2-63 綿毛兎とアポリア王国
やってきました冒険者ギルド。
正確には旧魔獣討伐ギルドと旧傭兵ギルドが合併したギルドらしい。そこに商業ギルドとの連携を深めて今日の様な形態になったとか、ならないとか。
通常ギルドっていうと職業の派閥といったかんじだけれども、魔物退治の効率性を求めた結果こうなったのかな・・・?
もしかしたら、国によって冒険者ギルドの趣や役割が異なる可能性もあるかもしれないですね。
閑話休題。
受付は冒険帰りの方々でとても混んでいたので帰りたくなるが、如何せん先立つものがない。
1000Fも持っていない。子どもか!?という感じ。
そして、迂闊にもギルドに兎君を連れてきてしまった。
皆見ている。
見られてる・・・。
はずかしぃ。
特にお姉さま方。兎君が動くたびに、小声でキャァキャァ言っている。後、一部マッチョな男の人と、まだ駆け出しっぽいイケメンさんたち。やはり野太くキャァキャァ言ってる。
確かに自分も兎君に魅了されてはいるけれども・・・。
世の中どうなってるんだ?という気がしないでもない。
兎君のおかげで世界の神秘を見た気がする。
兎君人気を利用しようとしたのか
「君、その綿毛兎をどこで手に入れたんだい!?」
って執拗に聞いてくる男の人とか
「ぜひ譲ってくれ!」
と買い取ろうとする人とか、いろいろな人に色々な事を言われる。
その度に、丁寧に謝るんだけど、正直面倒くさい。
「綿毛兎の捕獲は法律違反では?!」とかも言われたりする。
別に捕獲したわけでもないんですよね・・・。でもテイムでも犯罪になるのかなぁ?難しいものである。
ただ、ギルドの人が注目しているので暴言を吐いたり、暴力を振るわれるっていう事はない。それだけはありがたかった。
20分ほど列に並んで待っていると順番がくる。
また、以前とは違ったお姉さんだ。アポリアは人口が多いので、受付の人も多いんだなぁ。
「こんばんは。本日はどういった御用件ですか?」
とお姉さんが聞いてくれる。
「えっとですね、買取と、自分向きのクエストがないかというご相談と、アルシオン迄の道のりの相談と、あとは・・・綿毛兎について伺えたらなぁと。」
ああ、と受付のお姉さんも苦笑する。
「先ほどから注目を集めていたその子についてですね。」
「お騒がせして申し訳ありません。」
とお姉さんに謝る。ギルドは何も悪くないものねぇ。
「えっと、まず綿毛兎からでよろしいですか。・・・お伺いしますが、その子はテイムしていますか?」
「いいえ。」
そう答えると、ざわっと後ろの人たちがざわめく。やはり聞いていたな・・・と思うけれど、何だろうね?
「それはそれは・・・。では、餌付けなどをなさいましたか?もしくは違法薬物を摂取させたりとか。」
「ええっと・・・?餌付けって言うのでしょうか?ついてきてしまったので、ご飯がないと可哀想だと思い、昨晩は市場でニンジンを買い与えました。違法薬物は法律に疎いので何とも言えないですが、意図して使った事はありませんし、兎君に市販の食べ物以外を与えた事はないです。」
麻薬でラリってるとか思われるほどのことなのかな・・・?
