2-48 ゴースト狩り 3
再び門扉の前に来ました。
あのクソ鳥程ではないですが、常識の範囲内での最強の敵がいるという気がしてしまう自分です。
また、倒せる最大の敵っていうあたりがミソになります。
倒せなかったら自分たちの腕が悪いっていうことじゃないですかー。やーだー。
というわけで、そんなのは嫌なので、頑張りたいと思います。ログアウトの時間も迫っていますし、サクサク行きましょう。
気配察知を展開していますが、未だに変わったところはありません。近くにも敵はいないので、あけ放たれた玄関に近づきます。
”危険”
第六感さんだろう。
やはり肌を這う様な鳥肌を覚える。
だが、今度はそれを抑え込んで、少しずつゆっくり近づく。
そうすると、砦の内側からだろうか?黒いオーラがどこからともなく収束してきて、玄関の前に大きく形を取る。さ迷う甲冑より2周りは大きく、色が若干ピンク味を帯びている。
こいつは明らかに・・・!
「甲冑1!ですが上位種です!」
PTチャットで叫んで、影移動で全力で退避。
だが、POP場所が近い事もあって、向こうの攻撃の方が早い。
上からたたきつける様な風と、体をすり抜ける大剣。
速さも甲冑に比べて結構はやい!
ていうか、影移動してなかったら死んでた!
それでも、さすがに自分程は早くないし、大振りの攻撃の後のリカバリーは遅い。
少し余裕ができ、影移動を使い切る事なく15秒ほどで回避に余裕がある距離が取れる。残りは緊急回避用に回そう。
がしょーんがしょーんと紅甲冑は自分の後を追いかけてくる。
「ボスでたー!」
とアクティスが喜んでる。
「ノーマルの甲冑よりも技が2,3個増えていそうだな。気合い入れていけよ!」
「おうよ!」
と言って、ベルデさんが大盾で甲冑を殴り敵視を取ってくれる。
甲冑より時間がかかるが順調に削っていく、くるるんさんとアクティス。
「困るよ~ダメージ大きすぎる~!」
と泣き言を言っているのがりょっぴさん。
強化などに回せる暇とMPがない模様。
一番役に立っていないのが自分である。もどかしい。
そこに突然の甲冑が黒いオーラを空中に出現させる。
見た事がない技なので緊張が走るが、それを左手でつかみ、そのままりょっぴさんに投擲してくる。
オーラの物質化からのランダムターゲットの投擲技?
考えていても、体は動いていた。りょっぴさんの近くにいた自分にはそう遠い距離じゃない。
気配察知を全開に、自分が多少受けても投擲技位なら紙装甲でも死なないだろう。射線上に体を滑り込ませ、オーラをシュライブングの剣の右で受ける。
キ!・・・ィイイイイイン・・・・
物凄い音がしたが、剣も欠けず、何とかオーラ刃も止める。
いや、剣で受け止めた際に欠けた黒いオーラがはじけ飛び、多少は当たった。破片だけでHPとMPが削れてる。これはりょっぴさん直撃したらヤバいですね?
「黒い刃、MPも削ってきます!受けてもHP半分持ってかれました!」
「イヤァアアア!自分には無理ぃいいい!!!」
叫んでるのにベルデさんを回復して仕事はきちんとしているりょっぴさん。流石だ。
確かに魔術師なら即死も考えられる。
「ナイスフォローだ!りょっぴを頼む!」
と言いながら「俺はここだぁ!」とベルデさんが剣で紅甲冑を殴る。回復が多いので挑発行為を多めに入れているのだろう。
「黒いオーラ、防いじゃえばいいのん?」
と、魔法少女。防げればそれに越したことはないんですが…。
言いながらも華麗なコンボを決めており、甲冑がごうぅん!ごううん!と鳴っていてさながらドラを正拳突きしている様相になっている。
甲冑がでかくなった分、音が重くなっているのが面白い。
ちなみに、アクティスが大剣でぶん殴ると「ガアアアアアン!」と景気がいい音がする。
中国かなんかの映画にあったような塩梅だ。
「あのオーラの後のチャージ技、食らったら即死の可能性あるぞ!バッシュで止めて耐性がついたら目も当てられない!」
「いいね!盛り上がってきたね!腕でも切り落としちゃおうか!」
好戦的なアクティス。
「案外それが正解かもしれねぇが、とりあえずこのままやるぞ!」
「おうよ!」
そろそろHPが75%を割ってきたので紅甲冑の挙動に注意していると、やはり瞬間技のオーラノックバック技を使ってきた。
そしてチャージを開始する。
うわ・・・第六感がガンガン仕事をするよ。
「これ食らったら、多分自分は即死します!」
と宣言しながら、左膝の裏を3スキル重ね掛けで同じようにぶん殴る。手ごたえはノーマルの甲冑より、やはり甘い。
敵視はとらないものの、ギロリとした紅甲冑の視線を一瞬感じる。
おー怖。
しかし、これあと2回も止め技入るのかなぁ?
