2-34 終業式
今日は高校の終業式だ。
今日を越えれば晴れて夏休みになる。
うちの学校は登校日もないので、今日を越えると次に学校に来るのは九月になる。まだ高校1年だし、特に大きな用事もないので、夏休みは計画的にファルディア三昧ができる。
学校に行くことは特に嫌ではないが、好き好んでいきたいというほどのでもない。
また、特に興味がある部活もなかったので、帰宅部だから、なおの事学校に行きたいという欲求はない。
合法的にマイペースに生きられる。
夏休みは天国だ。
で、この暑いのに体育館で終業式ですよ。
中学の時とは違い、サラッと終わるからまぁいいんだけど。暑いものは暑い。
全員若干うんざりしている。
ちらりとA組の方を見ると、内田はやっぱり居ない様だった。
朝見たら内田のチャリが家に置いてあったから、気づかないでアイツ遅刻するだろうなとは思ってた。
・・・いや、気づいてても遅刻するな。
内田は本気になるまで自己管理ができない人間である。
あまり長くない式と連絡事項が終わると、各々クラスに戻る。
ここでも担任から連絡事項とか、色々。
嬉し恥ずかし通知表のお配りに、阿鼻叫喚の渦。
自分はまじめにコツコツやってたのでソコソコいい数値。
で、最後は担任からの挨拶?らしい。
これがまた、ぶっちゃけ過ぎである。
「夏休みハメを外しすぎるな。外すならばれないようにやれ。イチイチ警察に迎えに行くのが面倒だ。」とか変な事言ってたが、誰も気にしない。
好奇心旺盛なのか「せんせー!誰かハメを外したことあるんですかー!」と聞いてる奴が居た。
「いたな。学校に糞暑いのに忍び込んで、たき火して、花火して、ロケット花火が暴走して危うく校舎が燃えそうになったことはあるな。」
マジかー!と笑いだすクラスメイト。
「花火するなら、自分のケツがふけるところでやれよ!いちいち下らない事で夏休みに呼び出すな!わかったなー!じゃあこれで解散!」
中学に比べて高校は自由度が高いなと思う。
各々マイペースで、あまり他人の事を気にする人が少ない。
自分の顔の事も、背の事も、弄られる頻度が減った。
個性として許容されている。楽な世界だ。
それとも、うちの高校が特殊なのかな?
「矢神ぃ~今日カラオケ行くけどどう~?」
帰り支度をしていると、比較的仲のいいクラスの新しい友達に声をかけられる。
「いや、遠慮しておく。」
この人物のカラオケとは「女の子を交えて」、という意味合いが隠されている。
一度行って酷い目にあったから、行かないことにしている。
「えーいけずー。いいじゃん!」
「田村の言うカラオケは合コンだから嫌だし、帰ってゲームしたい。」
「え!?矢神、ゲームなんてするの?意外~!」
と、特に気にした風でもない田村。
こういうところは高校は楽だなホント。
「え?矢神さんゲームやってるの?今だとファルディア?」
あまり話したことがない、近くの席の男子に話しかけられる。
名前はえっと確か
「そう、ファルディア。矢神でいいよ、水里君。」
確か美化委員だったか。好きな女の子狙いの話してたよな。
ホースで水あげに行くのが日課だったはず。
温和そうな彼は、僕も水里でいいよと言ってくれる。
「いいなぁああああ~~~!俺もやりたかった!当選落ちてさ!畔川さんもやってるっていうし、ああああ~2次そろそろ申し込みだけど、受かっていますようにーーー!!!」
途端大騒ぎを始める水里君こと水里。
畔川さんっていうのが美化委員会の好きな子って奴だろう。
「受かったら畔川サン?に色々教えてもらえばいいじゃん?」
「やべぇ。」
「矢神は天才か?」
などと言われる。
え?普通の発想だよね・・・?
たとえ受からなくても、それで話題にはなるよね・・・?
