2-25 ギア自室設定
内田とばあちゃんを残し、2階の自室へ戻る。
まだ二人にあわせられる顔じゃない。
クールダウンする時間が欲しかった。
今は独りになりたい。
外へ散歩に行くと言ったら余計に勘づかれるだろう。
かといって、ファルディアにログインする気にもならない
・・・まてよ?
確かにファルディアはゲームとしてはVRMMOは初めてであるが、その前に医療用のソフトや学習用のソフトはこのギアでも以前から導入されている。特にスポーツ関係。体を休めている間も精巧なイメージトレーニングに欠かせないと人気である。医療関係も、リハビリの構築に役立っている。正しい体感の刺激を脳に促す事はリハビリを促進するらしい。義肢はよりリアルな動きを再現できたとか。現在は視覚障がい者や聴覚障がい者のリアルでのサポートに適さないか研究が進んでいるらしい。リアルの刺激を機械に取り込み、神経に信号を流す研究が進んでいる。
そして、学習。
大手進学校や進学塾ではとっくに導入されている。
VRの方が学習時間が長くなるし、移動時間が無くなるからだ。そして個人用VRギアには”個室”機能がある。家具の会社から新しい家具のモデルが期間限定で販売促進用として貸し出しされる機能もあるし、購入することもできる。リアルでもVRでも。すなわち、ギアの自室で塾や学校の様にデータを接続すれば、自分も勉強ができるのだ。
ギアを付け、ファルディアを起動しない設定にして潜入する。
ギアの起動画面に潜り、ブルーの薄暗い世界でデフォルトで入っている自室設定を探す。
特に問題なく起動でき、目の前に茶色のドアが現れる。
だが、・・・・・こう、なんていうか安っぽい・・・・。
昭和の映画とかドラマに出てくる安アパートのべニア合板の扉みたいな感じだ。
扉も課金しろというのだろうか。
大人って汚い・・・・。
扉を開けると。
ドラマでしか見たことが無いような4畳半のアパートとかではなく、ただの黒い方眼用紙で作られたかの様な部屋だった。
部屋が真っ黒で明かりもないのに見えるのが違和感半端ない。
とりあえず、オプションの設定を呼び出し・・・カタログの無料のものと、お試しの物をインストールする。
落ち着かないから、デフォルトの白の壁紙と天井。LEDのただの照明。学校にある様な机は無料だったのでそれもインストール。インストールしてみたらどっちかって言うと昭和の初めくらいの木の机だったけれども。蓋をパカって開けるタイプ。逆に今のご時世だとアンティークで逆に高価じゃないかなぁ?まぁタダなら一応落としておくけど。
そんなわけで、とりあえず白い部屋と勉強机と椅子が設置された。あと、固定電話。外からの通信の設定にあったから固定電話にしてみたんだが・・・なんか出口の横につけたら、そこだけカラオケボックスの様相になった。
次に学校の宿題、タブレットの設定。家のWi-Fiとの接続。元々家のパソコンとも同期させていたのでこちらの情報を読み込めば簡単にギアとも同期出来た。
あ、そうそう、家のパソコンもVRで使えるらしいのでこちらも設定をしておく。ただ、ここの部屋で使える無料のパソコンはブラウン管型の昔のパソコンになるんだが。いや、これアンティーク・・・?
パソコンを置く最もシンプルな机も同時に置く。
夢中になって部屋の作業をしていたら、いつもの精神状態に戻ったが、せっかくここまで来たので内田に邪魔されない間に残りの今日の分の宿題を片付ける。今日は数学と化学。日本史。化学はともかく日本史は苦手だ・・・。苗字が一緒だと全部一緒の人に見えてくる・・・。
苦手ではあるけれど、分かり切ってる事をコツコツやる事は意外と嫌いじゃない。
体感で1時間半ほど経過しただろうか?
