2-62 居心地のいい場所
土曜日。
早くも、もうすぐ7月が終わろうとしている。
楽しい時ほど時間の進みが早いのは本当だなぁ。
夏休みも残すところ1か月となりました。
このままだと勉強とファルディアで夏休みが終わってしまいそうだけど・・・。まぁそれはそれでいいかな?と、いったところ。
田村あたりなら「夏休みは海に行かなくてどうするんだ!」とか叫びそうであるが。
海・・・行くと日焼けするし、日焼けが嫌で上着を着ているとナンパされるんですよね・・・。
ええ、勿論男にですが・・・。
いかん。
これ以上は考えないようにしよう。精神衛生上よくない。
ファルディアは今日がサービス開始から2回目の土曜日かな?
そろそろプレイヤーたちも勝手がつかめてきただろう、内田みたいな固定も今日は沢山活動をするはずだ。
と、いうわけで内田は朝から元気に寝ている。
元気に寝ているっていうのも変だな?
ログイン制限があるだろうから、今のうちに寝てるのだろう。
日課をこなし、朝の8時位に一応起こしに行ったけど、内田は起きなかった。
仕方ないので簡単なご飯だけ準備して、机の上に置いておく。
里美おばさんも、もっと早く内田に予定を聞いていれば、内田も逃げださないんじゃないかと思うのだけれどもね。
まぁお互い反発してるから複雑な事情があるのかもしれない。
外野から見ると似た者同士に見えるけれども。
楽しくもない内田の寝相を見ながら、読書感想文用の読書。
まぁすぐ集中して、内田は気にならなくなるのだけれども。
とりあえず簡単に一周読み終えた。現代文の先生に課題に出された本は、意外と面白かった。
日本にフランス料理を広めた人物の伝記小説みたいなもの。
多少言葉の置き換えが入ってるのかな?
本物のフランス料理を追求し、日本にもたらし、大成功を収めたその人物は。
お金持ちで、様々な人々から羨ましがられるのに、本人は心に隙間を抱えているのだ。
完璧主義が過ぎるのか、それとも人の欲望は果てしないのか、それとも彼の求めるものが違ったのか―――。
なんにしても、本人しか分からない事だけれども―――。
なぜか、その話は自分の心の中に引っかき傷の様に残った。
10時半過ぎに居間に戻り、ばーちゃんと話しながら里美おばさんを待った。
近所のおばちゃんの話とか他愛もない話をしたり、じいちゃんの話をしたりとマッタリ過ごす。
少し遅れて11時過ぎに里美おばさんがやってきて3人で出かけた。
楽しそうなばぁちゃんと里美おばさんの後を少し後ろについて、広いショッピングモールを歩きながら色んなものを見る。
服だったり眼鏡だったり世の中にはいろんなものが溢れているなぁ、と思いながら歩くと結構楽しい。ばぁちゃんと里美おばさんが楽しそうなのを見てるのも楽しい。
他の同性の人に言うと、「お前は変だ。女の買い物は地獄」とかよく言われるけれども。自分は買い物に付き合うのがあまり苦痛じゃないので、変なのかもしれない。さすがに毎日長時間とかは嫌だけれど、たまになら平気だ。
まぁ自分の服をアレコレと選ばれたら、ちょっと・・・ってなるかもしれないけどねぇ。
今はばぁちゃん達は今度の婦人会に着ていくばぁちゃんの服で盛り上がっている。
何気ない日常なんだけれども。
『ああ、幸せだな』ってこういう時に思っちゃうんだよね。
苦労させてしまったばぁちゃんが、楽しそうにしてくれているのが一番嬉しい。ばぁちゃんは大概楽しそうにしてくれるいい人だけど、泣いている所なんてもう見たくないもの。
内田と里美おばさんたちも、もっとうまくいけばいいのにな、ってそう思う。
ニコニコしてしまっていたのか、里美おばさんがいつの間にかこちらを見ていて、『カヅキ君はホントいい子ね。』と何故か怒っていた。多分内田を思い出したんだろう。
すまん・・・すまん・・・。
昼食の店でおばさんたちが並んでいる間に、おばさんやばぁちゃんが買った荷物を車までしまいに行く。自分が戻ったころに丁度順番が呼ばれた。中華と洋食のビュッフェの店なんだけど、ビュッフェじゃなくても対応してくれるそうで。里美おばさんとばぁちゃんは、ビュッフェを頼んであれやこれやちょっとずつ味見をして遊んでる。自分は疲れちゃうので、簡単に季節のサンドイッチとデザート。ちょっとお高めだったんだけど、具がシンプルにキュウリとトマトとレタスとクリームチーズとスモークサーモンだけなのに、なんかうまい。・・・これはバターが旨いのか・・・???よく分からないけれど旨かった。後、デザートのイチゴクリームサンドもクリームが重くなくて爽やかで美味しい。なんだか意味が分からないね???
