2-97 プリン
ご無体な話が出てきます。ごはんで遊ぶのはやめましょう。
朝起きると、内田が部屋の中にいた。
何を言っているか分からないだろうが、自分も何が起こってるのか起き抜けの頭でよく分からない。
「よぅ。」
どっから入ってきたんだこいつ・・・?
しかも、今、朝の5時だぞ?
「・・・は?」
働かない頭で内田を見れば、部屋の隅で体育座りをして、なんかブスー――っとしてる。
この顔はあれだ。
中二の遠足の弁当が里美おばさんの手によって、肉ソボロでウ○○の模様に仕上げられていた時の顔だ。
まぁ、内田が親の言う事を聞かず、遠足4日前から三徹でゲームをした仕返しなんだけど。
遠足の行き先が富士5合目からちょろっと上に登ったんで、店もなくて買い食いもできないし、食わざるを得ない状況にしたおばさん凄い。
なお、内田は半年くらいウ○○マンと呼ばれてた。合掌。
まああれだ。なんか分かってはいるけれど自分には収まりきらない不平不満を抱えている時がこんな顔だ。
「・・・お前・・・・まぁいいけど。とりあえず後で話聞くから日課してきていい?」
コクリと頷く。
これは重症だな。
「飯は?」
「・・・・いらない。」
これは相当重症だな。
内田が飯を食わないなんて、小学校6の時に学級委員長に告白する前にフラれた時以来だ。
・・・いや、あんときも最終的にやけ食いに走ったんだったか?
まぁいいや。
とりあえず、いつもより急いで家の仕事を終わらせる。
日課はまぁ一日くらいしなくてもいいだろう。
その分家事にあてて、先に色々すましておく。特に水やりしないとこの暑さだから全滅するからね!水!。
今日はメンテナンスだから、色々のんびりやろうと思ってたんだが…。
「カヅキどうしたね?」
あわただしい自分の様子に気づいたんだろう。起き出したばかりのばぁちゃんが声をかけてくる。
「なんか朝起きたら内田がいたんだけど、様子がおかしいから話聞いてやろうかと思って、先に用事すましてる。」
「あんれ、飯は?」
「いらないって。」
「そりゃ重症だ。」
ばぁちゃんまで内田の元気の基準が飯で笑える。
「まぁ落ち着いたらやけ食いに走るかもな。なんかばぁちゃんもゆっくり用意しとくか~。」
「ありがとう。でも無理しないでね。」
「適当にやるわさ。」
からから笑ってるばぁちゃん。
自分も軽く水分とヨーグルトだけとって、お茶を持って内田の居座ってる2階の自分の部屋に上がる。
部屋に入ると、まだ同じ位置にじとーーーとしてた。
本当に重症だな、こりゃ。
「お茶持ってきた。いる?」
こくりと、頷くが近くにコップを置いても手を付けようとしない。
「それで?」
まだ朝の6時過ぎなんだけど、一体どうしたんだ。
仕様が無いから、内田の横に一緒に腰を下ろす。
ジーーーーーーーーーーーーとクーラーのモーターの音だけが部屋の中に響く。
いや、遠くで虫の鳴き声とかもする。
今日も暑そうだなぁ。
それから、たっぷり5分くらい経っただろうか。
内田が重い口を開く。
「なんかさ。」
「ん?」
内田があまりに喋らないから、昨日の石膏の事とか調べようかとか余計な事を色々考えてた。
「嫌になったんだ。」
「何が。」
内田の話は要領を得ない。
まぁいつもそうだけど。
「俺さ、頑張ったんだよ。俺なりに。足りない事もいっぱいあったし、まだいっぱいあると思うけどさ。」
「おう。」
一体何の話なのか。
「でもさ、みんな馬鹿みたいに『勇者様、勇者様』ってさ、俺全然足りてないのに、俺だけの力じゃないって言ってるのに皆聞かないんだよ。」
ああ、これはアレか。例の劣化勇者の話か。
「まずさ、誰が勇者勇者言ってるの?」
板だと多分『劣化勇者乙』とか『流石笑いを取っていくわー』とかそういう感じの気がするんだけど・・・いや見てないから知らないけど、普段のアクティスに対する評価がそんな感じだし。
「アポリアの人たち。」
「ああ・・・。」
あれか。自分が守護を貰って握手の時みたいなののブースト版を食らったのか。
良くも悪くもあそこの国の人たちはミーハーだからな。
「そもそも、どうやって勇者になるの?」
「わかんないけど、・・・多分神様がなんかくれた?ら、変わった?」
随分と雑な情報だが・・・
「神様ってピカ・・・ユトゥスシーレイ?」
「多分そう。」
名前覚えてないな、こいつ。
「やたら眩しい感じの目つきが悪い金髪。」
「ソレ。」
「何かくれたって称号?とか装備とか?」
「両方。何か成長する剣と加護。」
「あーなるほどね。」
ピカ神様が加護をくれたとなれば、アポリアではヒーロー扱いだろう。
セレネーツァ様が一世代に一人か二人って言ってたし、この世代の神に認められた男!って感じになるだろう。剣の事はよくわからないけど、成長するの?面白そうだけどピカ神様っぽくない気がするんだけど。
劣化勇者っていうのも、ピカ神様っぽくない。
凄い自分に厳しそうな人だし、他人にも厳しそうだ。
劣化如きが勇者名乗るなと怒りそうなイメージはあるのに、劣化勇者を名乗れっていうの?う~んおかしいね?
