2-95 神秘の森ダンジョン 4
100部(*''ω''*)
通常攻撃が重いボスをとるか。
それとも雑魚を優先させるか。
躊躇してしまう。
ボスは維持しなければいけない。
だからと言って、雑魚も10匹もいたら、処理している間にボスの敵視が揺らぎかねない。
両方纏めて敵視を取る方法なんて、にわか盾の自分には・・・。
例え取れたとしても雑魚の攻撃速度や強さによっては自分が一瞬で死ぬ可能性だって―――
これで手詰まりなのか?
こんなあっけなく?
自分はまぁいいとしても、セイさんはどうなる?
ゲームなら復活して悔しいでもいいかもしれないけれど、ロストしてしまったら?
一回キャラをリセットして同じアバターを作り直しても、きっと同じキャラではない。
その言葉がとても重い。
ふと、体が温かい事に気づく。
これは自分への回復?
セイさんのヒールだ。
ヒールがきた事さえも気づかない自分もヤバいけれど、何でこんな時に!?
あの蜂の時とは状況が違いすぎる!
ただでさえ安定してないボスの敵視が、セイさんに向かったら?
後衛でHPもないセイさんなんて1発で沈むかもしれないのに―――
セイさんの方を見ると、彼女と目が合う。
揺るぎが無い目。
凪いだ目。
まだ何も諦めていない―――――――自分を信じてくれている目だ。
プツンと、頭の中で何か音がした。
体の何かが切り替わる。
だが考えるより先に体を動かしていた。
影纏+影変化+影硬質化をかけ、13本の影の槍を同時に生み出す。
それを、ほぼ同時に雑魚に射出する。
9体の雑魚のHPを3分の1ほど削り、雑魚の敵視を取りに行ったが取れない。
セイさんの先ほどの回復に持っていかれている。だがここは無視する。
余った槍3本でなるべく外さない様に当てにはいったが、1体は結局外した。
ボスはセイさんに向かって移動を始めているが、やはりとても速い。
スキルを影移動+影変化+影纏に切り替え、残りの1体の雑魚を巻き込みながら、高速の槍でボスを斬りつける。
ボスは貫けはしないだろうから、セイさんの前に出ることが最優先だ。
雑魚は元々弱いのだろう。影移動の槍で巻き込んだだけであっという間にHPを散らした。
ボスがセイさんに攻撃しようとしていた所を、何とか間に入る。
そこから影移動を影硬質化に戻し、シュライブングの剣にスキルを乗せてボスに切りつける。
背後にセイさんが居るのでボスの攻撃を避けるわけにはいかない。受け流し、ひたすら敵視を取る事だけ考える。
雑魚の蝙蝠の移動速度はさほど早くないらしく、あれらが追い付いてくるころにはボスの敵視は自分へと戻ってくる。雑魚の敵視もバラバラと、半分くらい自分に戻ってきている。
セイさんも自分が間に入ったら気配希釈を入れているだろう。
自分のHPはぎりぎり4割くらい削れているけれど、あとは雑魚を倒せば何とかなるので回避主体に切り替えて、ボスを捌きながら敵視が戻ってきていない雑魚から一匹ずつたおしていく。
セイさんもボスの敵視が離れた段階で自分から距離をとり、雑魚から魔法で倒していってくれるので割と早く片が付いた。
あとは、これでボスのHPをなるべく削らず、みんながリカバリーしてくるまで回避盾をすればいい。
ただそれだけ。
・・・ハハハッ!なんだコレ。
無理じゃないかって、一瞬思ったのに。
あんな目で見られて、一瞬で何かを飛び越えてしまった。
何だコレ。
ボスを強めに弾き、一瞬でポーションをあおる。
HPの2割ほどが回復する。
ここで咽ないのもゲームだなぁと思いながらも。
可笑しくて仕方ない。
だめだな、やっぱり自分は脳筋なんだ。
知っていたけれど、もう少し自分はまともだと思っていたんだけれども。
セイさんが回復で稼いだ、たった2,3秒で何もかもが変わった。
『自分の見ていた絶望』が『セイさんの信頼』に置き換わっただけで、本当に何もかもが変わった。
―――自分の見ている世界は、狭く小さい。
その事が心地よく、どうしようもなく面白い。
もっと色んな世界が観たくなる。
「まずはお前を倒さないとな。」
HPを減らすと、またあの攻撃が来る可能性がある。場合によってはゲージ技や時間で来ているのかもしれない。だが確率を減らすためにもあまり攻撃しない方がいい。よって敵視の維持のために申し訳程度に斬りつけながらも、面倒な状況だが心は軽く弾む。
丁寧に。
あとは、職人の様に現状を維持するだけ。
スキルも敏捷+夜見+魔力感知に切り替えてある。
心なしか体も軽い気もする。
自分の単純さが、なおおかしい。
「・・・クソっ!何があった。」
「拓海!あっ・・・。加速。」
どうやら、誰か起き出してきた様子。
セイさんに任せておけばきっと大丈夫だろう。
ボスに集中しているから、あちらには意識を向けていない。
万が一でも敵視を飛ばしたくはない。
しばらく経って、回復やホワンとした空気が飛んできたけど、これバフかなぁ?
