2-36 兎君をさがしに 2
アルシオン北門を出て2時間程度経った。
順調にレベル上げ、スキル上げをしつつ、休憩をはさみながら北側に向かっている。
自分のログイン時間があと2時間ちょっとだとレティナさんには伝えてある。
戦闘をしながら北側に歩いてきたので、帰りは多分30分以内には帰れる辺りにまだいると思う。
つまり、あと1時間~1時間半でアルシオンに帰らなきゃいけないので、そろそろレベル上げを切り上げつつ兎君を探した方がいい。
その旨をレティナさんに伝えると、彼女も兎君を観たがってたので了承してくれる。
「それにしても、この辺森どころか、木があまりないですよねぇ?」
と、レティナさん。
本当にこの辺りは岩や土が多い所だ。
元々平原だったんだけど、蟻討伐戦であらかた刈り取られてるので、ほんと土岩!だけになる。
大分山側に近づいてはいるが、そのギリギリのところにちょびっと木々が生えている。
アレは森と言うより林の方が近い。
しかもずっと東の方に続いていて、どんどん東にいくにつれ、木々がやはり深くなっていく。
東の方がずっと森と言った感じである。
「とりあえず、論より証拠だし、近くに行ってみます?」
これ以上何かあるとは思えなかったが、視覚的にも特に変わったことはない。
物陰はあるのだけれども、その物陰も少ない。
きっと兎君は見つからないだろう、と思いつつもせっかくなので初めて来たこの辺の様子も見たいところ。
「せっかくここまで来たので、実際に様子だけ見ましょうか。」
と、いう事で林?の中に踏み入る。
エルフの森の中とは異なり、乾燥した雰囲気がある。
木々も細く、痩せた感じ・・・いや、人の手が入っていないのだろう。
好き勝手に色んな木々が伸びた結果、成長しきらず各々細い。そう言った印象だ。
蔓性の植物も無計画に木を覆いつくしたりなどして、狭い木々なのに光が入りづらい印象を受ける。
それでも、すぐ向こう、百メートル先程にはもう出口が見えており、山肌が見えている。
凄く狭い場所なのだ。
とりあえず、一通り歩いてみるが、近くには兎君どころか生き物が小鳥以外見つからない。
「やっぱり、何もいませんねぇ・・・。」
と、残念そうなレティナさん。
「そうですねぇ。」
でも、どうにも気になるこの場所。
平原ですらカピバラモドキが住んでいるのに、多少木の実などがあるここの方がカピバラモドキでも住みやすいのではないのだろうか?
なんで隠れるところが減ってしまったのにカピバラモドキは平原にいるんだろう?
それは森に何かが住んでいるからなのではないか?って思ったんだけど特になにもいない。
普段は山に住んでいる何かなのだろうか?そう考えると、今ここに居ることも危ないかもしれないけど、そこまで危険があればラフィーさんが前もって注意してくれてると思うし、そもそもギルドの資料にもそんな事は書いてなかった。
ちらっと資料に眼を通したところによると、山に住んでいるのはヘーピチゥっていうトカゲみたいな生き物と、カピバラモドキの上位種。ヘビ、ミミズ、猿といった感じ。特にこちらに影響がありそうなのは猿。サンゲ・マカーコというらしい。意味は血猿だって。怖っ。生き物の血が大好きで、トカゲとか襲って荒れ地の岩山で生きているけど、動きが素早く跳躍力もあり、人間も大好きらしい。
ちなみに山の適正レベルはフルPTで平均レベル45以上。恐ろしい。
これだけ気配がないとなると、猿でも間違って紛れたのではないかと疑ってたんだけど、特にその気配もなさそう。
猿じゃなくても、何者か強者がいて、既に去った・・・という事なのかな?特に第六感も仕事をしない。もしかしたら、冒険者の皆さんが大暴れしたのかもしれないし、蟻が出た影響なのかもしれない。考えても分からないし、何も出ないからレベル上げをしながら帰ったほうがいいかな。
「特に何もなさそうですし、一先ず帰りましょうか。」
「・・・サクさん、いつからアフロになったんです?」
はっ?
「キューーーーーーーーーーー!」
なんか、頭に、いた。
どうやら気づかぬ間に再び兎君が自分の頭に張り付いていたらしい。
兎君が頭に張り付いていると、有り余る毛力でアフロに見えるらしい。
影族が茶色のアフロってなんか変じゃないです?
