2-22 エルフの森2
注意 導入部に精神的にあまりよろしくない表現を含みます
—————ごめんなさい、ごめんなさい・・・・
誰かが謝ってる声がする。聞き覚えがあるような無いような。女性の様な、子供の様な。
少し高めの、泣いているせいか、たどたどしい言葉遣いの。
―――ごめんなさい、ごめんなさい
あれは?小さい頃の自分?
『なんで、お母さんが大事にしてるって知ってるのに、花瓶割っちゃったの?』
——————ごめんなさいお母さん。ワザとじゃないんです。
『どうしてお母さんにそんな意地悪するの?そんな子は嫌いだわ。』
―—————ごめんなさい。花瓶があるのが見えなかったの。
ワザとじゃないの。
お母さんの事嫌いじゃないのに。
お母さんに嫌われてしまったら――――
『そんな、悪い子はもうお母さんはいらないわ。』
―———まって!お母さんまって!
おいていかないで!
ひとりにしないで・・・お願いだから・・・
・・・・
おいていかないで・・・
―———でも、お母さんが待ってくれた事なんて一度もなかった。
・・・・・
・・・
・・
「ごめんなさい・・・」
グスグスと泣く誰かの泣き声がする。
・・・なんか凄く嫌な夢を見た気がする。寝起きの気分がホント悪い。
・・・寝起き?
なんでこんなところで自分は寝てるんだ?ていうか、なんで横になってるんだ自分?
頭がぼーとして、前後がよく思い出せない。
しかし、誰かの声は続いていく。
「ごめんなさい、せめて立派な墓だけでも・・・」
墓!?もしかして自分の事!?
「いや!自分死んでいないし!・・・イッタ―――!!!??」
飛び起きて、頭に強い痛みを覚えてうずくまる。
頭がガンガンするし、なんか体も右肩から腰に掛けて痛みが走る。
なんだこれ!?なんだこれ!?
「キャー―生きてた~~~!??」
「さりげなく失礼!?まだ生きてますから!?・・・タタタタ・・・」
ついツッコミを入れてしまう。
痛みで、ただでさえはっきりとしない視界がスゥっと白くなる。貧血かな?
ゲームなのに再現度高い。と思いつつ、傾ぐ体。
「きゃーーーー!しなないでーーーー!?」
閑話休題
――――――――――――――――
「本当にごめんなさい」
謝ってきた彼女は、プレイヤーで自称半妖精のレティナさんである。
キャラメイクして、森に出たはいいけれど、狼狸に追いかけられ木の上に登って降りられなくなったらしい。
しかし、レティナさん。
身長は自分よりも低く110cm程度。
緑色のフワフワとした短い髪に子供特有の短い手足。服は初期装備なのだろう、白の貫頭衣である。武器などの類は一切もっていない。これで麦わら帽子をかぶって湖畔でキャッキャウフフしていれば変態ホイホイになる美幼女である。
黒目しかないという事を除けば、外見はただの人族の子供である。
いや、大・小人族と言ったところか。
そしてキャラクターメイクの時の影の様な小ささというか軽やかさというか妖精感がまるでない。
「妖精族・・・?なんですよね?」と首をかしげていると
「さっきも言ったけれども、ただの妖精族ではなくて半妖精なんです。本当はエルフにしたかったんだけど・・・。」
じゃあ何でエルフにしなかったんだろう。ますます首をかしげてしまう。
影族は表情がないからちょっとくらいオーバーなボディーランゲージの方が分かりやすいからいいだろう。
「エルフが一番人気って聞いて・・・私、人が苦手だし、エルフ目当てに集まってくる人も多いって聞いたから、ナンパが嫌な人はやめた方がいいって事前情報で聞いて・・・それで・・・」
「なるほどね」
ただの人見知りを拗らせている人が、エルフの代わりに目を付けたのが妖精族っていう事か。
「別に空を飛びたい・・・いえ、飛んではみたいけれど、出来れば大きさは人に近いサイズがいいですってキャラクター選択の時に言ったら、半妖精が希望に近いかもって薦められて選択しました。」
「チュートリアルとかなかったんですか?」
いきなり森の中だと初心者には酷だろう。