すこし硬くなった気がする。
「またせた。」
もう少し経ってガンツさんが戻ってきてくれた。
「すみません、一回バッシュ使っちゃいました。耐性的にあと2回?入っても3回かと。」
「わかった。」
ガンツさんが挑発を入れるのと同時に気配希釈を入れて、徐々にガンツさんに敵視を移す。
盾を完全に交代して、漸く現状を把握する。
全員ちゃんと起きてきていて、HPも回復させてる。
よかったと、ホッとする。
ボスのHPは何らかんら言って、17~8%減っていた。
次の増援がそろそろ来るか。
「次の増援、ティラが取る。湧いたら一回離れて。」
セイさんが説明してくれてたんだろう。ティラ君がそう言う。
範囲スキルとか・・・ありそうですよね。遠隔だとね。
「魔法もいれるから大きめに離れてね~」
と、セイさん。なるほど。魔法職は魔法がぶっ放せなくてストレスも溜まってそうだよね。
ここぞとばかりに殲滅する気満々な気がする。
ボスのHPが-20%に達し、案の定ボスの体からブワッと黒い霧が出る。
それを合図にガンツさんがボスごと移動。自分もそれについて大きく移動する。
結果的に蝙蝠の形を取った頃にはなんか矢の雨と炎の渦とかが巻き起こってた。
おっかない。
あと2回は多分バッシュで止められるが、いつ、そして何回さっきの気絶技がくるかわからない。よって確率を減らすために早く倒すに限る。ガンツさんの最大出力を持って多分削り始めたんだと思う。どんどんとボスのHPが減っていく。雑魚が湧く手前で一呼吸おいてから皆に合図を送る。それから雑魚を湧かしてボスを速やかに移動させるの繰り返し。
ボスは他にも見た事もない技を2種類ほど使用した。
まず謎の怪音波を貯めなしで発動。
ダメージとかは無いものの、物凄く気持ち悪いような嫌な感じになる。
後で他の人に確認したら「不快」っていう名前のデバフがついていたとのこと。行動阻害なのだろう。しかし、壊滅というほどのものではない。
もう1種類が風魔法だ。敵視関係なくランダムで誰かに突然投げつける。しかもさく裂して範囲の人を巻き込むため、全員用心してお互いの距離を開ける様になった。固まってる時に食らったらヤバかったかも。範囲回復魔法もないので、うちは常時バラけていて全然問題が無い。
結局このボスのルーチンとしては、10%ごとに雑魚の増援。特殊技が時間経過かゲージ技か分からないけれど、ランダムでMP吸収→衝撃波(気絶アリ)or風魔法or不快のどれかが来る模様?気絶アリの衝撃波のモーションも、結局の所その後1回しか来なかった。
雑魚の増援と特殊技の衝撃波か風魔法が同時に来るとヤバい感じだ。それを調整して火力を押さえて倒すのがポイントなのだろう。削りを押さえている時は特殊技が来なかったから、ゲージ技扱いなのかもしれないなぁ。被ダメか与ダメが一定率たまると発動する技って感じで。
まぁどちらにしても分かってしまえば全然危なくない敵だった。
そして0になるボスのHP。
ここで予想外の事が起きる。
0になった途端ボスの体全てが雑魚になったのだ。
湧く大量の蝙蝠。
「最後っ屁か!」
さすがに0%でも増援が来るとは思っていなかったので少し慌てたが、所詮は雑魚なので全員で片付けたらあっという間に終わった。
凄い嫌がらせだ。
最後の蝙蝠を、自分がザクっとさす。
「・・・。」
これで本当に終わりでいいのだろうか?という空気がお互いの間に流れる。
「あっ。」
ビクッと声を上げたセイさんの方を全員が注目する。
「通知にきてる!終わった終わった!」
「あー。」
「本当だ。」
「なんか喜び損ねた。」
「しまらねぇな、おい。」
「あはは。」
自分もシステムの文字さんを見てみる。
【神秘の森ダンジョンを攻略しました。】
【ダンジョンは今から15分後に消滅します。】
【それまでの間にボスの部屋か、もしくは入り口から退場ください。】
【プレイヤーで初めてダンジョンを攻略しました。称号「初めてダンジョンを攻略した者」を獲得しました。】
右下には時間が減少しているバーが出ている。これがダンジョン消滅までの時間だろう。
「おー。」
「なかなか、いい称号。」
称号?今度は記念称号じゃないのか。自分もポップアップを見てみる。
【初めてダンジョンを攻略した者:その名の通り初めてダンジョンを攻略した者に送られる。レアドロップ+1】
おーレアドロ。
これは大変うれしいですね。どんどん積み重ねていきたいプラス補正。
レア中のレア出しには大変ありがたい称号だ。
「時間はまだあるな。少し掘ってってもいいか?」
「自分は大丈夫です。皆さんはどうですか?」