・・・ボスっぽいから、あと3回きたりして?なんてねぇ。
それ以降は新しい技もこないまま、50%の所で再びオーラ&チャージ。
このチャージも何とか止められたが、ホント次ができるか分からない程ギリギリにキャンセルが入った気がする。
やはり視線を感じたので、そこでは何もせず時間を置く。少し様子を見た後に、おそらく一番敵視を稼いでいるのが少ないであろう自分が、時々ベルデさんにポーションを投げて回復させる。といっても3個しかないので、りょっぴさんからも3つ貰った。
「ホント助かるよ!」
と、泣きながら休憩を入れてMPを回復させているりょっぴさん。
それを見てたアクティスとくるるんさんが
「俺たちも次に一個ずつ入れるぜ~!」と言ってくれたので、休憩が長くできたりょっぴさんのMPは大分回復した。しかし、敵のHPは25%に近づいている。
この間、黒い刃は3回飛んできたが、自分に1回飛んできたものは避け、あとはアクティスに2回飛んでいった。ヒーラー固定とかではなく、やはりランダムターゲットだったらしい。まだ初心者のこの時期にヒーラー固定攻撃は流石にえぐいよね。
アクティスは回避はそこまで高くないが、HPやVITが自分よりも高いので、受け技で綺麗に受け、それでもHPが2~3割ほど削れた。
くるるんさんが「ざまぁwwww」と言いながらご機嫌にコンボ技を決めていたので、ちょっと魔王が爆誕しつつあるかもしれない。
アクティスは笑いながら2回目の黒い刃を受けた後に、ポーションを飲んで自己回復をしていた。
そして到達するHP25%。
オーラ&チャージがやはり発動。
正直、足への強打はもう利かなそうな気がするので、与える力の方向を変える。
ジャンプして背中を斜め上から突き飛ばすイメージで思いっきりぶん殴る。
大きさ的に上からの攻撃は慣れてないと思ったからなんだけど、ビンゴなのか紅甲冑は今までにないほど大きくバランスを崩してチャージ技がキャンセルされた。
「うっへ!弱点部位設定もあるのかよ!」
と叫びながら復帰したアクティスが炎を纏った大剣でそこに大きく袈裟切りをかける。スマッシュ的な技だろうか。くるるんさんも「あー!ずるぃ!」と叫びながら力を貯めて向かっていく。
強打の反作用で大きく後ろに飛んだ自分は、通常営業に戻るが、手持ちのポーションが残り2。敵のHPが25%。りょっぴさんのMPはほぼ満タン。
アタッカー達は満身創痍になりつつあるが、まだまだやる気満々だ。
エンチャントはMPなのかな?もつのかな?とは思う。
ベルデさんは淡々と与えられた盾という仕事をこなしている。
今までとは異なり、若干水色のオーラを纏っている。ベルデさんのエンチャントだろうか。
彼が一番不動で、傷を受けても揺るがず安定感がある。
このままいけば勝てそうな気がするが、このまま行くとも思っていない自分がいる。
多分、歴戦の猛者であるこの人たちも分かっているのだろう。警戒する目線をしている。
だから、りょっぴさんのMP回復を優先させたんだと思うしね。
そして敵のHPが残り3%になった時、突如敵の目が赤く光り豪快にジャンプをする。
「来るぞ!」
ベルデさんが声を上げる!
そのまま甲冑は真下に着地し、地面を割るようなエフェクトと共に衝撃波を放つ。
距離減衰がかかるタイプのダメージだったんだろう。
距離を大きく取っていた、りょっぴさんや、4,5Mの外側からちょいちょいしてた自分には1割程度のダメージしかきていないが、接敵していたベルデさん、アクティス、くるるんさんのHPが大きく減らされる。
特に、くるるんさんのダメージが深刻だ。
8割程度持っていかれており、全く動かない。
恐らく気絶状態だろう。
アクティスはSTもしていることからVITも多少ある。が、それでも6~7割持っていかれており、見た事もない赤い状態異常のアイコンがついている。あれが出血かなぁ?
