2-65 幕間 運営さんの話 ①
かなり暗い部屋の中に、5名ほどの人間が顔を突き合わせている。
「ここまで見つかってる消去対象バグのデバックはすべて完了しました。」
「イベントの準備進行状況は予定通りですね。今の所致命的なバグも見つかってません。」
「ソムニウム側の問題も、今の所大きなものはありません。エスペランサが予期しない行動を多少とったくらいで、許容範囲内です。」
「エコーストーンも問題なく動作しております。当初の予測通りですね。」
「ユーザー側は?」
「今の所、大きな問題はないようですね。」
「ユーザーの4割はアポリア王国とアポロディアにいますから、開拓ムード一色ですね。生産者などが籠ってて出てこない事例はありますが、各々適切な場所に散っている感じがありますね。」
「獣族だけが、何故か若年層バトルロワイヤルモードになっていますが、あそこは元々種族がそういうところなので、予想範囲内かと。」
「プレイヤーキラー扱いにならない、PvPの実装を強く希望する声が届くのもそこだな。」
「このままだと、闘技場とか自力で作っちゃいそうな勢いですねぇ。」
一通り報告という話の流れが終わると、一番大きな人影が、奥にいたもう一人の人影に向き直る。
「だ、そうだが何か言いたいことはあるか?」
「僕からは特にないよ~?みんな良くやってくれてるしホント偉いよねぇ。このもみじ饅頭の味もサイコーって伝えておいて?」
「お前ふざけてる場合じゃないぞ?」
大きな人影はため息をつく。
「俺は何度も口を酸っぱくしていっただろう?あの影族の仕様はいただけないと。案の定アホが湧いて、せっかくの種族が一つ潰れたようなものだ。上も説明を求めるって煩いし、下手するとお前潰されるぞ?」
「へーそうなんだ~?」
といって、聞かれた方の人影は特に気にも留めず、口にもみじ饅頭を頬り投げる。
「お前なぁ!?」
「まず。」
怒りで声を荒げようとした男を遮るように、奥の人影は言葉を続ける。
「アレは必要なプロセスだった。」
「殺し合いが必要なプロセスだというのか。」
「そうだよ?影族なんてやるんだから、ある程度の殺し合いは覚悟してるでしょ?」
何でもなさそうに声は続ける。
「今まで整合性が取れていた世界に、”霧向こうの民”達が押し寄せる。これが”占いの神”が予言したものだ。それの問題点が端的に表れたのが、あの事件だった。…僕はね、どっちでもいいと思ったんだよ。ユーザーに任せて事件が起こっても、誰かが音頭をとってお上品に過ごすルールができてもね。僕たちは神じゃないから、ある程度は予測はできたとしても、真に全体を全て見ているわけじゃない。そして、この物語はユーザーの物だ。だから世界を形作っていくという点ではね、あの事件は限りなく正解なんだよ。ただのゲームじゃなくて、ユーザーはもう一つの世界を追体験してるんだ。VRじゃなきゃ、できなかった仕様だよ。」
「だが問題になってるだろう。」
「そう、今だけね。そしてその問題は高次AIに変化をもたらした。そこまで”霧向こうの民”が起こさせたんだよ。確実にファルディアの世界を変えていく。彼らが、ユーザーが、どこに向かうのか、何を願うのか。それが大事なんだよ。」
「そうはいっても上は納得しないだろう。裁判までいくかもしれないぞ。」
「納得させるさ。『これはユーザーが新しい世界に入り込んだから、起こせる変化だ!』『最新技術、新しい時代の幕開けだ!』とでも言えばいい。実際そうだしね。」
「ユーザーは?」
「そのまま伝えればいいさ。あえて問題点を残したと。ユーザーがどういう風に世界や問題に触れ、それを解決していくのか、それもゲーム内容に含まれていると。そして考えてほしいと伝えるんだ。これからファルディアをどう変えていきたいか。どういう風に過ごしていきたいかと。ファルディアは、ただ定型の物を遊ばせるゲームじゃなくて、仮想世界をユーザーが作り上げるゲームなのだと。」
