2-33 幕間 ダイスケとカヅキ
内田がカヅキ大好きな理由
「もう、あんたっていっつもそう!いくら一月クンとおばあちゃんが優しいからってあんまり他人の家に入り浸っちゃだめよ?迷惑になるかもしれないでしょ!」
内田家への帰り道。家は近いので、車だとすぐに着く。
大輔はムスッとした顔をして助手席で窓の外を見ていた。
自分と同じでデリカシーのない母が疎ましい。
デリカシーが無い自分でも頑張って気を使ってるのに、年上の母がもっとデリカシーが無いのはどういうことだと思う。
「かーちゃん。」
「何よ。」
「あんま、カヅキを刺激しないで。今ちょっと不安定だから。」
そう大輔が言うと、呆れた様に母が言い返す。
「あんたって、ほんと――――――――――に一月クンに好きねぇ。何よ、本気で異性として好きなの?お母さんそういう事に差別はないけど、一応世間には内緒にしなさいよ。」
「ちげぇよ、馬鹿。」
この母のこういうところが嫌いだ。
自分とカヅキはそういう不純な関係じゃないのに。明け透けに物を言う。下衆の勘繰りもいい所だ。
なまじ、自分に一番似ているだけに腹立たしい。
物凄く不機嫌に言ったらば、話しかけてこなくなった。
微妙に気は回るのに、本質を理解していないところも、より腹立たしい。
自分とカヅキとの関係はそんなんではないのだ。
カヅキとの関係。
思い出すカヅキと会ったはじめ・・・。
――――――――――――――――
大輔がここに引っ越してきたのは小学校3年生の時だ。
今までは東京の方に住んでいたのに、友達とかいっぱいいたのに、全て捨てさせられてここに来たのに物凄く反発したのを覚えている。
東京と比べてここは凄く田舎で、今まで住んでいたところと全然違う。
まず自宅が凄くでかく広くなった。そして、近所にも見た事もない、内田の家よりも大きい家が沢山建っていた。どうやらここでは、一軒家がデフォルトらしい。
そして、見た事もない木とか田んぼとかにもびっくりした。遠足以外では見た事もないようなものだったからだ。アスファルトで舗装されていない土を学校の校庭以外で見たのが初めてだったこともあって、本当は凄く興奮していた。何で、ここら辺の道はアスファルトじゃないんだろう?いや、そもそも信号が家のすぐ近くにまず見当たらない。前の家はマンションで、下に降りたらすぐ横断歩道だった。そういう違いに物凄く興奮した。
多分探検心が疼いたんだと思う。
あっちの、畑の向こうはどうなってるんだろうか。
あの山みたいなものは本当に山?登れる?
こんな近くに森があるの?
あのでかい木は?登れそうじゃない?
ていうか、この変な生き物の声何?
始終そんな感じだったとおもう。
だけど、田舎に来たことを喜んでると思われたくなくて、いつも面白くなさそうにしてた。東京の友達も大好きな気の合うやつも沢山いたので、お別れさせられたことがホント面白くなかったのも事実だったから、フリだけどフリじゃなくて。ここら辺は店とかも全然ないし、どこで友達と会ったらいいかもよくわからない。そういう複雑な気持ちがあったから、「面白くなさそう」なフリは比較的楽だった。
幸いと言うかなんというか、母や父は大輔の不貞腐れを「当たり前の事」として気にも留めてもらえなかった。それよりも仕事が忙しく「あんたは家もあってご飯も食べられてて恵まれてる方!」と言われた。確かに大きくなってからはそう思うが、小さい子供に言うにはちょっとデリカシーが無いんじゃないかと思う。
まぁ、両親は面白くなさそうな”フリ”をしている拗ねている大輔に気づいていたのかもしれない。
ともかく、大輔にとっては毎日が面白くなくて。
面白そうなことが目の前にいっぱいあるのに、興味がない”フリ”をしていることが面白くなかった。自業自得のくせに、毎日むしゃくしゃしていたのだと思う。