田村と水里君は「だけど好きな女から教えてもらうなど男の沽券もあるし」ななどと話している。
男だろうが女だろうが先輩は敬うべきだと思うのだが。
きょとんとして首を捻ってると
「ばかねーあんたたち!矢神君は邪心がないから、そういう発想ができるのよ!矢神君に言われたら素直に面倒見ちゃうけど、あんたたちに言われたら引くわよ!ど・ん・び・き!」
と、話に加わってきたのはクラスの姉御肌になりつつある川上さんである。
「邪心。」
下心丸出しなアレですか。それは嫌だなぁ。
ゲームでもリアルでも。
それに、自分が好きなものをナンパの材料とかに使われても嫌だよね。
自分がされたら嫌だから、自分もしない様にしているけど、そういう話題は気を遣うよね。レティナさんの時みたいに。女の人は大変だなっておもう。
川上さんに気押される田村と水里。
「矢神君は、いつまでもそのままでいてね。」
苦笑していると、川上さんに手をとられて頷かれる。
何故か田村と水里君もうんうんと頷いている。
・・・何だろうな~?この雰囲気???
―――――――――――――――
11時位で学校から帰れたので、自転車に乗って普通に帰る。
たまにはちょっと買い食いがしたいので、コンビニにも寄る。
お菓子は割と家にあるから、ばーちゃんが買わなそうなジャンクなお菓子とか、アイスがいいかな。アイス。暑いし。アイス。
そういえば、帰りに寄り道しちゃいけない高校もあるらしい。大変だな。
・・・あれ?うちの高校もしちゃいけないんだっけ???
とりあえず、みんなしてるのでいいって事にしておく。
なお、職員室の近くを通ったら、中から内田の「うおおおおおぉおお!」って声が聞こえた気がしたが、断固として無視をきめて帰ってきた。
遅刻して怒られてるだけ・・・だよな?
恐ろしい。
家に帰って、アイスをしまって、昼食の準備を一人でする。
居間のクーラーつけるともったいないから、自分の部屋で食べようと思う。
今日はばーちゃんの冷凍食品を漁る。
小分けにしてある奴が多い。えーと、この炊き込みご飯と、お浸しのパックでいいか。
何となく緑の葉物が食べたい気分だったので、そのチョイスで行く。
レンチンをすませ、自室に持ち帰り、もぐもぐしながら考える。
今日はファルディアどうしようかな。
平日だし、夜がやはり一番混むだろう。
昼間やって、夜は勉強するコースかな。
となると、皿を洗って16時半くらいまでログイン。
結構できるな。
ちょっとうれしい。
今日は何処へ行こうかな。
――――――――――――――――――――
【ようこそ、ファルディアへ。潜入は正常に完了しました。世界はあなたを歓迎します。】
ファルディアにログインする。
夜中だった。
ぉおう。
そうだよね。
リアル1日がファルディアでは2日弱なので、これから夜が明けてくるところかな?
とりあえずやる事を考えながら行こうと思い、明るいほうに向かって歩く。
どうやら上層の広場あたりは夜中でも、明るいみたいだ。
近づいていくと、なんかすごい。
まず、広場の冒険者ギルド?だと思うけれど、かがり火がたかれていてそれだけできれいだ。うず高く積まれた蟻は綺麗に片付けられていた。
他にもバーみたいなところとか、食事処みたいな所は細々と営業をしている。
エルフの人は少なくて影族と髭族が多い。
そして何より、広場の中心だ。
そしてギルドのかがり火はオレンジ色の光だけれども、広場の中心は見た事も無いような光り方をしている。
銀色のオブジェ?とレンズが輝き、そのレンズをぐるっと囲った魔法陣の様なものも淡く青白く輝いている。
さながら蛍かの様に、でも蛍とは違って黄色じゃなく青白くふわふわと光っているものが浮いている。
そしてレンズも淡く輝き・・・、これがきっと月光を集めてアルシオンの地下に光を送っているのだろう。
上から見てもこんなに綺麗だったのか・・・。
ここだけクリスマスが来たみたいな華やかさだった。
空を見上げると月が南門の上、おそらくほぼ南中に上がっている。だいぶ欠けている月。地球だと・・・二十夜月くらいだろうか・・・?この時間で南中なら欠けてゆく月だろう。
・・・地球でなら、だけど。
そうすると、ファルディア時間は多分夜中の3時位だろうとあたりをつける。
もう少ししたら夜明けだな。
夜明けも見てみたい気もするけれど、地下の街もまだちゃんと見てない。どうしようかな。
今日やりたいこととしては、
①借金を返す
②レベル上げ
③下の街の散策
だけれども・・・
③をしてから①②を同時にやるとかも今日は時間があるのでできる気がするけど、なんか違うんだよな、って気もする。
何だろうこのモヤモヤ感?
