2-13 影の街 1
2-12は幕間 MJKBY氏の回でしたが、ちょっとアップするか悩んだのでとりあえず保留してます。
この作品の傾向と違う内容になってしまうので。
翌日、予定通りの時間に目が覚める。
ばーちゃんはもう起きてる気配がして、台所の方からいい匂いが漂ってくる。
朝食に間に合うようにひと働きしてきますか。
部屋の窓を少し開け、換気をしながら窓辺に布団を置いておく。干すほどじゃないんだけど、昨日のお日様のにおいを思い出して、少し干したくなっただけだ。南向きだから、ゲームを始めるまでにあまりフワフワにはならないと思うけどね!
「ばーーーちゃんおはよーーー!」
「あい、おはよーーー!」
玄関に出る前に、台所にいるばーちゃんに声をかける。
最近足腰悪くなってきてるばーちゃんが、自分が寝てると思って2階まで来てしまったら大変だから。
庭に出る。
畑と言っても庭にある家庭菜園レベルだ。
とはいえ、田舎だから多少の広さはあるし、ばーちゃんはもう歳なのでホースが長いと疲れてしまうので自分の当番になる。
ばーちゃんは昔は普通の畑もやってたそうなので、ナスとピーマン、トマトエリアはなんかちょっと本格っぽい感じがする。
ちょっと本格っぽい畝がある畑は基本水をやらなくていいらしい。ずっと雨が降らない様な時にだけばーちゃんに水やりを頼まれたりする。基本的に水をあげるのはプランターで育てている奴と、畑以外の植物だ。ミニトマトとか、緑のカーテンキュウリとゴーヤなんかは水をあげていく。あとは鉢植えの花とか。あまりドボドボ与えてもよくないそうなので、土を掘り返さないような勢いであげなければいけない。
見よう見まねで、ばーちゃんのやっているように水をあげているけれど、植物はよくわからない。ただ、雑草とか要らないってはっきりわかってるもの、枯れ落ちかけた花などはむしっていく。ばーちゃんは植物の様子が分かるのか、たまにあの鉢をこっちに動かせだの言われる。動かしておくと、しばらく経つとその植物が元気になってたりする。不思議だ。この壁際にあるシンビジウムも毎年ばーちゃんは花を咲かせている。自分にはできない芸当であるが、花が咲いているのは嫌いじゃないのでできる範囲で手伝うことにしている。鉢がでかいので冬に家の中に入れるのは大変だけれども、じーちゃんとの思い出の花って言われると断れないよねぇ。
とりあえず、あげるべき物にはすべて水をやったので、人間の栄養補給に行くことにする。
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朝から鮭の切り身と、揚げと茄子の味噌汁。何故かばーちゃん流行の韓国ノリ。自家製漬物が少々。冷凍してあった筍の煮物。これからゲームをするにしてはちょっと量が多めの食事だが、頑張ってとる。ついでに牛乳もとる。
成長期さんカモン!
食後の洗い物をしてるとばーちゃんが「今日は学校休みだろう?どっか遊びにでかけるんか?」と聞いてくる。昨日のゲームがまだ始まったばかりだから、多分今日はずっと家にいると言うと、ばーちゃんは町内会に出かけてくるので冷凍庫から適当にチンして食べなさいとのこと。ばーちゃんは割と冷凍マニアで、冷凍食品からもらった物など色々上手に冷凍してる。冷凍庫を漁ればすぐに食べ物が見つかるシステムだ。
「夕飯は久しぶりに肉が食いたい」とリクエストすると、スーパーで安かったら。という返答が返ってきた。どうか肉が安くなっています様に!