夏なのに美味しかったからか、いつもより多く食べられた気がして満足する。
ばぁちゃんとおばさんも、やれあの具が旨いだの色々討論して満足した模様。
そして、一番食べたのもやはり里美おばさんでした。さすが内田の母・・・!
昼食を食べた後に、少し自分だけ本屋に寄らせてもらい、ピックアップしておいた参考書を何冊かと、本を数冊購入する。
そして、夕飯の買い出しをたんまりして、里美おばさんに家まで送ってもらったら、家に着いたのは15時過ぎだった。
おばさんはばぁちゃんと喋りながら夕食を作り出したので、家の事をしたり、買ってきた本を読んだり、夕方の日課をしたりと色々。
遅めに昼食をとったので、ばぁちゃんも自分もあまりお腹は空いていない。里美おばさんお持ち帰り用の夕食と、後で食べられる簡単なおかずを、ばあちゃんが作り出す。保存がきくゴーヤの漬物とか、ヒジキの煮物とか、ナスのゴマ煮とかタラモサラダとか、何故かスペインオムレツとかそういうの。そこに混じる鯵のなめろうとか、揚げイサキの酢漬けサラダとかホント謎だ。でも、なめろう好きです。
隠し味にオレンジか何かの柑橘類が入ってるのホント好きです。
結局ここまで作るのにTVを見たり、話しに花が咲いたりと2時間くらい時間がかかったので、少し食べてしまうことにした。
ばぁちゃんたちのオカズに、枝豆をちょっと食べるとすぐお腹いっぱいになる。
枝豆いいなぁ。枝豆ポタージュ作ってくれないかなと思ったり。
なんにしても里美おばさんとばぁちゃんは暫く話してそうなので、ごゆっくりーと里美おばさんに言って、20時前には部屋に戻る。
内田はご飯を食べて、ログインしていた。
まぁ朝ごはんだけれども、いつ食べたのか。
腹が減るだろうと思って、かといって里美おばさんがいる手前ご飯を持ってこれなかったので、部屋にあるちょっとしかないオヤツを机に転がしておく。
この前コンビニで買ったグミとかだけれども。
そうか、里美おばさんがこんな長く家にいるのも、内田が尾っぽを出さないか見張っているのかもしれないな。
そして、内田の方。
土曜日ならこの時間が固定のゴールデンタイム、といったところだろう。
固定メンバー全員がニートとか、時間がずれている人なら違うけれども。
里美おばさんには悪いけれど、今から内田はゲームの佳境に入るわけだから当分出てこないだろう。早く帰ったほうが得策である。
自分は今日特にしようと思っていたことがあるわけではないので、さて今日は何をしようかなぁと思うわけですがね。
と、色々考えながらログインをする。
―――――――――――――――――
ログインすると、窓の外が茜色になっている。
うーん、もうすぐ夜だなぁ。
よく考えたら、宿屋は一週間しかとってないし、明日までじゃなかったかなぁ。
これはログアウトを外でするか、一日宿代払わなきゃいけない。
兎君には昨晩ログアウトする時に、自分は長時間休むけどどうするか聞いてみた。そうしたら部屋の中で寝てたいって感じだったので、宿屋の部屋にそのまま連れてきている。今も気持ちよさそうにピスピス寝ている。寝飽きないのかな?寝る前に出しておいた水とか、ニンジンとかパンとか食べた形跡があるので、ちゃんとその辺は食べた模様。なんか、内田みたいだなぁと思ったり。外だと外敵がいて気を張るし、たまに宿屋みたいな安全地帯で寝るのも気持ちよいのかもしれない。
・・・その辺の生物が兎君より強いとは思えないけれども。
昨日のログアウト前、アポリア王国の周辺地図はちょっとギルドで写させてもらったんだけれども、正直幽霊さんにあてられて、それどころではなかったというか。
あまり集中できなかったので、さっさと昨晩はログアウトしてしまったんだよね。