「大丈夫よ~せっかくだし掘っていきましょう。」
「ドロップもちゃんと見たいけど、そっちが先だな。」
「いこう。」
15分しかないので慌てて現場に向かう。
皆取れるだけ採掘して、採掘を持っていなかった人たちも最後的に採掘を取ってて可笑しかった。
良いものを採りたいというのもあるけど、どっちかっていうと参加したい!みたいになってる。レティナさんとかすっごい楽しそうだ。
そしてダンジョン崩壊3分前くらいに辞めて、急いで入り口に向かう。
1分前を切る頃にたどり着いて順番に入り口から全員脱出。全員が外に出て、黒いモヤモヤを何となく見ていると、ふわっとモヤモヤが浮き上がって空気に溶けて消えた。
これがダンジョンの崩壊なのだろう。
「何か呆気なかったわね~。」
「ちょっともの悲しいというか。」
「俺は清々した。」
「まぁ、珍しいもん見たな。」
「綺麗でしたね~。」
「勝てば官軍。」
それ何かちょっと違いません?
時計を見るとリアルで22時半くらい。ファルディアでも21時過ぎだ。だいぶ遊んだ。でもまだ少し余裕がある。
「ここら辺は危ないから、アルシオンに入るにせよ入らないにせよ、街の前まで行きましょうか。」
気配察知や魔力感知に敵が近くに居ることを感じさせる。
ダンジョンが崩れたから敵が湧き出したのだろう。魔物の推定レベルが40前後。ダンジョンと同じくらいな感じだ。
このメンツならば無難に相手に出来るけれども、延々とここで相手にしたくはない。
既にダンジョンで疲れているし、休みたいモードなのだ。
反対する人は誰もいなかったので、全員でアルシオンに向けて歩き出す。
竈ももう使わないだろうから適当に崩しておく。
灰なんかは軽く埋めておいた。
一番夜目が利く自分が先頭に、次に得意そうなティラ君に殿をお願いする。
途中さほど強くない敵が何体かいたが、全員で無難に倒して15分ほど歩くとアルシオンが見えてきてホッとする。
外に出た時もホッとしたけれど、アルシオンを見たら帰ってきたなと思うようになってしまった。
「金払って中入る?」
ティラ君が聞いてくる。
「どちらでもいいですが、自分一人ならキャンプしてますね。」
「いいじゃないキャンプ!」
自分の言葉に食いつくセイさん。キャンプ好きなんですかね?
「テント足ります?」
一人だけ野宿とかは流石にちょっとかわいそうだ。
「俺は自分のがあるな。」と、ガンツさん。流石である。
「私もよくこの人と遠出するから揃えてあるわ。」
フィーデルさんを指さすセイさん。
「うちは3人入るから、何だ全員分あるんですね。」
「仲良しね~うふふ~。」
セイさんはこちらを見て笑っている。
「いえ、自分用に買ったんですが、中古でいいのがちょっと大きめだったんです。」
何故か小人とか幽霊が先に住み着きましたがね・・・。
「大は小を兼ねる。」
マァソウデスネ。
などと言いながら、アルシオンの門扉近くの良さそうな場所に陣取ってせっせと準備を始める。既に何組か開門待ちPTがいるようだが、商人とかで全てNPCだろうな、といった感じだ。
段々キャンプにも慣れてきて、準備の速度が速くなってきている気がする。レティナさんも慣れてきたのか竈に使えそうな石や草などをむしりにいっている。
竈を決めると、後は各々テント作り。
自分のテントがばぼぼ~んと広がるのをみてセイさんが笑ってる。
「でけぇな。」
と自分のテントを見たガンツさんにまで言われる。
「安かったので・・・。」
お得に飛びつきすぎたのだろうか・・・。でも、結果的に役立ってるから悪くない気もするのだけれども。
セイさんがスープを作ってくれて、それと携帯食などを一緒に食べる。
あとは、どんなドロップをしたのかの確認に話題が移っていく。
大体が素材と、1枠レアドロップ枠だろう、装備がみんなの所にそれぞれ来たらしい。
名前に全部ウェスペルと付いてるので、ウェスペル装備って言ってる。蝙蝠をかたどった意匠がついてるから蝙蝠装備ってとこだろう。
「私ね~狙ってた杖が出たの♪ステータスはちょっとほしい物じゃなかったんだけどね、これはこれで役に立つから嬉しいわ。」
るんるんで報告してくださるセイさん。
「俺は武器じゃなくて腕輪だな。レア枠の普通枠ってところか?だがINTが伸びるし魔法速度が上がるのでこれはこれで悪くない。」
と言うフィーデルさん。どうやらウェスペル装備は蝙蝠らしく速度が上がるらしい。魔法の詠唱速度が上がるとかはよく聞くが、魔法に関しては今回飛ばすスピードが上がるんだとか。どういうことなの・・・?いやでも遅い水玉とかでも早く飛ばせるのはいい事なのか・・・???
