力感知でも、魔力が普通の人並みにあるのは分かるけれど、魔法がかかってそうだとかは無い。だけど、魔力感知を使いながら目で見ると違和感がある。
あまり見るのも失礼だと思うのだけれども、気になってしまう。
うーーーーん・・・・。強いて言うなら、汚れた魔力?
汚いというより、煤の様な・・・?
影属性の魔力がサラサラとしているなら、こう得たいが知れないというか、バフバフして粉っぽいというか・・・????
うまく言えないですね?魔力感知レベルが上がれば分かるのかな?
―――――――――ゾクリッ
不意に体に悪寒が走る。
第六感か?!と一瞬思ったんだけど、そうじゃない。
目の前のよっぱらいの男から、目が離せない。
危険?いや、危険はあるとは思うが、そうではない。
そういう事ではない。
体が先に理解をしたみたいだけれども、頭が追い付いていない。
体が感じる、嫌悪感、忌避感、虚無感、――――そして憐憫?
”アレ”は、正しくないもの。
”アレ”は、歪んだもの。
”アレ”は、世界を拒絶した。
”アレ”は、反転した―――――――反転した?
そうだ、今まさにこの男は反転したのだ。
この世のものから、この世ならざる者へ。
秩序から、無秩序へ。
世界の理から離れ、混沌の理へ。
「・・・裏返った?」
頭が結論を出す前に、口から言葉が漏れる。
・・・だが、正しい気がする。
そして見えてしまう。
まるで、影族の人みたいに、言葉を吐くように、魔力に乗って”あの男の意思”が見えてしまう。
『何で俺ばっかりが、こんな目に。』
―――俺は誰よりも一生懸命、ここまで働いてきたのに。
『アイツらは、何も分かっていない。』
―――誰よりも働いた。なのに、なのにこの仕打ち!
『一体誰のおかげでいい暮らしが出来た思ってるんだ。』
―――なのに裏切られた。一番目をかけ世話をしてやったのに。
『所詮、世の中は金じゃないか。』
―――金がない時代、どれだけ苦労したか。
『裏切って何が悪い。』
―――俺も散々裏切られてきた。でも仲間だけは裏切った事は一度もない!!
『俺が一番正しい。間違ってるのは世界だ。』
―――どんなに努力しても報われない、この世界など。
『こんな世界など―――――――――滅びてしまえばいい。』
―――滅びてしまえばいい!!
気持ち悪い。
声がダブって聞こえる。いや、”見える”。
普通の人間の心の声など『見える』はずないのに。じゃあ”アレ”は何なんだ?
一体ナニになった?
何でこの世界に存在する?
なんで?
なんで
なん・・・
ポン。
不意に、誰かに後ろから肩を叩かれる。
物凄く驚いたと思うのに、体はフッと軽くなる。
「あ、あれ?」
自分は今何を考えてた?
慌てて振り返ると、真っ白いローブの様な服を着た、見た事もない若い男。
くすんだブロンドに、長めの前髪にサラサラとした長髪。営業用と言った笑顔を浮かべている。
共通したイメージを持ったのは、アルシオンの高位司祭テルメさんだ。
―――アポリアの神殿関係者?
「ダメですよ。」
それだけ言うと、白い男は自分をかばう様に、スッと酔っ払いの方へ、進みでる。
それだけで、空気が大分軽くなった様に感じる。
―――今までこんな空気が・・・いや、魔力だろう。禍々しい気配だったことに今更気づく。
魔力感知でも今ならちゃんとわかる。
気持ち悪い魔力が、後から後からあの酔っ払いの男から溢れてる。
先ほどまでこんな様子ではなかったのに。
これは・・・。
視界いっぱいに広がる黒い魔力。
ここまでになったら、魔力感知がある人なら誰でも気づくだろう。
どうして自分は今まで全く気づかなかった?もしかして自分も汚染されかけていたのか?って思うとゾッとする。
酔っ払いの方に目を戻すと、いつの間にか白い服を着た男がさらに4人ばかり集まっている。やはり神殿関係者なのだろうか。だが、その男たちが来ると、飛び散っていた穢れた魔力が大分抑えられているのが分かる。
冒険者としてぺーぺーとはいえ、自分の気配感知も魔力感知も全く感知されないで視界に入ってきたので、この白い男たちは相当な手練れなんだと思う。
こんなヤバい場面でも全く動じていないし。
白服の男たちは、4人で男の魔力を抑え込み、そのまま泥酔した男を支えて運び出す。
自分の肩を叩いた男は、それを見守り指示を出している。きっと一番偉いのだろう。
泥酔した男は魔力が禍々しい以外は、見た目は普通の酔っ払いと変わらない。
神殿関係者が酔っ払いの保護に仰々しくも4人で当たっているだけ、に見える。
その男、どうするんだろう?
産廃にでも個人的には出してほしいところではあるが、生きている方だしそんなわけにはいかないだろう。だけど、あのまま魔力を垂れ流すと、集団自殺とか気が狂ったりとか大変なことになりそうな・・・?ならなくても本人が酔いから醒めたら、その辺の人を殺してしまいそうな心持ちだったけれども・・・。
「今はまだ殺しませんよ。」
後ろを向いたまま、先ほどの白い男が答えてくれる。
あれ?自分心の声が漏れてました・・・?かね?
