2-21 エルフの森
エルフの町をでて、森に入ることにする。
自然と一体化してるエルフの町から森は割とすぐ近い。ただ町と森との境界線には魔物避けだろう、木で作られた頑丈そうな柵が張り巡らされている。
ここにも門番の人はいるので、挨拶を交わして森に入る。
とは言っても、エルフの町の雰囲気がそのまま森の中に続いているといった感じである。
さすがに木々が増えているので明るさが少し落ちているのと、家や人工物が無くなっただけの様な感じである。
日本の森とはまた少し雰囲気が違う様に思う。
何が違うかよくわからないけれど・・・。
先日、夜に来た時には気づかなかった違い。
夜の森は日本でも外国でも怖いと思うけど、明るいとやっぱり風景の見え方が違うんだなと思って進んでいく。
鑑定系のスキルはないので、森の色に注意をし、目を凝らして進む。
目的の南天みたいな奴は赤い実だけれども、視界には濃い緑色と、大樹の太い幹の茶色ばかり。
・・・すごいなぁ、この木は樹齢何年くらいなんだろう?
ふと、足元の紫の色に気づく。
大樹の根本近くに低木や雑草などが植わってると思ったら、少し何かの実がついているようだ。
・・・ベリーかな?食べれるかもしれないから少し摘んでいく。
少ないインベントリに詰めたいと願うと実が消えた。
インベントリのステータス表示には『青いベリーの実?×15』となっていた。
採取ってこうやってできるんだなぁ。面白い。
採取系スキルも何もないけれど獲れるんだな。スキルがある場合はどうなるのだろうか。
などと思ってると、森に入ってからずっと展開していた気配察知スキルに反応があったのでそちらの方に意識を向ける。
今の自分の気配察知はレベルが低いせいもあって、半径約15~20メートル弱くらいだと思う。多分気配察知1レベルで感知範囲が半径15メートルくらいなのかな・・・?それから1レベル上がるごとに1メートルずつ伸びている予想。
目の前の木の後ろの藪に何かいる。
猪よりは小さい、だけど中型犬よりは大きそうな何か。
昨日の兎よりもでかい。どうしよう。
ただ、ここはエルフの森だし、そこまで強い魔物は出なかったはずなので、頑張ってみることにする。
お、大きいと的に当てやすいだろうしね!
そう・・・っとなるべく気配を殺して近寄ると、巨大な犬・・・?狼・・・?しかして狸・・・?みたいなのがいる。しいて言えば童顔の小型狼だろうか?
茶色い色をしているところは狸っぽいが。
殴っていいのか。敵なのか。普通の動物だったらどうしよう。
そういえばこのゲーム、カーソルとかマーカーとか鑑定系のスキルがないと出ないし、知識が無いとNPCもPCも区別がつかない。いわんやモンスターや採取などもだ。ギルドとかでまず近隣モンスターの生息状況について調べるべきだった?今更すぎる。
などとくだらない事をつらつら考えていると、狼狸に気づかれる。奴はこちらが一人とみると、威嚇して襲ってきた。
・・・こいつ悪い奴!きっとそう!
まぁ悪い奴じゃなくても襲われたから仕留めたって言ったらエルフにもギルドにも怒られなさそうだから、とりあえず戦うことにする。
狼狸は動きは速いが、昨日の兎ほどではない。昨日の角兎はホント早かった。ヤバかった。全力で避けたもの。回避のレベルが上がるくらい経験値もらえましたしね。
狼狸の先制攻撃。まず牙からの噛み付き攻撃をしてきたので、後ろに余裕をもって回避する。その間に、頂いた双剣を抜刀・・・どうやってこれ抜くの?二本あるよ?ちょっと困るので、わしづかみにして二本とも一本の剣のように抜く。ちょっとダサくて恥ずかしい。後でカッコいい抜刀の仕方から練習しよう・・・。
ていうか、そもそもこの剣抜いたのも初めてならば、剣の性能もまだ見てなかった!もらえた事が嬉しすぎてどんなナマクラでも気にしてなかった!
ナマクラでもいいんだけど、折れ易いとかだと嫌だなぁ。大事にしたいし。
でも、今のところ持っている得物はこれだけなので、これで対処することにする。変に力を入れないで、綺麗に敵にダメージを入るように心がけよう・・・。折れたらいやだし。
確か、剣は力を入れすぎて持ってもいけないはずだった。あれ?剣道の話だっけ?古武術の話だっけ?どちらにしろリアルでも実剣など持ったことはない。ゲームなのに抜刀すると”ずしり”と圧倒的な質量感が襲ってくる。
これ本当にゲームかなぁ?
