2-59 逢魔が時 1
ファルディアにログインする。
リアルでは、プンすこ怒りながら帰る里美おばさんを見送り、明日は11時に迎えに来てくれることを確認しておいた。外でたまには外食をしたいんだって。
自分も一緒に行くので、明日は午前中もログインしない方がいいな。
読書感想文でも進めようかって感じ。もしくはファルディアについての情報を調べるかだなぁ。
内田は相変わらず寝てるかと思いきや、いつの間にかファルディアにログインしていた。
里美おばさんの動向をうかがっていたのだろうか?
夕飯のあまりをばーちゃんに持たされたので、腹をすかした内田が食えるように部屋の中に置いておく。
ばーちゃんも内田が里美おばさんに軽い反抗期だって分かってるから、特に内田に何も言わない。が、最低限の片づけをしなかったり、食べた食器を片付けない事には怒る。内田もちゃんとわかってるので、うちの家事の仕事は日頃あまりしないけれど、一応うちで使ったものはちゃんと片付けなどはしている。当たり前の話なんだけどね。
たまに借りをまとめて返そうとして、大きく働いたりする。うちの屋根の雨漏りを治したりとか、壊れた扉治したり、風呂場の戸に蝋をひいたりしている。
アイツは無駄に器用である。
まぁ、内田と里美おばさんの攻防は今に始まった事じゃないので、仲をとりもちつつ、って感じだ。
ファルディアにログインしてまずしたことは、兎君の確認だ。
ファルディアでは8時間弱経っているが、兎君はまだちゃんと部屋にいた。姿が見えないのでとても焦ったが、探したら何故かベットの下に寝ていた。兎心は難しいが、暗い方が好きなのだろうか?
そして、よくこのモフモフで下に入り込めたのが不思議である。やはり綿毛兎の体の大半は毛なのかもしれない。
・・・いちど丸洗いしてみたい欲求がむくむくと湧くが、嫌われたくないので抑え込むことにする。
で、内田にはメールをしておく。
「里美おばさんが帰って、夕飯を机に置いておいた。でもおばさんがちょっと元気なかったから、そろそろ家族サービスしてあげたほうがいいかも。」とだけ。
そう伝えておく。他人から指摘された方が気づくこともある。どう行動するかは内田の自由だけど、外から見たらこう見えるという視点は大事だと思うので、一応伝えておく。
内田からの返事はきっとないと思うので、待たない。
そういえば、レティナさんからメールが来てた。
「私、アポリア迄の行程調べました!馬車で1か月かかるそうです!・・・アホじゃないですか?」
だ、そうです。
その”アホ”は一体どこにかかるのでしょうか・・・
大変気になる所ではありますが、ちょっとレティナさんの声が寂しそうな気がしたので、少し嬉しい。
「アホって言った人がアホなんですぅ~。・・・一か月ですか。アルシオンまで走ったらどれくらいで着きますかねー。」
恥ずかしいので、ちょっとおちょくり気味の内容のメールの返信をしておく。
早く帰る為に真剣に海路とかを検討したほうがいいのだろうか?だけどイベントとかもあるだろうし、ワープみたいなのが絶対あると思うんだけどね・・・?ゲームだしね?