それとも形式上の問答なのかもしれない。お姉さんは、想定内といった様子で全く動じていない。
「念のためお伺いしますが、魔法で召喚している状態ですか?」
「残念ながら魔法が使えないので。」
「影族の方ですから、おそらくそうでしょうね。」
と、お姉さんは頷いている。
「では、確認させていただきます。その綿毛兎は召喚状態でもなくテイム状態でもなく魅了や魔法といった類でもなく、違法薬物で従属させているわけでもなく、『ただ何となくついてきている』という状態でお間違いないですか?」
「そうです。」
自分でも何で兎君がついてきてくれるのかとかよく分からないんだけど、多分そうだと思いますね。
「かしこまりました。結論を先に言えば、何ら問題はございません。」
おおお~と後ろの人たちが声を上げる。
「綿毛兎に関してはアポリア王国でも法律で保護されております。禁止されている条項は捕獲、殺処分、はく製などの作成は勿論の事、生きた状態でもテイムによる隷属、薬物投与、故意による餌付けや兎の子供を攫っての飼育などですね。今の状態は”本人の意思”という事で何ら束縛を受けていない状態であるなら問題ありません。元々好奇心の強い生物ですから何例か同じような事例を聞いたことがございます。ギルドとしては『飽きたら勝手に帰ると思うので、帰るのを拘束したら法律違反になる』からご注意下さいといったところでしょうか。勿論、ここに居る方々が攫ったりテイムを試みても罰則の対象になります。」
げぇええ!と何人かが声を上げる。
やる気だったのか・・・いや誰かはやるかなとは思ったけれども。そんな声を上げた何人かが、お姉さま方とオネェ様に蹴られてる様子がちらっと見えた。
「兎君わかりましたか?」
「キュ!」
元気よく返事をしてくれる。本当に分かってるかはちょっとわからないけれども、この国で兎君に悪さをしようとする人は全部悪人だっていう事が伝わればいいかなぁと。でも頭がいいので、全部分かってる可能性もある。
返事をした兎君をみて、何あれかわぃいい~とまた騒いでる人たちがいる。
「大変懐いているので問題ないとは思いますが、今後もテイムによる無理な隷属は禁止されてますのにご注意ください。本人の意思によって契約を結ぶ場合は問題ないですが、従魔ギルドの監査が必要になりますので出頭命令がきます。」
兎君がテイムされるっていうより、兎君にテイムされる気がしてしょうがないんですが・・・。
自分より強い生き物は、きっとテイムできないだろうという認識。
「はい、分かりました。」
「召喚に対しては特に制約はありません。本人が応じなければ成り立たないので。」
うさぎちゃぁああああん召喚契約むすんでぇえ~~~と、叫んでるオネェ様がいる。
怖いのでナチュラルに無視する。
何も見なかったし聞かなかった。いいね?
兎君は抱っこ状態に飽きてきたのか、後ろの人たちが物珍しいのか、自分の腕の中を抜け出して後頭部の定位置に納まって「キュッ!」っと言っている。
そうだね・・・高い所の方が色々見えて楽しいものね・・・ハハッ。
「大変懐かれてますね・・・」
そんな兎君を見て、お姉さんは笑いをこらえている。後ろの人たちは気になっていることが終わったからなのか、兎君の動きによってキャーって言ったり喜んだりしてるので、こちらへの意識は散った模様。
兎君、そのままがんばれ。
「次ですが、アルシオンへの道程ですね。現在馬車などの運行はございません。一番簡単な方法は商隊の護衛依頼に就く事ですね。それで時間的に1か月くらいになります。早く行こうと思うのならご自身で歩かれたり騎乗した方が早いですね。ただし安全度は格段に下がります。」
とのこと。ウーン悩むなぁ。一応教えてくれたのだが、商隊の人たちは4日前くらいに出てしまったのでしばらくはないとの事。う~ん。
自分向けのクエストは何個か教えてもらえた。
どれも討伐系だ。影族だからねぇ。
「最後は買取でらっしゃいましたね。数が多いようでしたら買取カウンターでお願いしておりますが・・・。」
「えっと、リスの齧歯が1と皮1爪2よだれ1ですね。」
「それぐらいなら問題ございません。こちらにお出しください。」
と仰るので出す。リスの齧歯とディラシスの皮とディラシスの爪×2とディラシスのよだれ。
「これはこれは・・・。また珍しいものをお持ちになりましたね。ネームドモンスター・ディラシスですか。」
「「「ディラシスだとぉおおおお!!!????」」」
まだ聞いてたんですか・・・。
若干うんざりする。
兎君にかまけてると思ってたのですが、・・・いや、兎君にかまっているからこそ、こちらの会話も何人か聞こえたのかもしれない。
「い、今ディラシスって言ったか!?」
「頼む!本当なら売ってくれ!」
「爪があるなら頼む!」
「こっちは皮だ!!」
「よだれ!よだれ!」
よだれってホント何に使うんでしょうね?