「何でまた、そんなの貰う事になったの?」
「・・・NMが湧いて・・・。」
「そうらしいね。」
「スゲー強くて。」
「18人で倒せなかったって聞いたね。」
「・・・ギルド行ったら、中級冒険者集めるから待てって言われて。」
「ああ、そうなるよね。」
「でも、自分たちで見つけたし、絶対無理って感じじゃなかったからやってみたくて。」
内田にありそうだよね。壁は乗り越えてぶち壊したがるタイプだ。
「自分達でやりたいって言ったら、『アホ』だの『蛮勇』だの色々ギルドで言われて・・・。だってそうだろ!?もう少し人数が揃ったらやれそうなら、やってみたいだろ?何でファルディアに来てるんだって話になるじゃん?リアルでできない体験をしに来てるんだろ?ってなって・・・」
なんか段々着地点が見えてきたような・・・。
「それで、・・・なんかいつの間にか眩しい男が居て、スゲー見下された目をしてて腹が立って。」
ピカ神様、どこでも視線で殺していく構えなんですね・・・。ブレないというか流石と言うか・・・。
「そいつが『弱者は分を弁えてすっこんでろ』って言うから頭に来て、『誰だって最初は弱者だろ!手が届きそうなのに足掻いて何が悪い!』って言ったら、『お前は勇者にでも成るつもりか』って言いやがるから、『なれてもなれなくても、俺は自分なりの勇者じゃボケ』って感じの事を言って?」
ああ凄いね、あの神様相手に啖呵切ったの。そう・・・。
自分は目線で死ぬかと思ったんですがね。
「そしたら、『面白い。なら、やって見せろ』って言われてなんか、ギルドでイベントになって?なんか自分がいつの間にか盟主になってて・・・?いつも通り板でメンツ揃えてイベントじゃー!ってなだれ込んで、・・・りょっぴとかが軍師様してくれたり、ベルデが指揮とってくれたり、腹黒平が弱点探ってくれたりとか!色々あったり、皆スゲー働いてくれて!!!3時間くらい戦って漸く倒せてさ。スゲー気分良くてさぁ。生産の連中もスゲー手伝ってくれてさ~・・・」
楽しそうだったのに段々と声が萎んでいく内田。
「・・・なのに、俺だけの力じゃ絶対ないのに、アイツら聞かないんだよ。」
「なるほどね。」
これがただ自己顕示欲だけが強いだけの人間なら全然問題にならないんだろう。ただ内田の場合、自分のやったことに対して正当な称賛が欲しいタイプだと、人の分まで褒められると苦痛になるのだろう。数値でランク入りを目指して頑張ってたら突然バグで数値が上がっちゃって勝手に1番になっちゃって呆然としているとか、そういう感覚に近いんだろうか?
あとは、仲間の分の名声まで奪ったみたいで罪悪感を覚えるのかもしれないけれど。だけど、そんな大立ち回りやっていたなら、内田が事実上そのイベントを引き出したようなものだし、トップとして褒められるのも当然とも思える。イチイチ他の人々の細かいところまで正当な評価を下すのは難しい。まぁゲームだから報酬的にはくるだろうけれど、名声的にはどうなんだろうな?好感度にはのりそうだけど、一番わかりやすいのは劣化とはいえ勇者様!だしねぇ。
そして、その状況をピカ神が分かっていないとは思えないのだけれども。内田は勇者に性格的には向いているかもしれないけれど、こういう潔癖症みたいな所もあるから、アポリア”勇者様”として嫌な思いをするってわかってたと思うんだけどな。
・・・ああ、そうか。
「試されてるんじゃない?」
「えっ!?」
「勇者とはいえ劣化でしょ?ピカ神はこういう事になるのを分かってたんじゃない?そういう人の世の理不尽とかに揉まれて、それでもなお勇者に足る人物か?っていう事を試してるんじゃない?だから劣化勇者。」
だからこその『面白い。なら、やって見せろ』という言葉につながっていくのではないか?