よく考えたら、ティラ君と行った狩りの奴もギルドで換金してなかった。
あまりお金がないですが、少しはお金になるアイテムだといいのだけれども。
ああ、あとお爺さんに幽霊さんの事を報告しなきゃ。
心配してるかもしれないし。
スキル上げもしなきゃだし。
魔力感知も取らなきゃだし。
やりたいことが目白押しだ。うーん。
時間的にもう夜になってしまうので、とりあえず、宿屋の支払い→お爺さん→ギルド→あとはノリだな! という結論に達する。
お財布の中を見る。
ホントギリギリ!1日分の宿代はFが足りそうだった。
まぁ野宿でもいいんだけどね、一応念のため。
・・・宿屋結構快適なんですよ。宿屋。
そんなわけで階下に向かう。
「すみません~・・・あのぅ、3階の6号室に泊めてもらってる者ですが。あと1泊部屋が空いてたら泊めていただきたかったんですが、どうでしょうか?」
「あいよー!ちょっと待ってね~~~!!!!!」
厨房にいたおばちゃんが大声で返事をしてくれる。
時間的に夕飯には早いんだけれども、早く帰ってきた冒険者さんとかも居るし、夕飯の準備に大わらわって感じ。
ああああ申し訳ない事をしてしまった。
しばらくして出てきた女将さんに「お忙しい所申し訳ありません」というと、「いいのよー!仕事なんだから~!」とカラカラと笑われた。
キップの良い人である。
「え~と三階の6ねー。ああ・・・1人部屋だから大丈夫よ。お客さん、夕方に来たから、明日でも2時位までに引き上げてくれればいいんだけど、どうします?もう1泊しちゃう?」
と聞いてくれる。リアルだと確か10時位までに出なきゃいけないんだっけ?よく里美おばさんが出張の帰りに愚痴ってたから、そうなのだと思う。
宿の掃除や洗濯の時間もあるというのに、親切である。
「ちょっとその時間だと間に合うか分からないので、もう一泊でお願いします。」
この後の展開によっては、やりたいことが出てくるかもしれないしね。焦って引き上げることもないし、何よりまだ「アルシオンへの帰り方が分かっていない」んだよね。ハハハ・・・。レティナさんはもうわかっているというのに、うーん。マイペースすぎたかなぁ。
「はい。じゃあ6000Fね。」
お支払いすると殆どお金が無くなりました。分かっていたけれど、も、もの悲しい。
「あ、今更なんですが、自分兎を連れてるんですが大丈夫でした・・・?」
聞き忘れてました。普通は駄目ですよね、ペット連れ・・・。
ただ、冒険者用の宿だしお供がいるPTもいるから許されるような気持ちに勝手になっていたけれども。
「ああー可愛いまんまるの綿毛兎ちゃんねー。正直テイムしてる動物によるのよ。猫みたいに壁をひっかくタイプとか、マーキングするのは駄目ねー。厩舎持ちの宿屋をすすめてるね!大人しいタイプなんかはうちはOKだよ!商人向けの宿屋なんかは駄目だから、お兄さん気を付けてね!」
とのこと。ありがとうございます、とお礼を言い、兎君を連れて宿を出る。
・・・若干兎君がその辺を齧っていないか心配で、こっそり部屋を再チェックしたのは内緒だ。
宿屋を出たら、次はお爺さんの所へ向かう。
空は結構真っ赤になってて、6時半くらいだ。
やはり工場は終わっていて、「こんにちはー!」って外から声をかけると「遅い!!」と中からお爺さんに怒られた。
ですよね、と苦笑してしまい「ちょっとたてこんでて。申し訳ないです。」と謝っておく。
今お時間あったら、ちょっと報告したい事があるんですけれど、と言うと工場の横のスペースに椅子を出してくれてそこで待ってろと言われる。兎君は退屈そうで、その辺の探検を始めてしまった。工場は危ないので、ものに触らないでくださいねと伝えたら「キュ!」ッと鳴いてたので多分大丈夫だと思う。そのまままお爺さんを待ってる間にコロコロ動いたりクンクンしながら外に遊びに行ってしまった。大丈夫かな・・・?多分。