昨日の残りの宿題を先に終わらせようかと思ったけれども、今の時間は朝の7時半。ばーちゃんは朝ドラを見に行った。きっと前日からの徹夜組がそろそろ倒れていく時間だろう。今の方がゲームの中は空いているかもしれない。先にゲームをやって昼か夜に宿題をやろうと決める。ばーちゃんに先にゲームやってくると告げ、部屋に戻る。
VRの機械をみる。
黒光りしている、真新しいヘッドギア。
”アイツ”からもらったソレ。
こんな機械でインターネット上に直接潜れるようになるなんて、不思議な時代になったものだなと思う。
住んでるこの場所は相も変わらず田舎のままなのに、時代は自分を取り残してどんどんと気づかぬ間に先に進んでいるような気配を感じる。
『カヅキは将来何になりたいの?』
過去からの声に答えられぬまま、機械を被りログインを始めた。
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【ようこそ、ファルディアへ。潜入は正常に完了しました。世界はあなたを歓迎します。】
視界に大きく文字さんを見た気がした。いや、内容的には見たのだと思う。ただ存在感が薄かった。
とうとう、出しゃばらない演出の仕方まで取得したらしい。
ログインすると、窓から見た外はまだ薄暗かった。
いや、これ夕方?どっちだろう。
確か、ファルディアは時間の流れ的にほぼ2倍の時間で流れてると聞いている。ただ完全に2倍にすると仕事などによっていつも夜にしかログインできない人も出そうなので、2倍より少なくしてあると聞いている。簡単に二倍だとして、ログアウトしたのが19時位だから7時半の今はほぼ12時間半前。ということは24時間近いかな・・・?あーこれは夕方ですわ。完全に1日寝てしまった寝坊すけさんですわこれは。
検証などもしたいけれど、このまま夜になると店がしまってしまうし、1日といって借りた神殿に迷惑をかけてもいけない。まずシスターたちを探すべきである。
ボンヤリする頭で部屋の外に出てみる。
ドアを開けた瞬間、昨日休憩室でお茶を吹いていた別のシスターに遭遇した。
「きゃぁ!?」
「あ・・・。おはようございます?」
「起きられたんですね!!ああよかった、大ケガした後だからなかなか目を覚まさなくて心配したんですよ。いまテルメ師を呼んできますね!」
「え・・・?呼ぶくらいならこちらから・・・もういないや。」
バタバタと凄い勢いでかけて行ってしまった。彼女は影族でもドワーフでもない感じ。多分人族か獣族なんだろうけどシスターの様な服ではどちらかは分からなかった。
急に静かになったので物寂しく思う。
所在なく客間のドアを開けたまま、これからどうしようかと思う。
よく耳を澄ませば、遠くの方で物音とか、楽し気な笑い声とか聞こえてくる。
―――――ああ、生きてるんだな。
不意にそう思う。
VRなのに、ここで生きている実感を得るとは思わなかった。
これから夜になるけれど、ステータスの確認。装備の購入、チュートリアル?を探して、ギルドへの登録。それが終わったら各スキルの検証、やってみたいことはまだ色々ある。というかブラックリストしか弄ってない。それが終わったら狩りをして、プレイスタイル模索して、借金返して―――――
「お待たせしました、サクさん。」
ぼんやり考え事をしてたら、近くにテルメさんがいた。全然気づかなかった。
「あ、おはようございます。すみません、なんか寝坊しちゃって。」
「寝坊という次元ではありませんが、大ケガをされたばかりですし『繋がっていない』ので仕方ありません。それに、サクさんは『霧向こう』から来たと伺っております。向こうとこちらは時間の進み方が違うので多分ズレるだろうと後でユイベルト様の遣いの方が仰ってましたので問題ありません。」
そうなのか。でも関係ない神殿に迷惑かけちゃったことには変わりないしな。
「お気遣い痛み入ります。」
と、お礼を言う。
「あと、これを」
と言ってテルメさんが何か小さい物をポケットから出してくる。これはあの時の・・・。
「ユイベルト様の指輪ですか。腕が無かったのでしまえなかったんです。有難うございます。」
まぁ拾うとかの前に襟首掴まれて連れてこられちゃったわけですが。
テルメさんからお礼を言って受け取る。これ・・・装備したほうがいいよね?指につけてみるとちゃんと丁度良くはまった。フィット感がある。意外。でも、影移動したらどうなるんだろコレ。
手をわきわきしてると、微笑ましそうにテルメさんが見てくる。ちょっと恥ずかしい。
「もう夜も近いので、この部屋はもう1日泊っても大丈夫なように手配をしてあります。どうぞお使いください。街に出るなら24時間、神殿内の誰かは起きていますので、シスターか門番に言ってくれれば話が通るようにしてあります。」
「ありがとうございます。ところで、こんな時間に街に出てももうお店しまってますよね・・・?」
田舎の閉店時間はとても早いのだ。この時間帯にやってるとはとても思えない。
だが、テルメさんはプゥっと吹き出す。
「そうですね、普通の街ではそうですが、ここは影の街アルシオン。影族唯一の街でもあり、地下にはドワーフ、地上にはエルフが多く住む街でもあります。地上の店はもう閉まってるでしょうが、ほら・・・ご覧ください。」
そう言ってテルメさんは客室の中に入り、窓をあける。ザっと新鮮な空気が部屋の中に入り込む。
「あちらをご覧ください。」
テルメさんが指し示す方の空、そこから光が徐々にあふれてくるのが分かる。いや・・・あれは天井?じゃあここは地下だったのか?でもあの光はいったい・・・・?
