2-55 宵藍の散歩 2
学者さんたちと、衛兵さんたちと別れてさらに南下していく。
アポリアからみて、時計回りに回っている様な感じだろう。
赤い光を離れたせいで辺りは完全に闇だ。所々で人と獣の争う音が遠くで聞こえたり、冒険者たちのであろう明かりが見えたりする。初期エリアではないんだろうけれど、”霧向こうの民”が大量にいる開拓都市アポロディア側の南側の方が、当然敵モンスターのレベルは低い。おそらくモブの奪い合いになって、来れる人はどんどんアポリア王国側に流れてきて、狩場が混んでいるのだろう。
所謂モブの奪い合いというやつである。
そして、起こるのが無理するあまり、ちょっと適正レベル上での狩場での事故死。
今、割と近くに全滅して死んでいる様子のPTがいる。
盾っぽい若い人族の女性と、ケモミミの男性、アタッカーかな?小人族っぽいシーフぽい人とか、ヒーラーぽい男性、あと何のジョブかわからない軽装備の女性。
・・・これって死んで15分くらいはその場に残るんだっけ?ソロだから生憎とその辺分かっていない。自分がPKされた時にそうだったから言ってるだけである。
でもあれ特殊エリアという注釈がついていたしなぁ?本当の所ノーマルのフィールドはどうか知らない。ネットで調べればすぐわかるんだろうけれど。
だが死んでいる間は多分自分の経験上、他のゲームの様には意識はないはずだ。・・・よく考えたら死んでるのにチャットで話してるとか意識あるって怖いよね。そう思ってまじまじと観察してしまったけれど、意識がないから多少見てても相手には分からないだろう。・・・あれ大丈夫かな?うわぁ、ぱっくり切れてる・・・。あ、あの人、首が変な方に曲がってる。グロ耐性がない人は卒倒するかもしれない。確かグロフィルターってあるんだったか。R15なのでファルディアは比較的優しい設計である。
まぁ死んでいるのに大丈夫も何もないが、自分には蘇生魔法とかないし、こんな夜中に暇な辻ヒーラーなどまだいないだろう。元の場所に戻るだけなのか?
・・・そういえば、自分死んで”アバターロストしなかったら”どこに戻るんだろう?死なない前提で来てたからあんまり意識した事なかったけど。アルシオンになるのかな?
などと余計な事ばかり考えていたのが悪かったのかもしれない。
ガツッ
木の幹か何かに足を取られて転びかける。
「おっと・・・。」
振り返ると、それは木の幹ではなく、足だった。
人が横になっている。茂みから足だけ出てたみたいだが、こんなところで隠されたみたいに死んでいる?
しかも死んでいると思しき、全く動かない男(多分大きさなどから男だろう)は、山歩き等にそぐわないスラックスの様なズボンを履いている。冒険者というよりは、ちょっと高そうな服を着た町人の様な・・・?
―――ゾクッ
第六感さんの警報と一緒に、気配察知にも引っかかる。
左後方からの遠距離狙撃!
もしかして・・・PKか!?
茂みがない右手側に回転して回避しつつ、左手を地面について軸にして体を回転させ相手に正対する。
今までいた場所に何かが鋭く通り過ぎていく。小型ナイフか何かだろう。
今の所、気配は1つだけだけど、まだ他にもいるかもしれない!
先ほどの死んでいた、プレイヤーっぽい冒険者たち。
すっかり魔物にやられたと思い込んだけど、そういえば当の魔物の姿も何もいなかったわけで。
こいつに先ほどのPTはやられたかもしれない、そう思うと気が引き締まる。
複数いたら未だ気配を察知できていないのは不味いし、ひとりで殺ったのなら、ソレはそれで手練れという事になる。
相手は自分が奇襲の初手を避けた事に少し戸惑った様だが、気を取り直して第2射、第3射を入れてくる。
割と早い!そして軌道が正確だ。
避けるのも一苦労だが、レベルが上がったおかげか何とか避けられた。
相手が遠距離物理メインならば―――
AGIは向こうの方が少しだけ早い気はするが、こちらは称号で移動速度アップがついているので、全力で接敵する。影移動は切り札にとっておく。
相手が慌てて距離を取り回避行動を取ろうとするが、・・・こちらの方が多分少し早い。
一刀目は避けられたが、二刀目は入ったかと思った。
――――ギィイイン!
