2-64 襲撃
短めです
受付のお姉さんにお礼を言ってギルドを出る。
勧められたクエストも常設依頼が多かったので、今受けなくても大丈夫な奴だったから後回しにする。
ギルドを出ると、気配察知に反応がある。後をついてくる人が・・・ひーふーみー・・・15人!?
大漁ですね。
全部が敵かは分からない。
プレイヤーだったら、一対一なら、そこまで負ける気もしないのだけれども。残念ながら多勢に無勢だ。
兎君みたいに、かわいらしく見えてめっちゃ強い奴がいるかもしれない。油断大敵である。
さてどうするか。
とりあえず、魔法が一番危ない。
スキルの取得可能リストから魔力感知を取る。コストが若干安くなってた気がするのだけれども、きちんと見ている暇がない。
途端に違和感を覚える風景。
様々な場所に魔力が溢れているのを感じる。
世界が全く違って見える。
これは、凄い・・・と思うんだけれども。この感覚に浸りたいのに、ついてきた人たちが許してくれそうにはない。
とりあえず、まず何でついてきたんでしょうね?
自分についてきても、実は利益があまりない。
兎君を拉致するため?
これは法律的に違反するらしいので、非合法ギルドとかならわかる。だが、そういったところなら、もっと以前から自分に張り付いていてもいいと思うのだけれども、自分がポンコツなせいなのかもしれないが、全く今までそういった気配はなかった。
あとは、貴族とかならどうだろうか?
でも、自分に絡むとピカ神様まで話が行く恐れがあるから、やらない気がするんですけどね・・・。ユトゥスシーレイ様の守護が無かったら本当に危なかったのかもしれない。
一番下らない想定なのが『ディラシスの皮とかをギルドに売った嫌がらせ』という理由だ。
そんな事をしている間に、自分たちでNMを討伐したほうがずっと早い。できないというなら、自分に勝てないかもしれないとは考えないんだろうか?
とりあえず、やられたらやり返す方向でいいのかな・・・?
PKの仕様的にはOKだ。
魔法に対してもそう。
こちらに向けて攻撃性の物を「詠唱を始めた時点で」OKになる。これはミスとかもあるからあまり推奨されていないけれど、大体15人で1人を追いかけまわしている時点で多分GMに通報されてもセーフだと思う。
「ちょっと待ってくれ!」
いきなり呼び止められました。
おや?声をかけてきたって事は、話せばわかるタイプなんですかね?
「はい。なんでしょうか?」
夕方というよりは宵の口に近い。
辛うじて明るいけれど、日は完全に沈んでいる状態だ。
暗くなってきた街中ではみんな家路を急いでいるのか、早足の人が多い。
「そ、そ、その兎を・・・!」
なんか振り向いてみたら厳つい軽鎧のおにいさん?だった。
兎君を?
「一度でいい!モフらせてくれ!!!!」
通り過ぎる通行人さん(たぶんNPC)の方々の、視線が痛い。
「・・・・。」
「・・・。」
「・・・・ですって。どうします?兎君?」
「きゅ?」
兎君は意味が分からなかったのだろう、後頭部で大層不思議そうな声を出している。
「要はこの方が一度でいいから兎君を撫でたいんだそうです。どうします?撫でさせてあげます?」
「キュゥ・・・。」
若干嫌そうだ。
なぜだろう。多分おじ・・・お兄さんがガツガツ来て、むさくるしくて、熱苦しくて、怖いのだろう。
「頼む!この通りだ!!!!」
大通りで土下座を始めるおにぃ・・・もういいや、おじさん。いや、それ逆効果じゃないですかね?
「・・・キューーーーーーーーーー!」
兎君は逃げた。全速力で南へ。当然物凄く速い。
あーあ。
「あ~~~~~~~~~・・・・・。」
厳ついおじさんの哀し気な声が現場に残される。
「あ!見つけたぞ!アイツだ!」
「クソ!逃げ足が速いな!」
また別件の人たちが来たようだ。今度は4人ばかり。顔に見覚えがある。先ほどのタカリさんだろう。同じPTなのかな?