右に5キロ、左に5キロほどの重さがかかってるような感覚。
ただ、STRが高いせいか、剣の型の維持は思ったより容易だ。
狼狸は剣を持った自分に警戒したのか、唸りながら間合いを少し測っていたが、再び飛びかかってくる。野生動物になど一人で相対した事もなければ、二人以上でも昨日が初めてだ。怖いけれど気持ちを押し殺し、狼狸を前にかがみながら躱し、とびかかってきた狼狸の軌道に左手の剣先を残していく。
『ギャン!』
狼はダメージを負うが、こちらが思ったよりもダメージは入っていない。
日本刀とかだったらもっと切れた気がするのだけれども、これ刃が真っすぐの剣だから、きっと叩いて質量と共にたたき切る方向の剣だよなぁ。引くことによって切る力を生むわけじゃないよな、と反省。ならば、上手く勢いをつけて重心を意識して綺麗に当てればいい。
ダメージに警戒していた狼狸がじれたのか間合いを取りつつも再びこちらに飛びかかってくる。今度は右手が大きく前に出ているので爪でダメージを負わせたいのかな?
つい反射的に飛び上がり、狼の頭上に今度は逃げてしまう。
しまった。空中では逃げ場がない悪手だ、と思いつつも狼は自分を見失ったみたいで一瞬動きが止まる。
ラッキー!とばかり重力に任せて狼の首元に剣を突き立てる。
折角なので右左あわせて2本分。
ゴキン。
簡単に狼狸の首の骨が切断され、狼狸はこと切れる。
すると、だんだんと狼狸の姿が薄れていき、その場に白い何かだけが転がっている。
拾い上げると、牙の様なものだった。これが狼狸の牙ということなのだろう。この世界に来て、初めて現実と乖離した光景を見る。・・・、何度も殺されたり体が拡散する感覚もリアルじゃないけどね。
なんでもゲームをやるためにやってきた『霧向こうの民』は、この世界にまだ馴染んでいないので、『霧向こうの民』がとどめを刺したものは、霧向こうに引っ張られる・・・という設定らしい。で、こちらに残るような魔力があったりだとか程度がいい素材だけが現場に”残る”という仕組みらしい。すなわち今回だと牙。そしてこっちに長くいる馴染んできた『霧向こうの民』は普通にモンスターが殺せるんだとか。
ゲーム用語的に言うと、遺骸を残す様なスキルを取ると残せるらしい。が、今度は品質や寄生虫、死後硬直や血抜き肉の熟成、温度管理などとどめを刺す生き物によって違うのでかなりの知識量がいるらしい。いや、語弊があった。殺すだけなら簡単だが、無駄なく完全に生かそうと思うのだったらば完全な技術職となる。この考え方は日本人独特の考えかもしれない。仕留めたものはなるべく無駄にしたくはない。ただの貧乏性なのかもしれないけれど。死体を残す方法でやる場合は、完全に生産職向きの仕様である。そもそも猟師っていう専用ジョブあるらしいしね。
R15のゲームだし、デフォルトが死体が消える仕様というこういうところはゲームっぽいんだなって思う。ところで、NPCの人間を殺したら・・・・消えるの?完全犯罪じゃない?やばいなぁ・・・。いや、自分はやらないけどね・・・?
・・・くだらないことを考えてないで、経験値が欲しいのでどんどんモンスターを倒すことにする。この辺を散策すると、ベリーも時々見かけたが狼狸、狼狸、角兎角兎角兎角兎角兎、狼狸。意外にも角兎のほうが群れでいる動物らしい。角兎の方が1匹見つけると5羽は見つける。兎だから羽でいいのかなぁ?日本では生類憐みの令で鳥しか食べられないので、兎の耳は羽ですと言い張って羽って数えた名残だとか、僧侶が兎を食べるために言い張ったとか聞いたことあるけど。この世界肉食べ放題な気がするけどなぁ。あ、そもそも日本語じゃないか・・・。
【プレイヤーSakuの戦士レベルが5に上がりました。】
やっと5レベルになる。遅いのか早いのか分からない。多分遅いけど。
ステータスをチラ見。
・・・おや?STRが確かに伸びてるんだけど、今まで3ずつ上がってきたのが今回+2。代わりにDEX、INTあたりが微増してるので行動によってもしかしたらステータスの伸び方が違うのかも。なるほどねー。つまり、寄生プレイヤーはもしかしたらステータスがスカスカになるのかもしれない・・・。怖いゲームだな。試す気は今のところないけれども。
剣術、回避、剣術受け、気配察知も一つずつスキルレベルが上がっている。まずまずの成果。あ、エルフ村長が言ってた赤い実らしきものも見つけた。これで合ってると嬉しいのだけれど。
暫く狩りをして、ゲーム時間残り2時間ちょい。
ちょっと休憩する事にする。
大き目の岩を見つけたので、その上に飛び乗る。
気配察知には異常がない。
岩の上にそっと腰を下ろす。
