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ふぁるでぃあにっき。  作者: コミヤマミサキ
7月 ~ファルディアと日常~
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2-9 幕間 会合

 影の王座の更にその深く。


 人工の明かりはなく、ただ縦長に100M近くも穴が続いている。その天井から月の光が差し込み、洞窟の奥底深くをゆらゆらと優しく照らしている。さながらその光景は海底の洞窟の様である。


 その穴の底は円形になっており、見慣れない幾何学模様のタイルが何らかの規則に従って精緻に配置されている。天然の岩肌である洞窟とは異なり、床だけが人工的に入念に技巧が施されている様は不釣り合いなものを感じさせる。


 その中心に古びた石の玉座が一つある。また、これが床とも洞窟とも合わない。

 明らかにどこかの遺跡から適当に持ってきたと感じさせる、古い古い石の王座である。


 そんな美術的不均衡さには頓着もせず、その石の王座に鷹揚と楽し気に掛けているのが影たちの王にして神。ユイベルトである。


「随分と楽しげだね?ユイベルト――――。」


 先ほどまでユイベルトしかいなかったはずの空間に、不意に洞窟内をこだまするかのように、するりと声が紛れ込んでくる。それを予想していたかのように、動じることなくユイベルトは応じる。


「よぉ、久しぶりだな。フルフィウス。突然来やがるから残念ながらテメェのかける椅子は用意してねぇぞ。」


 ククッと笑いながら気安く受け答える。

 声と同じく、あたかもそこにずっと存在していたかのように、するりと唐突に人影がユイベルトの玉座の右後方に現れる。

 歳は二十歳過ぎに見える長身美丈夫であり、白く長い髪は、ただ白いだけではなく淡く青い燐光の様なものを纏いながら、さながら寒空の星を思わせる様に内側から輝いて見える。フルフィウスと呼ばれた彼が歩くたびに、暗い洞窟内をきらきらと光が舞う様な錯覚を覚える光景だ。にこやかな人好きそうな笑顔をたたえている。


「どうせすぐ帰るから構いはしない。」


「やる事もなく暇してる癖に。」


「君と比べたら、どの神も相当な暇人だろうよ。『王』と兼任してる酔狂なのは君ぐらいだからな。」


 気安い応酬が、彼らが気の置けない古い仲間だということを表している様だった。



 少しまじめな空気を出してユイベルトが尋ねる。


「月神セレネーツァの様子は?」


 応じてフルフィウスも少し真剣さを加えて返す。

「交代で神々が見ているが、今のところは問題はないかな?予断は許さない状態ではあるがセレネーツァの望み通り『眠っている』わけだし、おそらく外からの介入がなければ動かないような状態だね。ただ、何かの切っ掛けで『裏返る』可能性もあるから、セレネーツァを見張るというより、月神の封印に介入する者がいないか見張る意味合いが最も強いかな?」


「そらぁご苦労なこったな。暇すぎて寝そうだ。」


「君は一度も来たことない癖によく言う。」

 大して気にもしていない風情でフルフィウスがククッと笑う。


「法治の神などね、とても怒っていたよ。元から君とは相性が最悪だったけどね。この都を攻め落としてやるくらいのことは言ってたよ。」


 呆れた様にユイベルトが答える。

「それ、この1000年で15回は言ってるが3回くらいしか来たことがねーじゃねーか。」

 そのユイベルトに呆れた・・・とばかりにフルフィウスも答える。

「ユイベルト?あのね、普通、神は何もなければ相手の都には攻め入らないよ・・・?3回も来たら大騒ぎだよ。」


「俺たちには物足りん。」


「だから暴虐の王だの怠惰の王だの好き勝手言われるんだよ。影族は総じて喧嘩っ早いから始末におけない。」


「売られた喧嘩は買うまでだ。」


「確かに、喧嘩を売ってくるのは毎回”法治の”だからねぇ・・・」


 ククッっとフルフィウスが笑う。

 法治の神は真面目な堅物で、適当なユイベルトを酷く嫌っている。対してユイベルトの方が『煩い奴が居る』程度でどちらかといえば無関心。それが、さらに法治の神の勘に障っている事をファルディアの現存する神ならばみな知っている。ここまでいくと、仲のいい親子の様にも見えてくるから不思議だ。


「”占いの”が予言し、”月の”が予言通り自らを封印し役目についた。予言通り今までにない新しい魂たちが霧の向こうから押し寄せてきている様に見える。実際、うちの所でも新しく生まれた影族が『繋がる』前に同族を9人も殺しやがった。今までにない変化が起きるぞ。」