「兎ちゃんがいないわぁああ!」
「おい、アイツらだぞ!毎回毎回レアアイテムをタカりやがって!恥という物を知れ!」
「兎様にたてつく様なやつらだぞ!晒してしまえ!」
今度は野次馬ですかねぇ・・・?こっちはバラバラに5人ほど。
ていうか、今度は兎様なの・・・?
なんなの?
「おーい、君、どうやってディラシスを倒したんだ!?」
「自分のPTに入って再度ディラシスやらないか?」
「攻略法は?やはり先に耐性をつける戦略?後半の火力はどうやって確保した!?」
「ジョブ構成は!?使用スキルは!?」
「どっかに所属してる!!?何時に倒した?」
あとは、NM目当ての攻略勢か・・・。攻略法を聞くだけなら検証班の可能性もあるし、まだましだけど、PT系は搾取する気じゃないですかね・・・?これが4人?
「えーと・・・。」
「ううう兎がぁ・・・。嫌われたぁ・・・。」
男泣きに泣いてる厳ついおっさん。獣族にでもなって自分の尾っぽでもモフればよかったのに・・・。もしくはサモナーになって魔獣召喚パラダイスするとか。
「あんたのおかげで大損したじゃない!弁償しなさいよ!」
「助け合ってこそのプレイヤーだろ!」
「ホントだぜ!なんで俺たちにドロップを譲らないんだ!」
”譲る”ってタダでもらう気満々だったのか。
ないわー。
「おい!今の録画したか!?」
「今までで一番KYな発言だな。」
「わらうwww」
「晒してしまえ!」
「時既に晒してるけどな、俺。」
「うさぎちゃぁん~♡」
「うちの固定に。」
「いや、うちだろ?」
「そんな事は自分たちでやれ!それより情報を!」
現場がカオスすぎる。
向こうから憲兵さんたちが走ってくるのが見える。
まぁすぐ近くですからねぇ。詰所が。
自分は全く騒いでないと声を大にして言いたいが。
しかし、もう一人いたよね?
ここまで出てこないとなると、やはり?
ここで魔力感知と第六感に反応がある。
これは・・・何の魔法だろう?
思わず剣を出して影纏し、飛ばされた魔法を斬ってしまう。
方向的には南東住宅地方面の2階辺りから?といったところ。
斬ってから、魔法を視認をする。
なんかどす黒い、気体の様なものだった。
斬ったそれはそのまま、風に吹かれた黒煙の様に、薄くなり空気に消えた。
【精神汚染耐性が5レベルに上がりました。】
視界の端で文字さんが主張してくれてるのを久しぶりにリアルタイムでとらえる。なんか、精神に作用する魔法だった模様。不意打ちを防いだ方がレベルが上がりやすいのかな?蟻の時もそうだったし。
ていうか、斬れるのか魔法。いや、レベルが上がったってことは、ちゃんと斬れなかったのか?
斬れたとしても影纏してるから・・・だろうけれど、PNT的に負担は少ない気がする?
あ、MPが10程減ってる。これも要検証かな?
「うわっ!?」
「なんだ!!???」
「ひえっ」
多分プレイヤーさんたち?はビックリして声をあげる。
自分が急に剣をふるったから驚いたのかもしれないし、魔力に敏感な人は魔法攻撃に気づいたかもしれない。
だが、彼らが何か行動を起こす前に、衛兵さんたちがたどり着いた。
「魔法を撃った奴がいるぞ!1班は奴を追いかけろ!南東だ!手練れだぞ!心してかかれ!2班はここの整理だ。」
とりあえず、もう襲撃はなさそうなので、剣をしまう。
気配察知や魔法感知のスキルは当然切ってない。
魔法攻撃を分かってくれているのなら、多分自分は咎められないと思うのだけれども。
ていうか、手練れなのか。
ついに暗殺未遂?