「この影の街アルシオンの機能の大半は地下にあります。理由は影族だからとかそういう事ではなく、ただ単に髭族がノリで地下に作ってしまったのです。」
なんか凄い事をぶっちゃけられた。
「それにもう一つ理由があります。それがあの光です。」
あの光?
・・・とても柔らかくて安らぐ光。日光とは違うけれど、優しく包み込まれるような・・・。
それが、柔らかくやわらかく、まるでシャリシャリとした音を立てそうな勢いで天井から降り積もってゆく。ここからは少しまだ距離があるが、それでもとても気持ちよく感じる。これは———?
「あの光はお好きでしょう?影族の方の格好のご馳走なのです。光が無くてはならない影族の方は日光も好まれますが、日光より好まれるのがこの月光なのです。今日は月齢も高く満月に近い。ドワーフの技術の粋を凝らした天井のあのレンズが、月光を集めこの影の街を照らすように設計されてるのです。」
ドワーフ凄い。って本気で思った。
髭が面倒くさいなんて思って申し訳なかった。こんな神秘的なものを作る繊細な心があるとは思わなかった。ドワーフ凄い。
白い石材を多く含む町並みは、月光を受けて淡くどこかしこも輝いて見える。
所々、暗いときには気づかなかったが、月光を受けて銀色に輝いてる建材などがある。それがより一層アクセントになっていて美しい。
この街は、月光を受けて真の姿を取り戻すように設計されているのか。
言葉にならなくて、黙っているとテルメさんが続けて言う。
「ですので、影族の方からするとこれからが日中なのです。影族の方は殆ど商売はしませんが、飲んだくれも多いドワーフ相手が多いですから必然的にドワーフの店も夜多く空いてます。むしろ昼間開いている店を地下で探す方が大変です。」
「・・・・素敵な街ですね。」
気の利いたことも言えず、結局言葉にできたのはそれだけだった。
微笑を浮かべ、テルメさんが言う。
「その御様子ですと、街に降りてみたくてウズウズされてますね。治安がとてもいい所でもありませんが、危険と言うほどでもありません。ですが影族の方は喧嘩っ早いので、どこかで誰かが必ず喧嘩してる状態ですね。気を付けて行ってきてください。」
結局テルメさんが神殿の出口まで見送ってくれた。客間を先に片付けていこうとしたら、途中で疲れたりするかもしれないので、とりあえず朝まではこのままにしておけばいいと言ってくれたのでお言葉に甘えることにする。戻ってこなくても大して散らかってないので気にするなとのこと。優しいドワーフ姉さんである。
「気を付けていってらっしゃい。」
「それでは行ってきます!」
テルメさんと挨拶を交わして神殿を後にする。
・・・・・あ、やばい。
服を着てないのはマッパかどうか聴くの忘れてた・・・・。