「影族の方は、魔力をほとんど意思伝達に使用しているので、魔力感知を極めている者には表層ぐらい読めますよ。」
まじかーまじかー。
うわぁどうしよう・・・。どうしようもないか。特に不穏な事はかんがえていないよね?多分。少なくても捕まるような事はないはずだし、多分大丈夫だろう。
クスッ。
自分のその「まぁいっか」って考えも読んだのだろう。白い人が笑う。
あれ?という事は、自分は今まで魔力を目で見ていたのか・・・?魔力感知まで取ったから闇視がやはり強化されたのかな?
「余計な事を考えていられるとは、かなり余裕がありますね。その分なら大丈夫でしょう。汚染された魔力にあてられた様でしたが、後遺症などは無い様ですね。」
「魔力にあてられた?」
あれは、やはりそんな様な状態なのか。
「そうですよ。『裏返った者』を見たのでしょう?運が良かったのか悪かったのか。弱い者ならば自覚もなく一瞬で一緒に裏返りますから、近寄るのはあまりお勧めしないですよ。完全に裏返ると『処分』しなければならなくなりますから。」
これは暗に弱いから近づくなと警告されてるのでしょうか・・・。弱いのは分かっているのですが、まさか街中にそんな危険物が落ちているとは思わなかったですよね?避けようがないのでは?
「そういう意味だけではなかったのですが、・・・面白い方ですね。さすが、我が君がお認めになるだけある様です。・・・あの彼は、あれで”まだ完全じゃない”んですよ。アレでもね。だから今後は似たような物を見つけたら、先にお知らせしてくださると助かります。もしくは逃げてくださいね。」
お知らせ・・・。
それは、神殿に直接?という事でいいのでしょうか?それともピカ神様に?
そういえばピカ神も言いに来い!って言ってたけど何処に言えばいいんだろうか?ただ何となく世界のどこにでもいそうだから、本当に言おうと思ったら聞いてくれそうな気がするけど、まじめな人だし。
さすがに、このお兄さんはそんな芸当無理だよねぇ?
「・・・・・・・・・・神殿で大丈夫ですよ。ええ、私も我が君も。ええ。本当に。」
なんだろう、この微妙な雰囲気。なんかすみません?
「いえいえ、大丈夫ですよ。なかなか周りにいないタイプの方なので、ちょっと戸惑ってるだけです。ええ。・・・そうですね、私の名はパパヴール。アポリア神殿渉外部門対外敵対策本部室付参謀顧問ですね。神殿6課で分かりますので、何か”アレ”の事があれば私に一度ご相談ください。」
「分かりました。ご丁寧に、ありがとうございます。」
二コリ。と、外向きの笑顔でお兄さんが笑う。若干胡散臭い。
残る四人はすでに大分歩みを進めている。
「それでは、私はこれで。」
と、パパヴールさん?も挨拶をしてくれる。そのまま神殿の方に歩いて行く後姿を見て、ふと思い出す。
「・・・・・・あ!」
そうだ、最後にどうしても一つ聞いておきたいことがあったんだ。
「・・・なんです?」
ちょっと不審そうなお兄さん。いや、そんな大したことではないんですが。
「ただの好奇心なんですが、神様が裏返ったらどうなりますか?」
本当にただの好奇心。でも、自分には大切な事だ。
一方白い・・・パパヴールさん?は、絶句し、口を開けたままだ。
あー・・・。まずい事を聞いてしまったかな―?コレ。
う~ん、でも偉い人みたいだし、まぁいっか。
「全然、まぁよくないですよ・・・。」
疲れ切った顔で言うお兄さん。
「・・・正直今の話は聞きたくなかったというのが本音ですが、・・・道理で我が君が最近神殿を多く空けられるわけなのですね。―――今のを見たでしょう?ただの人でさえあの様になるのです。存在を諦め、魂の自壊を始め、全てを破壊して巻き込み壊れようとする。ましてや神がそうなったら、鎮めるために何人の神が喪われるでしょうか。―――たとえ世界が無事だったとしても、その後破滅が待っていないとも限りません。恐ろしい事です・・・。」
道理でロロージア様が「いっそ完全に壊れてくれた方が」というわけだ。
「あーーーーー!!私は何も聞きませんでした!!いいですね!!あーーー!!!」
と、耳を押さえてる白神官?パパヴールさん。涙目である。ちょっと面白い。
あっ。そういえばこの方には自分の思考など聞こえるんでした。
なんか、すみません?
「本当ですね!?思考が聞けて今日ほど後悔した日はありませんよ!?普通逆でしょ?!アドヴァンテージ取られることを気にするとか!!!?」
でも、自分が考えても考えなくても、実際世界を壊そうと動いている人たちがいるみたいですし?何も変わらないのではないですか?実際アポリオンは現在攻撃を受けてますしね。
「ちょっと!やめてくださいよ!何処まで沼に引きずり込む気ですか!」
ちょっと涙目になってる白神官?さん。ちょっと面白い。
死なばもろともと言った感じがしますが、自分が勝手にトラブル沼に引きずり込まれているので、何かあったらご相談させてくださいね~。
名など明かすのではなかった・・・とブツブツ言いながら神殿の方に帰るパパヴールさんの背を見送った。
無駄にその背に哀愁が漂ってる気がしたが、多分自分のせいではないと思う。
知らないけど。
あと、1話か2話で7月の話(本編)が終わるといいのですが・・・




