2-45 顔合わせ
結局のところ、砥ぎ代は3万くらい通常はもらうけれど、1万くらいでいい。という事になった。なんで1万くらいなのかっていうと、お買い物具合によって変動価格だからになる。
次も状態によるけれど、今回程度なら1万でいいとお爺さんは言ってくださった。貧乏初心者には大変ありがたい事です。
あとは納期なんだけど、実は自分この後狩りに行こうと思ってたんだけど、どれくらいかかりますか?と聞いたところ、3時間はよこせ!とのこと。狩りには十分間に合うので3時間後にまた取りに来ますねと伝える。
もう少し時間がある時に来ればよかったな。今度はログアウトする前にもってこよう。
で、目途がついたので、気楽に装備探し。
「お爺ちゃんがあんなに喋るの初めて見ました!」という娘さんに色々見繕ってもらう。
お爺さんの過去が垣間見れて嬉しかったらしい。
想い合ってる家族ってやっぱりいいね。
「お客さんはどんな色が好きですか?肌が黒いので黒じゃ重い気がしますが。」
肌が黒いっていうか、存在が黒い?
自分忘れがちですが、影族なので真っ黒ですね?
「えっと、黒は好きなんですが、ちょっと着るには向いてないので、お任せします。でもあんまり明るい色よりは落ち着いた色の方が好きです。」
と無難に答える。
この感じだと多分茶色とかこげ茶とかになるだろうけれど。革の色でね。
まだ初心者だし色にお金使うより、性能にお金を使いたい。
「お客さんは重戦士っていうより、軽戦士ですよね?」
「そうですね、スピード重視です。」
「でしたらやはり、軽めがいいと思うんですよ。革装備がいいと思うんですが、いいものは10万じゃ手が届きません。」
そんなもんですか。
「それだったら、性能は落ちますが、この革のジャケットおススメです。ポケットも多いし、内側に刃物隠せる仕様で、少し金属が織り込んであります。鎖かたびら程は強くないですが、普通の装備よりは強いです。あと、軽いですね。」
出してきたのは、こげ茶の革のジャケットだ。ちょっと太ももの近くまであるが、末が広がってるので動きを邪魔しない。
「着てみていいですか?」
「もちろんですよ。はい。」
と、渡してくれたので羽織ってみる。
動きを邪魔せずいい感じである。しいて言えば、少し手首が短い気がするので、わずかにサイズが小さい程度か。だが気にならない範囲である。
あとは・・・
「ごめんなさい、普通のズボンでいいので、それも何かないですか?」
ジャケットだけ着てると、何も装備していないよりモゾモゾする。なんかこれから前をはだけて見せます!みたいな変態を彷彿とさせるというか・・・。
プスッっと手を口に当てて笑う娘さん。
「はい!ありますよ!ジャケットが長めなので防護力が高くなくても問題にはならないかと思いますし、そのジャケットが既に売値が98,000Fなのであまりおまけできません。砥ぎ代とあわせて10万にしておきますから、ズボン代別に出せますか?えっと、こっちもおまけして一万くらいあれば大丈夫だと思いますけど。」
「それでお願いします。」
「はい、わかりました!」
と明るく笑う。
結局選んでくれたのが、茶色ではないが色があうオーガニックカラーの厚手のズボン。草むらなど進んでも怪我をしなそうなしっかりとした生地だ。服二枚と砥ぎ代で11万にしてくれた。有難い事ですね。
で、残金が48000Fくらい。まずまずかな・・・?