「納得しない者もいるだろう。」
「それは、いつもじゃないか。」
と言って、奥の男は軽く笑う。まるで何でもないという様に。
「何をしたって、何を作ったって好きな者は必ずいるし、どんな名作だって嫌いな者は必ずいるんだ。そして、嫌いな者の声の方が、大きくて目立つ。ただ、それだけのことだよ。今回の事がなくても裁判は遅かれ早かれ、いずれ何か起こるさ。今回の事はその予行練習だと思えばいい。絶好の機会だ。」
難しい顔をして押し黙った大きな人影に、奥の男はなんてことはないと軽く笑う。
「こちらが一定の信念をもって、きちんと対応すればいい。ごまかしや虚妄じゃなく、プレイヤーに真摯な姿で挑めば納得してくれる。その程度の問題だと、僕は今回の事は思うけどな。すべて管理されて遊ぶゲームって、それはそれで楽しくないよ。」
うんうんと、うなずきながら、もう一つもみじ饅頭をほおばる人影。
「もちろん不正には起こった後で調査したあと、きちんと厳正に対応するさ。被害者にもケアをしただろう?でも事件が起こる前に、何でもかんでも先回りして規制するのは間違っている、と僕は思うよ。ファルディアにはいたるところで余白が残っている。ユーザー同士が解決するのも、NPCを巻き込んで解決するのもユーザー次第だ。ファルディアはそういうゲームだと僕は思ってきたんだけど、違う?」
「・・・わかった。お前がそこまで言うなら、そう対処しよう。だが、役員にはお前が説明しろよ。俺は嫌だからな。」
「ちょりーす!」
「アホな返事するな!」
まぁまぁ、と今までの流れを息を殺して聞いていた他のメンバーが、大きな方の人影を諫める。
「主任はいつものことじゃないですか。」
「完全におバカキャラなのかと思ってると、稀に本質をついたことを言うんですよねぇ・・・。」
「オフとオフの差が激しいんですよね・・・。」
「それ、全部オフじゃない!酷いなぁ。」
と軽口をたたき返して、奥の男は朗らかに笑っている。
「一番最初のイベントはもうすぐかぁ。楽しみだねぇ。」
「すぐ10月のハロウィンイベント来ますよ。」
「岡田君が城一個丸々作り上げちゃったもんね。」
「いまからイベントのレアフラグとか各方面に投げてるらしいですよ。早くないっすか。」
「むしろ次のイベントが霞む勢いなのでは・・・。」
「その次のイベントどうしますかねぇ。」
「1月は正月イベって決まってますものね。」
「クリスマス的なイベントを前に一個挟む感じかなぁ。」
「はぁ~・・・リアルでも彼女ができないのに、今年もファルディアでクリスマスを過ごしそう・・・。」
「まぁ9月辺りは第2陣が入ってくるから、その調整もあるしねぇ。目の前の事を、一個一個着実にやっていこうか。」
「はい。」
「了解です。」
「任せてください!」
「新城~?今日はこれで終わりでいいの~?」
と、一番大きな男に聞く。
「ああ。」
「じゃあ今日のミーティングはこれでしゅーりょー!僕はエスの所に行ってくるから、何かあったらメールください。お疲れ様~。」
「お疲れ様です~。」
「またです~。」
「お疲れ様です~。」
もみじ饅頭と一緒に掻き消える奥の人影。
他のメンツも、やれ進捗はどうだとか、あそこのゲームバランスはどうだとか口々にいいながら挨拶を交わし、また一人一人と消えていく。
最後に残った新城と言われた男は、暗い部屋の中で。
しばらく、じっとそのまま、もみじ饅頭の男が消え去った空間を眺めていた。
次に来る幕間の関係上、ちょっと中途半端な場所に入っております




