2-26 幕間 アクティスとゆかいな仲間たち
「ウッひょああああああああああああああああああ!!!!!!!っシャああああああああああ勝ち組だぁああああああああああああああああああ!!!!」
内田・・・もといアクティスがログインと同時に普通の会話モード(誰にでも聞こえる会話)で叫ぶ。
データーが飛ばなかったのだろうと分かったのは、彼の固定PTメンバーだけであるが。
正直煩い。
彼がログインしたその場には、彼のベータの友達もいまだに何人か残っていていたが、それ以外のレベル上げに来ていた一般の人々がギョッとした様にアクティスを見る。
そして、見て納得する。
ここの所アポリア王国スタート組で、”一番煩い男”として有名だったからである。
アクティスの容姿は人族男性。
黒髪で前髪だけ少し長めで、紫紺の瞳に長めのまつげが悩ましく影を落とす。背丈は内田本人よりは高いが外国人体形が主流のファルディア全体からすると、人族の成人男性の平均よりはやや低めである。ムキムキのガタイではなく、どちらかと言えば細マッチョ・・・。なのだろう。魔導士かと思う様な外見で、革製の鎧に不釣り合いな150cm以上の大剣を難なく背負っている。盾職か高火力アタッカ―であることは間違いないだろう。そして、口さえ開かずボーとしているだけで儚げ、高貴、守りたいといった印象を受けるのに、一歩でも動き出すと本人が全てを台無しにする。
完全なる陽キャで表情は生き生きと輝き、くだらない事ですぐ叫ぶ。だが、トップランカーの一角で在り、戦闘力は本物。そして気さくで驕っておらず人格は良いと評判だ。新人にも気軽にアドバイスするし、本人の気が向けば手伝ってもくれる。もっとも廃人だからすぐにいなくなってしまうが「メンゴメンゴ!友達きちゃったから~!じゃあね~」と本人は嬉しそうに去っていくので中々憎める人もいない。ただ、すこぶる外見を裏切る残念さが、アポリア王国稀代の残念美形としてサービス2日目で有名である。
今更アクティスが突然叫んだところで、日常の出来事。今日もいいお天気ですねー位のノリで、アポリア王国では動じるものがほとんどいなくなってしまったのである。NPCも含めて。
煩いだけで害にはならないと知れ渡ってるからこその無関心である。
総評は「残念美形の気さくな廃人」である。
一般人達は「また残念廃人美形が叫んでた」と言いながら、POPしたばかりの害獣砂ネズミを狩っていた。50匹単位でお高めにギルドが買い取ってくれてなかなか旨い商売なのと、どうしたって開拓進度に必要なイベントであるので、やる事ない奴はとりあえずネズミ狩り!が現在のアポリア王国組の主流である。なお死体は毎回消えるが、討伐証明部位のラットの尾っぽだけは100%ドロップの仕様だ。
さて、一般に人気な開拓村南平原の砂ネズミ叩きに、先行しているはずであるアクティス達ベータ―廃人組4人はそろっていた。何故かと言えば、ステータスの伸びしろを増やすためである。ベータと本サービスの検証の結果、レベルが上がるまでに負荷をかけるだけかけたほうがレベルアップ時にステータスの伸びがいいという事が分かった。初期職であるので頭打ちする数値もすでに分かってはいるが、そこまで鍛えられたと思うギリギリまで鍛錬を積んだ後に、レベル上げに向かう。特にファルディアでは自由に好きな数値にステータスを振れないので、大事な作業の一環になっている。特に上位レベル帯ではレベルが上がるまでに時間がかかり差が付きにくくなると予想されているため、今からの下積みが将来を分けるとさえ噂になっている。とは言え、レベル上げのスピードも大事であり、どこで線引きするのが最も効率的かを手探りで模索中である。結果的に廃人たちは悶々としながらも、情報を集めつつ砂ネズミ相手に地味な鍛錬に励んでいる、というわけである。