学校でもムスッとしていたので浮き気味で、敬遠されていたと思う。クラスメイトがやる遊びも東京での遊びとはまた違っていて、聴きなれない言葉や方言みたいのものもたくさんあったし、それがなおのこと面白くなかった。
そんな中、クラスに一人気になる奴がいた。
まず気になったのはそいつの言葉だった。言葉遣いが丁寧だった。どっちかって言うと、東京の方のイントネーションに近くて聞き取りやすかった。
観察してみると、スゲー顔の綺麗な奴だった。
はじめ女の子かと思ったけど、男の服着てるし変な奴!って思ってた。
けど、よく見てると大人しいけれど、男と混じってよく話しているし、女の子にはキャァキャァ言われてたりするので、そいつが男だとそのうち分かった。
その後すぐの席替えでそいつと隣同士になった。
その日の国語の授業で教科書を忘れた大輔は、そいつに見せてもらえと先生に言われた。
「・・・教科書みせて。」
それがカヅキと話した最初だ。
そう言うと、特に気にした風もなく「いいよ。」と簡単に応えて見せてくれた。
その後もちょいちょい自分が粗相をして、カヅキが面倒をみるみたいな構図ができた。自分が不貞腐れてバツが悪そうな感じでも、カヅキは特に気にした様子もなく淡々としていた。大輔に無理に近寄っても来ない。凄く気が楽な存在だった。
そのうち仲良くなりたいと思う様になってたと思う。だが、まだ父母に反抗していたので、素直に言えなかったし、行動もとれなかった。
引っ越してきて2週間ほどたったが、大輔はまだ独りだった。
そんな大輔の日課は探検になりつつあった。こっそりと親がいない時間、親にばれないように近所を探検しに行く。
これが結構楽しかった。
東京では「誰かの物」以外の土地などなく、入っていい場所がまず少なかった。ボール遊び一つでも簡単にできないし、出来る場所でも上級生に取られていることがほとんどだった。だから、東京ではもっぱら誰かの家でゲームをやる事が多かった。
だが、この田舎では塀に囲まれてたり、アスファルトに囲まれていたり、監視カメラが置いてある場所の方が少ない。大輔からみたら誰の物かよくわからない土地ばかりだった。
近所の畑の近くに、藪におおわれた土地があった。
背の高い枯草で、外からは中が見えない。
もぐりこんで遊んでいると、そのうち枯草が倒され、地面が踏み固められたみたいになって、真ん中に小さい空間ができる。空がとても青い。
「おー。」
初めての体験で興奮する。
ここを秘密基地としよう。
そう心に決める。
「危ないよ?」
突如声がして飛び上がる。
振り返ると、枯草を倒した分、外から多少見えるようになっていた。クラスメイトの顔の綺麗な奴だった。
「なんだ矢神か。」
誰か大人に怒られるのかと思って一瞬凄く焦った。安心してため息をつく。
「ここはね、多分大丈夫。川島さんちの畑だから。でも、藪の中でも、元田んぼとか、用水路が隠れていたり、場所によっては下水の蓋があいてたりするから危ないよ。落ちたら死ぬ。」
どうやら藪に潜り込んでる自分を見かけて心配してくれたらしい。
「分かった。肝に銘じておく。だがしかし!俺は!冒険をやめない!」
「冒険?」
「そうだ!こんな面白そうな場所はなかなかない!俺は!勇者として!この地に降り立った!からには!冒険するのが使命なんだ!」
昔からブレないアホであった。
「内田君って変わってるね?」
「それほどでもない。」
「でも、学校でも今みたいな方がいいんじゃない?」
学校ではムスっとして喋らず怖い人と思われている。
「嫌だ。」
「どうして?」
「俺は無理にここに来させられた。そのくせ親は俺をほったらかし!親にぎゃふんと言わせなければ、気が収まらない!」
「・・・へんなのー。」
そう言うとカヅキは少し笑っていた。
「うちも親があまりいないけど。いるときは一緒にいたいな。」
「そうか。」
矢神も自分の仲間なのか。その時はそう思った。