パリン。
小さく何か割れた音と、奇襲者の前に薄い青いガラスの様なものが割れて消えるエフェクト。
何か未知のスキル?を使われた模様。
背筋がゾクゾクっとする。
・・・そう、これは愉悦の感覚だ。もしくは渇望だろうか。
―――いいな。今のスキル、1発限りでダメージを防ぐのか。欲しい。後で調べよう。
ダメージはスキルでおそらく相殺されたものの、威力はそのまま伝わったのか、奇襲者はノックバックされて距離が3メートルほど開いた。
つい、スキルに気を取られて追撃の手を緩めてしまったが、相手も再び攻撃してくる気配が今の所ない。
・・・おや?
全身に困惑の色を湛えて、奇襲者が・・・的が小さいなとは思ったが小柄の黒髪の・・・黒服を着た少年のようだ。それとも小人族だろうか?大・小人族だっけ?名前がややこしいな!
「・・・困る。」
そう、ぽつりと口を開く。
「困ると言われても、こちらも困ります。大人しく死ねと?」
何が困るか分からないが、殺されないことに困るって事だよねぇ・・・?
「私、仕事を見られたら、目撃者は消すか失業しなきゃいけない。でも、君、私じゃ殺せない。困る。」
暗殺者って奴か?
そんな職業あるのか。
ていう事はPKというより、貰い事故?
でも結局プレイヤーキルするんだからPKになるのか?
なんか迷惑だなぁ。そして諦めるの早くない?
いや、諦めてくれた方が助かるのだけれども。
「そんな迷惑な仕事辞めて、別の職についたらいかがですか・・・?」
つい、そう言ってしまう。
だってホント迷惑だよ。自分には全然関係ないじゃん。
「悪を・・・裏で・・・裁く。リアルじゃできない・・・。カッコイイ。」
中二病予備軍みたいな人でした。
「かといって、見られる度に関係のない人間を殺して回ったら、悪では・・・?」
「必要な・・・犠牲・・・つきもの。」
「それ、悪党が言ってる事と同じですよ。」
「ガーン・・・。」
口でガーンって言いやがりましたよ。この人。
ええい、もう面倒くさいなぁ。要は悪を裏で裁く正義のダークヒーローがやりたいって事だよね!
「なら暗殺者は廃業して、孤高の賞金稼ぎとか、群れない正義の味方とかやったらどうです?どうせスタイルはソロなんでしょう?人とつるまない一匹狼は実力があれば格好良くは見えますよ。」
と、適当な事を言っておく。
こう、昔の西部映画とか、アメコミ映画とかきっとそんな感じ。アウトローヒーローだっけ?
「何でもいいから、正義の味方を気取りたいなら無関係の自分をまきこむのはやめてください。やり合うっていうなら、さっさとやり合いましょう。」
どっちでもいいんだけどね。
こう、悪人でもない善人でもない中途半端な感じはちょっとね。
見てる分には楽しいが、巻き込まれてトラブルに合ってる本人としては、果てしなく面倒臭いというか、面倒くさいよね。うん。面倒くさい。
そう言う自分に不思議そうに、こてん小首をかしげる仮称黒小人君。
「何か・・・。君、変。」
変な人間に変って言われたんですけど!!!流石にそんなに変じゃないと思うんですけど!!!
自分そんな変なこと言いました!?ねぇ!
「・・・おかしなこと言ってないですよね・・・???」
「ん~・・・普通は怒鳴ったり怒ったり?する??殺そうとしたり?」
「迷惑の自覚はあるんですね・・・。」
なんかドッと疲れる。
「何人か始末したので。」
そうですか。まぁ仕事柄そうかもしれませんが。
ていうか、そんなに見られるなら才能がないからやめた方がいい。そもそもプレイヤーはキルされてもリスボーンするから無意味だと思うのだが。
・・・でも、そうか。何人か始末できるって事は、やはり実力はあるんだな。
「先ほど、冒険者さんたちの死体を見たんですが。あれはあなたが?」
彼の戦い方を見る限り遠距離物理かな。
何人かは符合するが、明らかに傷がぱっくりのもあったし違う気もする。
隠し技を持ってるのかもしれないけれど。
「あれは。」
キシャー!ドスドスドス。
遠くで不吉な音がする。
・・・嫌な予感がしますよ。本当にもう。
トラブル沼ってこの人だけじゃなかったの!?
「あいつが、やったの。」
黒小人君が自分の後ろを指さす。
振り返る。
闇夜でもわかりやすい、赤い皮膚をした体長4メートルほどのオオトカゲだった。
今更だが、よくトカゲが見えるので、月が昇っていた事に気づく。
キシャ―――――――!!!