ていうか、兎君、間違いなくレベル高くない?隠密のレベル高すぎない???
って思ったけれど、多分影族自体も痛覚が少し鈍いんじゃないかなって疑惑は前からある。全くないわけじゃないんだけど、怪我をしてもそんな痛くない。ゲームの仕様かとおもってたんだけど、衝撃はすぐわかるんだけどね。接触感覚が鈍いんじゃないのかな・・・?MJKBY氏の腹をついた時もあの人、接触で気づいてなかったしね。
霧の民の仕様だったらレティナさんもきっとそうだろうと思うんだけど、これは情報を集めるしかないなー。時間がある時に調べよう。
それよりも、今は兎君だ。
「・・・どうしてまた頭に張り付いてるんでしょうね?」
兎君、頭好きなの?後頭部限定?
変だね・・・。
「はわぁ・・・・サクさんちょっと屈んでくれませんか?」
美幼女レティナさんは身長が低い。最大値にしてる自分だと60cm以上の身長差があって兎君が良く見えないのだろう。まぁ見えてもでかい毛玉だけど。
「はいはい。」
兎君を落とさぬように姿勢を変えず、ゆっくりとしゃがむ。
「キュ?」
と兎君。
「かわぃいいいいいいいいいいい~~~~~~~~。」
ほわわわわ~んとした感じのレティナさん。
ああ、ソウデスヨネ。気持ちは分かります・・・。
僕も見たいんですが、何故か後頭部がお気に入りみたいなんですよ・・・。
全て後頭部でおこってるため、何も見えないんですよ・・・。
「こんにちは、うさぎさん。私レティナっていいます。良かったら撫でさせてもらってもいいですか?」
「キュ!」
「いいのかな?じゃあ失礼して・・・・やわらかぁあああい・・・かわいいぃい~~・・・あたたかーーーい・・・かわいいぃ・・・・。」
「キュ!」
う・・・・羨ましくなんかないんだから!・・・羨ましい。くそぅ。
・・・・
・・・・
「ハッいけません・・・!このままだとモフって一日終わってしまいます!!」
どうやら正気の此岸に戻ってきた模様。
「キュッ!」
兎君は平常運転だ。レティナさんの撫で方がいまいちだったのか、それともレベルと耐性が強いのか、微妙な所だ。
「兎君・・・、何で後頭部に張り付いているのか分かりませんが、お久しぶりです。あれから急に北の方に走って行ってしまいましたが、お元気でしたか?急用だったのかな?大丈夫でした?」
後頭部から降りてきてくれないので見ることが出来ないが、兎君に挨拶をする。
独り言を言っているみたいでちょっと複雑だ。
「・・・キュ!!!キュ――――――――――――!!!」
と、兎君は何かを思い出したかのように、頭をダァアンと飛び降りて、更に北に走って行く。
兎君、人の話を理解してそうだなって・・・北ぁ!?
「えっ・・・ちょっ!?」
北はヤバい山地帯だよ?危ないよ?マジで行くの?兎君!!??
「どどどど、どうしましょうか?」
とレティナさんも慌てている。
これは、イベントなのかもしれない。
何となく兎君に呼ばれている気がする。
となると、兎君に無理してついていくか、イベントをスルーするかって話になってくるんだけど。
ここは、ゲームだしね。
現実ではできない事でも、ゲームならできることもある。死んで生き返る可能性も高いし、今のレベルなら作り直してもまだいける気がする!
