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エピソード:1-1

 自宅から2kmほど歩いたところにある、不法にゴミが捨てられた場所。こういったところは他にもあり、「ゴミ捨て場には本当にそのままのゴミが捨てられている」なんていう嫌味を言われる原因になっている。

 そこにあるのは機械類だけでなく、腐った生物(なまもの)やボロボロの衣類など様々で、自宅のバラックはここの材料を使ったものだし、今着ているジャケットやジーンズだってここから拝借したものだ。

 テントやバラックが建ち並ぶ8番街に商店は無く、何かを手に入れようと思えば“上”に行かなければならない。が、商人は8番街の住民にだけ不当な価格設定をしたり、そもそも入店お断りの店などもあり、到底買えたものではない。買いに行ったところで、無事に帰って来られるのは命知らずか、何らかのコネがある者かの二択だ。

 エルノは三人組の中でもとりわけ上等な物を見つけるのが上手く、しかもそれを修理したり改造したりするのが特技で、その点では周りからもちやほやされる存在であった。路地を走っていると時折、「よう、小僧」だのと声をかけられることもある。

 

 ともかく約束の時間に間に合ったエルノは二人の姿を探した。

 ぬかるみにはまり、身体中を泥まみれにしているのがヤノ・マーカスだ。幼馴染その一でこの辺りでジャンク屋を営んでいる。両親は病死して、今は昼夜問わずウロついてはジャンクパーツを売りつけている。彼の売る品はことごとく使い物にならないと評判。

 金髪を肩のあたりまで垂らし、ヤノを見て笑っているのがパーシャ・クラーチェ。幼馴染その二だ。彼女の父が8番街の管理をしているので、彼女自身も貴族なのだが、家にいると退屈するからと言い張り、わざわざ単身で8番街に住み着いた変人でもある。

「何やってんだよ」

 そう声をかけて二人に近づく。

 昨夜の雨で凸凹(でこぼこ)した地面に水たまりが溜まっている。元々ここは水はけが良くなく、そのせいでいつもジメジメとしている。

「エルノ、こいつ趣味悪女だぜ。今日は俺が落っこちたんじゃなくて、こいつに足場を崩されたんだ!」

 見ると、ヤノの周りに4個ほど積まれていただろうタイヤが転がっている。身長が低いヤノはエルノの目先にあるものでも届かないほどだ。事を想像してしまい、吹き出しそうになった。

「あんまりいじめてやるなよ。それとヤノ、三人揃うまで宝探しはお預けってジョーヤクだったはずだけど?」

「誤解だってば。こいつ、勝手に落ちたのよ。私が来たときにはこの状態だったわ」

 必死に弁解するパーシャに、ヤノは対抗する。

「嘘つけ! お前が一番乗りだった!」

 エルノが仲裁に入るも、既に耳には入っていないようだ。取っ組み合いをしだした二人をよそに、エルノはいつになく神妙な面持ちで晴天を見上げた。

 ここで、戦争が起こるかもしれない......。

 無意識のうちにポケットに入れてある例の宝石をさすっていたらしく、慌てて手を離した。ファズムはこの魔球を守り通せと言ったが、言葉では簡単なもの。世間一般から見ればまだまだ未熟で幼い自分の手のひらを見つめ、ため息をついた。

 バシャァッ!

