2-29 コリエ平原 2
どうも、初心者向け狩り場を5分にして蟻に挫折したサクです。
極稀にこういうこともあるそうですが、ホント極稀だそうで、あっても蟻がここまで来るのは時季外れとのことです。もっと森の奥地や岩砂漠の方に生息しており、ご飯が無くなる秋や冬にくるそう。
初心者にしてはお手柄と言われ門番のお兄さんに木札を渡されました。それをもってギルドに行くと、発見報酬としてギルドのお姉さんから1万Fもらえました。逃げただけなのに何か微妙。
あと、続々と冒険者さん(強い方ね)たちが集められ、まず上層の出来事なのでエルフの冒険者さんたちが集められていた。魔法が得意そうな人もいれば、ムキムキマッチョとかもいるし、いかにもエルフの狩人っぽい人も居て面白い。装備は革製品が多く、狼狸の革っぽい気がする。需要あるんだな、アレ。
反対に影族の人たちは殆ど数人だけ。多分みんな寝てるんだと思うんだよね。起こされてくるまでには時間がかかるだろう。それまでにいる人たちだけで索敵や軽い掃討を始めるそうだ。ジャイアントソルジャーアントは自身の体をつなぎ合わせて橋を作り、簡単に防壁を上ってくるそうなので近づけないことが大切なのだそうだ。実際気づかないでいくつかの小さな村が蟻に食いつくされ、この辺の人が住む町はアルシオンだけになってしまったらしい。
風魔法を使って、下草刈りはもう始まっている。やっぱあの草見通しが悪いもんな。
ジャイアントソルジャーアントはゴブリンと比べて、2周りくらい討伐推奨ランクが上の生き物だという。個体のレベルは隠密性が高いけれども後は大したことなくて初級ジョブの35レベルくらい。一対一で戦えばゴブリンと一緒で何とかなりやすい。
この蟻は目も見えず、からめ手も使わず、ただ目標に向かって食らいついてくるだけである。ただ、この食らいついてくるのが恐ろしい。増えすぎると何万もの蟻が、ただ餌を求めて物量で食らいついてくる。木でも家畜でも何でも食う雑食である。知能はゴブリンより低いが圧倒的物量に物を言わせるのだ。そういう意味合いで、恐ろしさ的にはゴブリンをはるかに上回るという。
で、そんな蟻が町のすぐ近くに出て、とりあえず4匹しか確認してないけれど、下手したら数万、10万超えることもあるんだって。うん。あれが10万匹もいたらこの世界終わるんじゃね?って思う。想像してほしい、自分を食べようとする、ただ向かってくるだけの狂暴な中型犬サイズの蟻が1万匹も蠢いてこちらに向かってくる様を。
こわっ。
で、レベル7は実戦で役立たずすぎて、見学&物資の運びとか、ポーションお届けとか、伝令とか細かい仕事は沢山あるので使われてます。幸い足が速いので、特に伝令で重宝されてます。ひそやかに暇なので、万が一蟻と遭遇した時にも逃げるためのキャストタイムを残しつつ、半分くらいを常に消化して鍛えてる状態。有事の際だから、町の中で使っても不審がられなくて便利。
「新人~この蟻の山、収拾所にもってけー。」
「はーい!」
今度はとどめを刺された蟻の山の運搬を頼まれた。
リアカーを押していく作業だ。
嫌じゃないけれど・・・正直苦手なんだよね。VITが低いので。まぁSTRがあるから、押す事は難しくないんですけどね。・・・やっぱりVITももう少しあげた方がいいのかなぁ?などと考えながらゴミ収集所に向かう。いや、ゴミではなく蟻収集所。
完全に蟻とゴミは分離しておかれている。何故かというと、蟻は再利用ができるらしい。アリが吐いたあの液体が冬場の牧草や皮のなめし作業にいいらしい。後でまとめて薬士ギルドの人たちが総出で作るらしい。大変だなぁあちこち。
街の真ん中の広場が一時的な蟻の収集所になっており、ちょっと見た目グロイけれど蟻がうず高く積まれている。死体が残るからこれ全部NPCの冒険者の人がやったんだろうな。プロはやっぱりすごいなぁ。頑張って早く追いつきたいところであるが・・・。
ふと男が一人アリ山の前に立っているのに気づく。
広場は蟻騒動で街の人が各々出払っているし、子供や非戦闘員の人は家に閉じこもってもらっているか、自分みたいに手伝いをしている。だから、仕事の一環だと思うんだけど・・・何か気になる。ヒューマンのマッシュルームカットのひょろ長い不健康そうな町民の格好をした男だ。今まで見た覚えもない。ただ、何をしていなくても”何で蟻の山の前にいるんだ”?
いや、薬士ギルドの人が蟻の処理に来たのかもしれないと思いながらも、なんかモヤモヤとしたものが残る。
そして、男は胸からガラス瓶を取り出し、ドボドボと蟻の山に液体をかけだす。こちらが風下なのだろう、油のような香りが漂ってくる。
火をつける気かな?