それとも風をより早くして、より確実に混戦でも魔法を当てに行くって事なのか?
魔法系ジョブは何か不遇じゃないかなぁ。状況によって装備を変える必要性があるのに、インベントリが少ないとかつらすぎる。しかも華である範囲魔法がフレンドリーファイヤーで死んでいる。・・・うーん、魔法職だけ不遇ってあまりないだろうから、そのうち何かのスキルで化けそうな気はするんですけどね。
「私はなんか・・・STRが伸びる腕輪?なんでだろう?」
レティナさん。困惑気味だ。
「嬢ちゃん、良かったら俺のと交換しないか?MIDが上がる杖が来た。」
ガンツさんの手には可愛らしいファンシーな小さい杖がある。丁度レティナさんが使ってるのと似たような系統だ。
「えっ!?ありがたいですけど、私武器じゃないですし・・・。」
「いい。売るのも面倒くさい。腕装備はしていないし、今の俺に丁度いい。」
「わぁ・・・じゃあお言葉に甘えます。ありがとうございます!」
キラキラした目でガンツさんにお礼を言うレティナさん。
物凄く嬉しそうだが、絵面が完全に餌付けされた幼女といった感じ。
それを真顔で見てるガンツさんだが、目が優しい。一見すると厳ついお爺ちゃんと孫と言った感じに見えてくる。
「自分は弓ですね・・・。」
弓スキル無いんだけどどうしよう。
でも、確かに投擲はあった方がいいし、覚えても損はないカモしれない。ただ、スキル取得欄ではかなり暗めだったから相当向いてなさそうなんだけど・・・とほほ。
覚えるころにはこの弓も棚落ちになりそうだ。
「ずるい!ズルイ!」
バコバコとティラ君になぐられる。
勿論本気の強さじゃないから全然痛くはないけれど、弓が欲しかったのか・・・。
「ティラは、AGIの腕輪。」
まぁ交換してあげてもいいけれど、AGIか。要らないったら要らないけれど、あっても問題ないくらいか?腕輪はコンヴァラリア・トゥ・マイウの腕輪 が一応あるからなぁ・・・あ、でも左腕に装備すればいいのか?
「腕輪って両腕とも装備できましたっけ?」
「できる。」
「できるわよ~。」
と、教えてもらう。
「じゃあ交換でいいですよ。」
「まじか。」
半分冗談で言ったんだろう、ティラ君が慄いている。
「たとえ自分が弓スキルを取ったとしても、この弓が使いこなせるようになるまでにもっといい装備が取れそうだと思って・・・。」
「ああ・・・。」
ティラ君に納得される。
「死蔵するより、ティラ君が使った方が使いこなしてくれるでしょう。」
ほい。っと弓を渡すと、ちょっと上目遣いにじーっと見て、小声で「ありがとう・・・。」とはにかんで言われる。
そして代わりにそっと腕輪を渡してくれて、ちょっと申し訳なさそう。
・・・まずいな。この糞小人を、うっかり可愛いと思ってしまった。
『これは糞小人、これは糞小人』と心の中で呪文を連打しておく。
・・・正直、腕輪は貰えなくてもよかったんだけれども。なんか皆でダンジョンに来た記念と言うか、そういうものが欲しくなった。
ファルディアはインベントリの枠が凄く少ないから、きっと手放さなければいけなくなりそうだけれども、少しぐらいみんなと同じ装備をしたかったなんて。
―――ちょっと恥ずかしいから、絶対秘密にしとこう。
あきらめたらそこで試合終了ですよ回