あの神様の性格を考えると”劣化勇者を認めます!”っていうよりは、”おめーなんか劣化勇者で十分じゃボケ。足掻いて勝手に勇者になれ!立派になったら認めてやるわ!”っていう感じの方がすっきりするけれども。
まぁ、あくまでただのイメージからの予想ですが。
「試されてる・・・。」
「そもそも、ユトゥスシーレイ様が本当に勇者と認めたらサクっと聖剣渡して邪神と戦ってこいとか言いそうだもん。成長する剣なんでしょ?成長しろよって事じゃない?」
突然がばっっと立ち上がる内田。
「うっぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおお燃えてキタァアアアアアアアアアア!!!!!!!」
両手で耳をふさぐ。
うるさいなぁ・・・。
「なんだ!結局まだまだでまだまだなんだな!!!!そりゃそうだよな!サービス開始からまだ2週間ちょっとだもんな!ははははははは!!!!」
と、笑い出す内田。
一体何なのか。
「アポリアなんて知らん!俺は俺の道を行く!俺は剣を成長させるぞ~~~!楽しみだなー!あ、どうやって育てるんだアレ?」
「知らんがな。」
内田が何に火がついたのかもよく分からないが、元気になってまぁなによりですね・・・。
「あースッキリしたら腹が減ったぁ・・・。」
「アホの子か・・・。」
とりあえず、ばぁちゃんになんか食わしてもらえって事になって、内田は自分が注いだ麦茶を一気飲みした後、一緒に1階に行く。
「ばぁちゃん!腹減った!なんか食わして!!!!」
「あんれ、ダイスケ。今回は復活が早かったな。」
と、ばぁちゃん。
「え?何の話?」
「小3の時に田所さんちのスミレちゃんに嫌いって言われた時は3日くらい落ち込んでたな。」
「えっ!?そうだっけ!!!!???っていうか誰だっけ!?ちょっとまってスミレちゃん!?」
「あれは、内田が雪玉を執拗にぶつけたからだな・・・。」
構ってほしくて好きな女の子に雪合戦を申し込んで、あえなくフラれたんだよな。
「ちょっとまって、何か記憶にないんだけど、ものすごく思い出しちゃいけない様な気がするんだけど!!!???」
まってまってと焦りだす内田。
まぁべつに思い出さなくてもいいと思うよ・・・。
ばぁちゃんは、笑ってる。
「そん時の事を思い出してさ、まぁ朝食うもんじゃねぇけど。ダイスケはこれで元気になったなと思ってさ。」
と言って鍋の中の黄色い汁を見せてくれる。
「黄色い、汁?」
首をかしげる内田。
「蒸し器に入れるから、そっと入れろ~。」
と、内田はお手伝いを命じられる。器によそった黄色い汁をそのまま蒸し器に投入させる。
隣ではカラメルのほろ苦く甘い匂いがする。
「プリン!!!」
正解が分かった途端ウキウキしだす内田。
朝からプリンか・・・・。自分の分は昼にもらおうと心に決める。
10分ほど蒸して、竹串をさしてばぁちゃん的にOKが出た。もうワンセット蒸し器に投入される。
「カヅキは朝から菓子は食わないじゃろうから、茶わん蒸しにしておいたぞ。」
何もかも分かってらっしゃる・・・。有難い事です。
「ありがとう、ばぁちゃん。」
茶碗蒸しなら温かくて朝から安心して頂けます。ありがとうございます。
なお、内田はプリンが温かいまま、もうフライングで2個食ってる。
「温かいのもうめー。冷たいのもそれはうめーけど、なんか作りたてで温かいのってうめー。」
まぁ確かにね。そういう事はあるよね。
なお、内田はその後、朝ごはんにプリン4個と茶碗蒸し1個を食った。
勿論、米とみそ汁も食った。
そのまま内田はうちに居座り、ファルディアの話とかずっとしたり、うちで昼寝をしたり、家の仕事を手伝ったりなどして昼も夜もプリンを食べてようやく帰った。
と思ったら、掲示板のダンジョンの書き込みを見て、また夜にうちに突撃してきたのだった。
最後に内田はプリンをもう一個食った。
内田はばぁちゃんから家の鍵貰ってたりする()