その作業で延々と砂ネズミを相手に攻撃をずっと受け止めていてVITを伸ばしたり、当てにくい小さいナイフで狙いDEXを伸ばす縛りプレイをしていたところ、先ほど突然にアクティスが消失した。
その前に『止めて~~~~~!お殿様~~~~~!サク様ご無体な~~~!アアーーーーーーーーーーーーーー!!!!』というアクティスの叫びの内容を鑑みるに、”サク”という人物によってリアルで蹴り起こされたとベータ―仲間は察しがついた。事前に「今日は友達の家でログインしてるんだ~いいだろー夕飯出てくるんだぜ~(エヘエヘ。・・・遅れたら殺されるけど!」と本人が自慢していたので。
あまりの事に全員慄いた。確かに友達の家にいて、夕食すら食わず廃人プレイとはアクティスが酷い。ひどいのではあるが、悪いがゲーマーからするとあまりに容赦のない仕打ちである。正規の手順を踏んでログアウトしなかった場合、最悪の場合データーが破損・消失する。分母がでかいロシアンルーレットに本人の同意なく叩き込むようなものである。やりなれているゲームなら大体の確率や対処法のイメージが付くが、日本で初のVRMMORPGのゲームである。「ゲームは遊びじゃないんだよ!」を自認する廃人たちには、未知の恐怖。特に恐ろしい所業である。例えデーターが復旧できたとしても、その間長時間待たされれば意味がない。最前線から脱落するからである。
そして、もう一つ。
アクティスの顔である。
ベータ―ではアクティスはその陽気なキャラを遺憾なく発揮する様な所謂金髪キラキラ陽キャであった。どっからどう見てもカリフォルニア州でサーフィンしてナンパしても不思議がなさそうな明るい外国人風であった。夜はキャンプして肉を大量に焼く感じであった。
それが突然の陰キャ(顔だけ)転向。しかも、全然本人にマッチしておらず、雰囲気ぶち壊しもいい所である。それはそれで面白いのだが、あの外見に拘らなそうであったアクティスにどんな心境の変化があったのかPTメンの一人斧遣いのベルデ(人族男性)が聞いてみたところ、
「友達見てたら、ああいうのもいいかな!と思って」と物凄い笑顔で言われた。リアル陰キャ顔ってどういう友達なのか、ベータを知ってるPTメンの間に話題になっていた。
そして今回の所業。アクティスの友達=陰キャ美形顔≒ドS(同一人物?)という図式ができあがりつつあった。
「あくてぃす~、もしかしてさっき叩き起こしたのがその顔の友達の人~?」
PT中、最も勇気があると書いて空気を読む気がない、幼女キャラの魔法使いに見せかけた戦士(闘拳士転向希望だから合っているかもしれないが)がアクティスにサラッと聞く。他のPTメンはギョッとして幼女を見た。リアルの話は人にもよるが、相手を不快にすることもあるから気を遣う話題なのである。
「そーそー。サクさん本気になったら怖いよね~。あ!アポリア組じゃないから当分無理だけど今度機会があったらみんなにも紹介するよ~!サクさん、攻略組じゃないけど強いよきっとー。凝り性だしー。」
そんな空気を全く気付くことなく、まだあった事ないけど~みゃははは~と手を首の後ろに回してストレッチしながら軽く笑う陰キャ。陽気な仕草が似合わない。
「という事は、別の国スタートか。」と斧遣いベルデ。
クマの様な容姿が、最近の毛皮狩りで山賊の様になりつつある。
否、一度通報されたこともある。微妙な苦労人である。
「へぇ~友達はどんな種族にしたんだい?」と、無難な話題をぶつけるPTメン最後のりょっぴ。エルフの血が交じった回復兼精霊使いである。儚げなエルフの風情なのに謎の軽い名前だ。
固定で来れなかったのは後晶族ヒーラーと小人族狩人(兼シーフ)である。