というわけで
「僕は行ってみようかと思います。レティナさんはどうしますか?」
一応レティナさんにも聞いてみる。
「えぇえええ!??」
と混乱している。そりゃ、そうだよね。
「といっても、自分はキャラクターロスト覚悟なので、あんまりお勧めできないです。レティナさんはロストしないとは思いますが、死ぬ可能性の方が高いです。それを覚悟で考えてください。自分としては独りだけならAGIに任せて逃げ切れる可能性もありますが、レティナさんがついてきた場合多分守れないです。ごめんなさい。」
先に判断材料は伝えておく。
そもそもエンカウント即死みたいな地帯だからね。
死ぬ可能性たかいよね。
ちょっと考えるレティナさん。
「・・・私は今回はやめておきます。兎さんは好きだし、とても気になるけれど、サクさんの足を引っ張ってまで命をかけることだとも思えないし。それにここからならカピバラに気を付けて一人で戻れそうです。先に帰ってますから、サクさん気を付けてください。」
と言う。
ちょっとそちらの方向に誘導気味だった気はするけれど、正直今回はありがたい。
自分も死ぬとキャラクターロストのリスクがあるからね。今回は全力でいっても死にそうだしね。既に兎君は見えなくなっている。行くなら急がねばならない。
「ごめんなさい、レティナさん。今日のPTはとりあえずここまでにさせてください。兎君を見失わないうちに行ってきます!」
と言って走り出す。
「行ってらっしゃい~なんかあったらSS撮ってみせてくださいね~!」
と手を振ってくれる。
走りながらPTを解散し、森を抜ける。
兎君の姿はすでに見えないが、登って行った岩は覚えている。
そこまでまだ急な山じゃない。気配察知と、第六感とAGI頼みになるが、全部逃げるしかない。覚悟をきめ、山に登る。
自分に起こるイベントってつくづく無茶ぶりが多いっていうか、対象レベル高すぎない!?っていう感じだなぁ毎回。あ、でも最初のPKはイベントみたいでイベントではないのか?とか思いつつ、岩山を上る。
なるべく音を立てずひっそりと。
日が照ってるし、影移動を駆使して、音をなるべく少なくできないだろうか?大きく移動したり力を入れて登らなければいけないところだけ、数秒影移動を駆使して登ってみる。しかも足のあたりだけ意識して、接地する時につかってみると、いつもより体が沈む感覚はあるが、音は大きく減った。
おお・・・これはいいね。
暫く、そんな感じで歩いてみる。特にこの山には蛇がいるらしいので物陰には警戒を大きくして、なるべく平地を歩く方向。発見されやすくはなるけれど、こちらも発見しやすくなる。今回一番まずいのが奇襲だろう。蟻の時みたいに立て続けに奇襲がきたら避ける自信が全然ない。
幸いと言うかなんというか、まだ山に入りたてなのと、気配を殺しているせいか敵にはいまだあっていない。
ひときわ大きい岩の上に兎君がこちらを見ている。
そっと登れそうなところから遠回りして岩の上に上がる。
高さが5メートルほどあったので、やっと上がれた~!と安堵して、前を見る。
「・・・キュ」
兎君が悲し気に小さく鳴く。
そこには荒涼ととした岩肌と、広場みたいに少し開けた場所で。
何もなければ、誰かがキャンプをしたりするのに良さそうな場所だった。
そこに大量の・・・100匹以上はあるだろう生き物の死骸が転がっていた。
主に猿が多く見える。後ひも状のものは多分蛇だよね。後はヤギっぽいのとか
そう、そしてあと綿毛兎らしきものも10数匹いる。
兎君はこれを感知していたのかもしれない。あの時牧場で兎君は異様に大きな声で鳴いていたから、兎同士は遠くでもなにか危機感を共有できるのかもしれないね・・・。
そして何より異様なのは、その血で書かれたと思われる魔法陣の様なもの。
アルシオンの地上で見た事ある様な感じとはまた違った文字だけれど、なんか異様にジジジジっとした、こう、高圧電線の下にいる様な不穏な音が離れているここまで聞こえてくる。
そして、ジジジジっという音が突然大きくなると、魔法陣の外側に一匹蟻が出現する。
何が起こったかよくわからない。
けれど・・・魔法陣が蟻を作り出している?
そして、その魔法陣はまだ動いて・・・いるよね。どうみてもね。
そうすると、蟻問題は収束したんじゃなくて、ここで人為的に誰かが作り出した・・・って事だよねぇ・・・うわーうわー。
そして、敵にエンカウントしなかったのは運がよかったっていうよりも、生贄に捧げられたので一時的に魔物が死滅していなかったから?
うわぁ・・・・。
兎君はこれを見せたかったのだろう。
このままほっとくと、また大量の蟻が攻めてくるだろう。
気付けばいいが、蟻は岩砂漠から森の方に棲んでるって言ってた。
森は森でもこんな北側のしょぼい森じゃなくておそらく西側に連なる森林地帯の方だろう。
普段蟻がいないところに発生させているのだから、蟻の流れを東に誘導させて東からアルシオンを攻めさせたら・・・・?
