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短編の1

作者: 湊 ユウヒ

「唯ちゃん、最後のお願い、聞いてもらってもいいかしら?」


病院のベットで、かすれるような声で言うお母さん。

周りには看護師のお姉さんと、主治医であろうお爺さんが見守るように立っていた。


「お母さん……私、嫌だよ。やっと高校生になれたんだよ。ようやく大人になれるんだよ!」

「そうねぇ、唯ちゃんの大人になった姿、見てみたかったわ」

「じゃ、じゃあ!」


涙を堪えながら必死に懇願する私の手を、お母さんの冷たい、でも温もりを感じる手が包んできた。


「大学には行くのか。どんな友達ができるのか。どんな仕事につくのか。どんな恋をするのか。……どんな旦那さんができるのか。最後まで見ていたかったわ」


お母さんの手が震えているのに気づき、私は両手でその手を握り返す。それを見たお母さんは、きっと堪えていたであろう涙をボロボロと流し始めた。


「いやねぇ、今日は泣かないって決めてたのに……」

「お、お母さん……」

「それでね、最後のお願い、聞いてくれる?」


返事はしたくなかった。だって、最後じゃないと信じていたから。お母さんの温もりを、まだ感じていたかったから。


「あのね、私が────」




それから30分後、お母さんは安らかに眠りについた。



「今度の日曜日、空いてる?」


夕日が差し込む放課後の教室。そう尋ねてきたのは、中学からの同級生、中野唯。


1年生の時も同じクラスだったし、結構仲はいい方だと思う。一緒にいると周りからちらほら言われるけど、そんな関係では全くない。


「予定とかはないけど、何で?」

「ちょっと付いてきて欲しい場所があるんだ……」


うつむきながら話す唯の頬が少し赤くなっているように見えて、心臓がドクンと跳ねた。


「え、えっと……どこに行くの?」

「それは…………まだ言えない」


この雰囲気、唯の表情。


──間違いないな。


「あ、あぁ。もちろんさ! 待ち合わせは唯の家でいいんだよな」


下心なんてさらさらない。付いてきてって言われたから行くだけだ。べつにデートとかそんなこと考えてはいない。


「うん。……ありがとう」


今までいい感じにちやほやされてたからって別に期待なんか……


────え?


「それじゃあ、日曜日ね!」


そう言って唯は教室を後にした。


ありがとう。そう言った唯の表情は笑っていたけど……。

その表情は、なんとなく悲しそうに見えた。


「……あ」


さっきまでは騒がしかった教室は、いつのまにか俺だけになっていた。

それがどことなく寂しく感じた、夏の夕暮れだった。



「それでさー、宇宙とか異世界とかは夢があるけどさ、それよりも恐竜が実在してたってことの方が俺は興味が湧くんだよな」

「うーん、よく分かんないけど、たかし君はロマンを持ってるんだね!」


クスクスと笑う唯が隣を歩く。かわいい。


目当ての場所に行く前に、服を買いたいという唯の付き添いをすることになった。


真夏の猛暑日の中、クーラーの効いた大型のショッピングモールの中で、一緒に服を選ぶ。やばいこれ、マジのデートじゃん。


って、いやいや何を考えてるんだ俺は。そもそもデートってなんだ? 手を繋いだらデートなのか? そもそも付き合ってないのにデートと言えるのか?


「あ、たかし君! この服どうかなぁ」

「え⁉︎ あ、ああ! かわいいと思うよ!」

「ねぇ、ちゃんと見てる? たかし君、なんか変なこと考えてなかった?」

「べべべべつにそそんなことないけど?」

「もう。……ちょっと試着してくるね」


あ、危なかった。


にしても、中学からの付き合いなのに、あいつ以外といつもは見せない表情するんだな。


特に高校に上がってからは急に静かになったというか、友達はそこそこできるんだけど前に出ないというか。


そういえば唯のやつ、去年の今頃、まだクラスに溶け込めてなかったよな。何か関係してるのかな。


ん? 何で俺唯のことこんなに知ってるんだ?


「た、たかし君。一応着替えたけど……」


少し考え事をしている間に、どうやら唯が着替え終わったみたいだ。


「ん? どうして出てこない?」


着替えたと言いつつも、唯は更衣室のカーテンの隙間から顔だけちょこんと出して、恥ずかしそうにしている。


「おいおい、恥ずかしいのか?」

「ば、たかし君のばか」

「いや、俺はイケメンで有名なたかしだが?」

「そうゆうのじゃないし。じゃ、じゃあ出るね」


そういって恐る恐るカーテンを引く。


そこには、赤いふりふりのワンピースに纏われた唯がいた。あざやがになびく短い黒髪が、赤とあっていてなんとも言えない良さを引き立てている。これをなんと言うのか。そう、


か わ い い !