新しい種族にした場合、スタートが違うと周知されていなかったのでこのざまである。今キャラデリしても制限がかかっており2週間再キャラクリにかかってしまう。制限を解除されるのがおそらく2週間後以降と発表されているので、とりあえず2週間情報を集めるなり、物理的に行く方法を探すなり、固定を解散して向こうで新しいPTを組むなりした方が無難だとなっている。おそらくベータ組に新しい人間関係を組ませるために運営に仕組まれた高度な罠だろう。そういう見解になっている。
サービス開始日、「運営のばかぁあああああ!!!」とシャウトで叫び、騒いだ罪で何人か憲兵につかまった。仕様恐ろしい。そういう事にはあまり拘らないアクティスは面白くなってきたなーと笑っていたので捕まっていない。運のいい奴である。
「影族っていってた」
「まじかよ。」「ふえぇ~」「本当に!?」
驚きの声が上がる。
「そろそろPKの件での新規制限が解除されるって言ってたけど、まだ解除はされてないよね?影族でキャラデリしてGMに制限解除してもらって新しいキャラ作ったって話はちらほら聞くけど、影族でそのままやってる奴なんていたんだ?」
「凄いねぇ」
「なんか5回殺されたって言ってた。」
「わぁ~くるるん会ってみたい~!!!(ぴょーんぴょーん」
興奮して飛び跳ねる魔法少女幼女。なお、服装は初期装備の為地味であるが、パステルパープルのツインテールが、ド派手である。
「影族は何処スタートなんだ?」
「アルシオンって町らしいよ。さっきリアル10時間くらい前にかいつまんで掲示板に突っ込んどいた」
「まじかー」
「鍛錬しててあんまり深く板見てなかったね!」
「気づかなかったよ。」
「アルシオンだと!!!!」
突然、近くに居たNPCであろう町の憲兵さんが騒ぎ出す。
「貴様!何者だ!?」
「あの町と関わりがあるだと!?髭どもならいざ知らず、それでも人族か!」
「間諜か!?とらえろ!」
突然の展開に意味が分からないが、わらわらと辺境で数が多くないはずの憲兵さんたちがアクティスに寄ってくる。
「ええええええええなんでぇえええ!!!???」
アクティスだけでお咎めはいいのか、彼一人連れていかれる。
それを見送ったPTメンバーは、よくわからないが、やっぱりアクティスの友達は怖いと謎の戦慄をした。
後から分かった事であるが、どうやらアポリア王国は影の国アルシオンとは現在戦争を検討している段階で、非常にナーバスな話題だったらしい。
官憲さんも、単純なアクティスに本気で間諜疑惑は持っていなかったものの、気をつけろとこってり絞られ、ゲーム時間2時間程度の取り調べで解放された。
アポリア王国組掲示板には「アルシオンを話題にすると捕まる」という最新情報を提供した廃人としてまた一つ有名になるアクティスであった。
なお、アクティスは次のレベルアップ時にVITとMIDが大きく上がったという。
上げ幅が上限値として言われていた枠を超えた事から、NPCが絡むとその限りではないという検証がなされ、無駄にはならなかったという。
それ以来、ワザと官憲に疑いをもたれて捕まりに行くやつがいたとかいなかったとか。
アポリア王国スタート組は正確には二種類います。
アポリア王国本国組と、開拓地アポロディア組。ほとんどが開拓地組ですが、ユニークスキルで地位系の物を引き当てた人は本国スタート組もいます。アクティス達はアポロディア組。開拓地なので、当然ゆるいのはアポロディア。何かやって捕まりやすいのはアポリア本国。何たって法治の国ですので、描写はないですが既に何人かお捕まりになってます。
【アポリア王国】法治の神を祭る国。
【アポロディア】アポリア王国直轄植民地。アポリア王国の向かいの荒れた島。