探してみるかなぁ。
ずっと地面を影移動で移動してたら、どれくらいで着くのかも非常に興味はあるけれども。
「兎君~そろそろ出かけようと思うのですが、まだ眠いですか?」
そろそろ花屋が閉まってしまうかもしれない。閉まらなくても花が売り切れてしまうかも。
花屋の位置は確認してあるので、そろそろ時間的に行きたいところ。
「キュ・・・。」
大分眠そうだが、もそもそとベッドの下から這い出てきた。
一緒に行きたい、という事なんだろう。
抱っこしてあげると腕の中でスピスピ寝始める。
可愛いなぁ。遊びたいけれど、眠気に負けて寝てしまう子どもみたいである。
兎君を軽く撫でつつ、宿屋を出る。
受付はおかみさんがいて、冒険者さんの接客をしていた。
「出かけてきます~。」と言うと、行ってらっしゃい~と声を返してくれる。
応対していた冒険者の人にはギョッ!とされたけどね。
まずは花屋!ということで市場の方に向かう。
花っていうのは微妙なもので、置いといてもすぐ枯れてしまうし、一般市民は花をあまり買わない。買うのは主に貴族らしいが、それでも墓に花を供える習慣があるらしく、そういった花は売っている。あとは、売春の合図にも使われるらしい。道で花屋の場所を聞いたら、おばちゃんに懇切丁寧に教えてもらった。
「墓に備える花をくださいってちゃんというのよ!場合によっては買春と間違えられるからね!」とガハハハハと笑っていた。何やら細かい合図やら何やらがあるらしい。初めに墓に供える用の花と言ってしまった方が万が一の間違いがなくて無難だという。
というわけで、おばちゃんに教えられた市場に来た。
始めから場所がわかっていたので困らなかったが、花の在庫が残りが少なくなっていて3束くらいしかない。急いで来て良かったと思う。
「すみません、お墓用の花がここにあると聞いてきたのですが、この花でいいのですか?」
日本で言うところの仏花とはまた違ったラインナップである。
全体的に花が小ぶりであるが、ただ、菊科かな?と思う花は多い。菊は切り花でも長持ちするのだったか。
「はい、ありますよー。」
始めは自分に警戒してた奥さんだったが、花が欲しいというと笑顔になって警戒を解いてくれた。金額が850Fとちょっと高いかなと思ったけど、日本と比べて嗜好品とか贅沢品の方が高くなるのは当たり前である。むしろ安いくらいかもしれないと思い、お金を支払って礼を言って帰る。
あまり仏花とか値切る気にもならないしねぇ。
でも、今度どんな相場かリサーチしておこう。
ありがとうございますと言い、出店を後にする。
花が少しでも長持ちするように、下向きに抱え、移動する。
・・・そういえば、鍛冶屋のお爺さん、何かお供えしたいものとかあるかな?一応今更だけど聞いておくかと思い、鍛冶屋による。
もうほとんど終わりかけでお弟子さんも居なかったけど、呼んだら服屋のお孫さんが出てきた。お爺さんを呼んできてもらい、今からお墓まいりいくけど、なんか供えたほうがいいものとかありますか?と聞いたところ、「もっと早く言え!!!」と怒られた。
まぁ確かに。
さっき思い立ったというか、ログインの都合上そうなってしまっただけなんですけどね。
またそのうち行くと思うので、なんかあったら考えておいてくださいと言ったところ、慌てて家の奥に戻り、急いで戻ってきて、陶器に入ってるお酒を渡される。
なんでも眠っている人はお酒が好きな人だったんだって。50年も飲めてないのは可哀想だから、墓石にぶっかけてやれ、とのこと。
わかりましたと了承し、お爺さんに別れを告げ、東小門の方へ向かう。今ファルディアで4時位だから、これ以上遅くなると暗くなってしまう。
暗いのは別にいいのだけれども、ガス欠を起こすくらいなら明るい方がいいような気がする。PNTは結構回復してきてる気はするけれど、また馬鹿みたいに強い敵が出たら対処できる気がしない。
墓参りをして時間があったらギルドで売買しよう。今は他の冒険者さんたちで混んでるだろうし。と思い、東小門の方に急ぐ。
門番のお兄さんたちには微妙な目線で見られる。
あ・・・握手したいって事じゃないですよね?
しかし兎君も見られたから、何で兎持ってるんだろう?って思われたのかもしれない。
「こんな時間に墓参りですか?」
とギルドカードの担当の門番さんに尋ねられる。今日は少し若い方だが、気さくである。
確かに門番さんが言う様に遅い時間かも。
ちなみに両手には兎君、花は生きているからなのか鞄には入らなかったから兎君と一緒に片手で持ってる。お酒は入ったので花と兎を持つ謎の人だが、お供えの花だと分かったのだろう。
ファルディアでも定番の花なのかなー?
「なかなか都合がつかなかったのですが、やっと時間が取れまして。遅い時間ですが、せめて気持ちだけでも献花してきます。」と言うと、なんか涙ぐまれた。
何故だろう?
ピカ神を拗らせている人が多いので、様々な都市伝説が複雑にないまぜになって、新たな伝説が爆誕してないか大変心配になる。
「自分も、墓参りが出来てないんです。・・・一昨年、北側の村で、村ごと魔物にやられてしまって・・・。」
自分は全然関係ありませんでした。
自意識が過剰過ぎた!恥ずかしい!!!
「・・・いつか、お墓詣りが出来る日が来るといいですね。」
魔物にやられたって事は、強い魔物が出たのか?ネームド的な。
なんにしても故郷が奪われるとは悲しい話である。
・・・あれ?これクエストのフラグだったりとかしないよな?しないよね?