さっきも狼狸に追われていたし。装備も何もないから戦いにもならない。
まぁ未だにチュートリアルもせず、すでにPKにあってる希少動物がここにも居ますが・・・
「いえ、あるみたいなんですけど・・・・」
と言いよどむ。
「ただでさえ妖精族は難しいのに、半妖精はもっと難しいらしくて『チュートリアルを見つけるだけでも大変ですが本当にやりますか?』ってキャラメイキングの時に聞かれて、はいって言っちゃいました・・・」
「なんで分かってて、やっちゃったんですかね・・・」
「それで人にあまり会わない可能性が出るからいいかなって・・・」
それはもはや、ネットゲームを楽しめない類の人ではないだろうか。
オンラインではなくオフラインゲームをすればいいのにという言葉を飲み込む。
一方で違和感もある。
レティナさんは、自分に対してハキハキとは言わないまでも学校で大人しい部類の女子程度の普通の会話が成り立つし、意外と良く自分事をちゃんと話せる。コミュニケーションが取れない部類の人間ではないと思う。ただの人間嫌いの人なんだろうか。
「こう言っちゃなんだけど、何でオンラインゲームを始めたんですか?」
「素敵だったからです。」
と、間髪を入れず嬉しそうにはにかんで答える。
今までのおどおどとした表情とはまるで別人である。
クソ!こんなの反則だ。
「PV見ましたか?あ、見てない人の方がきっと少ないですよね。戦闘シーンも圧巻でしたが私、上空から俯瞰した世界の様子にすごく惹かれたんです。背景美術に若手アーティストのSilverさんが起用されてるんですよ!今までSilverさんって興味がなかったんですけど、ホント造形や配色が綺麗ですよね!ただ自然が豊かっていうんじゃなくて、場所ごとの息吹を感じるっていうか。」
急に早口で饒舌になる。
美少女・・・美幼女はこういうところも得であると知る。
目が興奮しているせいか濡れて輝いている。
男がやったら気持ち悪いって言われるだけだが、可愛いだけである。
Ksg。
内心の動揺を悟られまいと、努めて無表情に意識する。
そもそも顔ないけど。
「現実での廃墟ツアーとかも惹かれますけど、マチュピチュとかの方が私好きなんです!知られざる太古の文明!現在では読めない文字!途絶えた記憶!断絶する時間の壁!それすら押し流す圧倒的自然!かっこいいですよね!このゲームだとさらに、未知の文明や生き物、自然が混然一体となって、冒険心がくすぐられるっていうか!直に歩いてみて回りたいと思ったんです!!!」
彼女のセリフには自分も共感する部分がある。
思い出すオープニング。
未知の世界。
未知の生物。
知る事の喜び。
新しい体験。
新しい人間関係。
学校では決して出会えない誰か。
「わかります。」
気付けばそう相槌を打っていた。
彼女は意外そうな顔をこちらに向けてくる。
「そうですか?ビックリしました。クラスの男子とかに言うと皆そろって「わからねー」って言うんですよ。サクさんは変わってますね。…あっゴメンナサイ」
急に小声になり恐縮しだす彼女。
特にそんな事で怒ったりしないんだけどな。自分も多少逸脱はしてるような気はするし。
ていうか、クラスの男子とも普通に話せるのか。男嫌いでもないと。ますます謎だな。
「自分の友達も一緒にゲームを始めたけれど、TOPを目指して頑張ってるみたいですね。やっぱり戦闘の方に興奮するみたいですね。自分は戦闘も好きだけれど、あまりそこだけに重視してないっていうか、色んなところも自分のペースで見て回りたいと思って。攻略組とは距離をおいてますね。今は初めてこの森に来たので、森を見て回りながらレベル上げをしていました。」
「そこで、私が邪魔をしちゃったんですね・・・本当に申し訳ないです。」
しゅんと項垂れるレティナさん。
「そこは、もういいですよ。事故でしたし、ワザとではなかったのでしょう?大したケガもなかったので。それよりも・・・。」
気になる彼女。
いや、下心じゃなくてね。
「レティナさん、モンスター倒せるんですか?」
というか生きていける~?