”火は使うなよ!!”
さっき、門番のお兄さんたちが騒いでいたけれど、そういえば何で火を使っちゃいけないんだ?
そして何でこの男は、油のような液体をかけた蟻の前で魔法を使おうとしてるんだ?
はっきりと第六感が働いたわけじゃないけれど、体はもう動いていた。
リアカーを置いて走り出す。
違ってたらどうしようと思って、ちょっと苦笑する。
第六感も働いてないし・・・。
「何している!」
こちらが声を出すと同時に生活魔法か何かの類だろうか、レティナさんが見せた火玉よりは威力が小さそうだけれども、火種が男の手から生み出された。
自分の声を聞いて、男が自分に気づく。動揺しつつも「チッ」っと悪態をつき、急いで蟻の死体の山に火種を入れようとする。それを見て、後ろ暗い所がある奴ととりあえず断定し、止めようとするが間に合わない!
蟻に触れてぱあああっと燃え広がりつつある火。
まだ練習していない影硬質化と影変化を同時に発動できるか・・・!?
・・・できた!
一番重要なのは影変化なので、そちらは解けないように、影硬質化は可能な範囲でウエイトを置いてやる。
物凄く不安定だけど、強くイメージして影を平べったく、そして硬くするように願う。
そして、火がついたばかりの蟻を勢いよく叩き潰す。そう、ハエ叩きの様に。
風圧と酸素を無くすことと、STRに任せた荒業だ。
少しやけどするかもしれないけれど、酸素が無ければ火は燃え広がらないはずだ。まだ火も油に少しついたばかりだし、多分大丈夫。。。少し熱いけど・・・・!
黒い影の手で付いたばかりの火が覆われた様子を見た男は、慌てて身を翻して逃げようとする。
それを見て、影変化と影硬質化を解くが、火は消えている様だった。ホッとする。
逃げた男には、やはり後ろ暗い所があるんだ、と思うんだけど確信はない。
ただ、この男をこのままにはしておけなかった。
どうしようか迷うが、殺すわけにもいかない。
でも明らかに非戦闘員のようなこの男、自分が傷つけたら下手したら死んでしまうし、なおかつ”霧の向こうの民”が殺したものは向こうに引っ張られて消えかねない。
操られてるだけかもしれないし、ただの既得権益とかくだらない話かもしれない。今の段階では命を奪う程じゃないのは明らかなのに殺傷はまずい・・・!でも捕獲できるスキルが無いのも困る!そして誰も近くにはいない!
とりあえず、男との距離は詰めるために走り出すが、・・・
そうだ!まだスキル取ってなかったから余ってるSPで何かスキル取れるかも!と気づき、余ってるSP4でとれるスキル一覧を急いで出す。
一番初めに目に入ったのが、コレ。『手加減』・・・任意の対象をHP1に留めて気絶させる。使用SPは2なので迷わず取得ボタンを押す。
【スキル手加減Lv.1を獲得しました。】
えっ!?レベル制なの?間違えると死んじゃったりするの?
ドキドキするが仕方ない。できるだけ殺さないようにと必死に願いながら、影変化だと手加減の制御が甘くなる可能性があるので、早さで男に追いつき鞘に納めたままの剣で腹を殴る事にする。
何で腹にしたかって?峰打ちっていうし、頭殴ったら死んじゃうかもしれないじゃん?背中とかも骨折ったら死んじゃうし・・・足折ってもいいけど残酷だし、とりあえず全力で手加減して腹を殴る事にした。
しかし男よりも前に回り込み、その回転を利用して腹に鞘を叩き込むと、思ったよりも男が吹っ飛ばされる。
ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ!
ガン!・・・ドサッ!
・・・。
男はピクリとも動かない。
・・・。
・・・・あーヤバ・・・・い、かな・・・・ハハっ(汗。
【手加減が2レベルに上がりました。】
あ、スキルレベル上がったし多分大丈夫かな?
ちょっとホッとして男を見に行くと、口から泡を吹いて白目を剝いて倒れていた。
一応呼吸を確認すると浅いがちゃんと安定してある。多分、命に別状は・・・ないよね?という事で少し安心するが、この状況はちょっとまずいかもしれませんね?