「はい!」
と明るく門番さんは返事をしてくださったので、ほっとする。いつか、もっと強くなったら門番さんの故郷まで献花しに行ってもいいなと思う。ついでに探検するけどね。
強くなったらできることが増えるな、って思うと楽しくなる。
門番さんに通してもらい、夕方になり始めた平原に向かう。
前回はここで寝たりとか日向ぼっこしていたわけですが、・・・今日は猫の子一匹すら見えません。あんなにどこにいるんだろう。猫の生態も謎である。
人に慣れてるみたいだったから、昼間は街の中にいるのかもしれないけれども。
川を渡り、先日お世話になった衛兵さんを探すが、別の方がいたので挨拶をして森の方に向かう。
えーと細かい場所は分からないのだけれども、アポリアから見て北東の方角か、北北東の方で、リスリスリスゾーンを越えた先になる。花が邪魔になるので、なるべくリスを避けて通る構え。
こんな時こそ気配希釈、気配察知、影踏ですね。厳密に言うと気配希釈って戦闘時のヘイトの減少の気がするのでフィールドだと違うかもしれない。隠密とかそいういう感じのスキルが必要なのかも。でも使わないよりはマシだろうと思って使っている。
そして気付いたけれども、スキルを同じように使っていても、意識的に気を使って歩いた方がより足音は少なくなる。自分の集中力によっても違うのか。これは集中のスキルとかもありそうだなぁ。
欲しいものがいっぱいあって、訳が分からなくなってしまう。今度一度ちゃんとじっくり腰を据えて整理してみたいところ。レベルが上がれば、すぐまた訳が分からなくなるんだろうけれどね。
今は関係ないので、リスとの遭遇避けに集中する。
30分ばかり必死にリスを避けて歩いていると、段々とリスの気配が少なくなってくる。
兎君も途中で目を覚まし、自分で歩いてくれるようになった。
兎って夜行性だったっけ???
リスは頑張ったけれど、2回見つかってしまった。まだまだだなぁ。
リスを倒すのはだいぶ慣れたけど、花を傷つけないようにするのが大変だった。
次第にチャプチャプという軽い水の波の音が聞こえてきて、空気も心なしかひんやりと感じる。あるいは清浄な空気なのだろうか?なぜか魔物が湖に近寄らないしね?
うろ覚えで歩く事20分余り。
漸く、うちすてられた墓までたどり着く。
空はまだ一応明るいけれど、太陽が傾いでいるのはわかる。
木の葉とか枝とか色々落ちていたので、簡単に掃除をして、湖の水で簡単に墓を洗う。こんなことに使うと思ってなかったけれども、一応水筒なんて持ってるので、そこの水でじゃぶじゃぶ墓石を洗う。
で、お花を供えて、お爺さんのオーダーお酒もじゃぶじゃぶかけてあげる。大盤振る舞いだ。
で、手を合わせる。
全くの他人だし、何を言っていいのかもよく分からないけれど。初めましてって事と、剣使わせていただいてますっていう事と、安らかにお休みくださいという事は言っておく。あと、お酒は鍛冶屋のお爺さんの差し入れですというのも忘れずに伝えておく。
あとは何もないかな?ないよね?
兎君は楽し気にその辺で遊んでる模様。
もしくは草を食んでいる。もうどんな姿を見ても大概可愛いって思ってしまうので、大分兎君にやられていると思う。
「兎君~そろそろ・・・。」
唐突に気配察知に引っかかる気配。
だけど、凄く曖昧と言うか・・・薄い?
慌てて気配の方を振り返る。
お墓の側に、さっきまでいなかったはずの”人”が立っている。
栗毛色の長髪の若く美人な人族の女性だった。
服装はこの辺では見ない様式だが、少し和装が入っているような感じだ。だが、動きやすそうで職人の作業服っぽい感じがする。
そして、半分透けている。
何で昼間から幽霊が出るのかとか、逢魔が時にはちょっと早すぎる気がするんだけれども厳密には夕方に近いのだからいいのかなぁ?とか色々あるけれど。
・・・・・・・・・????!!!
自分の中に衝撃が走る。
えっ!?前に剣を使ってた人って、女性だったの!?
ていうか、鍛冶屋のおじいさん、恋人か何かだったの!?
えっ!???
ちょっと予想外の事で脳内が追い付かない。
「えっと・・・?幽霊の方ですか?」
馬鹿な事を聞いてしまう。
女性の多分幽霊の方は、小首をかしげている。
「よく分からないけど、多分?」
自分で分からないのか。でも、普通の人間の様に受け答えはできる模様。
幽霊らしくないといえば、らしくないですが。
「・・・何でここに出てきたんです?」
なんか言いたいことがあるとか、剣の使い方がなってないとか、剣の扱いが下手糞だとか没収とか言われたらどうしよう・・・?