本人も頭から血をジャンジャン流してフラフラしている。
唯一平気そうなのがMTベルデさん。それでもHP5割を持っていかれている。
辛うじて状態異常がつかなかったんだろうが、慌ててりょっぴさんが回復をしている。
そして、紅甲冑。
かつてなく禍々しいオーラを放ち、全く動かず、地面に大剣を刺したまま、物凄くオーラの集まるエフェクトがついている。
これは・・・ものすごーーーーーーーーく自爆技の予感がしますね?
これを発動させると全員死ぬだろう。
実際、第六感さんもガンガンと警鐘を鳴らしてくる。
「うぉおおお!」と殴りかかるベルデさんだが、MTの攻撃力はさほど高くない。おそらくチャージしきるまでに3%は削れないだろう。
・・・。
まぁ。
死ぬなら自分一人でいいよね?って話で。
特に動いていない、でかい的に当てるだけなら簡単な話。
影纏をかけたシュライブングの剣を持ち、両方の剣を大きく頭上に振りかぶり、ジャンプをして。
紅甲冑を頭からかち割ろうとしたんだけど、
黒くなったシュライブングの剣はそのまま何の抵抗もなく、バターみたいに簡単に紅甲冑の体を左右に引き裂いた。
「はぁああああ????どうなってるんだ!?」
と叫ぶベルデさん。
まさか、自分もここまで威力があるとは思っていませんでしたが・・・。
オーラがキャンセルされズズーンという音と共に左右に分かれた紅甲冑がだんだん薄くなるところまでは見た。
ドサッ。
そのまま、体を支えきれずに地面に倒れこむ自分。
全身からあふれる渇望と虚脱感。
指ですらピクリとも動かす気になれず、このままだとヤバい事がわかる。
あー・・・。どうしよう?死ぬな?
と思うが、多分HP8割は残っているし、死にかけていると気づいてもらえないまま死にそうで笑える。
実際りょっぴさんはくるるんさんの手当てをしてるし、ベルデさんはアクティスの頭にドバドバとポーションをかけている・・・顔が反対側を向いているしスキルが発動しないから音だけで判断してるがたぶんそう。
せめて月が出ていたら・・・・
せめて太陽が出ていたら・・・・
と思うが、ないものねだりである。
だが、果てしない倦怠感の中で、肌をチリチリとするものがある。
僅かに感じるソレは、遠くにある松明の明かりだろう。
多分このわずかな光が、自分の命を今つないでくれているのだろう。
MJKBY氏は明るい所に入った途端に動き出したが、自分は全く動く気にもなれない。多分あの時のMJKBY氏の状態よりも、今の自分はかなり”死”に近いんじゃないかな?って。
ちなみに、声も出せないし、チャットもできない。
正直考えてるのもしんどいんだが、視界の端の時計を見るとそろそろログアウトする時間である。
こうなったら仕方ない。
時間を調整して昼間にログインするようにして、リアルからアクティスにメールして、代わりにみんなに謝っておいてもらおう。
「おい?大丈夫か?」
と体の左の方から声がかかる。ベルデさんの声だけど、何も反応できなくて申し訳ないなぁ。
最後の力を振り絞ってPTからの離脱と、ログアウトを文字さんにお願いする。
大丈夫かなぁ?それくらいはできそうな気がするんだけど。
【プレイヤ―ネーム:アクティスのPTから離脱しました。】
「ああ?おい!?」
ご挨拶もできず、ごめんなさ・・・
【ログアウト処理を実行します。そのままでお待ちください・・・】
「えぇ?ちょ・・・・・!・・・・・・!?」
遠くに焦ったベルデさんの声だけ聞こえた。
・・・
フッと意識が現実に戻る。
体は軽く、まるで悪い夢から覚めたようだった。
外を見ると16時20分ほど。
少し早めのログアウトだ。
まず普段使わない携帯からアクティ・・・内田にメール。
「悪い、ONTが切れて動けないし、声すら出せないからログアウトした。みんなによろしくお伝えください。何かあったら後日お願いします。」
とメールをしておく。
多分転送設定になっているだろうからすぐに届くだろう。
と、思ってたら案の定すぐに返信がくる。
向こうの方が時間の進みが早いので返信が早い。
『了解。今日はありがとう!こっちもサクのおかげさまで全員無事!ありがとうだってさ!・・・ところでONTが切れるって大丈夫?やばいの?』
「多分あのままだと死ぬ?」
『げぇ!どうするんだよ!あれこそ自爆技かw!いや、むしろ死んじゃったほうが楽?』
「自分、アバターロストの可能性があるので、出来ればそれは避けたいです。お日様が出てる時にログインして暫く日干しになります・・・。」
月光の方が効率がいいんですがね、今、月齢が低いので日光の方が無難かな?
