2-24 2日目は天ぷらコロッケ
行き過ぎた暴力表現がございますが、よい子はマネをしないでください。
ゲームをログアウトして、上体を起こし一息つく。
窓から見える外はくしくもファルディアとほぼ同じであり、青灰色に染まっている。
もうすぐ完全に夜の帳が落ちるだろう。
よく考えたら、少し長くファルディアに居すぎた。
レティナさんの事が無ければもう少し早くログアウトしたんだけど。
まぁあれはあれでよかったよね。
隣でギアを被り寝こけるアクティス・・・内田を見る。
しあわせそうにニヤニヤ笑って、よだれをたらしている。
・・・何か腹が立つ。
『後で殴る!』
無意味に決意をし、もう帰宅しているであろう祖母の元にまずは向かう事にする。
「ばーちゃんゴメン―――!!!遅れた~~~~~!!!!」
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庭の野菜や花たちに遅めの水やりをし、ばーちゃんから今日のご飯は内田がいるので天ぷらだと聞かされる。
何で天ぷらかって言うと、キスを大量にもらったんだって。
天ぷらも好きだけど、・・・さようならお肉さん。
で、内田が良く食べるから茄子と大葉とニンジンのかき揚げパーティーになったということらしい。
個人的にはマイタケの天ぷらが好きなので、お願いしておく。
あとチーズも捨てがたい。
あと、ばーちゃんが何かてんぷら粉でコロッケを作っていた。
いくつになってもチャレンジャーである。
それは美味しいの・・・?
テンプラが半分出来た時点で内田を呼びに行く。
通常、ギアに呼び出しボタンがついてるので、赤い丸い所をポチっと押すと外部と内部で交信ができる仕様だ。
なんか腹が立ってたので、ボタンを押しながら内田に蹴りを食らわせる。
ゲシゲシゲシゲシ。
大体そもそも人の家に来て頻繁に夕飯を食うならもはや身内枠。
身内なら準備から手伝うべきであり、すなわちコイツはネズミの様なもの。敵だ!
ゲシゲシ
『あーーー!!!サクさん止めて~~~~!ログアウトしちゃうぅうう、アー―――!』
ギアがやっとつながった。
向こうの方が時間の進みが早いはずなのに時間がかかったものである。
ボスでもやってたのかな?
だがしかし飯の予告はちゃんとしてたので、そんな時間までボスをやるコイツが悪いのである。
「ばーちゃんが天ぷら大量に作ってるぞ。お前来ないならばぁーちゃん悲しむと思うぞ。」
『ばーちゃんの天ぷら!』
内田の体本体がビクッと突然動いたので驚く。
え!?ダイブしてるのに、こいつどういう仕組みになってるの・・・?
通常ダイブ中は精神と肉体が切り離されており、危険を伴うので動けない仕組みなのだ。随意運動信号はカットされていると聞いたのだが・・・。例えばファルディアで洞窟を探検していて、体もそのノリで夢遊病の様に外に出て車にひかれるなどあり得るので事故防止機構である。まぁその前に普通はギアの電源が切れるだろうが。階段位からは落ちるかもしれない。
流石廃人。
仕様の上を飛び越えてくる人物である。
『すぐ食べたい、でもレベル上げもしたい!どうしよう!』
「今すぐ家から出ていけ。」
ゲシゲシゲシゲシ・・・
『止めて~~~~~!お殿様~~~~~!サク様ご無体な~~~!アアーーーーーーーーーーーーーー!!!!』
結局自分のケリで体に衝撃を感知した事によって内田は不正ログアウトした。
ザマぁ。
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単純なのが内田の美徳の一つでもある。
不正ログアウトした直後は意気消沈していたものの、夕飯を目の前にして、あっという間に立ち直った。今は大量にあった天ぷらの半分を一人で腹に収め、ご満悦である。
内田のメンタルが時々うらやましい。内田の食べっぷりが良いのは毎度の事なので、ばーちゃんも嬉しそうだ。自分と二人だけだと、女子が二人いるくらいの量しか減らないと言ってた・・・。もっと男だから食えって事なんだろうけど・・・小食なんだよね・・・いや食いたいけどさ!これでもいつも腹9分目以上は入れている。つらい。好きでコウなわけじゃない。
太れないで困ってるお相撲さんの話に、いたく共感した。自分と同じタイプである。
内田は自分の身長より20cmは上である。だからか?だからそんなに食えるのか?