みたいなー・・・?
う゛・・・・っと妙な音を立てて硬直するレティナさん。
「それはそのー・・・」
視線をさ迷わせながら指がうろうろと動いている。
「風魔法を取ったので、レベルが上がればそのうち倒せるかもしれないんですが、AGIが遅いので、茶色い狼も仕留めきれないし、木登りしながらだとDEXが足りなくて当たらないっていうかその・・・」
恥ずかしそうにモジモジしている。
うん、まぁ恥ずかしいよねぇ。
「き、きっと!初期エリアまで行けば何とかなる!?カモ・・・?」
「ここ、初期エリアですよ。」
間髪入れずつい突っ込んでしまう。
つい、内田のノリで。
女子はこういう気遣いをしなきゃいけないところがメンドクサイなぁ・・・。
再びう゛っと硬直するレティナさん。
「私、つみました・・・?」
「いや、僕も初心者なんで分かりかねますが、からめ手を考えないとソロは難しいかもですね。」
「ちなみにからめ手とは?」
「僕ならNPCに相談するとか、寄生して先にレベルだけあげるとか、バイトして武器防具を充実させるとか、後は落とし穴でもつくって罠に嵌めてフルボッコとかですかね?」
「そうですよねー・・・そうなりますよね・・・」
はぁ、とレティナさんはため息をつく。
まず、町が何処か分からないけどと独り言ちる。
別に町まで案内してあげてもいいんだけど、それよりも。
「そもそも、同じクラスの友達がやってそうだし、助けてくれそうな人はいないんですか?魔法系何てPTプレイでなんぼじゃないですか。」
人をよけながらも、意外に喋る人はリアルでは多いみたいだし、リアルでゲームやっている人が多いなら助けを求めればいいんじゃないかなって思うけど。
「違います。」
「はい?」
「まず、同じクラスの友達は殆どいません。」
「はい?」
「先ほどのクラスの男子の話をしてるのなら、ただの知り合いで別に友達じゃありません。」
絶句する。
僕は友達じゃなければそう喋ったり雑談はしないのだけれども・・・。
リアルの顔とは違うのだろうけど、男からすればこの美幼女にニッコリ友達じゃないと言われたらなかなか立ち直れないだろう。
「え?友達じゃないのに雑談するんですか?」
「え?しますよね?知り合いはいっぱいいますよ?雑談くらい普通に誰とでも知り合いならします。そうじゃなきゃ学校生活やっていけないじゃないですか?社会的にも抹殺されますよ。」
え?そりゃぁそうだけど。え?
段々よくわからなくなる。
自分も友達は少ない方だし、でも友達じゃなくても稀に喋るけど、あれ?
友達の定義がゲシュタルト崩壊を起こしてきた。
「私、本当に友達って少ないんです。友達の意味も分からず幼稚園時代とかに作ってしまって本当に申し訳ないと思うんですけれど、なるべく少なくしたいと思って。」
あれ?なんかおかしな展開になってきたな?
そして彼女はさも当然という顔をして、こうのたまった。
「私なんかと、友達になりたいなんて人いるはずがないんです。それに人間なんて本性は真っ黒なんですよ。私も自分と友達になりたいか?って聞かれたら絶対嫌です。だから友達なんかなったら申し訳ないです。」
導入の夢はサクさんが多分3歳くらいの時の話。