借金返すかもしれないし、急な出費があるかもしれないし、貯金しておこう。
で、時間が5分前くらいになったので、ログアウトすることに。
「また剣を取りに来ます。」と伝えて、お金を先に払って店を出る。
娘さんは「あとでいい」と仰ってくれたんだけど、信用しているので。と押し切って渡す。
ていうか、お金払うの忘れちゃったら嫌だしね。
うん。
信用おけるところは先払いでもいいかなって。
そういえば、どこでログアウトしていいのか分からないので、人がいなそうな裏路地を入ったすぐのところでログアウト。
ログインするときに誰かにぶつかっちゃうといけないんでね。
――――――――――――
ログアウトすると、時間は11時25分すぎ。予定通りだね。
階下に降りると、ばーちゃんがTVを見ている。
「あれ?もうそんな時間け?」
「ううん。内田と約束してるから、早く食べて早く行こうかなって。今日の昼ご飯は昨日の残り物でしょ?」
「んだー。でも、ばーちゃんちょっとアレ疲れたわ。うまいけんど、もう歳とると脂っこいのだめだなー。」
「朝のお粥が美味しかったよね~。」
「じゃろー。」
「本当はお粥がいいんだけど、おかずも勿体ないよね。」
「まぁ、食べてくれると助かるな。今日で終わらなかったらダイスケに持たせようと思ったが、こういう時に限ってこんのー。」
まぁ、呼べばすぐ来ると思いますが、たまに多少遠慮するのが内田だ。
「この後会うから一応言っておくー。」
「頼むわ。」
「ばーちゃんもご飯食べる?」
「ん~ばーちゃんはもう少し後にするわ。お茶煎れたろか?」
「揚げ物少し食べるから温かい方で・・・。」
つい本音を言ってしまうと、ばーちゃんは笑ってお茶を煎れてくれた。
とりあえず・・・すでに炊けてるご飯ちょっとと、昨日の揚げ物2,3個と・・・あとはお茶でいいや。
って感じ。
それを見たばーちゃんが「ばーちゃんと似たようなラインナップだな。」と笑っていた。
むぅ。
その後、ばーちゃんと軽く雑談したり、掃除機かけたり、食器を洗ったり。
12時半近くなってきたので、ばーちゃんに声をかけて上の階に上がる。
ログインしようとして、ギアを手に取る。
・・・いつも被ってる黒いギアを見る。
いつもと同じソレ。
・・・控えめに言って。
少しドキドキする。
多分ちょっとPTが楽しみですね?
心を落ち着つかせて、ログインをする。
――――――――――――――――――――
ファルディアにログインする。
裏路地でログアウトしたけれど、問題なかったようだ。
そのまま先ほどの洋服屋に戻る。
・・・鍛冶屋の方の店が分からなかったので。
「こんにちはー。」
もう夕方に近かったけれど、こんにちはでいいかな?と思いながら結局適切な言葉が思い浮かばずそういう。
「は~い!…あっ剣のお客さん!お待ちしてましたよ~!おじーーちゃん!おじーーーちゃぁああん!」
元気な人だなぁと苦笑を浮かべる。
他のお客さんが居たら・・・って思ったけど、地球と違ってファルディアでは服は高級品だから、他のお客さんはいなかった。
少しすると奥から先ほどの厳ついお爺さんが出てくる。
落ち着きを取り戻し、全身が岩の塊の様なオーラをしている。
なんか、こう盆栽!みたいな感じだよね。
年季を感じる無骨な佇まいというか。
それとも、わびさび?
「できている。少し手直しもしてある。受け取れ。」
そう言ってこちらに手渡してくれた剣を有難く頂戴する。
剣は以前よりしっくりくる感じがする。
気のせいかもしれないけれど。
「有難うございます。大切に使わせていただきます。」
自分がこのお爺さんに返せるものなんて、それくらいしかないから、せめて大事に使っていきたいと思う。最も剣だから使いまくるだろうけれども。
「今度は表からこい。」
そう、一つ言うとお爺さんはさっさと奥に引っ込んでいった。
「おじいちゃんったら、もー!」
と言いながら娘さんもなんだか嬉しそうだ。
それはさておきだな。
恥を忍んで娘さんに聞かねばならない。
「大変、申し訳ないのですが、鍛冶屋の方の店を存じ上げてないのです・・・名前をうかがっても?」
と聞くと、娘さんはぽかーんとしたあと、爆笑した。
・・・なんで最近みんな笑うんだろうな~・・・。
自分悪くないよね?言ってくれてないしね?
娘さんに店の名前を聞き、心の中にメモをし、店を出た。
一回行ってみないと忘れかねないな・・・。
なるべく近いうちに行こうと決意をする。
で、うち・・・・アクティスとの待ち合わせなんだけどリアルタイムで13時。場所は東小門だ。火を使う飲食店や工場などは軒並みアポリオンを横断してる河沿いになる。したがって、待ち合わせ場所まではやや遠い。
時間を見るとまだファルディア時間で30分近くあるので、間に合いそうだけれども。
ここアポリア王国はどうやら完全に左右対称の様な作りになっていて、大変分かりやすくはある。
地図を見た感じだと平安京を彷彿とさせられる碁盤状の路地が多い。
碁盤状ということは、便利な反面攻められてくる可能性もあるわけで、日常的に戦争の心配がない地域なんだろうなと思う。
いま、戦争を検討しているというのは皮肉だなと思うけれど、神様のあの忙しさを見ると戦争の話なんて流れそうな気もする。
・・・・ところでなんでピカ神・・・ユトゥスシーレイ様…って長くない?だっけ?ユイベルト様嫌いなんだろうね?