「ね、ねぇ、なんか言ってよ。これ、結構恥ずかしいんだけど……」

「あえ⁉︎ そそ、そうだな。かわかかわかわいいね! おっふ」

「ほ、ほんと⁉︎ よかったぁ」


かわいい。


「恥ずかしいけど、これにしよ。たかし君、お会計してくるね」

「おかおかい、おっけー」


……いとかわゆす。ほんの少し動揺してしまった。


しかし、なんで恥ずかしいのにあんな服を買うんだ? そりゃ確かに可愛かったけど、恥ずかしいのなら別の服にすればいいのに。


……今日行く場所に、関係してんのかな。それかやっぱり、俺のことが……でへへぃ。


「おまたせーって、なに気持ち悪い顔してるの? そんな顔してないで行きましょ」



ショッピングモールから電車で10駅。

人里のような場所にやって来ていた。

ちなみにここがどこかは全くわからない。


「ごめんね、こんな場所まで一緒に来させてしまって。もう夕暮れになっちゃったし」


さっき買ったばかりの服に着替えた唯が、申し訳なさそうにそう言った。


気がつけば時刻は6時にさしかかろうとしていた。この時間から帰っても家に着くのは8時ごろだな。


「あ、いま帰るの遅くなるな〜って考えてたでしょ。もう、わかっちゃうんだよ、たかし君のことは。…………ほんと、今日はごめんね」

「べ、別に思ってねーし」

「はいはい」


ふふふ、と笑う唯の横顔は、夕日の光に照らされていた。


それはまるで、あの日教室で見た顔にどことなく似ていて、やっぱりどこか悲しそうに見えた。


「なぁ、これからどこに行くんだ?」


俺の問いに、唯は迷ったような顔をうつ向かせた。


「言いたくないならいいんだけどな。その表情だと、きっと辛いことなんだろ?」

「…………私、家族がいないんだ」

「……え?」

「あ、ご、ごめんね! こんな、しょんぼりした話しちゃって」


…………それって、つまり。


じゃあ、なんで付いてくるのが俺だったんだ?


──それを聞くのは野暮なように感じた。

でも、これだけは言っておきたかった。


「ごめんより、ありがとうの方が俺は何千倍も好きなんだけどな。……意外だったか?」


「……うん……うんっ! ありがとうね!」


「…………あ、あぁ」


やっぱり唯は笑った方がかわいい。




それから少しだけ歩き、俺たちはとある墓地に来ていた。

色々な家の墓が並ぶ中で、唯の足はとある一つの墓跡の前で止まった。


──中野家之墓


そう記されていた。


「……私のお母さん、去年の春に亡くなったんだ」


墓跡の前でしばらく黙っていた唯が、かすれた声でそう言った。


「そりゃあ、ご不幸だったな。でも、なんで夏の今なんだ? 普通ならちょうど1年後とかが普通だろ?」

「うん。覚悟ができなかったの。私、お父さんも小さい時に亡くしてるから、お母さんもいなくなって……」


そこで話を止めた唯は、堪え切れなくなったのか、大粒の涙をボロボロと流し始めた。


「ぞれでね、……わ、私一人ぼっぢになっで、友達も……うぅ。友達もあまりでぎなぐで」

「…………そうか」

「まいにぢがばっぐらでね、でも……ひっぐ」

「そうか……」


手で何度も涙を拭っても、それは何度も溢れ出してくる。


涙はずるい。特に女の涙は。


「そうか……」


俺は唯の頭にそっと手も載せることしかできなかった。


そのまま唯の頭をさすりながら、涙が止まるのを待っていた。何も言うことはできなかった。


「ありがと、たかし君。今日はおかげで元気が出たよ」

「そうか、ならよかった」


俺たちはそのあと唯の両親の前で手を合わせた。

唯は何を思っているのだろう。

きっとこの1年、死ぬほど辛かったんだろうな。俺、全く力になれなかった。

今日だって俺は何もしていない。


「じゃ、行こうか。ごめ……ありがと! こんなに遅くまで泣いちゃって恥ずかしいけど」


唯は笑っていた。


「たかし君のおかげで、今日はここまで来れたんだ。たかし君がいないと、まだ覚悟ができてなかったんだから」


それはそれは、とてもかわいい笑顔で。



『お母さん、唯ちゃんの旦那さんが見てみたいわ。今じゃ無理だろうけど、きっと優しい人なんでしょうね。なんたって唯ちゃんの旦那さんですもの』


『私が居なくなっても、きっとその人はあなたのために頑張ってくれるんだわ』


『そして唯ちゃんもオシャレして、目一杯かわいくなってその人の隣にいるんでしょうねぇ。楽しみだったなぁ』


『私、唯ちゃんの大人になっていく姿が見られれば、それだけで満足よ。この願い、叶えてくれる?』



お母さん、私はこんなに優しい人が隣にいます。今日は無理やり連れて来ちゃったけど、いつの日かきっと私の旦那さんにさせてみせるんだからね!


お父さん、聞いてる? 怒りっぽいお父さんだから許してもらえるかわからないけど、たかし君って言うんだよ。きっとお父さん顔負けなくらい素敵な人なんだから。私、たかし君が大好き!



「ねぇたかし君、さっき私の両親になんで挨拶したの?」

「え、いやぁ、なんだったっけなぁ」

「えぇー! まさか何も考えてなかったとかじゃないよね」

「ち、ちげーよ! それよりお前はどうなんだよ!」

「……ふふ、私はね…………ヒミツだよっ! それより、来年も一緒に来てくれたら、その、嬉しいな」



真っ暗な灯りのない田舎道は、星空がとても綺麗に見えた。












どうも、ここまでお読みいただきありがとうございます! 大好きです!

実は文を見るだけでわかったと思いますが、この作品が初めての創作になります。気持ち悪い文を本当にごめんなさい!

これから身を縛り上げながら趣味として続けていけたらなと思ってます。

それじゃあ!

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― 新着の感想 ―
[良い点] いい話ですね。所々に作者さんのユーモアが感じられて、楽しく読めました。 [一言] よき!
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