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私は今、人間の国の北の果て。魔族の住む土地に隣する土地に来ている。
あのアホ鳥が面白いことを言ったのだ。
「北の国北の端に魔王様を滅ぼせる人間がいるよ」
あいつの予言するようなことはほぼ私にも見通せるはずなのに、この発言に関しては、確認しようにもなぜか視界がぼやけていた。
…もしかしたら、これが滅多に出ないと言われている、アホ鳥の当たる予言なのか。
よりによってこれがそれなら、私にとってこれほど面白いことはないだろう。生きることにはもう飽いた。だが、自ら死ぬというのは、魔族の選択肢にはない。そして、つまらない奴に殺されてやる気もない。なので、とりあえず、アホ鳥の予言の場所に、姿を消して、やってきたのだ。
北の端と一言で言われても、もちろんそう狭くはない。とりあえず魔族との境界線の人間側を歩いてみようと30分ほど歩いていると、100人ほど人が住んでいそうな気配のある集落があった。そして、そのさらに端っこに小さな家があった。その家から飛び出して、こちらに駆けて来た少年を見て、ちょっと驚く。
…綺麗な子だ。
太陽を受けて黄金に輝く金髪に、同じく太陽を受けて輝く若葉のような緑の目の少年。もちろん顔の造作も申し分ない。これほどの美しい顔は、魔族にもそう多くはないだろう。そして、人間にしてはかなり多い魔力。まだ成長過程であることは明白なので、もしかしたら私と戦えるほどの力を手に入れることができるのかもしれない。
私はちいさく笑むと、その少年の後をつけた。そして、少年が川辺で顔を洗いだしたところを、その辺にいそうな平凡な旅人に姿形を変え、さも今ここを通りかかった風にして話しかける。
「やあ、君はこの辺の子かい?」
少年はいきなり声をかけられて、驚いたように濡れた顔を上げると、私の人の良さそうな偽の顔を見てつられたように微笑んだ。肩にかけた手ぬぐいで顔を拭きながら、私に愛想よく答えてくれる。
「はい。」
「いくつ?」
「14歳です。何かご用ですか?」
無警戒なのかと思ったら、ちゃんと用心しているようだ。貼り付けたような笑顔で、私を牽制している。頭も悪くないのだろう。私はますます気に入った。アホ鳥がいってたのはこの子で間違いないだろう。
「私は武器商人だ。君から強い魔力を感じる。ちょっとうちの商品を見てみてくれないかな?」
そう言うと私は、魔王城の倉庫と空間を繋げてある小さな袋を取り出す。武器を見ろと言ってたのに取り出した袋の小ささに驚いてる少年の顔を楽しみつつ、そこから一本の鞘に入った剣を取り出す。みたことがない現象なのだろう、警戒心も忘れて目を輝かせている。私は取り出した剣を鞘から抜いて少年に渡す。少年はもう夢中なのだろう。あっさり受け取ると構えた。その剣は魔力を受けて強くも弱くもなる剣だ。輝きだす剣を見て、私は魔法をかけた。
「もうその剣は君のものだ。」
「え?こんなの買うお金ない…。」
「お金じゃなくて、試練を払ってもらうよ。」
少年の顔に再び警戒心が浮かぶ。私が唇の端をあげるとほぼ同時に、後方から走り寄る音と声がした。
「トーイ!」
「にいさん!来ちゃダメだ!」
走っていた人間が止まる気配がして、私は振り返る。…一目で興味をなくす。この少年ートーイというらしいーの劣化版だ。髪の毛は黄金というには赤みが強すぎる。目も一応緑系統だが、暗い。全体的にのっぺりしてて、魔力も一般的な人間の持っている力とほぼ変わらない。しかし、この人間は使える。
「あの人間を連れて行こう。」
「えっ?!ダメだ」
驚いて兄を守ろうと走りだすトーイの足元の草をその足に絡ませ、転ばさせると、何が起こってるのかわからない兄を魔法で眠らせ、風で自分の手元に飛ばす。そして小脇に抱え込んだ私に、トーイは叫ぶ。
「こんな武器要らない!返すから、兄を返せ!」
「もうその武器はお前のものだ。そう言う魔法をかけてある。私は魔王だ。頑張って私に敵うだけの力をつけて兄を取り返しにこい。」
私は変身を解いて、その姿をトーイに見せる。真っ黒な足元まである長い髪。真っ赤な目。面白半分に普段使わない黒い翼もだしてみた。禍々しさを十分感じてもらいたい。私は軽く笑んで見せると、その翼をはためかせ、浮かび上がる。こちらに向かって手をあげるトーイを見下ろし、そのまま魔王城に飛び去った。
しかし金も教師もなくては成長は遅いだろう。あんまり遅くなってじじいになってこられても興ざめだ。私は占い師に扮し、人間の国王に、10年後に魔族が人間の国を襲う、それまでに北の果てに住む勇者トーイに魔王を討伐させねばならない、と。これで人間が必死にトーイを鍛えてくれるだろう。それもなかなか面白そうだ。私はこれからが楽しみになった。