突然聞きなれない電子音がPiPiPiPiPi!っと鳴り響く。
ナニゴト!?っと思って周囲を見渡すとカラオケボックス的固定電話が赤く点滅していた。
マジでカラオケボックスだな・・・。
外からの通信という事は、時間的におそらく内田かな。
あ、時計もおかなくちゃ。
「もしもし・・・?」
電話であって、電話でないのだがつい外見に引きずられてモシモシと言ってしまう。
「さくくぅ~~~んwwww調子はどぅ???レベル上がったぁ???」
めっちゃ機嫌が良さげな内田だった。ニヤニヤしている顔まで目に浮かんでしまう。
これはあれだ、先ほどの不正ログアウトの仕返しを狙ってるのか。
「お前じゃあるまいし、ゲームばっかりするわけないだろ。」
「えっ!?じゃあ何してるの?カヅキ、ファルディア以外のソフト持ってたんだ!?」
結局ゲーム前提である。
「夏休みの宿題やってた。」
「バカじゃないのぉおおおおおおおおおおおおおおお!!!!???」
なんか血と涙を感じさせるような慟哭を上げ始めた。
若干内田がキモイ。
「まだ終業式も終わってないのに!夏休みにも入ってないのに!もう宿題やってるとか!優等生か!優等生か!!!」
内田の声の後ろでバンバン何かを叩く音がするんだが・・・
「常時保存してるから、起こしてもデータ飛ばないぞ?」
「そういう事じゃないですから!カヅキの宿題の邪魔をしたら、誰が俺に宿題を!9月に見せてくれるって言うんですか!!!」
「お前A組だし、自分F組だから授業の先生ほとんど被ってないよな。」
「ちょっとくらいヒントがあるかもしれないでしょ!!」
何でオネェ口調になるんだよ。
「被っているところを探す労力で普通に問題を解いた方が早いと思うのだが。」
内田はこれでも、馬鹿じゃない。
こんなに勉強している自分と同じ公立高校に入ってる時点でお察しである。
やるとなると、集中力がものすごい。
受験の時も、ゲームをギリギリまでやりたいがために、そして早くゲームをやりたいがために3か月で仕上げて受かったのだ。
本人のやる気がないだけである。
自分はそんな器用なタイプじゃないので、地味にコツコツルーティンワークに入れた方が楽だから計画的にやっているだけである。
塾とか行く金も足もないしね。
・・・そういえば、あと半年弱で原付の免許は取れるのか。どうしよっかな。
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宿題のキリもよかったので、リアルに戻る事にする。
起きると内田はまだ何かと葛藤してうつ伏せになっていた。結局宿題は9月までやらないのは毎度のことだから悩むだけ損だと思うのは自分だけだろうか?
内田はこれからファルディアにログインして、多分データとんだ?かもしれないから今日は一晩中ログインしているのだろう。ご苦労な事である。
自分はこれから・・・風呂に入って、寝る準備が整ったら時間が22時くらいか。1時間ログイン出来たらしようかな?でも明日は日曜日だから無理しなくてもいいんだけど、・・・風呂場に行くとまた気分が盛り下がる(?)かもしれない。気分転換としてはいいかもと選択肢の一つとして考えておく。
「じゃあ風呂に入ってくる」
と言うと、内田に呼び止められる。
「ファルディアはどうだった?」
今更、またそんなことを聞いてくる。
自分はそんなに危なっかしく見えるんだろうか。
・・・内田は、自分なんかには、ホントもったいないくらいいい友達だと思う。
このお泊りも、きっと自分の事を気にしてきてくれたのだと今更ながらに気づく。
内田ならゲームのために3食くらい抜いても気にしない。そんな奴だ。
ちょっと笑ってしまったら、内田がムッとした顔をした。
別に馬鹿にしたりとかしてないのだけれども。
「別に何も。まだ分からないよ。でも今の所嫌じゃない。」
「・・・そうか。」
「でも・・・」
「うん?」
「さんきゅ。」
「・・・・・・・・・おっぅ。」
なんか内田の顔が真っ赤になった。
何でだろ?
「カヅキさん禁止!そういうの禁止!特にカヅキさんの顔面じゃ破壊力ばつ牛ンだから絶対禁止!」
「ああん?人の顔がなんだって?コノヤロウ?」
「ひぇええええええええ????理不尽!???」
「うるせぇ!!!好きで女顔で生まれたわけじゃねーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」
夜は更けていく。
破壊力ばつ牛ン=ネトゲスラング。謙虚なナイトの名セリフとして有名。