しばらくして、お爺さんがお茶を持ってきてくれた。お爺さんに酒が入ってた陶器の入れ物を返しつつ、昨日あったことを報告する。
幽霊のお姉さんに会った事。記憶喪失だったこと。月光属性について多少話が聞けたこと。幽霊さんも剣の事で直す気があるならお爺さんに会いたがっている。などなど。
お爺さんは、頭痛が痛いみたいな微妙な顔をして、こめかみを指先でトントンとしている。
「なんてお話をしてたんですが、お嫌でしたか?」
よく考えたら、友達の剣だからってお爺さんが直したがってるって思いこみだったかも?と思わないでもないんだよねぇ。自分を基準に考え過ぎたかもしれない。
「違う。」
と、お爺さん。相変わらずあまり喋らない御仁である。
「シュンだ。」
「は?」
「そいつの名前は、多分シュン・ポーニーアだ。アイツと同じ時期にいなくなったので、かどわかされたか、月都に戻っておったかと思ったが・・・。」
まさか、そんな近くで死んでるとは―――と、はぁとため息をつく。
「やはりお知り合いでしたか?」
「知り合いというか・・・・。」
知り合いというか?
「顔見知りというか、・・・性格が悪い姉?」
随分とまた飛躍したよね?
「月都でも鬼才として有名な鍛冶師で、群を抜いた変人だった。」
と、ギリギリとなんか物凄く渋面というか・・・お二人はどういう御関係なんでしょうね?
人生経験が少ない自分には分かりかねますが。
「では、今度一緒に行かれます?」
「ああ。」
結局行くことになった。お爺さんは急ぎの仕事がないそうだけれども、幽霊さんが出た時間帯がいいだろうってことで、お互いに都合が合うファルディアで3日後の夕方という事になった。リアルだと丁度午前中の時間帯でログイン可能だしね。
「では、3日後にお願いします。後何か――――ああ!」
「なんだ?」
「大事な事を忘れてました!」
「・・・なんだ?」
「お爺さんのお名前をうかがってもよろしいです?」
「・・・・言ってなかったか?」
「はい。ついでに自分もお伺いを忘れてました。ごめんなさい。」
「いや・・・。」
と言ってお爺さんは横を向き、口を押えてる。
なんでしょうね?
「えっと・・・?」
「いや、悪い。・・・俺の名はオースィだ。」
「オースィさん・・・。」
今までお爺さん!で通してきたから名前に馴染みがないけれど、覚えましょうね。
「連絡先だ。受け取れ。」
ついでにメールアドレスも交換してくれる。
これでいつでも連絡が取れますね!
・・・一番連絡を取らなきゃいけないテルメさんの連絡先を知らないんですがね。
うーん、何か忘れてる気がしたんだけど。うーん?
全然思い出せないからまぁいっか、ってなる。
「ありがとうございます。では、他に無ければ自分はギルドに行きます。」
「ああ。また。」
「では三日後。さようなら。お茶ごちそうさまでした。」
オースィさん?・・・オースィ師匠に別れを告げて、鍛冶屋を後にする。
探検に出た兎君が川の側で危険な遊びをしてて、外に出て肝が冷えた。が、兎君的には何てことはなかったらしい。物凄い曲芸の様なバランスで、川に打ってある係留用のポールの上や、川っぺりをギリギリの壁などを伝い、ポーンとこちらに跳ねてきた。
さながら不規則に動く毬の様である。
・・・自分もあれくらい出来なければならないのでしょうか・・・・
まだまだ先は長そうである。
さて、兎君も戻ってきてくれたところで、ギルドに行きましょう。換金しましょう。
でも今の時間帯混んでないかなぁ?
兎君はちゃんと、おトイレも決められた場所でしてくれている模様。(小声