ある日、いつものように学校から帰って探検に出かけた。
近所は結構見つくしてきたので、少し遠くまで足をのばす。
そこで道の真ん中で偶然、カヅキと出会った。
カヅキは当時まだ家にいた親父さんと手をつないで、家に帰る途中だった。
「あれ?・・・内田君?」
「カヅキ、お友達?」
「うん、転校生の内田君。どうしたの?こんなところで。」
・・・。
その日は平日の昼間だったと思う。
何で学校が無かったかは覚えていない。
父さんや母さんは転勤したてで、土日ですら家にいることは殆どなかった。
なのに、平日の昼間に父親と仲良く歩いているカヅキの姿をみて。
有体に言えば”嫉妬”をした。
ずるい!って思ったのだと思う。
「ばーーーーか!!!」
そう言って走り出した。
何処へ行くとか全然考えてなかったけど、カヅキを見たくなかった。
とにかく走った。
カヅキと会った秘密基地も抜けどんどん先に行った。
ふと、空が赤くなっていて、その赤さが水面に反射しているのをみて、初めて池みたいなところに出ていることに気づいた。
初めて見るところで、柵はあったけど、所々破れてたので忍び込むには全然問題にならなかった。
池の近くによってみると池は奇麗な真四角で、水面まで斜めに傾斜をしていた。
池は緑色をしていて、大きな魚みたいなのが真ん中あたりでドブン!っと音を立てて跳ねた事に興奮をした。
多分興奮して前のめりになったんだと思う。
池まで傾斜してた地面の滑りやすい所を踏んでいたみたいで。
―――――――バシャァアン!
落ちた。
パニックを起こしていたが、必死に水をかくとなんとか水面に上がる事は出来た。
陸も近いので池の底に足はつかないけれど捕まる所はあった。
とにかく水から上がろうと思ったんだけど。
ツン。
何かに服がひっかかった。
一生懸命引っ張ったけど取れない。
服を脱げばよかったんだけど、小学3年生でパニックになってたのでそんな簡単な事にも気づけなくて。
途方にくれた。
空は茜色から藍色になりつつあって。
周囲は池と森と畑ばかりで民家なんかないし、そもそも池の淵は盛り土で高くなってるから自分に気づく人はいないだろう。
両親が帰ってくるのも7時過ぎで、そこから自分を探してくれたとしてもどれくらい時間がかかるのか分からない。
池の水は冷たくて。
クシュン!
くしゃみが出た。
あと何時間もこのまま自分はここにいなければいけないのだろうか。
いや、もしかしたら死ぬかもしれない?
物凄く怖くなった。
でも、罰かな?とも思った。
引っ越して、素直になれなくて、ずっと不貞腐れてた。
父母も意地悪で大輔を連れてきたわけじゃない。
それなのに、ずっと父母を困らせようとしていた。
自分は悪い奴で・・・。
ガサッガサッ
不意に音がする。
もしかして熊とかかも!と顔を青くすると、ひょっこり顔を覗かせたのはさっき暴言を吐いてしまったカヅキだった。
「内田君?もしかしてため池に落ちたの?大丈夫?」
カヅキは少し息を切らしてる様で、息が荒かった。
こちらに来ようとする。
自分を追ってきてくれたんだって気持ちと、人に会えたという安心感で泣きそうになる。
でも。
「来るな!」
大輔は大きな声を出してカヅキを止める。
これ以上卑怯者みたいなことはしたくないし、自分は正義の味方みたいにカッコイイ生き方がしたいんだ。
「さっき、俺もそこで滑って落ちたんだ。お前も落ちるかもしれない。来ちゃだめだ。」
本当は今すぐ泣きたいほど不安だ。
今すぐ、誰でもいいから助けてほしい。側にいてほしい。
でも、卑怯者はもっと嫌だ。
カヅキは足を止めて困惑している。
「じゃあ、大人の人を誰か呼んでくる。待ってて!」
そのセリフに凄く安心したけれど、同時にまたこの場に独り取り残されることが物凄く不安になる。
カヅキが間に合わなかったら?
この場で一人で沈んでしまう?
どうしよう・・・。どうすれば?