 ニヤニヤしながら、ユイベルトが言う。


「それ、笑ってる場合じゃないんじゃないかな?大事件じゃないか。」

 同族を大事にする本能をもつ影族が、生まれた瞬間同族を殺しだすなんて前代未聞だ。


「まぁソレはとっとと追放したからいいんだが、お前の所はどうだ?”氷のフルフィウス”?」


「うちはそもそも、自然が厳しいからねぇ。ただ新しい子が何体か生まれたという報告は聞いてるよ。君がそこまで警戒をしているなら、僕の所も目を増やしておこう。”影の”」


 フルフィウスの答えに、満足げににやりとユイベルトが笑う。


「・・・さて、月神(セレネーツァ)の経過報告に来ただけだから僕はお暇するけど、ユイベルトがさっきから楽しそうなのは”霧からの使者たち”が原因かい?」


「まぁな。・・・多分これからもっと面白くなるぞ。」


 神として見てきた、この2000年の間になかった、想像のつかないような事が起きる。

 今日だけで確信させてみせた、あの小さな影たち。


 アレは本当に分かっているのだろうか。

 自分がこの2000年で最もイレギュラーな存在だという事に。


「君にとって『面白い』は不吉だな・・・。では」


 またね、と微笑を浮かべ唐突にフルフィウスの姿が消える。


 やはり、それを気にした様子もなく、先ほどと同じ様子でユイベルトはただ、玉座に腰を掛けている。




 ―――――”霧の向こう”。


 神であるユイベルトが想いを馳せても、”霧の向こう”は”天”と同じく神の領域外。ファルディアの神である自分には力も、心も及ばない。


 その神ですら届かない地から、あまねく沢山の魂がやってくるとの予言がなされた。


 予言が無ければファルディアの各国は大混乱に陥っていただろう。


 人が増えるのは単純に良い事だが、今回の件で決して「善なる魂」だけが来るのではないという事が証明された。まぁ初めからそうだとは思っていたが、今回以上の事が起こることも予想できる。


 元々裏返ってるような存在()が、気づかぬ間にファルディアに発生し、自分達の監視の手から逃れられてもたまらない。万が一それが完全に『裏返って』しまえば、どんな厄災の火種になるかも分からない。



 ―――少し、手を加える必要がある。



 ユイベルトはそう結論を出す。


 フルフィウスが言う様に、通常、神は人間の行動には不干渉。ましてや人間の『王』になるなど神と人間との境界が歪み、異例どころか存在の消滅もかけたようなものだ。よって過干渉は自分の存在を損なう危険を大いに孕んでいるので慎重に行うべきである。

 だがしかし、『神』という視点でも今回の事は大きな意味を持っている。


 ―――世界が変わる―――


 どう変わるか分からないが、”その時”が来たという事だ。


 選択肢を誤れば、影族のみならず全ての人間は死に絶える。

 死に絶えなくても、裏返るものが続出し地上が混沌に返る可能性もある。

 いくら不干渉を旨とした神々も完全な没交渉というわけではない。みな自分の都はもっていて、それぞれの信者達に力を与え、その信者達から祈りを吸い上げ力の循環によって成り立っているのだ。


 神々は世界を、次に人を守ろうとするだろう。


 人族に個人的に干渉するのは問題があるが、世界の変質への対応ならば神としての領分になる。



 ―――生誕の間を縮小し、闇の器を濃くし、番人を新たに置く ――――



 フルフィウスがまだこの場にいれば、ユイベルトから溢れる力に目を見張った事だろう。

 神の中でも傑出したその力。

 だが、ここには『王』独り、ただ座するのみである。


 ユイベルトは自分の領域を、ただゆっくり作り変えてゆく。



 世界の変化の全容が分からない以上、監視を厳しくし、事態の兆候を読み取るしかない。

 適当と言われたユイベルトであるが、必要だと思った事に対しては気が長く、堅実だ。


 もっとも戦闘では喧嘩っ早く、とりあえず物理的に殴りに行くが―――。




「影族の巡回は増やさせる。生誕の間は同族であっても簡単には殺せない領域にする。万が一の時は番人が止める。とりあえずこんなもんか~?」


 作り変えてる最中はこの場を動くわけにもいかず、単純な作業をひたすらこなしながら、暇つぶしに今日の出来事に思いを馳せると自然と楽しくなる。


 霧の向こうから次に来る同族はどんな奴だろうか。


 自分の期待をいい方向に裏切ってくれる奴だといいのだが。


 そんな未来を夢見て、ユイベルトは同族の揺り篭をひたすら丁寧に洞窟の奥底で編み続ける。

キリがいいので、少し校正や確認をするので次回更新は間が空きます。

ストックはあるので1週間以内には。


あとグラフィックボードを買いにですね、秋葉原にですね逝ってきます(震

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