 背後で強烈な音がして、咄嗟に振り向くと、再び体を泥に浸からせたヤノがいた。

「ちぇっ、服がダメになったじゃん」

 平気そうな顔で立ち上がりはしたが、目には復讐の炎が燃えていた。対するパーシャはやってやりましたという顔で突っ立っている。

 今だ、と摑みかかろうとしたヤノはそこで足を滑らし、三度(みたび)すっ転んだ。その光景にエルノはクスッと笑みをこぼし、手を貸してやった。

「ああああああああっっ」

 悔しげな声をあげたものの、ヤノは差し出された手を掴んで立ち上がる。泥だらけになったジャケットを脱ぎ捨ててシャツ一枚になった。

「女に投げ返されるような、弱い男はいやだね」

 そんなヤノを見ながら、張本人であるらしいパーシャはいたずらそうに笑みを浮かべて、舌を出した。

「さて、各自散開っ! 目標は高価なモノだ。何か見つければ、すぐ知らせること! 戦利品の独り占めは許されないぞ!」

 場の空気を和ませるように叫んだエルノは、ポーズしながら格好をつけ、内心でにやけていた。実際にその戦利品を隠し持ってるんだけどな。

 錆びついたシャベルを持ち、3人同時に「おーっ!!」と叫ぶ。

 宝探しとはその名の通り宝を探すことだ。積み上げられたゴミの山から掘り出し物を見つける、いわば貧乏人たちの恒例儀式のようなもので、だいたい総額5ベイトにもなれば大収穫。一心不乱に掘り続けていくだけで良く、頭を使うことが苦手なエルノにとってはこれ以上の楽しみはないといっても過言ではない。働くのもいいが、これはどんなアホでもできる。しかも、楽しい。

 ちなみに3人が初めて出会ったのもこの広場で、それから10年以上の付き合いになるのだ。切っても切れないような縁で結ばれている......ふとそう考え、背中に妙なくすぐったさを覚えたエルノは作業に没頭することにした。

 

 すっかり日が暮れても何も見つからず、エルノは手を止めて一息ついた。肩には妙に強い力が入っていたらしく、ふうと息を吐き出すとともにスッと体が軽くなった気がした。

 魔球を見つけた今、これ以上の価値があるものは無いと思う。二つ目の魔球でも見つからないか......そう思っていた時だった。

「おぉい!」

 間違いなく遠くの方からヤノの声がして、来た道を戻り始める。

 本当に二つ目の魔球か? と考え始めた思考を一旦振り払い、向こうからやってきたパーシャと合流して声の方に向かう。

「聞こえた?」

「ああ、なんだろうな。とにかく急ごう」

 しばらくするとヤノの後ろ姿が見え始めたが、それだけではなく、すぐに全貌が見え始めた。それは流石のパーシャでも息を呑むほどのものだった。

駆走機(くそうき)だ、これ」

 ヤノは、自分の背丈の4、5倍ほどもある駆走機を指差して言った。

 別に、それだけでは何の変哲も無い。駆走機や重甲車(じゅうこうしゃ)などの残骸はいくらでも転がっている。当然その多くは古ぼけた物や損傷が激しいものなどで、1ベイトにも満たない。

 しかしそれは、残骸である場合だ。

 この駆走機は生きている。

 銃弾を一定量無力化できる軽装甲、ルーフから露出した機関銃。そして駆走機としての何よりの特徴が車体の裏に備え付けられた推進装置で、吸い込んだ空気を地面に噴出することであらゆる環境ででも高速で移動することができる。馬が駆けるように走るその様が、駆走機という名前の由来だ。

 これらの装備が全て使える状態で、チカチカと点灯する車内灯は、動かせることを意味している。

「初めて見たわ、こんなの」

 パーシャは目を丸くして、「この装備一つで何ベイトするのかしら」と付け足した。

「まだ熱がある。ずいぶん最近に使われたらしい」

 真っ先に駆け寄ったエルノはそう言って、熱を帯びた装甲に手を近づけた。日光を受けての熱とは違う、明らかに生きた物のそれだ。ジャンク屋としての血が騒ぐのを感じた。

「くそ、開かない。ロックがかけられてるみたいだな。乗れないのは残念だけど、装備だけ取り外してずらかろうぜ」

 ヤノは機関銃にへばりついて、取り外す方法を調べ始めた。

 その時だった。運転席側の割れた防弾ガラスから、一本の生々しい腕が生えたのは。その腕は明らかに戦闘衣をまとっており、手には魔銃を握りしめている。

「手を、あげろ」

 ほぼ同時に車内から低くくぐもった男の声がし、背筋が凍る思いで両手をあげる。ヤノにも車内から離れるよう促したエルノは固まったまま駆走機を見つめた。

 ガチ、という音がしたと思うと後部座席のドアが開き、声の持ち主と思われる男が現れた。その男は同じく戦闘衣に身を包んでおり、その上にプレートを着込んでいた。身構える3人を一瞥(いちべつ)し、運転席の方に何やら伝えると、半身を乗り出す。

「何の用だ、ガキ共」

 鋭い目に射止められた少年たちは、その場を一歩すら動くことはできなかった。

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