明らかにこちらに気づき、威嚇してくる巨大トカゲ。
爪が発達しており、「ああ、あれで先ほどの冒険者さんをパックリやったんですね。」といった感じ。
気配察知に丁度引っかかるくらいの距離だけれども、強敵だという事がわかる。
第六感さんも警鐘を鳴らしている。
トカゲがドッっと走り出しこちらに突っ込んできたので、慌てて二人で同じ方向へ道沿いに逃げ出す。
コントか!
こちらも早いが、向こうも早い!
だが巨体なので、パワーはあるが攻撃速度は少し遅い!
攻撃をされても黒小人君も自分も避けてしまうので、余計癇に障るんだろう。
段々本気になって赤トカゲは追いかけてくる。
当たったら死ぬからやめてほしい。ロシアンルーレットでもやってる気分だ。
「これ、知ってる?」
顔色を全く変えず、飄々と攻撃や攻撃で飛んできた石やら木片などを避けながら聞く黒小人君。
「しら、ないですよ!余裕ですね!?」
「これ、ネームドモンスター。ディラシスのオオトカゲ。さっきまでレベル18だったの。」
「ほほー。」
トカゲの尾っぽ攻撃が来るが、大振りなので避けるのは楽だ。二人でジャンプして避ける。
代わりに木が何本かみしみし倒れる。凶暴だ。
「さっき冒険者5人殺ったから、今レベルいくつだろ?」
コテン、とかわいらしく左に首をかしげる。
「19か20ってとこだといいです、ね!」
モンスターのレベルの上がり方なんて知らないですしね!でも、自分のレベルを考えると、それくらいの感じがする。ネームドモンスターでレベルの割りに強いだろうって分を差し引いてもだ。
「私、レベル22。」
何が言いたい。
・・・ああ、本当は分かってますよ畜生が!
トカゲの爪攻撃が自分に来る。バックステップで避けるが、ギリギリで避けたが足元が少しヤバい。軽業もやはり取っておくべきだ。
「レアアイテム、出すらしい。」
「やろうか。」
やってやろうじゃないの。
どうしてこんな所に、無理すればできそうなネームドモンスター置いておくの?
バカじゃないの本当にもう!
【プレイヤーネーム:ティラさんからPTの申請が来ました。受諾しますか?】
いや、本当にバカなのは自分だろう。
PNTもきっと万全ではない。月も上がったばかりだし月齢が低いから心もとない。
死ぬ可能性も高いのに、自分を殺そうとした暗殺者の口車に乗るのも馬鹿々々しいのに、
―――――どうしようもなくワクワクしてしまう気持ちがあるのだ。
文字さんにYESと念じると、すぐにPTが編成された。
「咆哮がやばい。」
「有難い情報ですね。」
勿論、皮肉である。
精神が低い近接の自分には避けようがないじゃないか。
黒小人ことティラ君には遠隔だから関係ないかもしれないが。
「スワップ、スタン、咆哮止め。5%凶化。」
「大変分かりやすくて、涙が出ますね!」
スワップ・・・スイッチと言う人も多いけれど、お互いに敵視を交互に取り合う様な戦法の事だ。お互いのジョブから考えるに、今回はきっと敵視を取り合って間を歩かせて被ダメ―ジを減らす戦法と言いたいのだろう。そして食らったら戦線が崩れそうな咆哮技がきたらスタンなどさせてキャンセルさせて技を止め、HPが残り5%で凶化状態になるから火力を残しておいて一気に削れってことだろう。
多分・・・たぶんね・・・?
それでも、まるで打ち合わせをしていたかの様に、少し開けた場所でお互い左右に散開する。
少し戸惑い、どちらを襲おうか迷う赤トカゲ。
この戦法、近接の自分の方が不利じゃないかなぁ?と思いつつ、先に敵に切りつけ、敵視を稼ぐ。黒小人・・・ティラ君の方が安全に遠隔からヘイトを取れるからね。
避けることを主眼に置いているので大ダメージではないが、それでも初めて反撃をしたからだろう。赤トカゲは怒り狂ってこちらに来る。
爪の威力の高そうな攻撃が来るところで、ティラ君から投擲の援護射撃が来る。邪魔をされた赤トカゲの怒りがティラ君に移り、自分から気を逸らす。
後ろを向いて隙が出来たトカゲに、ある程度ティラ君が敵視を稼いだ所で強打を・・・おっと、ここで赤トカゲが攻撃の動きを止めて後ろ脚を踏ん張り、息を大きく吸い込んだ。これがきっと咆哮の予備動作だろう。入れようと思ってた攻撃を、予定を変更して左後ろ足に叩き込む。シュライブングの剣を使ってはいるが、一応安全牌を取って影変化と影硬質化、影質量増加を使う。影纏は前回武器に乗せたら威力と消耗がヤバかったので乗せてない。
トカゲは足を踏ん張ってたから、多分殴るべきはここだろう。
あとは肺のあたりか。
ギィ!