ていうか、こんなに人気だと、アポロディオンの開拓地側に持っていった方が高く売れるのかなぁ?
途端に詰め寄ってきた数人の冒険者さんたちに、受付のお姉さんも苦笑している。
「ギルドとしてはまだ買い取ってないので問題はございませんが、皮なら7万、爪はこちらが12万、こちらは6万ですね。よだれの方は錬金術ギルドから買い取り依頼が出てるので15万です。」
たっかっ!
そして問題にはならないが、心象は悪くなるといった感じですね。
「皮なら10出すぞ!」
「爪状態がいい方、じゅう・・・・13万なら!」
「よだれ・・・アポロディアでも10万いかねーぞ!錬金術ギルドめ!買い占めてたら金に物をいわせにかかりやがった!」
多分プレイヤーが主にひどい。
こりゃ、どっかに経済の悪影響が出てそうだなぁ。
「・・・ギルド買取でお願いします。」
ええぇええええーーーーと巻き起こるブーイング。
といっても、数人・・・5人。いや6人か。
手順を踏んでキャンセルを申し出てくれるなら全然かまわなかったんだけれども、子供みたいなノリでずっと騒ぐ様な方々と取引したいと思わないし、そもそも本当にお金を払ってくれるか怪しいし、同じ素材で被ってる人たちが喧嘩したらそれ待ってるの?面倒くさい事この上ない。
「頑張ってギルドから買い取ってくださいね。」
多分提示した金額くらいにはなるんじゃないかな。
そう金額に劇的な大差はないだろう。
しかし、「ひっどーい。」「これだからNPCは」、など文句を未だブツブツ言ってる人たちもいる。
別の冒険者さんたちにも、白い目で見られているのに気づかないのか。
実際、おそらく本気の人たちは「ギルド買取」と聞いて、既に素材販売の方に数人走っていったし、ここでいまだ文句を言ってるのは値切ろうとしていた人達だと思われる。
「有難うございます。」
と、即決で決めたからなのか、お姉さんが苦笑しながらお礼を言ってくださる。
「いえ、お騒がせして申し訳ありません。・・・思ったよりも高いですね。」
こんな高いとは思わなかった。
20万の破魔矢が霞む勢いだ。
「”霧向こうの民”の方々に3,4日前から急激に人気が出まして。ギルドの在庫もあっという間に空になったんですよ。ネームドモンスターですし、そもそも数が無いのです。まぁでも多分今が価格の頭打ちですね。」
元々は皮が5万程度、爪が6~7万、よだれが5万ってところですね。とのこと。
あれか。プレイヤー生産職のレベル上げと攻略向け最新装備あたりと被ったのか・・・。
なんにしても売るのを遅らせて良かったと言える。
40万と300F(齧歯代)をいただいたので、
おおお・・・でもこれはいけるか?
「このお金で借金を全て完済する事は・・・。」
「可能です。」
とのこと。
うわぁああああああ!!!!やったぁああ!!!
ついに脱出!借金生活!
特に悪い事をしていないのに、長かった借金生活!
乗ってよかった元暗殺者の口車!
・・・絶対本人には言わないけれど!!!
「それでは、医療費の補填にあてるという事ですので、神殿へ金貨9枚送金させていただきます。しめて323,550F天引きさせていただきますので、お支払いは76,750Fになります。ご確認ください。」
ご確認しました。ありがとうございます。
やっと人間に戻れました。ありがとうございます。
ちなみに、ディラシスを討伐した際に、自動的に討伐懸賞金1万Fが振り込まれていた模様。どうやらギリギリ生活ではなく、既に気づかぬ間にマイナスになっていたようでした・・・。ハハハ・・・。
これからは、宿代くらい気にしないで泊まれるようにお金を貯めたい所デス・・・。
ファルディア的分類
テイム・・・従属契約。スキルと言霊で魔獣などを縛っている。無理やり押さえつけているパターンと、仲良くなってるパターンがある。綿毛兎を無理に隷属させることは禁止されている。
召喚・・・魔法契約。魔力を対価に精霊などを召喚している。雇用で考えると分かりやすい。臨時日雇いを雇うパターンと本採用のパターンがある。




