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エピソード:1-2

 乗員は二人。

 運転手の方はプロレスラーのようながっちりとした体型で、魔銃を握りしめた手をこちらに向けてくる。

 後部座席の方は着込んだアーマー越しにでも引き締まった筋肉質の体をしているのが分かる。何よりの威圧感はその目付き。まるで切れ味の良いナイフのような光を宿している。

 そうだ、これはナイフそのものだ。鋭い切っ先に胸を貫かれるような感覚___。有無を言わせずして、相手を自分の懐に引きずり込ませるような。間違いなく主導権はこの男にある。彼が手を振りさげた瞬間、プロレスラーの放つ銃弾が殺到するかもしれない。

 エルノは恐怖に負けまいと、唇を強く引き締めた。体全身が金縛りにあったように動かない。声を出そうにも出せず、掠れた音がこぼれ落ちる。

「やるんならオレからだ! やれるもんならな」

 両手を上げたまま、ヤノは精一杯の虚勢をはる。プロレスラーは彼の目が潤っていることなど気にもとめない様子で、カチャ、という金属音とともに銃口がヤノへと向けられた。

 馬鹿、威嚇してどうする! そんなエルノの思いも届かぬまま、ナイフが一歩踏み出した。

 彼はヤノを舐め回すように見た。馬鹿にするかのように鼻を鳴らし、同時に片手を前に突き出す。何が起こった? 考える間もなく、次の瞬間ヤノの体は宙を舞っていた。ワンテンポ遅れて鈍い音がしたと思えば、彼の体は地面に打ち付けられていた。

 投げた......いや、突き飛ばした。

「ヤノ!」

 エルノは叫び、駆け寄った。同時に背後でも短い悲鳴がし、何事かと思って振り返ると胸ぐらを掴まれたパーシャの足が浮いていた。ナイフは次に、一人になった彼女を狙ったのだ。

「離してよ! このっ......」

「次動けば......こいつは死ぬぞ」

 舌打ちをし、せめてヤノだけでも助けられないかと振り返った先、彼の額には銃口が押し付けられていた。プロレスラーが顔だけをこちらに向け、ニヤッと顔を歪める。

「卑怯だぞっ! 子供相手にすることかよ!!」

 そうは言うものの、いま自分が動けば二人の命はない。こんなところで叫んでも、誰が助けてくれる? してやられたと思いつつ自分の非力さに唇を噛んだ。ぼくは為すがままにされる二人を見ておくことしかできないのか......。つい数分前のこと、一瞬でもこの駆走機(くそうき)を売ろうという気持ちを持った自分を呪った。

「名前を名乗れ」

 低いというより冷たい声が、エルノを刺した。やはり、体が動かない。恐怖のせいだ。後悔が次々と脳に炸裂する。よくよく考えてみると、昨日まで何もなかったようなところに、乗り捨てられたような駆走機が、明らかに民用のものではない武装を積んでいることはおかしい。

「この辺りにいる軍隊......ガーディアンか聖府軍だな。ガーディアンは民兵の集団だから、こんなことはできないはずだ。いいのか? 聖府の兵士ともあろう者が、こんなところで子供相手にこんなことをして! さては偵察に来たんだろうが......」

「名前を言え!」

 エルノの声は遮られ、かわりに銃弾が飛んだ。魔銃だ。引かれたトリガーが魔銃に充填されたフォースの圧縮を促し、銃弾を形成したのだ。その間僅か0.5秒ほど。恐怖とは裏腹、その圧倒的な構造に再び血が騒ぐのを感じた。

「ぼくは......エルノ・二ニータだ。ここでジャンクパーツを探していた。家は......」

 そう言い終わらないうちに、プロレスラーの手から魔銃が滑り落ちる。驚いたことに、ナイフも目をそらす。

 今しかない! 何が起きているか理解する間も無く、エルノは感覚的に体を動かしていた。軍人にあってはならない、一瞬の隙。その一瞬が過ぎ去るまでに、エルノは魔銃を構えてナイフを照準していた。

「......!?」

「同じことをしてやろうか!」

パーシャの動揺をものともせず、震えたままの指をトリガーにかける。自分の名前にどんな意味があるのかも知らないが、ナイフはパーシャを捕らえておくのも忘れ、うつむきがちにボソボソとつぶやき始めた。プロレスラーも先ほどの微笑を打ち消し、にこりともせずにエルノを見つめる。

「なんとか言いなよ! 本当に撃つぞ。人が死ぬのは何回も見てきたし、殺す覚悟くらいできているつもりだ」

 強気に出ることにしたエルノは声を荒げた。そのままジリジリとナイフの方もといパーシャの方へと近づく。小さな声でヤノと一緒にいるように伝えると、微かに頷いた彼女はナイフから離れた。

「ファズム・二ニータは、お前の父親か?」

 落ち着きを取り戻したナイフがゆっくりと問いかける。

 今度はエルノが魔銃を落とす番になった。

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