ゾクリとする。
冒険者さんたちは死なないけれど、多くの一般人が死ぬかもしれない。
というか、そういう意図を感じる。
物凄い悪意だ。
この魔法陣が見つかってないのも、蟻が普段いないところだからという気がする。
あと、今まで蟻の駆除で北西側を主に注意していたせいかな。
とりあえず、SSを何枚かとり、ラフィーさんにメール。
「山でとんでもないもの見つけました。アリが魔法陣から出てきて増えてます。」
で、写真をつけて送信する。
何か詳しくとったほうが良いものがあるかもしれないしね。
返事があるまでにとれるだけとっておく。
そう思ってるとまた、ジジジジジっという音と共に蟻が湧く。
間隔としては5分に1匹といったところだろうか。
とすると、1時間で12匹、24時間で288匹おおよそ増える計算か。アルシオンに攻めてきた数を考えると、他の所にも同じ様な魔法陣があるのかもしれないな。
と、早くも通知音がし、視界の端で文字さんのメッセージが流れる。
【ラフィーさんからメールが来ています。】
「今すぐそこから離れろ!」
との一言。しかも凄く焦っている感じだ。
確かに危険な山に登ってしまったのは悪いけれども―――――。
ふと見ると、生贄だろう動物の体が一体、霧向こうの民が殺した時みたいにフッッと消えていくところだった。
血が必要なだけではなく、体も消える・・・?っていう事は魔法陣に体が吸収でもされている?
死体が全部が無造作においてあるのは生贄の為?
魔物は消えていくばかりなのに、なんであんな新鮮そうな死体がいまだに沢山残っている?
それとも、あらたな魔物を呼び寄せるための薪餌?
そうなると、誰が新たな生贄を始末しているのか。――――――――――――
「キュッ!」
っと兎君が鋭く小さく一鳴きする。
多分、ラフィーさんが凄く正しい。
45レベル以上の魔物を簡単に餌とできる”何か”がここにいるのだ。そして、常時見張ってるか、巡回をしていなければこの状況は生み出されない。
唐突に膨れ上がる第六感。
迷いなく影移動を発動して岩を登ってきた方向に飛び降りる。
飛び降りた場所を聞いたこともない大音量で何かがガリガリと削っていった。
後ろを振り向くと、バカみたいなでかい鳥・・・。上空にいたのか!
多分大きさは、セダンよりもでかい。
となると、自分が捕食される側だろうな。
影移動を解いて、地面に着地する。
「ギャー――――――!」
物凄い音量でなく真っ赤な鳥。なんか目出たそうな色なんだけど、笑えない。
こちらを見て殺す気満々だ。
というか、生贄にする気満々だろう。
鳥を一瞬確認して全速力で森に向かって逃げる。
鳥が再び上空に上がったのか、物凄い風圧がこちらにも押し寄せ少し体を押される。
もしあの鳥が、トンビとかタカみたいに上空から餌を獲るのが基本ならば、上空に上がってものすごい勢いでまたつっこんでくるはずだ。欠点は上に飛び辛い所だと思うんだけど、難なく上がっていく。魔法補正でも効いているのだろうか?
とにかく上空からだと恐ろしい捕食者になるはずだ。高度から砂漠地帯のネズミを狩るような生き物たちだからね!今の草が無いコリエ平原地帯は横断したら、まずやられる!絶対やられる!
「キュッ!」
と、また先ほどの様に鋭く小さく鳴く兎君。
迷う事はないよね。
進行方向を左側に40度ほど急転換し、森を目指す。兎君も難なく進路を変える。
遅れてくる第六感。やっぱり兎君の危機察知能力の方が上だ!
自分たちの右手に勢いよく降下してくる鳥!
「ギャッギャッ!」
直前に方向転換をしたのを分かっていたのだろう。先ほどの様に岩を砕くような勢いはなく、風をまき散らして降り立つ。そして忌々しそうに、けたたましく鳴く。
そして
「キュッ!」
とまた鳴く兎君!正直危機感がありすぎてよくわからないけど、影移動を発動させて前に身を投げる。
すると、左手から自分の体を蛇がすり抜けていくとこだった。
き、気づかなかった。あぶなーーー・・・。
しかも、
ぶぉおおおおおおおおおおお~!!!
と、遅れて、身を投げ出した上を火炎が通過していく。一瞬で丸焼きになる蛇。
あの鳥!火まで吹いたぞ!!!???
火を吹いている間はすぐに動けないのだろう。吹きっぱなしであるので、その隙に影移動を解いて、山を走っておりる。いや、転がり降りる。
森まであと少しだから、入る自信はあるのだが。
これ、森に入ったら森燃やされない!?詰んでない?
主人公補正って毎回酷い目に合う補正じゃ