中央を流れる河には大きな橋が架かっている。これがアポリア王国の名物らしく、観光客らしき人影がちらほら。
朝もこの橋を渡ったけれど狩りで急いでたので、全然見ていなかった。
白っぽい石造りで荘厳な出来栄えだ。
イタリアかどっかの外国で見たような感じでもあるけれど、こういう良さはアルシオンにはないから、楽しい。アポリア王国には華があるなぁ。
橋を渡ってまっすぐ進むとしばらく大商店が続いていて、そのまま行くと昨日収監された辺りに出る。冒険者ギルドもこの辺りだ。東小門は広場を東側に抜けた門で、冒険者で使う人が多いみたい。実際、ギルドから出てきて東小門の方に向かう人もちらほらいるが、圧倒的に東小門の方から戻ってくる人の方が多い。
リアルでは13時近くだけれども、ファルディアでは16時近く。そろそろ皆さん報告したり夕飯の時間なのだ。
・・・ていうか、これから夜になるとレベル上げきつくないのかなぁ?
月も大分かけているしな?自分は夜目も効くから問題ないが、メンバーは暗視とか持っているのだろうか?光源は確保できる?でも、廃人の人たちだからキッチリ考えているのだろう。多分。
などと考えていたら東小門につく。
時間にして7分前くらい。
丁度いいだろうか?
「サクさ~ん!」
いち早く気付いたアクティスがこっち!こっち!と手を振っている。
側には盾役の様な厳つい長身の人族の男性と、古代族のほっそりとした精霊使いの様な男性、あと紫のツインテールの軽装備の幼女・・・よりは少し大人かな?小6くらいの女の子がいる。アクティスの声に気づいたのか、彼らがこちらを見る。多分アクティスの廃人仲間だと思うので軽く会釈をする。
それに気づき向こうも軽く会釈を返してくれる。
初めて会う人は緊張するよね。
「時間より早かったね~。」
と、アクティス。
「わぁ~本当に影族だ!(ぴょーんぴょ~ん)」
と紫のツインテールの少女。革のグローブみたいなのをつけてるから、こんな小さいのに格闘系なんだろうか?
「これ約束の。」
と言ってまずは薬とおつり178Fもらう。
「ありがとう。」
と言うと「いいって事よ!」と返事をする。
「それよりもアクティスが時間より前に来るのは珍しいな。」
と、盾役と思われる男性。言葉に嫌味があまりない感じがするから、責めているというよりおちょくっている感じなのかな?
対してアクティスはにゃはははは~と笑って気にもとめてない。平常運転だ。
「だって、出た後に忘れ物に気づいたりするもん~。」
「この前は、出店で買い食いして遅くなってたね・・・。」
と苦笑してる金髪エルフさん。相変わらずいつものアクティスなんですね・・・。
「なんか・・・すみません。」
と、現実の時みたいについ謝ってしまう。
内田が居なくなったり、何か仕出かすといつも呼ばれてしまう。
最近では内田係というあだ名までついてしまったほどだ。
よく考えたらファルディアでは謝らなくてもいいのか・・・?な?
「何で、こいつの失敗を君が謝るんだ?」
と厳つい男性。心底不思議そうで裏表がない人に見える。
「どうせ、リアルでもアクティスが苦労させてるん!」
と笑ってる少女。
「日頃の関係性がわかりますね。」
と穏やかに笑うエルフさん。
そうですね・・・・最近だと自転車で溝に落ちてたのを拾いに行ったりとか、ショートカットしようとして2階から飛び降りて着地に失敗して気絶したのを回収に行ったりとか、スーパーで万引きを捕まえたら相手が女性で痴漢だと大騒ぎされて大揉めしたこととか・・・。
ハハッ・・・。
「まーそれはさておき~。」
話の流れが悪くなったからか、アクティスが話をぶった切る。
まぁどうでもいい話だからいいんですけどね。
「こちらが、影族のリアルフレンドのサクさん!んで、こっちが同じPTメンバーの盾役のベルデ!アタッカーの魔王少女くるるん!、でヒーラー兼精霊使いのりょっぴ!」
「誰が魔王だ?殺すぞ?」
物凄い速さでアクティスの胸倉をつかみ、先ほどのキャラとは別人の様なドスの利いた低い声で脅すくるるんさん・・・。怖い。
アクティスが悪いけど、怖い。
「ごめん、魔法少女と言いまちがえた!」
全く悪気なく笑顔で謝罪するアクティス。お前のメンタル凄いな!!??
他のメンバーさんも全く動じてない。
え?いつもこんな感じなの?え?!