ひんやりとした感覚が、戦闘で熱を持った体を冷やしてくれ気持ちがいい。
さわさわと優しく風で揺れる葉擦れの音が心地よい。
目を楽します様に木漏れ日が揺れている。
軽食や水があったら良かったなと思いつつ、今回はないので次回は持って来ようと決意する。
そういえば、武器。
昨日貰ったあの武器、凄く切れ味がいい。と思う。
昨晩、素手で角兎であんなに苦戦したのに、今日は剣で上手く1撃当てれば簡単に兎が倒せた。最も倒す場所によってドロップが変わる模様なので、途中からなるべく首とか狙ったけれども、早いから難しかったが。
ステータス画面の剣の装備の所・・・。
装備の情報って出ないのかな?長押しするとポップアップが出た。
【シュライブングの剣(劣化)攻撃力+20 (One)(Key)(inalienable)】って書いてある。
ワンって1って事だよね・・・。1ってなんだ?・・・あ。1個しか持てないレアアイテムって事かな。キーアイテムはイベントアイテムのこと。Inalienableは英語だよね・・・?ableは”できる”でalien・・・?エーリアン?なわけないか。外・・・?アライアンス?ライセンス?あっ、もしかして譲渡できないってことかなぁ?あとで調べるか。武器についてそうな属性なんて、強化できないとか譲渡できないとかそんなとこだと思うけど。
しかし、劣化してるらしいこの剣。もしかしたら何かのイベントで強化できるのかもしれない。情報をひろっていきたいところ。攻撃力20がどれくらいの強さか分からないけど、初期装備にしては強い方なんじゃないかなって思う。それに、この”劣化”の部分を解除できればもっと長い事付き合えるんじゃないかな。できればこの剣を使い続けたかったら純粋にうれしい。まぁなんにしても先の話だし、自分がこの武器になれるのが先だと思う。
さて、残り時間2時間くらいかな・・・?
エルフの村長の所に行って、納品するし地下の街に帰りたいから、あとゲーム時間で1時間半くらい?もう少し魔物を狩っていこうかな。あと1,2レベルが上がらないかな?ってところ。
丁度都合よく、向かいの大木の頃に狼狸がやってくる気配がする。
よいしょ、と立ち上がり出来るだけ気配を殺すようにして、狼狸の所に向かう。
が、狼狸の様子がいつもと違う。
狼狸はしきりに地面のにおいを気にしている様子で・・・なんか餌でも追いかけてたのかな?まだこちらに気づいていない。
狼狸の場合、向こうが気付いていない時の必勝パターンが既に出来上がってきている。間合いに入り、首を落とすだけ。これで狼狸の皮がドロップされる確率上がるし、うまい。気づかれたときの必勝パターンは初めの一撃をよけ、カウンターでやはり首を落とすって感じ。・・・どんだけ自分は首を落とすことが好きなのか・・・。いや、落としたいわけじゃなくてドロップ目的だからね?そのうちもっと効率がいい方法とか、ドロップが上がる方法とか見つかるんだろうか?工夫してみるのも面白いかも。
では、間合いまで詰めてまだ気づかれていないので、先行パターンで行きます。いただきます~。
グッと筋力とAGIに任せて距離を詰める。が、その前に狼狸が気づく。
おお、これは初めてのパターン。もう加速は止まらないしどうしよう。下手したら一撃貰うかも・・・・と思ってたら狼狸、自分の方を向くではなく上を向く。
上?
「ぃ・・・・ぁやぁあああああああああああ・・・!!!」
なんかすごい声とガサガサバキ!って音と共に頭上になにか人的な物体が落ちてくるのが分かる。
狼狸はそれを気にしてたんだろう。
自分の加速も早いけれど、さすがに大地の重力には負ける気がするんだけど・・・
剣が狼狸に届いたのが先か、それとも自分が潰されたのが先か。
自分の剣が狼狸の顎ををとらえたあたりで、物凄い衝撃が体にかかったとともにブラックアウトした。
親方・・・空から女の子が・・・・
寄生・・・ゲームで言う寄生とは他のプレイヤーにとりついて、システムの仕様を利用し楽に効率的に正規の方法ではないレベル上げなどをすること。もしくは利益を得る事。例えば自分にとっては強い敵でも、高レベルプレイヤーにとっては弱い敵である場合、経験値が入るのであれば高レベルプレイヤーとPTを組んで倒してもらった方が遥かに効率がいい。PTを組まなくても高レベルプレイヤーが弱らしたものを横からとどめだけ刺すなど色々ある。どちらにしても、寄生する側とされる側に同意がなければ揉める原因になる。
位置関係などが気になる方用に、一応簡単な地図もつくってあります。
https://ncode.syosetu.com/n5162fa/5/