紅甲冑の要領で殴りつけると、今までにない鳴き声を出して左によろける赤トカゲ。
大きくこちらに敵視がくるが、その隙に思いっきり攻撃を入れ出すティラ君。
手数多いなぁ!
自分も攻撃はしているが、敵視もがっつり取ってるので、今はダメージを控えめに抑えている。
あくまで均等に敵視が釣り合う位ではないと、タンクではないので敵視を稼ぐ様なスキルはお互い持っていないはずだ。アタッカーでのスワップは少し技量がいる。
まぁ最も、気配希釈はあるので今それも使用しているが。
「ずるい。」
PTチャットでティラ君から抗議が来る。
ずるいもへったくれもない。敵視の管理は必要だから使用しているんだが。おそらく自分も気配希釈欲しいとかそういう事なんだろう。聞き流す。
そして、自分の敵視がティラ君に移り切る前に、再び咆哮の予備動作。
回避に専念してたので、ちょっと間に合うか自信がない!が。
ギィイイイイ!
まるで赤トカゲが雷に打たれたかの様に痙攣して動きを止める。ティラ君がスタンと言ってた意味が分かる。本当にスタン扱いの弾か武器があるのだろう。
雷か?雷属性の技か?それとも投擲武器に魔法でもついてる?
「ずるい。」
お返しにPTチャットを送っておく。自分もほしいですよその技。
そしたらPTチャットで返信が。
「高い。」
アハッ!と戦闘中なのに思わず笑ってしまう。
遠隔には遠隔の悩みがあるけれど、やはり投げる物のコストだろう。
弓にしろ、投擲武器にしろ、ダメ―ジばかり重視すると破産するのだ。
リアルの弓道でも安い矢で6本で3千辺りから、高いと3万円を超えるらしい。恐ろしい。
ゲームでは上の方のレベルになれば、自分で作ったり効率的な確保の方法が確立されていてまだよいが、ファルディアみたいな始まったばかりのゲームでは大変だろう。
なお、どれくらいの確率で回収できるか知らない。ホントお金を投げているようなものなのかも。
お互いに敵視を取り合い地味に削り合い、咆哮だけ止める。そんなことを3周ばかり繰り返すと、そろそろ残り5%かな?という辺りにHPのバーが近づいてきて緊張感が高まる。ちなみに耐性もそろそろつきそうで怖い所。自分一人だけだったら、強打に耐性がすぐついて、きっと無理だっただろう。
最後負けるくらいなら影纏つかうけれど、ここからが本当の勝負だよね。
凶化でどれぐらい強化されるのか。
それが問題だ。
ちなみに自分はまだ敵の攻撃はまだ食らっていないが、敵が攻撃した後に飛んできたものは避けきれなくていくつか食らっている。HP自然回復で回復しているが、今の所HP8割といった感じだ。ポーションは補充していないので、りょっぴさんと折半して残った1瓶しか持っていない。だがそもそも、AAではない技の1撃を食らえば、紙装甲影族など一瞬でHPを溶かすだろう。辛うじて死ななかったとしても、弱体がつくだろうからヒーラーが居ないこのPTなど、即壊滅である。
そして、凶化すると咆哮を止めていた強打やスタンへの耐性も上がる事が予想される。
次に咆哮が来たら止まらないかもしれない。やばいなぁと思ってしまうが、何故だろう?ワクワクする気持ちの方が勝ってしまっている。
自分はこんなバトルジャンキーだっただろうか?
細かい事はまぁあいい。
―――――ギャァアアアアア!!!!
赤トカゲが怒りの声を上げ、その赤い体にオレンジ色のオーラが纏われるエフェクトがつく。
なんとも分かりやすい。
敵のHP残り5%。ここからが勝負になる。
作者がいうのもなんですが、15歳で美少女顔の少年ってなんだよって思っていたのですが、先日インターネットで美少女顔の少年が話題になってて吹きました。実在するんですね(小並感。
辻ヒーラー=全く関係のない他のプレイヤーにヒールをくれる野生のヒーラー。蘇生魔法をくれる人もいる。どのゲームでも、これを趣味にする人々が一定数いる。
AA=オートアタック。VRではないゲームだと通常攻撃といったところ。VRでは本当に自動で敵がアタックしているのか、今の段階では不明であるが、要は通常攻撃と言いたい。