う~んと悩んでいると、広場で漂っていた光が一個外れてふわふわとこちらに漂ってくる。
丸くて小さくてふわふわとしてて柔らかそうだ。
そっと手を受け止める様に差し出してみる。
ふわふわとした光は、手のひらに落ちて、何回かふわふわはねた後、スッっと夢だったかの様に消えていった。
不思議なものを見たな?
・・・でも、おかげでやりたかった事を思い出す。
兎君だ。
北門の方へ跳ねていってしまったけれど、ずっと気になってはいる。
自分より強いかもしれないけれど、出来ることは何もないかもしれないけれど、せっかく仲良くなったし元気にしてるかできれば確認したいところ。
えーと北側はコリエ平原と何だったか?
まずギルドに行って北側を確認して、行けそうならレベル上げついでにいってみてもいいな。ダメそうならコリエ平原までのぞけるところまで行ってみてもいいし、蟻討伐戦がどうなったのか見てみるのも楽しそうだ。
まず、情報を整理するために冒険者ギルドに向かう。
ギルドはやってるみたいで、受付はサーヤさんじゃなかった。
「こんばんは、今大丈夫ですか?」
声をかけて聞いてみると、上部もギルドは24時間営業なのだという。大変だなぁ冒険者ギルド。
で、蟻討伐戦の話とか、兎君・・・フラウって種族だっけ?そのあたりの話を聞いていく。
まず、蟻についてだけど全て討伐しきったらしい。
細かいうち漏らしなどを入れると、ようやく今日の夕方収束したとか。
大変な騒ぎだったんだな。
一応まだ警戒体制ではあるので、何か発見したら教えてほしいとのこと。
蟻運びの時給がそういえばあったはずなので、わずかながらF・・・これもフラウだな!なんか関係あるのかな?まぁいっか。いただけるお小遣いはありがたくもらっておく。といっても2000Fくらいだけど。
ただ、それとは別に衛士の方のクエストとしてラフィーさん名義で1万フラウが入っていた。特に交渉とかしてなかったんだけど、借金持ちにしてみれば大変ありがたい事です。
今度会ったらちゃんとお礼を言おう。
そして、兎君の方の話。
放牧地帯でみた兎君の話をしたところ、お姉さんが言うにも多分綿毛兎だろうとのこと。ファルディアではメジャーなマスコット的キャラクターだそうだが、足が速いのと臆病な性格なのでまず人里では見ることがないとのこと。この辺だと主に北の湖近くの森に棲んでいて、姿を見ただけでもラッキーと言われる幸運の兎らしい。
まさかの都市伝説扱い。
一時期乱獲されたので、違法に捕まえると官憲に捕まるらしいが、密猟者が後をたたないとか。
最近では臆病な性質の物ばかりが生き残ったので、人懐っこくはあるがますます見ることが難しいらしい。お姉さんにもなんで綿毛兎がアルシオンなんかにいたのかは謎らしい。
その子が気になってて無事かどうかだけでもいいから確認したいので、会えそうな場所はないか聞いてみた。
正直、湖畔の森の適正レベルはフルPTで45以上。山向こうという事もあり、移動距離もかなりのものになる。レベル7のペーペーにはまず無理らしい。ソロなら初級レベル100以上にしてから行ってと言われた。まだ遠いなぁ・・・。
それでも、残念そうにしているのが伝わったのだろう。
迷いの兎であるなら、森を好むし北に向かったのなら、少しだけある北の森にもしかしたらまだいるかもしれない、とのこと。お姉さんが慰めて言ってくれているのは分かったけれど、今やれることはやっておきたくて。
有難うございます、と受付嬢にお礼を言った。
兎君がいる可能性はとても低いと思うけれど、今日は北の森まで行ってみることにする・・・が。
今ファルディア時間で午前5時くらい。さすがに早すぎるよね?