でも、弱虫みたいにめそめそ泣きたくない。
強いヒーローみたいになりたい。
頭がグルグルとして、多分半泣きになってたとおもう。
「泣くな!」
急にカヅキが怒鳴ったのでびっくりして涙が引っ込んだ。
カヅキが今まで怒鳴るどころか、大きな声を出したのを見たのが初めてだったからだ。
「お前!勇者になりたかったんだろ!僕が仲間になってやるから、だから泣くな!」
その言葉に、さっきとは違う意味で涙が出そうになる。
「勇者は仲間がいて、助け合って魔王を倒すんだろ!?だから僕が仲間になって助けるから!待ってて!」
そう言ってガサガサと向こうに消えていくカヅキ。
姿が見えなくなって誰もいなくなった事は不安だったけれど、もう寂しさとかはなくなっていた。
胸がとても熱かった。
今まで引っ越してきて不安だった事とか、誰を信じたらいいのかとか、ヒーローになりたいこととか、全部カヅキが一瞬で認めてくれたことが凄く嬉しくて。
泣くなと言われたけど、別の意味で泣いてしまった。
結局15分くらいしてカヅキが自分の父ちゃんを引っ張ってきて、カヅキの父ちゃんは縄をもってきてて、泣いてべそをかいてた大輔に「よく頑張ったね」と頭をなでてくれた。
それから大人が10人くらい集まってきて、多分カヅキの父ちゃんが池に入ってくれて、引っかかった服を取ってくれたんだと思う。そのころには疲れ果ててよく覚えてないけれど、カヅキん家で風呂入れられて、カヅキの服着せてもらって、カヅキん家でばーちゃんの飯食わしてもらった。
飯がうまいと泣いたのを覚えている。
あとは、母が飛んできて大騒ぎになったような気もするけどあまり覚えていない。
確か、この後体調を崩して1週間入院したんだったか。
ただ、カヅキにありがとうって言えてなかった事が、ずっと心に残っていて。
久しぶりに学校に行った時、ずっとお礼を言おうと思ってたけど、すぐいに言い出せなくて。
カヅキが先に自分に気づいて、
「あ、内田君おはよう。体調もういいの?大丈夫?」
先に声をかけてくれた。
「・・・お」
「・・・お?」
「お、お前は、今日から俺の親友だからな!困ったらなんか言えよ!絶対助けるからな!」
そう言ってた。
アホだ俺。ありがとう、ってただ言おうと思ったのに。
あと、友達になってくださいとか、いろいろ。
でも、そんなバカな俺のセリフをぽかんとして聞いてたカヅキは、それから物凄く嬉しそうに笑ってくれた。
クラスメイトには大分冷やかされたけど「うるさーい!」と言って、東京にいた頃みたいなノリでふざけ合ってたら仲良くなれた。
カヅキのあの笑顔にもやっぱり救われて。
俺はバカなりに、アイツに色々返したいのに。
アイツの信頼に足る人物でいたいのに、出来ることはとても少なくて――――
――――――――――――――――
「大輔。」
母の声に現実に引き戻されると、家に着いていて、エンジンを止めるところだった。
真面目な母の声に、思わず母の方を向いてしまう。
「馬鹿はあんたよ。一月クンはそこまで弱くないわよ。素敵なお祖母ちゃんと、あんたがついてるじゃない。変に気を使ったら一月クンも気にするわよ。いつも通りが一番いいのよ。」
にやりと母が笑う。
・・・母のこういうところが本当に嫌いだ。
敵わないって思い知らされる。
「ただいまー!お父さんごめんねー、うちのアホ息子捕獲してたら遅くなりましたぁ!」
先ほどまでの話など忘れたかのように、家に入っていく母。
カギ閉めといてと車の鍵を預かったが、荷物を下ろしていて気付いた。
「あ、いけね。ギアはちゃんと持ってきたのに、カヅキん家に自転車忘れてきた・・・。」
明日は早く家を出なければならなくなった。学校まで歩いたら30分はかかる。帰りも考えると、カヅキの家に一回寄った方がきっと楽だ。
しかし、起きられるかが・・・・・・・・・・大変不安だ。
そう言えば超今更ですが、サブタイトルが似た名前の話があったなとやっと気づいたので(おい)、変更しようと思ったのですがいい名前が思いつかないのでとりあえず適当に変えておきました。
そして彼らが住んでいるところはクマが出るほど田舎ではありません。都会っ子内田君から見たら田舎はみんな一緒に見えただけです。