『影族の生態が謎すぐる・・・!太陽光発電でもしてるの!?わかんないけどまた後で!夕飯よろしく!』
「はいはい~。」
と、メールをして終わらせる。
これで、懸案事項を一つ減らせた。
廃人・・・本人たちの認識は準廃人みたいだけど、廃人の割には常識的でまともな人ばかりで気持ちよく過ごすことができました。
廃人の中でもヤバい人たちは、トイレにすらいかないとか、仕事を辞めさせられるとか、3時間睡眠で交代でレアドロップ落とす敵性モブを見張りますとか、効率的に作業するためにお互いのキャラでログインできるようにアカウントとパスワードを教えてください(規約違反です)とか、この不正ツールを導入して効率的に(規約違反です)、みたいな話もザラにあるわけで。
まっとうな生活・・・をしているかは内田を見ていると怪しいが、人の道に外れた様な事はしていなさそうだし、礼儀正しく、言葉が通じて安心した。あの人たちだったら機会があったらまた遊んでみたいなって思う。最も、新しいメンバーさんを入れるみたいだから、もう機会もないかもしれないけどね。
そんな感じに頭にファルディアの事が沢山浮かぶ。
・・・今日は少し、ファルディアの熱が冷めない。
今日は楽しかったかな・・・?
多分楽しかったんだと思う。
いつもとは違った種類のドキドキをして、違った動きを考えてして。
あんなにも影纏が強いとはまさか思わなくて、おかげで死にかけているけれど。
だけど。
・・・ああ、そうか。
初めての事が沢山あるのは、やっぱり楽しいんだな。
って、そう思った。
―――――――
気持ちを切り替えて、階下に向かう。
それでも、少し足元がふわふわしている気がしたけれども。
1階にはいつの間にかお客さんが来ていたみたいで、ばーちゃんが近所のおばさんと居間で喋っていた。
「こんにちはー!」
と挨拶をすると
「あーらカヅキちゃんお邪魔してます!」
と声をかけてくれる。「ヤッダーもうこんな時間~?」とおばさんが言うので、
「どうぞごゆっくり!ばーちゃん、水撒いて素振りとかしてくるから、少し外にいるよ!なんかあったら呼んでー。あ、あと内田くるってよ。」
「あいよー!」
必要な事だけ伝えて、居間を出る。
見ると洗濯物が干しっぱなしだったので、取り込み、いつもの様に水を庭にまいていく。
それが終わったら庭掃除。
朝もやったので、そこまで汚れてないからすぐ終わる。
続いて、30分鍛錬する予定だったので、腕立て腹筋背筋を学校の体育の時の様に30回くらいずつやっていく。・・・もう少し増やした方がいいのかな?分からないので、なるべく丁寧にゆっくり。ゆっくりやると負荷が強くなって辛いよね。
後は素振り。学校で剣道の授業があったので、基礎だけできる。本当にできているかは知らないけれども。
一番ノーマルの正面素振りを行う。
素振りするものなど当然ないから、振るのはさっきまで庭を掃いていた箒になる。
動きを大分忘れていて足がもつれる気がするので、これも丁寧にゆっくり。
これも結構疲れる。
武術も、お茶も、踊りも、音楽も。
結局の所、熟練した技術が問われる基礎はどれも似ていると思う。
まずは姿勢。
型は色々あるが、自分の根幹がぶれていてはだめだ。
中心の軸をしっかりと持つことが大事になる。
次に呼吸。
武術は特にそうだけれども、腹式呼吸が求められる。肩で息をすると狙いがぶれて定まらないからだ。音楽もそう。よく教室で放課後吹奏楽部部員がひっくり返って腹式呼吸で発声練習とかやらされている。肩で息を吸ってはいけないのだ。
出来ているのかも合っているのかも知らないけれど、これだけは乱さぬように注意しながら、素振りをしていく。
ブン!ブン!という音が、回を重ねるごとに少しずつクリアになってきている気がする。
暑いけれど、段々心が澄んできて気持ちが良い。
ファルディアと違い、まだ現実の空は青く明るかった。