「開門は7時ですよ。」
と受付のお姉さん。何で考えている事分かったんだろ。
そうだよね、普通街の門は夜は閉めるよね。
とりあえず、あと2時間ばかり。
北側の地図とか、モンスターの分布図とかギルドで見れるものは見せていただく。
たまにはゆっくり資料とか見るのも面白い。
VRの資料ってなんだかすごいよね。タブレットとは異なり紙の質感がちゃんとある。
併設された飲み屋も明け方近くという事もあり、割と静かだ。
広場の光っているモニュメントが割と居心地がいい・・・と言うかたぶんONTに直結する何かのメーターが補充されていると思うんだけど、影族的にはそこの近くにいると体調がいいので、酒場の椅子を借りて、人もほとんどいない事だし広場で資料を読む許可をお姉さんにもらう。
「内緒よ?」
と、言ってくれた。ギルドのお姉さんはみんな優しい人だ。
貴重な資料は駄目らしいんだけど、ギルドのテラスくらいだったら読む人もいるらしいので、その延長。という事らしい。後単純に人がほとんどいないので、お姉さんの目が届くということだ。
未だ暗いけれども、種族スキル闇視は比較的暗い所で物を見るのも問題がない。
本を読むなら、あの影の城の様に真っ暗では読めないだろうけれど、モニュメントもかがり火もある広場ならば、比較的明るい場所なら読むことはそんな難しくない。
まぁ資料といっても、そこまで大したことは載っていない。近隣のデータや情報がメインだ。データを見ていく限り北側は山があり、そこまでは殆ど平原と西側は蟻が生息している岩砂漠。森は主に西側や東側になるが、山を回り込むように北の湖まで森があると言ったら微妙にある。
あとは水が補給できそうな場所、休憩が出来そうな場所、過去事故があった場所、モンスターが湧いた場所などは載っている。特に休憩が出来そうな場所は頭に入れておく。
・・・そういえばこのゲーム地図はどうなってるんだ?と思ったけど、とくにステータスにマップなる物は見当たらない。あったとしてもスキルでとるのかもしれないな。そのうちネットでその辺の情報も探さねば・・・と思う。
でも、今日の時点では覚えきれないので、受付のお姉さんに地図は販売しているのかと聞いたところ、販売はあるが高いので手書きでうつすのが基本!とのこと。安い紙を10Fで売ってもらう。わら半紙みたいな紙だ。そして、ドワーフ特性のペンを借りる。これが300F。レンタルなのにこっちの方が高い!ってお思ったけど、インクが高いんだって。
インク・・・?確かにプリンターのインクとかは高いけれど、そういう事じゃきっとないよね。イカの墨・・・とはまた違うだろうし、墨もそういえばあるけど、このインクと違うのかな。別のゲームとかで材料に鉄が入ってたり、膠が入ってたりしたけれど、きっと材料はその辺なんだろうな。などと思ったり。
どちらにしても、今の所自分は制作分野には手を出さないつもりなので、今はスルー。
集中して地図を複写してたらスキルが生えた。
【方向感覚1レベルを獲得しました】
【模写1レベルを獲得しました】
おや。
なんか使えそうなんだか使えなさそうなんだか分からないスキルを獲得した。模写はともかく方向感覚はないよりあった方がいいだろうなー。
ふと、周りを見ると朝食を食べてる冒険者っぽい人たちがちらほら。
外もすっかり明るくなってた。
時間も6時半くらいだった。ギルドのお姉さんにお礼を言い、地図とインクとペンを返却する。
さて、前回は出鼻をくじかれたけれども、今回は北側の探索ちゃんとできますかね?
F=霧向こうの通貨という認識
綿毛兎の種族名も、たまたまフラウだった。正確にはフラウ・レブレ。
オトモダチたちは健全な高校生なので、不健全に色々教えてもらう発想をした模様。