「それがよく分からないのよね?私、何でここに居るの?ていうか、私、誰?」
なんと、幽霊なのに記憶喪失の方でした。
ていうか、幽霊は未練があるから幽霊になると思ってたんですが違うのですか?
「それは、自分もお伺いしたいところですが・・・とりあえず、このお墓の持ち主?墓主???の方ということです・・・?」
墓主ってなんだろう、と自分でも思うのだけれども。
「ちがうわよ。」
なんですと!?記憶がないんじゃなかったの?
どういうことなの!?
「わたしね、刺されて死にかけで湖に投げ込まれたんだもの。多分違うわ。」
うえぇ・・・。むごい話である。
でも近くで亡くなった浮遊霊さん・・・?ってことなのかな?
これは今度墓石をもう一基追加コースですか?
「それは・・・。」
ご愁傷様です?でも本当に死んでるんだもんなぁ?なんて本人に言えばいいんだろう?
「でもねぇ・・・。」
そう言って、お墓の方を優し気に見つめる。
「なんかこのお墓に愛着があるのよねぇ・・・?何でかしら。」
そっとお墓に触れようとしてるみたいだけど、やはり幽霊だからなのか触れてなさそうな気配。
・・・よく考えたら、大地だって物質なんだから、何で幽霊は地面に吸い込まれていかないんだろう?いや、まぁ重力の影響もないんだろうけれども、みんな同じ座標軸に湧きすぎじゃないです?
幽霊なんて見た事ないですけどね!
「えっと、このお墓は、この剣の前の持ち主の方のお墓らしくて、知り合いの方の知り合いみたいなのでお掃除に来たんですが・・・。」
と、シュライブングの剣をインベントリから出す。
「・・・シュライブングの剣。」と言って剣に吸い寄せられるように近づいてくる幽霊さん。
そして、ポロポロと涙をこぼし、大切なものを見つけたかのような、そんな表情。
「何でこんな名剣が、こんなボロボロなのーーーーーーーーーーー!!!」
と幽霊さんは、激怒した。
ふえぇええええ・・・・・・・;;;
っぇえええ・・・・・・???
「あなた、なんなの!?クレンセーテの至宝の一つと言われた名剣に何さらしてくれるの!?一回しんどく!?いや、一回と言わず十回くらい!!!!!」
まさかの剣フェチ・・・!?
シュライブングの剣は、そんないい剣なのでした?
そして無茶苦茶怒られる。
「す、すみません、自分が見つけた時には、もっと酷い状態でこれでも少しマトモに・・・。」
「言い訳しないーーーーーーーーーーー!!!」
「ごめんなさいー!」
なんかノリで謝ってしまう。
でも、なんか泣きながら本気で詰め寄ってくる美人さん、めっちゃ怖い。
自分がやったわけではないのだけれども。
・・・ちょっと透けてるけど。
「あなたね!どうしてこんなことになったの!?」
「えっと・・・ゴブリンが持ってたから?」
「はぁあああ???稀代の名匠ディランドが打った中期の一振りよ?最高傑作のひとつに数えられてるわ!それが何でゴブリンなんかが持ってるのよ!おかしいでしょ!?」
「そう言われましても、自分はゴブリン退治の褒美にもらっただけなので!」
「報酬がチープすぎる!せめてドラゴン退治とかの褒美であるべき!」
「えぇえええ・・・;;;」
というか、記憶喪失ではナカッタノデスカ?
剣に対しては異様な熱意の持ち主の方みたいデス・・・。
「可哀想に~可哀想に・・・シュライブングの剣・・・私の手元にあったらもっと美しくてつやつやのピカピカで・・・あら?剣の力も封じられてるわ?おかしいわね?」
「剣に力なんてあるんですか?」
「あるに決まってるじゃない!月神様が直に御作りを命じられた剣なのよ!下賜するクリートゥス家には・・・・クリートゥス家?」
突然動きが止まる幽霊のお姉さん。
おや?
やはり記憶喪失のままでした?
それとも芋づる式に何か思い出しましたかね?
西日本はバカに対するイメージが悪いそうですが、「は?」だと東日本では今度は印象が悪いそうで、細かい言葉に対するイメージは難しいなと思う今日この頃です。