知らない人から見たら、弱そうな男を締め上げてる影族。明らかに自分が見た目通り魔である。
通り魔扱いなどされたくないので、急いで男の首根っこをひっつかみ、さっさとギルドまで引きずっていくことにする。
こういうのは先に言ったもの勝ちで、イメージを先行で定着させたほうが強い。
「すみませんーーーー!不審な男がいたので気絶させちゃったんですけどー、どうしたらいいですかー!?」
ギルドに駆け込み、ド直球で聞く。
ギルドには、先ほどの受付のお姉さんと、何か偉そう(失礼)なちょっと高級そうな服をきたエルフのおじさんの二人が難しい顔で相談をしているところだった。
自分の声に「えぇ!?」と驚いた声を上げる受付のお姉さん。
「どういうことだ?」
多分偉いであろう人が動揺もせず端的にこちらに聞いてくる。仕事が出来そうな雰囲気。
やっぱり上司かなぁ。
「えっと、自分は蟻の死体の運搬を頼まれてたんですけれど、運んでいたら死体置き場の前にこの男が一人いまして。油のような物をドバドバかけて火をつけようとしたので、「何してるんだ!」と声をかけたところ、この男が急いで火を放って逃げようとしたので殴って気絶させちゃいました。」
「火は?」
「最優先で火はすぐ消しました。ただ、その分男の扱いが少し雑になってしまいました。確か、エルフの門番の人が”火を使うな”って言ってたので、火はダメなのかと思いました。違ってたらごめんなさい。」
「いや、いい。合っている。初心者にしては上出来だ。」
そう言うと何か魔法を使い、各所に連絡しているのだろう、片耳に手を当てブツブツ言い始める。それともメールかな?
「あとは他に不審者がいないか先にチェックをして現場に人呼んだ方がよかった。とはいえ、君には見覚えが無いからこのギルドに来たばかりだろう?知り合いも少ないだろうし、そう考えれば少ない情報で最善手に近い。よくやった。」
ああそうか、他にも仲間がいる可能性を失念してた・・・。ダメだなぁ。
「それは、・・・申し訳ありません。」
自分が去った後に火をつけられたらおしまいだもんねぇ。
褒めてくれたけど、やっぱりちょっと失敗だな。残念。
「サク君お手柄ね!」
と、いつの間にか受付のお姉さんが近くに来てて褒めてくれた。
名前も覚えてくれてたのか。優しい人だなぁ。
「よくやったと褒めたんだ。自信を持て。・・・サーヤ、ジェフとイリュシュを死体集積所に呼んだ。ある程度、蟻どもの掃討の目途がついたら次に不審者の洗い出しに入る。この不審者の手当てをしたら地下に拘束し封印魔法をかけろ。暫くこいつの洗い出しには手が回らんが、仲間に口封じでもされても厄介だ。」
「かしこまりました、ギルド長。」
と答える受付のお姉さん。サーヤさんって名前なのかー。
日本語っぽい名前で金髪緑眼美女だと、ちょっとびっくりするよね。
そして、おじさんはやはり偉い人だったらしい・・・。
しかし、下にもギルドがあるし一体その辺どうなってるんだろうか、ちょっと気になる。
サーヤさんに不審者マッシュルームカットを手渡し、引きずられていくところ見送る。
「おまえ、名前は?」
とギルド長に突然聞かれた。
「えっと、サクです。」
「ではサク。もう一つ仕事を頼みたい。御覧の通り今ギルドはこんな状態で私までここを離れるわけにはいかん。」
それは分かるので、コクリと相槌をうつ。むしろ、いな過ぎる。不審者がギルドに攻めてきたら逆にどうするんだろう。
ギルド長に対する護衛はいいのだろうか?
それとも、冒険者ギルドの長だけあって、ものすごく強いパターンなのか?
「メールは送ったが返信がないので、一つ伝言を頼みたい。前線近くに赴き、門番と同じ服を着て陣頭指揮を執ってるであろう、奴に今の事のあらましを伝えメールを見るように言ってくれ。名前はラフィーだ。分からなければ、誰かに聞けばすぐわかる。有名人だ。」
「分かりました、すぐ行ってきます。」
身を翻して駆け出すと、まだ話は終わってないとばかりに大声を出すギルド長。
「ラフィーがいる場所はおそらく安全だとは思うが、君はまだ弱い!前線も近いのでアリとエンカウントしない事を最優先にしたまえ!」
どうやら自分を気遣ってくれた模様。
「ありがとうございます!」
振り返り、軽く会釈だけして前線に向けて走り出した。
途中、蟻の山の前を通ると火が燃えてない事に安心する。
自分が途中で放り投げたリアカーを押してくれているエルフの青年がいる。
あれがジェフさんかイリュシュさんなのかな。
下の街も好きだけれども、この上の街も雰囲気は違うけれどなんだか好きだなって思った。
今は自分にできる仕事を頑張ろう。
ユニークスキル主人公属性さん、遺憾なく実力を発揮中
軍隊蟻の話・・・現実でよく知られる軍隊蟻には蟻酸は保持していないんじゃないかと思います(そもそも軍隊蟻自体数種類います)。しかし、まだ見つかってない昆虫も多くいると言われていますし、軍隊蟻と似たような性質を持つ、全く別の種類のありだと思っていただく方が正解です。おそらくファルディアでも大群でやってくることが多いのでソルジャーアントという名前がついたのでしょう。そもそもリアルの蟻と大きさが全然違いますしね。