もっと蹴り倒しておけばよかったと一瞬内田に殺意が湧く。
勘が鋭いのも内田の美徳のうちの一つである。
無駄にビクッっとしている。
「か、カヅキさん?・・・蹴るの、アレもうやめてね?・・・次ログインした時どこまでまき戻されてるか分からないからね?」
と、内田は半分涙目だ。
「ダメ人間を社会的に矯正してあげたんだから、感謝すればいいのに。」
と軽口をたたく。
これだけ脅しておけば、次の夕飯にはちゃんと来るだろう。・・・・1週間くらいは。
「あんれ、カヅキ。お友達を蹴っちゃいけないわ。」
と、ばぁちゃん。
「内田が友達かはさて置き、」
「ぇぇえええ!???」
酷い!と大げさに騒ぐ内田。
「頭に機械を被ってるので、蹴るところが体しかなかったので。次からは頭の機械とって頭殴りますね?」
「即不正ログアウトしちゃうから、ラメェエエエエエエ!!!!!」
と、内田が煩い。
なんだ、殴られるのはいいのか。
だが、そこは内田。
天ぷらコロッケをほおばりながら絶叫している。
器用な奴だな・・・。
ばぁちゃんの天ぷらコロッケ。
結論から言うと微妙だ。
いや、旨いっちゃー旨いんだが。
「ばあちゃん。」
内田を無視してばーちゃんに声をかける。
「なんね?」
「この、天ぷらコロッケだけど・・・。美味しいけど、なんか、物凄く物足りない。」
「そうけ?ばーちゃん好きだけどな?美味しいだろ?」
いや、美味しいんだけどね?
「ばーちゃんの料理は何でもうまいよな!俺、野菜好きになった!」
と、天然にゴマをする内田。
本人が本気の所がマダムキラー属性を遺憾なく発揮している。
「何が物足りないか考えた結果、見た目イモ天なのに食べたら歯ごたえがない感じにダメージがきます。せめてコロッケの様にサクサク感があったらいいかと思うので、次からはパン粉もつけてください。」
「カヅキ、作ってもらってるのに要望が多いぞ!・・・でも確かに、サクサクしてたらもっと美味しいかも・・・?」
と、天然マダムキラー内田。
「パン粉ぉ~?高いし~・・・まぁーええけど」
普通にパンちぎってもいいと思うけど。ばぁちゃんコロッケ嫌いなのか?
「ばーちゃんの歯にはさかるから、あんまりパンは好かん。」
さいでっか。
その後はばーちゃんが近所のおじさんが強盗に会ったかと思ったら実の息子だった話とか、内田のマダムキラーで聞いたご近所さんが山菜取りに行ったらクマに会ったというどうでもいい話を聞きながら夕飯の時間は過ぎていった。
内田に皿を洗わせ、風呂掃除に向かう。
内田は皿を洗いながらちゃっかりばーちゃんに夜食を要求していた。
あいつ、まだ食うのか・・・?
ワシワシワシワシ
風呂洗いをしてるシャワーの湯気で、なんだか今日の夕飯の雰囲気が思い起こされる。
温かさは、思考と気持ちを柔軟にしてくれるんだろうか。
ばあちゃんにも、内田にも、どことなく気を使われている気配を感じる。
ファルディア戦記――――――――
日本初のVRMMORPGだ。
世界だと8番目のVRゲームだという。
本当なら、やらないつもりだった。
でも、”アイツ”から高額なギアと、ソフトが送られてきて。
あと、内田からも誘われた。内田と遊ぶのは別に嫌ではないけれど、アイツの思い通りになるのは癪に障るって言ったら「変に”アイツ”を気にするとダサい」とまで言われたし。
それに反発してしまう自分も子供で笑ってしまうけれど。
ばあちゃんは真面目な顔をして、「本当に嫌じゃなければやったほうが良い」と言った。
ばあちゃんが何を考えているのかは分からない。
そもそもばあちゃんがゲームの全容を理解しているとも思えない。
けれど、ばあちゃんが自分の事をいつも真剣に考えてくれている。
歳をとって体がきついだろうに、文句も言わず”押し付けられた子供”を育ててくれている。
爺ちゃんが死んでからは、きっと自分が気づかない苦労もあったと思うのに————。
苦手なインターネットの事とか、うちみたいな元農家の様な田舎の家でVRMMOなんてやるなんて回線を引かなければできなかったんだけど、内田と相談しながら、いろんなところに電話をしていた。
そんなばあちゃんの姿をみて、嫌だとは言えなかった。
『人生は、浪漫なんだよ。』
”アイツ”が今更、何を考えているか知らないけれど、ファルディアをしていて”アイツ”の事を思い出す事が多くなって、少ししんどい。
折角やっと最近思い出さなくなってきていたのに。
――――――――――――――少し息を長く吐く。
シャー―――――――――――――・・・
シャワーの口からでる湯気が心地よい。
ふと、窓の方を見ると十三夜位の中途半端な月が出ていた。
『カヅキ!見て、みて!月が出てる!!!・・・綺麗だなぁ。』
内田よりも下手したら子供っぽい”アイツ”。
この風呂場で、窓から見えた月に一人で大はしゃぎをして、滑って転んでバァちゃんにめちゃくちゃ怒られていた。
―――――――矢神 芳雪
ファルディアを作ったゲーム会社『株式会社イクソス』のファルディアでのチーフディレクターでもある。
自分が3年前に捨てられた、実の父親である。
シャーーーーーー・・・
シャワーの音が風呂場に、ただ響く。
なお、不随意運動をカットすると、頭をレンチンしなくても死にます。
はさかる・・・方言。歯に挟まると言いたい。