思わずおろおろして周囲を見回してしまう。
チッっと舌打ちをし、胸倉を離す少女。
あまりの変貌ぶりに魔王少女でインプットされてしまったんですが、うっかり何かの機会に口を滑らせてしまったらどうしよう・・・。
「いつもあんな感じだ。気にしないでくれ。今日は臨時PTという事だが、我々はサク君を歓迎する。今日はよろしく頼む。」
と、ベルデさん。怯えている自分に気遣ってくれたのかもしれない。リーダーって感じだなぁ。
「まぁ、くるるんは浮き沈み激しいけど戦闘では有能だよ。そこは保証するよ。」
と、りょっぴさん。
そんな戦闘面の心配はしていなかった・・・というか心配しようがないオーラだったのだが、彼が気にするところがソコなら、この物腰柔らかそうなお兄さんは結構な戦闘脳なのだろう。他にも色々ありますよね?対人関係とか社交とか?
「我々は攻略組に近い位置にはいるが、精々未だに準廃がいいところだ。」
「ニートにはかなわないしね!」
と、明るく言うくるるんさん。
その言葉に苦笑してしまう。ログイン制限があるファルディアでは他のゲーム程はニートとの差はないが、それでも24時間のすべてをファルディアで活動に使ってくるニートや、賞金を貰ってクリアしているゲーマーなども居るので、そういった人たちから比べると攻略ペースが多少劣るのはやむを得ないところではある。
「アクティスから話は聞いているが、実際我々三人は君とやるのは初めてだ。何かかみ合わないこともあるかもしれないから、話し合って効率の良いレベル上げを行っていこう。」
ここで効率かぁ。
流石自称準廃を名乗るだけあるなぁ。しっかりしているけれど、稼ぐところは稼ぐ!みたいな。
「はい、こちらこそ普段ソロが多いので勝手がわからず暫く足を引っ張るかもしれませんが頑張ります。よろしくお願いします。」
と、丁寧に頭を下げておく。
実際ご迷惑おかけするかもしれないしね。
意思の疎通と助け合いが大事です。あと、初見だと挨拶ね。
「サクさん、かたーい。」
と笑ってるアクティス。
「では、行こうか。ターゲットは東門を出た所近くの瓦礫近くに根を張るアンデッドと野生の魔物だ。」
と、東門に向かうベルデさん。
皆でゾロゾロとそれについていく。門の前は出ていく人で列ができており、少しだけ待つ感じだ。
「やっぱさー、南来れないし、そろそろヒーラー入れない~?りょっぴも大変でしょ?」
と、くるるんさんが雑談をしている。きっと別れてしまった固定PTメンバーの話だろう。
「くるるんは、南が嫌いなだけでしょう。」
と、りょっぴさんが笑いながら爽やかに言う。酷い話題をサラッというなぁ。
「そうだけどさー。いなくなれーとは思うよ!?それとは別にやっぱりいたらいたで南は強いよ。そこは認めてるよ?くるるん偉いもん、うん。」
「確かに、固定一回解散する可能性あるよなー。サービス開始から一回も集まれてないしー。」
と、両手を頭に付けてアクティスが言う。
「期限を設けるべきだろうな。」
とベルテさんが言ったところで、丁度外に審査の順番が回ってきたところだ。みんな各々ギルドカードをだす。
皆さん普通に顔見知りで頑張れよ~となおざりに確認されて笑顔でパスされているのに、何故か自分の担当の門番さんだけ変な緊張感がある。
暫く黙っていたが徐に突然、
「ふぁ!」
と叫ぶ。
「・・・ふぁ?」
なんぞ?と首をかしげていると、顔を真っ赤にして門番さんが叫ぶ。
「ファンです!握手してください!!!」
「えっ!?」
なぜか門番さんに握手を求められる。
・・・は?!?
「ずるいぞ!」
「おれもおれも!」
と門番さんたちがわらわらと集まってくる。
えっえっ!?ナニゴト!?
そうしたら詰所の奥の方から「こらーーーーー!おまえらーー!」と上司っぽい人が怒鳴っている。
それを聞いて慌てて散開し、元の配置に戻る門番さんたち。
ハッ!???
あまりの事に固まってると、先ほど握手を求めてきた門番さんが
「特に異常はありません!お勤めご苦労様です!」
とギルドカードを返してくれ、妙に硬い敬礼をして見送ってくださった。
案の定、見ていたアクティスは爆笑してる。
「一体何があったんだ?」
とベルデさん。
「いや、自分にもさっぱり・・・?」
と首をかしげてると、ますます笑ってるアクティス。
思わずムカついて足払いをかける。
「ギャッ!」っと後ろ向きに転がってやっと黙った。
「サクちゃんは~天然さんだね~?」
とニコニコした、くるるんさん。
「ぇえ・・・・????」
全然意味が分からないよね?ほんとにね?
「いやぁ、楽しいPTになりそうですねぇ。」
りょっぴさんが心底楽しそうに言っているのが、なぜか不吉に響いた。
握手の理由はまた後で。