「相変わらず、行く先々で騒動が起きるな。」
声をかけてきた衛兵さんは、前回自分が捕獲された時に担当してくれた方だった。
知らなかったが、そこそこ偉い方の様だ。
ピカ神様の降臨だーって慌ててたけど。
「お久しぶりです。」
ぺこりと頭を下げる。自分は全く悪くないと思ってますが、ご迷惑おかけして申し訳ないです。騒動が起きるのは影族のせいなのと、ユニークスキル主人公属性の執拗な攻撃のせいな気がしますが。
「それで、今度は一体何の騒ぎなのだ?」
「・・・ギルドに行ったら目立ったみたいでして。ギルドを出たら15人も後をつけてきて、どうしようかと考えていたところ、そこの14人の方々が騒ぎ出し、そのうち1人がさっきの襲撃者だったという感じですね。」
実際ホントなんの騒ぎか自分も聞きたい所。
素行が悪くて板に晒すにしても、自分に関係ない所でやっていただきたい。
うさぎちゃぁあああん、はアレだ。本人が嫌がる事はやめた方が・・・といった感じ。
いるよね、動物が好きすぎて嫌われる人・・・。
自分の話を聞いた衛兵さんは、はぁ・・・とため息をつく。
「お前の言い分は分かった。全員に話を聞く必要がありそうだな。全員詰所に連れていけ。」
えぇえええ~と巻き起こる再度のブーイング。
「あ、つい先ほどの出来事ですので、ギルドの受付の方に聞いていただければ、すぐ事実関係の確認がとれると思いますよ。」
「ご協力感謝する。」
自分を追いかけてきた14人の人たちが、次々と詰所まで御同行されていく。
まぁまぁ、となだめられたり、気味悪がられたり、言う事を聞かないので衛兵さんに脅されたりなど色々だ。中には衛兵さんと顔見知りの人もいて仲良く話していたりする。そういう人はすぐ開放されるのかもしれない。衛兵さん?街のなのかな?好感度もありそうだなぁ。あるだろうな、やはり。
「何で俺たちだけで、アイツは連れていかれないんだ!」
「不公平だ!」
と先ほどの”ディラシスのドロップ、タダで譲ってください”の人達がやはり騒ぐ。
「こうなったら、徹底的に白黒つけようぜ!」
「俺たちが正しい事を証明してやる!」
と、こちらはタカリさんに怒ってる方々。被害者の会とかなのですかね?
「正しさと言えば、ここは法治の国なのですから、法廷で決着をつけるというのは?」
と煽ってみる。ここでやられても迷惑なので、正規の方法があるなら、やりたい方々がそちらに行ってほしい所。
まぁ、まず法廷があるのかは知らないのですが、厳格な基準はありそう。
「影の人、えっぐい(笑)!」
「ファルディアの社会的にも抹殺ですねwwwっわかりますwww」
「リアルとファルディア、ダブルキルかー。憧れますなー。」
よし、それも面白そうだから、とことんやったるわー、とタカリさん被害者友の会の人たち?は嬉々として詰所に衛兵さんたちを引きずっていく。逆では・・・。
そしてなんか喜ばれたね。なんでだろ?
衛兵さんたちが今だ泣いている厳ついおじさんを、気持ち悪そうに連れて行ってる。大人しくついていってるが男泣きしている。正直、大の大人が兎が撫でられなかっただけで、あそこまで泣かれると気味が悪い。現代社会にストレスが溜まっているのだろうか?・・・うつ病が心配だ・・・。
ついでに”うさぎちゃぁああああん♡”も連れていかれる。オネェ様だった。なぜ男キャラを作って女装するのか、自分には気持ちが全く分からない。が、きっと好きなのだろう・・・偏見は良くないと、ただ目線を逸らしておく。
「攻略がー!」の人たちも連れていかれた。
こちらは普通に”街で騒いではいけません”、で終わりそうな気もする。
もっとも普通の冒険者らしいトラブルに見える。
「では、捜査に進捗があったら連絡をする。」
と言って、顔見知りの衛兵さんは軽く目礼をしてくれて、そのまま詰所に戻っていきました。
そして、ただ一人、夜道にぽつんと残る自分。
・・・。
あれ?!
本当に自分は行かなくていいんですかね?
ある意味、当事者で覚悟はしていたのですが。
・・・・。
まぁいっか。
一抹の寂しさを覚えながらも、兎君を探しに一人アポリアの街並みを南の方へ向かう事にする。
サクの身元引受人は、ピカ神様みたいなものなので・・・




